去る4月10日放映の「NHKテレビ中国語会話」の冒頭、流行語の躺平(横たわり族)が紹介されました。またその番組中で、(chun1)の発音は、unが子音と結合するのでeが省略されています。発音はunでなくuenですと説明がありました。
 さてこれまで三編に亘り、紹介してきた中国流行語もいよいよ最終編です。
躺平 「横たわり族」 2021年
 2021年4月17日にネット上へ、1人の青年から以下の投稿がありました。
躺平才是宇宙间客观的唯一真理,休息,睡觉或是死亡,充满欲望和亢奋的生命体静止和消逝的瞬间或是才是真正正义的体现,我选择躺平,我不再恐惧。「横になるのは宇宙観の客観的な唯一の真理、休み、寝るまたは死亡、欲望と興奮に満ちた生命体を静止したり消えたりする瞬間、あるいは本当の正義の体現です。私は横になることを選びます。もう怖くないです」。
 当局はこの投稿に気付き慌てて削除しましたが、瞬く間に拡散されました。これが躺平族[tan3ping2zu2](横たわり族)という一種の精神的支柱として広まりました。中国は過去にない速さで経済成長し、食べ物に困るような貧困者も少なくなり、国民の生活も向上しました。反面、厳しい受験戦争を通り抜けても就職ができない、限度を超えた長時間労働、高くて買えないレベルに達した住宅、一人っ子政策がもたらした双両親介護など、国が豊かになっても、自分たちが豊かになるとは限らないと、将来に悲観的になっています。躺平を直訳すれば、寝そべるや休むですが、多くの人が意味している躺平は、ガムシャラに働かない、車・住宅を買わない、結婚しないなどです。伝統的な考えに縛られず、自分の精神的な幸福を尊重する生き方を重視しています。
 立身出世や拝金主義、車や家などのモノに無関心になり、心の健康と余裕を取り戻す選択です。
政府は、労働力不足や人口減少に繋がることで経済成長が止まるだけでなく、社会の仕組みや制度の不満に繋がり、政府批判に転じることを懸念しています。
内卷 「内部競争」  2021年
 職場や学校での過度の競争状態を指します。中国の国有企業は、潰れることがないので铁饭碗[tie3fan4wan3]「食いはぐれる心配のない職業」と呼ばれていました。仕事が楽で、頑張って頑張らなくても給料はさほど変わらず、定時一斉退社が当たり前、企業団地内には病院や幼稚園、小学校なども完備し福利厚生面では優れています。ぬるま湯の中で競争意識が抜け、生産性は伸びず軒並み赤字に陥りました。今では国有企業も改善され、残業代が出ないのは当たり前、建屋の照明は夜遅くまで消えることはありません。
 でも年々 職場や学校で限られたパイを取り合う非理性的な競争が激しくなっています。前述の躺平は内卷[nei4juan3]の裏返しの意味も持ちます。
我的眼睛就是尺 「私の目は定規です」 2022年
 2022年2月5日夜、北京冬季五輪中継を解説していた王濛が言った言葉です。男女2000mスケートの混合リレー決勝で、范克新、曲春雨、任志偉、呉大静のチームが、2分37秒35のタイムを達成イタリアチームを圧倒し、中国代表団の最初の金メダルを獲得しました。司会の黄建祥がゲストの王濛にコメントを求めたところ、興奮し立ち上がり机を叩いて「勝ったに違いない!最初の金が生まれた!」「 私の目は定規だ! ビデオを見る必要はありません! 」と言いました。彼女の熱意は会場の聴衆に伝わり、テレビを視聴していた多くの人々をさらに興奮させました。
倒也不必 「そこまでする必要はない」 2023年
 すでに起こっていることが、既に合理的な結果を産み出しており、その事柄について過度に追説明したり誇張したりする必要がない場合に用います。また、ある事柄について過度に心配したり要求したりする必要がないという意味にも使います。
 ・你倒也不必每天工作到很晚。 (毎日遅くまで働く必要はない。)
 ・他们倒也不必担心考试。 (彼らは試験を心配する必要は全くない。)
 ・我们倒也不必现在就决定。 (今決める必要はない) 
 

