休日の朝、洗面所で鏡を覗くと額に木という文字が書かれていた。タオルで額を擦ってみたが、消せなかった。薄くもならなかった。
そういえば、夢の中で農場長がその文字を書いたのだったと私は思い出した。「お前は木だ」と農場長が言った。農場長の命令には従わなければならないと思ったので私は動作を止めて畑の真ん中で直立した。周りでは人々が農作業に勤しんでいた。私は突っ立ったまま彼等の仕事を眺めていたのだが、なんだか仲間外れにされているようで居たたまれなくなってきた。
朝食を取ろうかと思ったが、自分が木であると思い出したせいで私は洗面台の前から動けなくなった。そのまま何事もなく、静かな時間が流れていった。私はすぐに退屈になったが、洗面所には他人がいないので夢の中の農場よりも居心地が良いと感じていた。
関連作品
額に円
額に肉
額に悪
額に牛
目次(超短編小説)