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「ごまかさないクラシック音楽」

ごまかさないクラシック音楽

岡田暁生・片山杜秀

新潮選書 2023年5月刊

本体価格1900円

 

本書の裏表紙にある解説が簡潔に特徴・特色をよく言い表している。

 

引用すると・・・・

西洋音楽のオモテとウラがよくわかる「最強の入門書」!!

バッハは戦闘的なキリスト教伝道者。ベートーヴェンは西側民主主義の

インフルエンサー。ロマン派は資本主義のイデオロギー装置。

 

ワーグナーはアンチ・グローバリスト。ショスタコーヴィチは軍事オタク。

古楽から、古典派、国民楽派、そして現代音楽までを総ざらいし、

名曲に秘められた「危険な思想」を語り尽くす。

(以上引用終わり)

 

これらの記述の意味が判れば、本書はとてつもなく楽しく、知的刺激に

富んだものになると思う。しかし、二人の顕学のリズムについて

いけないと、だんだん白けてくるか、腹立たしくなってくるであろう。

 

ちなみに、本書を図書館で借りたのは、評者であるが、評者よりも

クラシック音楽に造詣が相当深い妻に貸したところ、大いに喜んだ

のは彼女であった。

 

岡田、片山の解説というか議論が判ると興味がどんどんでてくるのだ

ろうけど、評者自身は、「もういいや」となって投げ出してしまった。

 

という意味で、本書は読者を選ぶといってもよかろう。

 

「ピアニストが見たピアニスト」

ピアニストが見たピアニスト

名演奏家の秘密とは

青柳いづみこ

原書 同題 2005年6月白水社

2010年1月 中公文庫

 

青柳は自身がピアニストであると同時に、秀逸なエッセイストである。

多数の著書がある。

ごく最近の著書でも

『ショパン・コンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち』集英社新書、2022年10月

『パリの音楽サロン ベルエポックから狂乱の時代まで』岩波新書、2023年7月

などがある。

 

本書は伝説的なピアニストの評論を展開している。

ただ、内容は相当専門的であり、評者がついていけたのは

リヒテルとアルゲリッチだけであった。

 

その他は、そもそも全盛期の活躍ぶりを知らないので、ついて

いけようがない。

 

上記の二人の関する記述も、実は結構深い。

実演を聴いたことがあるのは、アルゲリッチだけだが、既に

伝説になっているので、ただただ拝読するしかなかった。

 

気軽にお薦めはできないが、チャレンジする価値はある本で

あろう。

「モーツァルトは生きるちから」

モーツァルトは生きるちから 藤田真央の世界

伊熊よし子 

2023年4月  ぶらあぼホールディングス発行

 

標題の「モーツァルトは生きるちから」は現役最高齢の

ピアニスト、メナヘム・プレスラーの名言らしい。

 

本書のいわば主人公である藤田真央は、日本の若手ピアニストで

あり、1998年11月生まれ。

 

2009年日本クラシック音楽コンクール全国大会グランプリ

2016年浜松国際ピアノアカデミー第一位

2017年クララ・ハスキル国際ピアノコンクール

2019年チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で第二位

などの受賞歴を誇る。

 

本書の表紙にある写真は、彼のおとなしめで純粋な性格が

表れている気がする。

 

筆者の伊熊よし子は、音楽ジャーナリストで音楽評論家である。

クラシック音楽本によくある、ペダンティックな雰囲気が皆無で

藤田の成長を傍らで見守る親戚のお姉さん的な感覚で藤田の

良さから、これまでの演奏家としての歴史を語ってくれる。

 

藤田は2022年にルツェルン音楽祭でリッカルド・シャイーと

共演しラフマニノフの協奏曲第二番を披露したが、聴衆のレベルが

桁外れて高いといわれるが、絶賛されたという。

 

この部分で紹介された興味深いエピソードがある。同音楽祭で

ドイツのアンネ・ゾフィー・ムターの演奏を藤田は聴くが、

技巧的なパッセージでたった一か所だけオーケストラと合わなかった

ところがあった。それに対する聴衆からの反応は、アンコールを

要請する拍手はなかった。

 

藤田は、「わたしはその聴衆のシビアさに、からだが緊張し、

明日はどうしようと凍りつく思いでした」(P177)と述懐している。

 

藤田は順調にキャリアを形成し、世界のひのき舞台でも堂々と

演奏活動を続けているようだ。

 

伊熊がとる適度な距離感と、演奏家に対する心遣いが自然と

伝わってくる好著であった。