100分 de 名著 松本清張 (1)「点と線」 NHK Eテレ 3/5放送 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

番組紹介
今回から4回に亘って松本清張の小説を紹介。

(2)「砂の器」、(3)「昭和史発掘:2.26事件」、(4)「神々の乱心

 

感想
松本清張の作品は、中三の時に「高校殺人事件」を読み、高校に入ってから「影の地帯」。学校に置いてあった「昭和史発掘(当時5巻まで発行)」を読んでからは、就職後清張全集(全48巻)を月2冊購入して読破。
ただ、結婚を期にそれを全て処分した(惜しい・・・)。

当時は「読んだものは覚えているから要らない」と思い込んでいたが、そんなワケないだろ(と今なら断言)。

 

この小説の「4分間」のトリックは良く覚えていたが、それ以外はあらかた忘れていた。
だが話が進むうちに、この犯罪を立案した亮子が、自分が助かるためではなく、最終的に亭主と心中するつもりだったのだった、と腑に落ちた事を思い出した。
げに恐ろしきは女の怨念よ・・・・・

 

内容
第1回「点と線」 副題:人間と社会の暗部を見つめて

作品あらすじ

進行役:伊集院光 君津有理子 ゲスト:原武史(放送大学教授)

 

松本清張は、高度経済成長期の描写が、そのまま戦後史の資料となっている(貴重)。
仕事の根底にあるのは「ノンフィクション」。

事実に立脚した上での小説。

 

九州の田舎「香椎」駅近くの海岸で心中した佐山健一と女中お時。

ベテラン刑事の鳥飼重太郎が、佐山の残した一人だけの食堂車領収書に疑問を抱く。

心中の道行きなら、男が食事に行ったら、同行するのが人情。
心中の証拠となる目撃証言→4分間の壁。

 

この小説は1957年に雑誌「旅」に連載されたもの。
福岡での記述が長いのは、清張のこだわり(福岡での暮らしが長かった)。「あさかぜ」は寝台特急(東京-博多を結ぶ)。当時一般的なのは急行。刑事でもあさかぜには乗れない。
小説で、三原警部補が急行で東京に帰った時「二晩寝たから大丈夫」との記述あり(逆に言えばダメージ回復に二晩必要)。

格差が可視化されている。

 

4分間のトリック(模型を使って実演)
あさかぜに乗る佐山とお時を、証人のホームから見通すためには、間に二本ある線路に電車が居ないという条件が必要(あさかぜは⑮番線、証人ホームは⑬番線)。5:49にあさかぜ到着。5:57に⑬番電車が発車。だが6:01には横須賀線が入る(見通せるのは4分間)。

当時、本当にある時刻表に基いたトリックであり、大反響を呼んだ。

 

目撃者の三人中二人は女中仲間。あとの一人は常連→安田辰郎。

どちらとも繋がりのあった安田の企み。
佐山の目撃証言であると同時に、安田のアリバイ証明でもあった。

 

鳥飼の疑問。駅でのアベックを見た目撃証言。一つは国鉄「香椎」付近で9:24に西鉄方面へ歩く姿。もう一つは西鉄「香椎」駅付近で9:35に海岸へ歩く姿。
鳥飼は歩いて確認。二駅間の徒歩は11分必要。このアベックは一組ではなく、二組いたのでは?という推理。エリートではない者が、自分の足で確かめながら真相に迫る。清張の下積み生活が二重写しになっている。

一組は佐山とお時、もう一組は安田と共犯者。だが組み合わせが違う。安田とお時は愛人関係だった。

 

佐山の相手は、安田の妻亮子。別々に殺されて心中にさせられた。
亮子は結核を患い、安田が愛人を持つ事を半ば黙認している関係。
療養のため、どこにも行けない亮子の楽しみは、時刻表の上での「擬似旅行」。いかなる小説よりも面白い。
夫婦合作での殺人。お時殺しに興味を持った亮子。

人一倍の嫉妬心が、機会を見つけて燃え上がった。

 

戦前は、亭主が正妻以外を持つ事が、良くある事だった。

イヤだけど仕方がない。
清張の考え。女性は脇役ではない。女が力を握っている。

最後で前面に出す演出。

 

清張が現代に伝えていること。
本来の目的だった課長補佐 佐山殺しは、上司の保身のため。

一番の悪は生き残る。
今でもこういう事はあり、現代でもインパクトがある小説。

これだけの才能が、一人の中に同居していたのがすごい(伊集院)。