額に円 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日の朝、洗面所で鏡を覗くと額に円が書かれていた。タオルで額を擦ってみたが、消せなかった。薄くもならなかった。

 そういえば、夢の中で偉そうな人がその図形を書いたのだったと私は思い出した。「合格だ。目が醒めても良い」とその偉そうな人は言った。私はいつまでも夢を見ていたいと望んでいたので不服だったのだが、相手の地位が随分と高そうだと思われたので黙ったまま反論しなかった。

 夢の世界から立ち去らなければならないと思うと私はしんみりとした気持ちになってきた。知り合い達に別れの挨拶をしなければならないと思った。しかし、目の前に立っている偉そうな人以外に頭の中に思い浮かぶ知人はいなかった。そのせいで夢の世界に対する未練が断ち切れて目が醒めたようだった。

 朝食を取ろうと思い、台所へ行った。既に息子と娘が席に着いてトーストを食べていた。彼等の顔を見てみたが、額に円が書かれていなかった。まだ彼等の目は醒めていないのかもしれないと私は思った。


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