三菱電機が設計不正 自動車業界だます「偽の宣言書」日経クロステック 2021/2/4 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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三菱電機による、車載用ラジオの欧州規格に対する不正が日経系で報道されたが、一般紙には一切出て来ない。

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概要としては、規格施行日三ヶ月前に知ったものの、製品納入を優先して偽の適合書を顧客に出していた。

その後も三年に亘る不正タレ流しで悪質さが際立っており、企業倫理の観点から見て新聞社なら、相当な問題として取り上げるべきだが、購読紙である朝日新聞ではこの一週間、一切触れていない(TV報道もない)
ちょっと不可解。
これの行き着く先であるCEマークと言えば、車のみならす家電品、玩具までに及ぶ、欧州域内で適合させなくてはならない重要規格。

私自身もかつて開発で関わった。
各新聞社とも、今からでも遅くないから特集を組むべき。

記事全文 転載ご容赦

三菱電機で設計不正が発覚した。リコールは避けられず、賠償金(リコール対策費用)の支払いは必至だ。それだけでは収まらず、自動車メーカーからの失注(受注を失うこと)の事態に陥る恐れもある。

「三菱電機に対する信頼ゼロ」
自動車メーカー出身のあるコンサルタントは「私が担当なら取引を解消し、二度と発注しない。この一件で三菱電機に対する信頼はゼロになるのでは」と言う。ものづくりに詳しいコンサルタントはこう指摘する。「日本のみならず、世界におけるものづくりの信頼関係を破壊する行為。自動車メーカーを巻き込んだ業界全体の大問題に発展する可能性がある」──。

設計不正の対象は、車載オーディオ機器用ラジオ受信機(車載ラジオ)。自動車メーカーが欧州市場で販売するクルマに搭載する製品である。

不正の内容は、法規制に対する違反だ。欧州連合(EU)の欧州委員会が定めた、欧州域内のラジオなどの電波受信器に対する指令である「欧州無線機器指令(欧州RE指令)」に適合しない製品(不適合品)を、それと知りながら顧客である自動車メーカーに出荷し続けていた。

不適合品の出荷台数は33万5238台に及ぶ。

不適合品が与える使用上の影響はそれほど大きくはなく、「欧州地域でAMラジオを受信した際に音声にノイズが混入する可能性がある」と三菱電機は説明する。

だが、法規制に関する違反であるため、「リコールは避けられないのではないか。しかも不正が原因なので、賠償金の支払いはその100%を三菱電機が負うことになるだろう」(元トヨタ自動車の設計者)

リコールに加えて生産停止分の賠償も
三菱電機は不適合品の具体的な内容を明かさない。仮に車載ラジオの原価が3万円で、工賃が1万円だとすると、リコール1台当たりの賠償金は4万円。こう仮定すると、130億円を超える賠償金の支払いを同社は余儀なくされる可能性がある。

それだけではない。三菱電機は設計不正の発覚以降、車載ラジオの生産・出荷を止めた。これにより、自動車メーカーがクルマを生産できない分の損害賠償まで三菱電機は負わされる可能性がある。

だが、これらの賠償金以上に深刻なのが、失注のリスクである。今回の設計不正の経緯を追うと、三菱電機の「悪質さ」が透けてみえる。顧客である自動車メーカーに不適合品を納めた上に、偽装・隠蔽工作まで行っていたからだ。

設計を手掛けたのは、同社の三田製作所(兵庫県三田市)である。

悪質だと言える点は3つある。(1)「偽の適合宣言書」を自動車メーカーに提出(2)改造品での適合性評価試験の受審(3)不適合品の生産・出荷を継続──である。

三菱電機が設計不正に手を染めた経緯はこうだ。
「偽の適合宣言書」を顧客に渡す
欧州RE指令の施行日は2016年6月13日。だが、ここから1年間は猶予(移行)期間が設けられ、強制施行日は17年6月13日だった。

この日以降は適合品でなければ法規制違反となり、欧州連合(EU)市場で販売することができない。

 


車載ラジオに関する設計不正の経緯(出所:日経クロステック)
三菱電機では、技術管理部門が欧州RE指令への対応の必要性を把握し、事前にその情報を設計部門に伝えていた。

