※11月から永山源太郎が連載中の山口新聞、コラムコーナー「東流西流」第8回記事で書いた原稿です。
第八回「酒造りのバトン」
大学時代に他の酒蔵に研修に行き「実家の匂いがする」と感じたことがある。
数年後実家に戻り酒造りをするようになるとそれが酒粕の匂いだったということがわかった。
酒蔵で生まれ育つと、それほど「酒造り」というものが身近だった。その一つが杜氏という存在だ。
永山酒造のかつての杜氏である山本杜氏が思い出深い。
今こそ多くの酒蔵が自社の社員で酒造りをするのが当たり前だが、
ほんの20年くらい前までは全国の各地域に点在する杜氏組合から杜氏と蔵人を季節雇用で雇っていた。
山本杜氏は兵庫県の但馬杜氏組合の所属で春から秋にかけては農業をやり、
冬に遠く離れた山口の酒蔵に泊まり込んで酒造りをするという生活だった。
子供ながらにこの人はなんか違うな、オーラがあるなと思っていたが、実際数々の賞を受賞するすごい杜氏だった。
昔ながらの職人という感じで、幼い目からはとてもかっこよく映った。
蔵人には厳しかったらしいが、子供達には毎年お年玉をくれる優しい杜氏だった。
そんな山本杜氏の造った大吟醸が数本だが蔵から出てきた。
20年熟成だ。飲んでみるとまったく衰えない力強い味わいで、
とてもきれいな熟成をしていて感動した。
山本杜氏は覚えているだろうか。そして元気だろうか。
あの時蔵を走り回っていたあの子が今、酒造りをしていますよ。
2020年12月22日
山口新聞掲載
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