ダイハツ不正生んだ風土 日経ビジネス記事 2024.1.6 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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ダイハツ不正生んだ風土
「で、どうするの?」現場追い込む管理職
2023.12.21 小原 擁 日経ビジネス記者

 

感想
ダイハツ問題については当初から注目していたが、記事化にはちょっと様子を見ていた。
現場の行った不正を「経営側が圧力をかけ、逃げ場がなくなってやってしまった」と「第三者委員会」が断じる。
これはなかなか画期的なこと。

だからと言って許される事にはならないが・・・
今回「第三者委員会」の公表が引き金になっているが、まだ表層しか見ていなかった。それは次回に。

本文にもあるが、トヨタがダイハツを完全子会社化したのは2016年。本来ならマネジメント体制についてしっかりチェックして当然の筈。ここにきて神話も崩れつつある。


それにしても過去何度でも各社が起こしている不正。
弊ブログでも数件レビューしている
三菱自動車 2016年
三菱電機 2021年
トヨタ系販売店 2021年
他山の石」という言葉がある。今一度噛みしめたい。


概要
ダイハツ工業の車両試験不正問題で、国土交通省は12/21、同社本社(大阪府池田市)に立ち入り検査に入った。ダイハツが設置した第三者委員会は12/20、新たに174件の試験不正をしていたとする報告書を公表。ダイハツは全車種の生産を停止する異常事態に追い込まれた。第三者委は不正行為に関与した従業員は開発期間の短縮を絶対視する「経営の犠牲になった」と経営陣を批判した。


内容  日経記事転載ご容赦
「管理職は表向きは『何でも相談してくれ』と言うものの、実際に相談すると『で?』と言われるだけで相談する意味がなく、問題点を報告しても『なんで失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれない」
これは、ダイハツの不正行為を調べた第三者委が公表した報告書で紹介された現場の従業員の声だ。

管理職が問題解決に向けて積極的に関与しようとしない中、問題を抱え込んで担当者が苦悩する様子が目に浮かぶ。

もう一つ、報告書に記載された従業員の声を紹介しよう。
「開発日程を遅らせることは絶対NGの風潮が強く、日程に間に合わないと感じ、手を挙げると『なぜ間に合わないのか』『どうしたら間に合わせられるのか』『今後どうするのか』の説明に追われる。設計に注力したくて手を挙げたのにその他の業務が一気に増えることが目に見えているので、禁じ手を使ってしまいたくなる気持ちは理解できなくもない」

短期開発を絶対視
こうした従業員の声なども踏まえ、第三者委は不正が起きた原因について「極度のプレッシャーにさらされて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた、現場任せの状況になっていた」などと指摘した。

管理職が現場の状況を把握しようとしない中、タイトな開発スケジュールを何としても守らないといけないというプレッシャーがかかって従業員が不正に手を染めた構図だ。

第三者委は20日に公表した報告書で174件の試験不正をしていたと明らかにした。不正が見つかったのは、既に生産を終了した分を含めて64車種3エンジンに上り、ダイハツは全車種の生産を停止する。21日に立ち入り検査に入った国土交通省は今後、不正の実態解明を進め行政処分を検討する。

第三者委の報告書を受け、ダイハツの奥平総一郎社長は20日の会見で「不正の背景は、経営陣や管理職が現場の負担やつらさを十分把握せず、困ったときに声を上げられない職場環境を放置してきたこと」と認めた上で「すべての責任は経営陣にある」と陳謝した。

親会社のトヨタ自動車から一部小型車の生産などを任されていたダイハツは「トヨタの遠心力」「1ミリ1グラム1円1秒にこだわる」などのスローガンを掲げてきた。この意図について第三者委は「経営幹部から従業員に対して必ずしも正しく意味が伝わっておらず、現場では良品廉価を実現するための短期開発を絶対視する言葉として浸透していた」と指摘した。
現場から上がる悲痛な声は管理職に届かない一方、経営陣による現場向けのメッセージは曲解されていたようだ。

内部通報を知っても不正繰り返す
不正の一端は2023年4月、側面衝突の認証試験で発覚した。

試験の際に「切り込み」と呼ばれる不正な加工をしていた。

さらに5月、ポール側面衝突試験でも不正事案が判明。

ダイハツは第三者委に不正の全容解明を託した。

今回新たに明らかになった不正件数は25の試験項目で174件と多いが、詳細に見ると、パターンがある。

第三者委は「不正加工・調整類型」「虚偽記載類型」「元データ不正操作類型」の3つに分けた。

不正加工・調整類型は、車両などに不正な加工・調整などをするもの。虚偽記載類型は、実験報告書から試験成績書に虚偽情報を書くこと。元データ不正操作類型は、試験データをねつ造、改ざんするなどして実験報告書に虚偽情報を記載することだ。