ところが、設計部門がこの情報を「誤解した」(三菱電機)という。

いわく、「同規制が新製品に対して強制力を持つものであり、既に生産中の製品(現行製品)が対象になるとは思っていなかった」(同社)

設計部門が対応しなければならないと気づいたのは、強制施行日の3カ月前の17年3月のこと。だが、残りの3カ月で適合品を設計するのは「時間的に不可能だった」(同社)

ここで設計部門はどうしたか。

まず、何ら設計を変えていない現行製品をそのまま外部の検査機関に渡し、欧州RE指令適合性評価試験を受審した。
と同時に、その試験結果が出る前に、「偽の適合宣言書」を作成。

これを顧客である自動車メーカーに提出した。17年5月のことである。

これが、(1)の「偽の適合宣言書」を自動車メーカーに提出に至る経緯である。

同年同月、当然ながら「不適合」という試験結果が出た。なぜ、三菱電機の設計部門は現行製品をそのまま外部の検査機関の試験にかけたのか。この疑問について同社は、「現行製品が欧州RE指令に適合しているか否か分からなかったので、確認のために受審した」と回答する。

だが、この回答を額面通りに受け取ることは難しい。同指令に対応する設計を全く施していないのだから、現行製品が不適合と判定されることは当然、理解していたはずだ。仮にこの回答の通りだとすれば、三菱電機の設計部門には少なくとも不適合項目(伝導雑音性能と長波/中波のSN比性能)に関して技術的に判断する能力が備わっていなかったのではないか、と解釈せざるを得ない。

しかし、それは考えにくい。元自動車部品メーカーの設計者は「ノイズを低減し、信号レベルを高めるために素子(電子部品)を入れ替え、プログラムに少し手を加える程度で対応できる。三菱電機にとって決して技術的に難しい案件ではないように思える」と推測する。

量産できない改造品で評価試験を受審
三菱電機による悪質な行為はこれだけで終わっていなかった。17年6月半ばから下旬にかけて三菱電機の設計部門が行った、(2)の改造品での適合性評価試験の受審がそれだ。

ここでいう「改造品」とは、「時期的にも物理的にも、量産する製品に適用できない処置を施した製品」(同社)を指す。すなわち、大きさやコストなどの面で量産性は一切無視した設計変更を現行製品に加えた設計品(改造品)を三菱電機の設計部門が製作。これを外部の検査機関に渡して、欧州RE指令適合性評価試験を再受審したのである。

この改造品は適合と判定されたという。

これで受審した狙いは、「恐らく、適合したという『エビデンス(証拠)』が欲しかったのだろう」(三菱電機)

想像するに、改造品を使って不正に得たこの「適合」の基になった「技術文書(テクニカルドキュメント、後述)」を、先述の「偽の適合宣言書」の技術文書と何らかの形ですり替え、「欧州RE指令に適合済み」と顧客である自動車メーカーに示すための工作である。

三菱電機では本来、設計変更を施した製品は「変更点管理」に基づき、出荷する前に問題がないことを品質保証部門がチェックする仕組みになっているという。だが、設計部門は設計変更を加えていないことを理由に、品質保証部門には報告しなかった。

結果、現行製品は強制施行日を過ぎて「不適合品」となったにもかかわらず、三菱電機は生産と出荷を止めなかった。これが、(3)の不適合品の生産・出荷を継続、のいきさつである。

その後、20年10月20日になり、ようやくこの設計不正は明るみに出ることとなった。発端は、同社による社内検査である。

20年12月に予定されていた欧州RE指令に関する技術規格の改正をきっかけに社内で検査を行ったところ、量産中の製品(現行製品)が同改正に適合していないだけではなく、現行の同指令(上記の17年6月13日に強制施行日のもの)にも適合していないことが発覚したのだ。

こうして、三菱電機は不適合品の出荷を止めた後、同年10月27日に顧客である自動車メーカーに不適合品を出荷していた事実を報告したという。

不適合品を出荷し続けた期間は、17年6月14日から20年10月20日にわたる。実に3年4カ月もの間、三菱電機は顧客に真実を伝えなかったのである。

三菱電機全社の信頼失墜問題
この設計不正は、ただのリコール案件の1つでは済まされそうにない。自動車メーカーは、自動車部品メーカーを巻き込んだ大規模な調査に追い込まれる可能性が濃厚だ。

