100分 de 名著 松本清張 (4)「神々の乱心」 NHK Eテレ 3/26放送 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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感想
若い頃、全集まで買って入れ込んだ作家だったが、結婚した頃にはその全集も手放す有様。
この、遺作となった本作品も、題名だけはかすかに知っていたが、内容は全く知らなかった。

皇室の、皇位継承に関わる陰謀を描いた小説。フィクションと言いながら、実際にあった事件を下敷きにしている。あったかも知れない「皇位継承クーデター」。

「昭和史発掘」以降、昭和天皇と秩父宮との、兄弟間の問題をずっと温めていたのだろう。
壬申の乱も、皇族の兄弟間係争。

フィクションという形を取って、皇室が抱えるものの危うさを知らしめたいという清張の執念が強く感じられる。

 

平成の世で言えば、皇太子徳仁親王と秋篠宮文仁親王との関係が微妙に見える。男子が生まれなかった雅子様に対し、39歳で悠仁様を出産した紀子様。秋篠宮の深慮遠謀。

皇室典範が変わらない限り、悠仁様が皇位継承。

これは読まないとアカンなー。


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「松本清張の遺言」書評
本書は原武史が「神々の乱心」のガイドブックとして書いたもの。

本レビューは良く書けている。

 

内容

第4回「神々の乱心」 副題:国家の深層に潜むもの

進行役:伊集院光 君津有理子 ゲスト:原武史(放送大学教授)

 

晩年、歴史小説の執筆が多くなった清張。今回は未完の作品だが、原が一番好きな小説。フィクションとノンフィクションの融合。

昭和8年10月。埼玉。特高警察の吉屋謙介は、新興宗教の「月辰会(げっしんかい)」に不審を抱いていた。


占いを受けた有力者、軍関係者が多数頼って来る。
そこから出て来た女に目を付けて尋問すると、女は宮中の女官。宮中に宛てた封書を持っていた(御霊示)。だが女は数日後に自殺。背景にあるのは国家転覆のクーデター。

 

ありそうもない設定に思える。

どうして清張はこれを盛り込んだ?(伊集院)
これは実際に起きた事件を参考にしている(島津ハル事件)
宮中の女官長(君津治子)が新興宗教に入信し、昭和天皇の崩御を予言。不敬罪で逮捕された。

 

宮中における神道の扱い→祭祀であって宗教ではない。よって他宗教とは矛盾しないという立場を取っている。

ドラマでは封書の中味は明らかにされていない。
昭和8年12月23日に皇太子(現平成天皇)誕生。この時代設定から言って出産前の性別は判らない。

御霊示は、男子誕生の占いだったと推定。

当時の昭和天皇の皇位継承第一位は、秩父宮。だが皇太子が生まれると、継承者が皇太子に移る。そのため教団が計画を急いだ。

 

教団の正体
秋元伍一。満州で自分の野望を実現するための宗教を探していた。そこで見つけたのが霊媒師:江森静子。強い霊能力を持つ。
二人は意気投合し、月辰会を立ち上げる(秋元は教祖として平田有信と改名)。

その占いはよく当たり、軍関係者、宮中からも入信者を得た。


だが静子は次第に暴走し始める。秋元は静子の娘、美代子を仕込んで霊媒師としたかったが、静子の下では実現せず。

教団は事実上静子が権力を握っていた。

 

小説は教団の話で終わらない→宮中を描く。
背後に皇太后(昭和天皇の母:貞明皇后)の存在。息子の昭和天皇との間に確執があった。天皇と皇太后を巡る二重構造。
日中戦争、太平洋戦争とも、軍部は天皇に戦況を報告していたが、その後皇太后にも報告する習わしとなっていた。

皇太后の力が強かった。
この背景から、宮中が透けて見える。

昭和史の、ノンフィクションの限界。

 

平田の野望は、裏からの日本の支配。そのために皇太后を入信させたい(皇太后は秩父宮を溺愛)。
昭和天皇の呪い殺しの企みが露見。
平田は古物商からニセの三種の神器を調達(鏡、剣、勾玉)。


三種の神器を持っていないと天皇として証明されない。逆に秩父宮が三種の神器を持っていれば天皇になれる。

ニセモノと言っても、誰も見たことがない(天皇さえも)。島津ハル事件では、犯人が神器を持っていると主張。

 

昭和天皇の独白録に、なぜ戦争終結の決意をしたかの言葉がある。
鏡本体は伊勢神宮にある。剣は熱田神宮、と別の場所に奉納されていた。もし接収されて神器を失う様な事があっては先祖に申し訳ない。これが戦争終結の真意。神器の確保が最重要。

 

剣と勾玉をセットで剣璽(けんじ)と言い、天皇が退位した時には、次の者がまず剣璽を継承する儀式を行う。
これから行われる→生々しい話(平成から次の元号)。

 

こんな小説を出版していいのか?(伊集院)
言論の自由はあるが、不敬小説と見做される可能性もあった。しかし清張は自分の死を意識。最期だからと全部投げ込んだ。
清張は平成4年、83歳で死去。

 

書かれなかったエンディング(原の推理)
美代子に静子が嫉妬するが、平田は美代子への代変わりを強行。
宮中では皇太后が入信。支配に王手をかける平田。


一部将校らによる軍事クーデターが始まっていた。
平田は秩父宮に、ニセの三種の神器を献上して即位を促す。
その瞬間、稲妻が平田の全身を貫いた。静子が呪いの相手を昭和天皇から平田に変えた。

 

教祖が稲妻で死ぬというプロットは、編集者にも話していた様だから、多分外れてはいない。
清張は何を伝えたかったか?
昭和から平成に移り、新天皇になった。その環境で人生のタイムリミットを感じながら昭和を描きたかった。
古代日本、シャーマニズムといったものが、皇室に残存している事を示そうとした。


シリーズを振り返って
1作品ずつ100分やりたいぐらいの内容だった。
昭和史発掘は、ノンフィクションの限界に挑み、専門家からは邪道とも言われた。
だが神々の乱心では、小説家、ノンフィクション・ライターとしての意地を見た(伊集院)

 

清張には他に書きたいテーマがたくさんあった筈。
残り時間がない中で最後にこれを選んだ(原)