Simulation Project (SimP)

 

 

Simulation ProjectはAlliance Manchester Business School、Global MBAの中で少し異質の科目でした。

 

 

  コース概要

 

SimPはコース名の通り、チームでシミュレーションゲームに取り組む科目です。具体的には5〜6名のグループで自動車メーカーの経営シミュレーションを行います。経営と言うと少し対象が広いですが、実際には自動車メーカーで市場に投入するモデル(セグメント、サイズ、オプション、価格等)を決めたり、広告戦略(媒体、予算)を立てたり、研究開発戦略、労務関連(オペレーター人数、給与)の意思決定をシミュレーションソフト上で体験します。

2ターム(1年間)の科目で、その間に5ラウンド(シミュレーションソフト上では5年間)意思決定を行い、各年に最大1モデル(初年度のみ2モデル)投入ができるという設定です。面白いのは同じタームに受講している他のグループ(合計64グループ!)と各年の結果を比較し、売上、株価、EPS(Earning Per Share:1株利益)、研究開発費などによってランキングされ、それが成績の一部となるということでした。

 

マンチェスター大学のモットーの1つである「Learning by Doing」を体現した科目の1つですが、狙いは

  1. 企業(組織)内の異なる部門間の関係性/独立性への理解を深める
  2. 不確実性や将来が曖昧な環境下での意思決定の難しさを体験する
  3. 分析、意思決定能力の向上と組織・グループで物事に取り組む経験をする

ことでした。つまり、将来経営層として向き合うことを学ぶ(擬似体験する)コースとしてデザインされています。

 

結果は世界中のグループとの比較になりますが、シミュレーションソフト上では同じエリアの他の3グループと直接競合することになり、各グループの意思決定が互いのパフォーマンス(マーケットシェア)に影響するというなかなか凝った内容です。各ラウンドごとに経済動向と言ったマクロ環境が変化するとともにセグメント(年齢、価格帯)ごとのマーケットサイズが変わっていくのですが、マーケットサイズの大きなセグメントに入るという基本はありつつも、いかに競合を避けマーケットシェアを高めるかなど考える要素が多岐に渡り、楽しみながら取り組める科目でした。

 

 

  ワークショップ

 

いわゆるワークショップはなく、シミュレーションのラウンドごと(計5ラウンド)にチーム(会社)として意思決定するためにそれぞれのグループがオンラインで集まって議論する形式でした。

グループメンバーはシンガポーリアン女性2人(中華系:1名、マレー系:1名)、マレーシア在住のイギリス人男性1名、日本在住の日本人女性1名、と自分という構成で、全員どちらかというと控えめなタイプでとても平和なグループだったと思います。他グループの知り合いに話を聞くと、グループ内で意見の対立から分裂してしまったり、ある人が全くコミットしてくれなくなったりするケースもあったようなのでそれと比べると本当に恵まれたグループだったと思います(結果はめちゃくちゃ良かったわけでもなかったのですが中の上か、上の下くらいという感じでした)。

 

なお、参考図書として事前に読むことを求められたのは「HBR Guide to Leading Teams」でした。Harvard Business Reviewの「Guide」シリーズでタイトルの通り、チームづくり、運営について具体的な方法なども含めて総合的に紹介されている本です。

 

 

 

ここで述べられているチームは会社の部署というよりはプロジェクトチームのような、有期で1からチームを立ち上げるケースを想定しているような印象ですが、もちろん、既存のチームをリードする立場を目指す人にとっても学べることが多い本だと思いました。1章の出だしがなかなか秀逸で、英語の本ですが抵抗なく読み始めることができました。

 

もしチームをリードする立場になったことがあれば、イライラさせられるメンバーに対応した経験があると思います。会議を支配してしまう人、時間に余裕がないのに全ての事柄を隅々まで検証する人、数ヶ月前にチームで決めたことに賛成できない理由をいつまでも言い続ける人、会議では何も発言しないのに終わってからコーヒーブレイク中に文句を言う人。

 

たしかに仕事では少なからずこのような場面に遭遇することがあると思います。仕事を離れると価値観の近い人と一緒にいることが多く、そのような人とは意見が対立することが少ないですが、仕事におけるチームは必ずしも自分の価値観と近い人ばかりが集まるとは限りません。また、仮に自分がメンバーを選べる立場であったとしても何か目標を達成するためのチームには多様性が不可欠です。たとえば、細部を気にしないメンバーばかりが集まったり、リスクを取る傾向にある人ばかりが集まったりするとチームとしてベストな意思決定ができない恐れがあるからです。もちろんスキルの面からも、達成すべき目標に向けて各分野のエキスパートが集まったチームの方が優れたアウトプットを出せる可能性が高まります。チームとしてより良い結果を出すために多様性が求められますが、多様性のあるチームをうまく回すことがリーダーには求められています。

 

 

  個人エッセー

 

個人エッセーはこのコースを通じて学んだことを元に、自身の仕事でマネージャー/リーダーとしての能力を向上するために今後、具体的に取り入れるアクションを述べよ、という内容でした。どのようなフレームワークで学びを自身に反映し、それがなぜ重要なのかについても言及のうえ、最後にアクションプランをSMARTSpecific、Measurable、Assingable、Realistic、Time-related)形式にまとめなさい、というものです。

 

フレームワークについてはGibbs(1988)の「Reflection Cycle」を利用しました。インターネットで検索すると日本では看護領域でよく利用されているようですが、どのような分野に従事されている方でも簡単に取り入れることができる優れたモデルだと思います。

Nakakomi Goさんのブログが簡潔で分かりやすいと思いますので興味がある方はご覧になってください(勝手にリンク貼リマした・・・)

 

チームについての振り返りの中では、Tuckman(1965, 1977)の「Model of Team Development(タックマンモデル)」を利用しました。理想的なチーム形成はForming(形成)、Storming(混乱)、Norming(統一)、Performing(機能)、Adjourning(散開)の5つのステージを経る、という理論です。ここで面白いなと思ったのは、混乱期が必要という指摘です。SimPでのチームはとてもスムーズで大きな問題がなかったのですが、逆に言うと、意見をぶつけ合うことがほぼなく、みんなが互いに気を使いすぎて言いたいことを言えなかったのではないかと感じました。エッセーではそのあたりに触れたうえで、自分がリーダー/マネージャーを目指すために向上すべき分野の1つは「Conflict Management」スキルだと思うということにしました。意見が対立してもそれをうまくmanageできる自信があれば、対立を恐れて意見しない、ということはなくなるのでは?という主張です。エッセーのために無理やり絞り出しましたが、今読み返してみると良い感じのストーリーにはなっていたようです。

 

 

Gibbs, G. (1988). Learning by doing: a guide to teaching and learning methods. Oxford: Oxford Further Education Unit

Tuckman, B.W. (1965). Developmental sequence in small groups. Psychological Bulletin, 63(6), pp.384–399.

Tuckman, B.W. and Jensen, M.A.C. (1977). Stages of Small-Group Development Revisited. Group & Organization Studies, 2(4), pp.419–427.