不正行為174の内訳は、不正加工・調整類型は28、虚偽記載類型が143、元データ不正操作類型は3だった。

例えばエアバッグの試験では、本来センサーで衝撃を感知してコンピューターで作動させる必要があったが、タイマーで作動させて試験した結果を届け出た(不正加工・調整類型)

さらに、既に内部通報があったことを知りながらも行われた悪質な行為も明らかになった。例えば、4月に発覚した最初の側面衝突試験の不正。安全性能開発室の試験実施担当者は、前席のドア裏面に切り込みを入れる加工をした。

ところが「認証試験で不正な加工をしている」との内部通報があることを聞いたその担当者は、認証試験前の審査官による車両確認の前に、通常のドアに急きょ交換。そして翌日の試験開始までの間に不正な切り込みを再度入れた。

この行為について、第三者委は「(不正を行う)強固な意図が明らか」として、認証試験を合格させることへのプレッシャーがいかに強かったかを示していると指摘した。

安全基準に不適合の恐れも
不正な試験を経てユーザーの手に渡った製品は安全なのか――。ダイハツは実際に販売された製品の安全性能・環境性能が法令で定める安全基準を満たしているかについて検証。

その中で深刻な案件も見つかった。

エアバッグに関する側面衝突試験で、ダイハツ自身が販売する「キャスト」と、この車種をトヨタにOEM(相手先ブランドによる生産)供給したトヨタ「ピクシスジョイ」の2車種で、事故の際の乗員救出性に関する安全性能が法規に適合していない可能性が判明したのだ。今後、リコールも含めて早期に対応する。

試験を確実に合格する目的などで不正に手を染めていた事案が多く、安全基準は満たしていると見られてきた。だがこの案件は、製品の安全性よりも社内の短期開発という経営方針が優先される状況まで生まれていたことを示す。ダイハツは、これ以外に法規不適合の可能性がある案件はないとしている。

「トヨタにも重大な責任」
一方、親会社のトヨタは監督責任についてどう考えているのか。
20日のダイハツの会見に同席したトヨタの中嶋裕樹副社長は「認証は安心して車に乗っていただく基準を満たしているかという重要な問題で、自動車事業を進める中での大前提だ。これが揺らいだ責任は重く受け止めている」と語った。その上で「認証の現場で起きていたことを把握できなかった」と述べた。

報告書にはこんな証言も記載されている。
「トヨタの子会社化により、新興国向けの車両を任され、ダイハツとしても高い目標にチャレンジすることは、企業としてあるべき姿だと思いますが、その開発において様々なリスクへの構えができておらず、すべて失敗なく1回でパスしないといけない日程設定により、相当なプレッシャーがあったと思います。総じてトヨタの期待に応えるためにダイハツの身の丈に合わない開発を、リスクを考えずに推し進めたことが不正の大きな要因だと思います」

不正の背景の一つとして、トヨタグループ内においてダイハツに期待される役割が増大したことがあったとの見方だ。

軽自動車を中核とするダイハツの小型車開発能力を評価してトヨタがダイハツを子会社にしたのは1998年。ダイハツの株主にトヨタが保有する自社株を割り当てた株式交換によってダイハツを完全子会社にしたのは2016年だ。

コーポレートガバナンス(企業統治)問題に詳しい、危機管理システム研究学会理事の樋口晴彦氏は

「これほどの大規模な不正を把握できなかったのはダイハツのみならず、トヨタにも重大な責任があると言わざるを得ない。トヨタのマネジメントがこの程度ならば、トヨタ本体やその他の関係企業にも同様の問題が潜在している可能性も考えられる」

と厳しい。

最初の不正が発覚したのを受けて開いた4月の記者会見で

「個社の問題ではなく、グループ全体の問題として私が主担当として取り組む」と表明したトヨタの豊田章男会長は、20日の会見には姿を見せなかった。

22年に日野自動車で排ガスなどの試験不正が表面化したのに続く、今回の問題でトヨタグループに対する信頼は大きく揺らいだ。「会社の再生は一朝一夕ではできない。共に事業を進めているトヨタにとっても非常に大きな課題だと捉えている」(中嶋副社長)。グループ全体の信頼回復に向け、トヨタのリーダーシップも問われている。