新聞小説 「ひこばえ」 (2)  重松 清 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「ひこばえ」(2)  6/19(18)~7/5(34)

作:重松 清  画:川上 和生

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感想
大学時代からの友人佐山と紺野の話。それから自分自身の現在。人間関係が少しづつ明らかになって来る。自分の知り合いで、子供に死なれた者は、記憶の限りでは見つからない。
死んだ子の歳を数える・・・詮無い事の代表表現だが、子に死なれた親は、落ち度がなくても自分の命が尽きるまで悔いを残すだろう。

 

この話がどういう方向に行くのか、まだ見えて来ない。
挿絵作家の、ほのぼのとした「当たり前」さが重松氏の文章表現とマッチして好ましい。

 

あらすじ

第一章 臨月 1~17
「よしお基金」の2017年度の活動報告。息子の芳雄君が学校で倒れて亡くなった翌年から、学校にAEDを設置するための活動を立ち上げた佐山。以来六年。
年に一回この時期に行われる報告会。五十人を超える客にビールを注いで回る佐山。向かいに座った紺野も感心する。


大学のゼミ仲間として私と紺野は、そんな佐山にささやかな協力を続けている。

佐山夫妻の近況を知る場でもあるこの酒席。後追い自殺まで案じられた奥さんも、今はそれなりに明るさを取り戻している。
紺野がどこからか聞きつけた、娘の妊娠の話題を出す。予定日は五月五日。二人いるうちの長女美菜、二十七歳。

予定日まで一ケ月足らず。初孫をからかう紺野。
紺野は未婚。若い頃には付き合う女性が途切れた事がなかったが、その後結婚を前提として女性を探すも果たせず、今に至っている。
もうすぐ親と同居すると言う紺野。両親とも八十過ぎており、実家に戻るつもり。通勤時間が伸びるが、あと二年勤めたら選択定年とし、五十七歳で退職するという。

 

佐山夫妻が回って来た。ここが最後の席。頭が下がる、としみじみ言う紺野。それは私も同じ思い。
そんな夫妻も事故直後は、救命措置を巡って学校と対立した。

親の無念を、同じ親として痛いほど感じる。


近況を聞かれた紺野が、よせばいいのに話を振って来た。

「ハセ、来月おじいちゃんになるんだ」
学生時代から余計な事を喋る男。佐山にはこの事は伝えていなかった。息子を十五歳で亡くした相手に初孫の話は言いづらい。
だがその話は簡単に終わり、ほっとした。

紺野がトイレで中座し、違う話題を探していた時、佐山が近いうちに時間を取ってくれと頼んで来た。

 

会が流れ解散になり、紺野が歩きながら先の会の話を始めた。
昨年までは来ていた芳雄君の同級生、部活の仲間等が、今年は来ていなかった。
芳雄君も、生きていれば二十二歳。だが関わった者が一人も来ないというのは不自然。佐山の相談したい事を想像する私。

 

紺野とは駅で別れ、私鉄準急の車内からLINEでメッセージを送る。

家族四人でのLINE。コンビニで牛乳を買おうか?という内容に妻の夏子から「あります」の返信。次いで美菜から「今来てるよ」。
息子の航太の既読はつかない。高校教師になって三年目で、多忙を極める二十五歳。

 

我が家は都心から準急で二十分ほどの街にあり、中古住宅をリフォームして住んでいる。航太とは同居だが、もし結婚でもして外に出たら、二人だけでは広すぎる。
老後を考え始めるとキリがない。どんどん暗い方へ考えが巡る。

 

家に着いて、美菜の夫千隼君の車を見つける。知らずに洋菓子屋で買って来たシュークリームは4個。美菜が追加のLINEで千隼君の事を送っていたのを見落とした。
家に着くと、帰り支度をしていた美菜は、シュークリームと聞いて上着を脱いだ。千隼くんが挨拶。
航太が二階から降りて来る。だが彼らとの話も長続きしない。
シュークリームが4個しかないのを見て、足りないのは父親の分と決めつけている美菜。
団欒から距離を置くように、ダイニングで缶のハイボールを飲む。

 

美菜たちが引き上げ、航太も上に行くと私と夏子が残された。
佐山夫妻の事を聞く夏子。元気そうだった、と小さな嘘をつく。
芳雄君が亡くなった時、激しく動揺し、悲しんだ夏子。面識はなかったが、我が子の事を思い、同じ母親としていたたまれなかった。

 

互いの結婚式に出席している佐山、紺野と私。

大学のゼミ仲間。1985年に卒業。
紺野は広告代理店に就職したが、バブル時代で転職を繰り返した。2008年に転職してからはずっと今の職場。早期退職は本気なのか?
佐山は独立組。最初は区役所勤めの公務員。税務を扱う部署の縁で、税理士の免許を取って大手の会計事務所で経験を積み、四十歳で独立した。将来は芳雄君に継いでもらいたかったか・・・

 

新卒で生命保険会社に入った私。五十歳で関連会社へ出向。介護付き有料老人ホーム「ハーヴェスト多摩」の施設長。伸びる業種だと役員に言われた通り右肩上りで、施設数も三から七に増えた。
ハーヴェストには日常生活可能な者の「すこやか館」と要介護者の「やすらぎ館」があり、私の受け持ちは「すこやか館」。大きなトラブルは経験していない。

風呂に入る私。脱衣所には足踏みポンプとホース。夏子が通販でエアー式のベビーバスを買っていた。レンタルのベビーベッドも来る。
何の抵抗もなくするりと「おばあちゃん」になれる夏子が羨ましい。
「おじいちゃん」という言葉に居心地が悪くなる私。