「国債報償運動については前回で終わったけど、参照した田口容三『李朝末期の国債報償運動について』(所収「朝鮮学報」第128輯 朝鮮学会 1988)について見てみるね。かなり短くなるけど」
「おまけみたいな感じやな。エントリー内ではけっこうツッコミとか批判しとったね」
「1988年の論文だから時代的な制限はあるとは思うよ」
「うん。田口論文には統監府文書の引用が一切ないんだけど、当時は『統監府文書』が刊行されてなかったからこれは仕方ないと思うの。でも当時でも調査・閲覧できたはずの史料を読んでないんじゃないかって箇所が多いんだよねぇ」
「たとえばどんなとこかな?」
「そうだね。p8には大韓毎日申報社と皇城新聞社の月別集金額があるんだけどね、申報社の総額が61,232円になってるけど、計算したら61,131円507銭、円以下は省略ってしてるから61,132円になるはずだし、皇城のほうは1907年5月が15,000円、6月が14,000円、12月と1908年1月が0円になってるけど、実際に皇城新聞を調べると5月は16,000円、6月は13,000円、12月・1月は2,000円なんだよね」
「申報社は誤植か書き間違いかもしれへんね。皇城の5月と6月の違いは、5月31日に1,000円を銀行へ預け入れたことを6月1日付紙面で告知したから6月分にカウントしたんやろね。12月・1月のほうは調査不足なんかな?」
「p8の表のままだと総額57,000円じゃなくて53,000円になっちゃうよね。検算しなかったのかな?何かの丸写しなのかな?」
「これは前も触れたけど、p28では国債報償調査整理所について「結成時期は不明であるが、一九〇八年九月末ごろと思われる。会長は親日団体の一進会副会長洪肯燮であるから、同所は一進会系の調査団体であろう(93)」なんて書いてるけど、注93にあげられている10月3日付申報からは、一進会員の調査会員たちが分派行動をとろうとしたことはうかがえるんだけど、整理所なんて名称は出てこないし、その団体が整理所だという証拠はないんだよね」
「だいたい、国債報償調査整理所っちゅう名称と会長が洪肯燮ちゅう話はどこから持ってきたんや?と」
「そうなんだよね、そこにこそ注が欲しいんだよ。p29では国債報償金処理会の土地買収やその後について「土地買収については、八月に新聞に広告を掲載し、八月末に買収交渉しているが(104)、買収が実現したかどうかは、『申報』『皇城新聞』などの紙面からは知りえない。朝鮮併合にともなって一切の新聞、雑誌が強制的に廃刊させられたからである。また処理会のその後の活動も不明であるが、併合とともに朝鮮のすべての団体が禁止されたから処理会も同時に解散させられたものと思われる」なんて書いてるんだよねぇ」
「あれ?大韓毎日申報は廃刊じゃなくて毎日申報に改称したんだよね?それに土地買収交渉の失敗、教育基本金管理会への改称、教育団体への分配決定と中止、総督府への納入は全部申報で確認したよね?」
「田口はあんだけ申報を注に
「あと、p28で処理会の結成について説明してるんだけど、全国代表会が1909年11月7日に実施されたことについての注がないの。9日付申報を見れば分かることなんだけど、どうして提示しないのかな?」
「先行論文の記述や注を丸写ししただけで直接原史料にあたってないんじゃないか、ってことだよね」
「そういうわけで、これって自分で申報を直接調べてないんじゃないか?って疑っちゃうんだよ。申報や皇城新聞の縮刷版は当時刊行済みで調査閲覧はできたわけだし、調査不足・勉強不足と言われても仕方のないことはしているんだ」
「朝鮮学報出しとる朝鮮学会って天理大学の学会やから、朝鮮史の世界ではむっちゃ有名なんやろ?ツッコミとかなかったん?」
「今のところは見つけられてないよ。ツッコミとまではいかなくてもフォローや追加検証をする研究があってもよさそうなんだけどね」
「韓国のほうが研究は多いんじゃないのかな?誇らしい抗日運動・民衆運動って位置づけのはずだし」
「まぁ統監府の弾圧云々って結論にもっていくだろうってオチは見えてるんだけどね。たしか運動90周年記念の論文集が出てたはずなんだけど、入手したら読んでみようかなって作者は言ってるよ」
「なのはちゃん、普段はここで個別の論文をお題にすることってなかったと思うんだけど、今回はどうして田口論文を取り上げたのかな?」
「報償運動について調べ始めたころは田口論文を参考にしようかなとは思ってたんだけどね、自分できちんと申報や皇城新聞を調べると、余りにも調査不足やいい加減な点が目について腹が立ってきたんだってw」
「ようある話やなw 嫌論文とまでは行かへんけどダメ論文って感じなんやな」
「そうなんだよ。脳が読むのも拒絶するほどの嫌論文じゃないんだけどね。ブログ2周年記念のエントリーがこんなのでいいのか?って気はするけどw」
「そっか。11月7日で開始2周年になったんだったね」
「うん。これからも読者のみなさんにはご愛顧のほどをお願いするのなの。じゃ、今回はおしまいにするね」国債報償金費消事件(1) 国債報償金費消事件(2) 国債報償金費消事件(3)
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