 前号に引き続き中国の流行語をお届けします。流行語となるには、多くの人が潜在心理として感じていたことが、文字として顕在化され共感した時に流行語となります。流行語を読み解くと大衆の深層心理が読み解けます。
  ◆社死「社会的死」(2023年)
 2020年7月7日、杭州市に住む趁呉さん(女24歳)は、届いた宅配を受け取りに出向いたマンション階下の宅配センターで、宅配の少年から荷物を受け取る様子を隣の便利店の店主 藍斌(27歳)に、こっそり動画を撮影されました。店主 藍斌と友人の賀元(24歳)が、「宅配の少年とパトロン女」を表現した文章を捏造し、盗撮した動画とともにグループチャットへ投稿しました。藍斌はグループチャット内で冗談であると言っていましたが、他グループへ転送され瞬く間に広まりました。その結果、ネット上で趁呉さんを「浮気性の女」「少年を誘惑した女」「有閑マダム」など誹謗中傷が殺到し、自分の周りの家主、上司、同僚、友人たちにまで、色々取り沙汰されました。
 趁呉さんはうつ病を患い会社を辞めざるを得ず、暫くは人との接触を断ちました。4ヶ月以上経っても、時々ヒステリーを起こすなど情緒不安定となり、感情のコントロールができません。杭州公安当局は、二人を逮捕し勾留しましたが僅か9日間の拘留で釈放しています。しかし被害者の趁呉さんは仕事を探すのも難しくなり、12万元の賠償を求めています。
 社死とはネット上で個人のプライベートなことや過去、恥ずかしい行動や不名誉な出来事を無理やり公開し、社会的な評判や信用を落とし社会的に抹殺させ、まともな生活が送れなくなる状況を言います。深い羞恥心や他人の前で面目を失うほどの屈辱を感じることから、社会的死とも呼ばれます。日本でもSNS上での誹謗中傷が日本でも社会問題化しています。今回の事案は悪意のあるものですが、中国ではこの種の犯罪の損害賠償の算定が難しく難航しているようです。
  ◆社交牛B症「人付き合いが得意な人」(2021年)
 この流行語を分解すると社交は「ソーシャル」を意味します。牛B牛逼の置き換え文字で「すごい」という意味です。逼⇒Bに置き換えて上品なことばの表現に改めています。は「症状」を意味し、直訳すれば「人との交際が非常にすごい症状」となります。この流行語は、他人の目を気にせず、嘲笑されたりすることを恐れず、見知らぬ人や親しくない人と会話できる人を指します。 こうした人々は外向的で社交的、適切な距離感を心得ており、人に圧迫感や不快感を与えることはなく、EQ(心の知能指数)が高い人たちと言えます。人と接するときに心理的なプレッシャーがなく、自由に行動し、人前で恥ずかしい思いや不快に感じたりすることなく積極的な行動をとることができます。自信があり、他人の目や嘲笑されることを恐れず、簡単にコミュニケーションをとることができる人を指します。
 なぜ流行語となったのか社会的背景を探ってみましょう。社交牛B症が流行する前には、社交恐惧症という言葉が流行っていました。調査によると80%の大学生が、自分はコミュニケーション障害だと自覚しているそうです。でも人とのコミュニケーション力向上には意欲を持っています。Tiktokの社交牛B症の関連動画の再生回数は、20億回を超えていることからも、この種の悩みに関心を持っている中国人が多いのは意外です。多分このような共通した悩み的背景から誕生した流行語でしょう。
  ◆显眼包「煌めく人」(2023年)
 直訳すれば「人目を引くバッグ」の意味です。バッグの外見やセンスだけでなく、他の人とは違う個性や表現の多様性を表すことができれば、注目を引きつけられます。人々に対しても同様で、その人の内面的なバイタリティーを表すことに本当の意義があります。 
 もともと显眼包は「目立ちたがり屋」として、人を貶す意味合いで使われていました。現在は、ほめる意味で使われることが多くなり、貶す意味合いは次第に失われつつあります。ある人を顕眼包と表現した場合、外面的に「目立ちたがり屋」だけでなく、それ以上にその内面から活力が溢れて煌めいていることを表します。
 

