額に牛 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日の朝、洗面所で鏡を覗くと額に牛という文字が書かれていた。タオルで額を擦ってみたが、消せなかった。薄くもならなかった。

 そういえば、夢の中で牧場主がその文字を書いたのだったと私は思い出した。「お前は牛だ」と牧場主が言った。牧場主の命令には従わなければならないと思ったので私は牛の間延びした鳴き声を発した。自分ではなかなか上手に鳴けたと思ったのだが、牧場主は不機嫌そうな表情でこちらを睨み付けただけで私を褒めてはくれなかった。

 朝食を取ろうと思い、台所へ行った。既に息子と娘が席に着いてトーストを食べていた。私が入ってきても彼等は挨拶をしなかった。そういえば、自分は人間の言葉を話せるのだろうかと考えて私は不安になった。片手で額の文字に触れた。ひょっとすると、牛の声しか発せられないかもしれないと思った。


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