※11月から永山源太郎が連載中の山口新聞、コラムコーナー「東流西流」第6回記事で書いた原稿です。
第六回 「新酒ができました」
蔵の玄関口に杉玉を吊るした。
杉玉とは杉の葉を集めて球状にしたもの。
昔から日本酒の造り酒屋では新酒ができると杉玉を蔵の軒先に吊るす。
吊るされたばかりの杉玉は緑色だが、やがて枯れ茶色になっていく。
この杉玉の色の変化はお酒の熟成具合を知らせる目印になっている。
「山猿」の新酒が今年も無事発売になった。
新酒らしいフレッシュな味わいとメロンのような心地よい甘い香りが特徴で、
とてもいいお酒ができた。
毎年この新酒発売の瞬間がとてもうれしいし、この瞬間があるから酒造りが好きだ。
私は今28才、あと50年酒造りをするとしても、
この新酒完成の瞬間は人生であと50回しか味わえない。
そう思うと少ないとすら感じる。
そんな順調に始まった今期の酒造りだが、
コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けている。
緊急事態宣言が出た春あたりから全国的に日本酒の出荷が大幅に落ちた。
その分、今期は造る酒の量を通年から三割減らしている。
仕込み本数を減らすということは、使うはずだったお米を使わないということだ。
全国の全酒蔵が一斉に仕込み本数を減らしたと考えてみてほしい。
全国的に酒米が大量に余り、需要と供給のバランスが崩れ始めた。
酒蔵のピンチは農家のピンチ。
あなたの今夜のその一杯が、間違いなく酒蔵を救い、農家を救っている。
2020年12月8日
山口新聞掲載
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