休日の朝、洗面所で鏡を覗くと額に肉という文字が書かれていた。タオルで額を擦ってみたが、消せなかった。薄くもならなかった。
そういえば、夢の中で牧場主がその文字を書いたのだったと私は思い出した。「お前は食肉加工用として出荷される」と牧場主は言っていた。しかし、実際に出荷される前に夢から醒めたようだった。出荷されていたとしたら解体されていたかもしれないので目が醒めて良かったと私は胸を撫で下ろした。
朝食を取ろうかと思ったが、鏡に映っている額の文字を見ていると自分の身体が美味しそうだと思われ出したので私は当惑した。肌を舐めてみようかと考えたが、ちょっとでも味わうと食欲が暴走して止まらなくなりそうだという予感が脳裏を過ったので我慢した。
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