 中国の知人から、最近の流行語の提供を受けたので紹介します。広く使用されるに至った社会的情勢や人々の心理について解説したいと思います。
普信男「自信過剰の勘違い男」(2022年)
 湖南卫视电视台(テレビ局)で脱口秀大会(トークショー大会)という10回に亘って放映されたバラエティ番組があります。日本のテレビの「綾小路きみまろ」爆笑漫談のような番組です。出場選手が一人で舞台に立ち、多くの人が共感できるネタを漫談形式で笑いに変えて、対戦形式で順位を競うものです。出演者の杨笠(河北省秦皇岛,31歳)という女性が、第4回目の対戦で为什么看起来那么普通。但是他却可以那么自信。「あの男性は明らかに見た目が普通なのに、なぜあんなに自信があるの?」と語り、みんなが共感できるネタで大受けしました。杨笠はその後芸能人になりました。このトークネタの「普通なのに自信過剰の勘違い男」から、頭文字を拾って普信男という流行語が大ヒットしました。以後、中国では男性をからかう表現として定着しています。
 1979年から、中央政府は计划生育政策「一人っ子政策」を実施しました。その結果、一人っ子は周りから甘やかされて育ったため、わがままに成りがちで小皇帝と呼ばれています。中には自分を過大評価し、他人の気持ちを無視、コミュニケーションが取れないなど、異性の評価が芳しくない人が見受けられます。特に近年、未婚男性が増加している状況においては、自分のことをさておいて、相手に良い条件を求めるので、結婚相手を見付けられません。そのような社会的背景から普信男の流行語が生まれました。普信男は軽蔑的な言葉ですが、その今風の言い方は瞬く間に流行し、自信過剰で傲慢な男性を指す意味で使われています。
你是我的神「貴方は私の神です」(2023年)
 同テレビ局で4億人が視聴すると言われるお化け番組があります。それは公開オーデション番組の快乐男声です。この流行語はその番組で生まれました。2013年の最終選考会に二人の男性 欧豪宁桓宇が残りました。審査員でスター女優の海青(江苏省南京市,45歳)は、拒否権を持つ特別審査員、評価コメント前に海清は欧豪に対し、ロングヘアーとショートヘアーのどちらが好きですかと尋ねました。欧豪がショートヘアと答えると海青は这辈子我的短发为你而留「この人生で、私のショートヘアはあなたのためのものです」と言い、ここから有名なシーンが始まります。
 海青は審査員席を離れてステージに駆け上がると、直接 欧豪に駆け寄り、彼女は胸に手を当て片膝をつき、你是我的神と声高に叫びました。大歓声が起こり、海青は立ち上がり、そして他の審査員に向かって凛として拳を上げ、欧豪をお願いしますと請願しました。この突然の行動に欧豪はおびえ後ずさり、他の司会者、出演者もあっけにとられるばかりでした。この你是我的神と言う表現が、インターネット上で人気を博し、流行語として広まりました
 この表現は、通常、誰かに対する極度の称賛や尊敬を表すときや茶化す時にも使われるようになります。例えば、友達が自分の分からない問題を解いた場合、你是我的神 と言って相手を褒めることができます。

さらに、誰かの行動が恥ずかしかったり、滑稽だったりすることをからかったり、皮肉ったりする場合にも使われます。例えば、友達が道を歩いていて突然電柱にぶつかったとき、哈哈哈哈哈,你是我的神 と言ってからかうことができます。友人が並外れた才能を示したり、予想外の面白いことをしたときなどにも、ユーモラスまたはからかいの方法で使用します。
 中国にも芸能界のスターを追い掛ける文化があり、最初の頃はファンがアイドルへの支持や愛情を表現するためによく使われたことからスタートしています。ビデオを見ると海青の自信を持って堂々とした振る舞いには、たいへん感銘します。
大聪明「お間抜けさん」(2022年)
 喜劇映画 西虹市首富「西虹市の大富豪」は数本制作されています。その中で主人公のサッカー選手 沈騰は、亡くなった親戚のお爺さんの遺産相続するためには、1カ月に10億元を使い切ることを条件として提示されました。お金を使う案を次から次へと考え、投資に失敗して減らそうともしますが、逆に成功して増やしてしまうなど、頭が良いのか馬鹿なのか分からないところからきています。直訳では聡明な人ですが、現在では少しぼんやりした人や可愛いお馬鹿さんを表します。中国ではは貶す時に使い、小聪明は「ずる賢い」という意味になります。その反対にが付くと褒め言葉になります。
いずれもネットで動画が無料配信されています。早口でなかなか聞き取り辛いですが、言葉の背後にある文化的背景を知る学習になります。(写真:江蘇省秦州市公園、石の船)


 