元凶は「偽の適合宣言書」にある。適合宣言書は製品名と適合する指令を記した文書で、責任者の署名を入れて顧客に提出する。

いわば、適合していることに対する顧客への「保証書」だ。

そのため、「責任者の名前は通常、一部門の管理者レベルではなく、会社名、もしくは技術担当役員や品質保証担当役員、事業統括責任者といった会社を代表する役職クラスになっているはず」(ものづくりに詳しいコンサルタント)だ。

つまり、三菱電機はこの車載ラジオに関して、実質的に三菱電機の名の下に「虚偽の保証書」を自動車メーカーに提出したことになる。

しかも適合宣言書は通常、それ単体では提出せず、「技術文書」とセットで顧客に提出する。技術文書は、試験設備や試験の内容、結果などについて記した文書だ。

要は、適合したことを技術的に裏付ける証明書である。

三菱電機の車載ラジオの場合、先の通り受審結果は不適合だった。

不適合を証明する技術文書をわざわざ添付して顧客に提出するとは考えにくい。

ということは、同社は適合宣言書(偽の適合宣言書)だけを顧客に提出したか、もしくは技術文書まで偽造して添付した可能性すら考えられる。なぜなら、適合宣言書は技術文書という技術的な根拠があって初めて作成できるものだからだ。それに基づかないものは、技術的な裏付けのない単なる「自己宣言書」にすぎない。

自動車メーカーが一斉に調査か
自動車メーカーが受ける影響は甚大だ。なぜなら、三菱電機の不適合品を搭載した自動車は、EUの法令で定められた安全性能の基準であるCEマーク認証の適合性を満たしていないからだ。

CEマークは、欧州RE指令を含めて適用される要求事項を全て満たしていなければ付与されない。すなわち、三菱電機の不適合品を搭載した自動車メーカーは、本来はCEマークを付与できないクルマに同マークを付け、EU市場で販売しているということになる。

CEマークに詳しいコンサルタントによれば、「欧州委員会は市場で製品を抜き打ち検査する」という。この検査で欧州委員会からCEマークへの不適合が摘発されれば、当然ながら違反行為として自動車メーカーは厳しい処罰を受ける。

東京都立産業技術研究センターの「海外規格FAQ『CEマーキング』」によれば「市場への出荷制限や販売の停止、市場からの撤収、不正メーカーの公開、稼働停止のほか、拘置処置または反則金の指示などが出される。拘置処置が行われる場合は、適合宣言書にサインした人」となっている。

自動車メーカーにとって何よりも怖いのは、顧客(自動車オーナー)に対して積み上げてきた自社の信頼の喪失であり、ブランドの毀損だろう。

従って、「自動車メーカーはこれから、車載オーディオだけでは済まず三菱電機の全ての自動車部品、場合によっては三菱電機だけでなく全ての部品メーカーの部品を対象に、適合性の有無を調査する必要に迫られるのではないか」と元トヨタ自動車の技術者はみる。

日本メーカーの看板に泥
また、「今回の一件で、適合宣言書と技術文書の信頼性が失われた。三菱電機以外の部品メーカーで同様の不正がないとは、自動車メーカーは言い切れなくなるかもしれない」と、ものづくりに詳しいコンサルタントは指摘する。

仮にそうなると、調査対象は膨大になり得る。現在自動車に搭載している部品はもちろん、過去の部品にまでさかのぼって確認しなければならなくなるからだ。しかも、適合宣言書があるか、適合宣言書に技術文書が添付されているかといった形式的なものではなく、技術文書の技術的な信頼性まで確認しなければならない。量産品から抜き打ち検査して、実際の部品の機能や性能の適合性を確認する必要も出てくる。

そこまでしなければ、自動車メーカーは欧州委員会と欧州の顧客に対して説明責任を果たせなくなってしまうからだ。

ものづくりは関係する全ての企業の信頼で成り立っている。適合宣言書はその「信頼の証し」だ。偽の適合宣言書を顧客に渡して設計不正を隠蔽し、日本の製造業が掲げる信頼の看板に泥を塗った三菱電機の責任は重い。(日経クロステック 近岡裕)
[日経クロステック2021年1月27日付の記事を再構成]