 離合詞は会話で頻繁に出て来る用法です。でも中国語学習者にとって、離合詞は難解であり、その由来と役割について、今回説明したいと思います。用法については、詳しく解説されている参考書を参照下さい。ここでは割愛します。

離合詞の由来

 古代中国では、漢字一文字で意味を伝えていました。しかし新しい事象が増え、一文字ではニーズを満たせなくなり、辞書を引けば気付くように、一文字に多様な意味を持たせた結果、一文字の用法が複雑になり過ぎました。そのため二文字の連語にして、多様な言い方に対応しました。さらに会話でもっと複雑な意味を、短い言葉で効率的に伝えたいと離合詞が誕生しています。

離合詞の定義

 離合詞はその名が示す通り「引き離される合体した語句」を意味します。二文字(連語)の間に修飾成分を加えて引き離し、意味を拡張できる用法で、3400種あると言われています。

例えば(会う)を拡張すると、一次(一度会ったことがある)、(会ったことがない)、(ちょっと会う)、跟他(彼と会う)などと短い語句で意味を拡張できます。

    ※用例の下線の文字は、修飾する成分や目的語を示す。

離合詞の分類

 何万語もある連語から、離合詞を判断するルールは、残念ながら確立されていません。因みに中日辞書では、ピンイン表記に“//”(ダブルスラッシュ)で記して離合詞を区分しています。

 結果論で言えば、結合した単語を切り離すことができれば、離合詞の可能性が高いです。実は中国の人たちも、離合詞と言う概念を持たぬまま普段会話しています。中国の言語研究(中国1940~95年)によれば、離合詞は以下の特徴があると述べ、動詞の後に続く品詞の4形態に分けています。

    ・形態【1】名詞 ⇒  见面生气起床毕业理发操心做梦点头

    ・形態【2】動/形  ⇒  打工留学游泳睡觉洗澡散步 /  帮忙着凉

    ・形態【3】補語a ⇒  听懂达到提高打断听见  

    ・形態【4】補語b ⇒  回来下去分开打开起来

形態【1】動詞に名詞が続くタイプ〈動詞+名詞型〉

 動詞に名詞が続くこのタイプは、離合詞として最も多いです。二番目の文字が単独、または他の語と結びつけて使えるかが判断基準になり、名詞は単独でも使えるので離合詞になります。

 例えば 见面(会う)は、名詞の(顔)は単独でも意味が通じ離合詞になります。この形態の離合詞は、以下の用例に示すように、間に数量詞や所有格代名詞を置くことができます。

    〔用例〕一次面、 生我的气、结两次婚、打了半天工、洗了两次澡、留过三年

 ところで比較例として 见解(見方)を挙げれば、動詞 の(わかる)が単独では意味を成さず、離合詞となりません。

形態【2】動詞に動詞/形容詞が続くタイプ〈動詞+動/形容詞型〉

 二文字の間に数量詞や量詞が置ける連語は、離合詞になります。以下に用例を示します。

    〔用例〕了半天工、洗了两次澡、留过三年两次婚、帮我的(手伝って)

 反対に次に挙げる語句は、間に数量詞などが置けないので、離合詞ではありません。

    〔離合詞でない連語〕工作失去生产出发下次可能自觉

形態【3】動詞に結果/可能補語が続くタイプ〈動詞+可能/結果補語/助詞〉

 二文字の間に可能補語の/不、動態助詞の//を置けるタイプは離合詞となります。日本の参考書では、平易な取り回しにするため、離合詞を形態【1】と【2】に限定し、【3】は目的語が置けないと記述されている本も見られます。中国では、この形態【3】も離合詞に含めて、目的語が置けるとしています。目的語を置いた用例を示します。

    〔用例〕了目标(目標に達した)、声量(声をひそめる)、

        听(聞いて分からない)、了七个小时

形態【4動詞に方向補語が続くタイプ〈動詞+方向補語〉

 方向補語の来/去がある語句も離合詞と認められます。後ろに目的語が置けます。

    〔用例〕箱子(箱を開けれない)、(起き上がれない) ,

(降りていった)

結言

 中国語の文法は、英語のような厳格なものでありません。英語のような明瞭な文法体系でないですが、慣用文型として成立するように文字の配置順に留意ください。

 


 

 中国語のリスニングを何百回,何千回とやっても、リスニング能力が全然向上しないと嘆いている人が多いのではないでしょうか。店頭に参考書が並んでいますが、基礎的なリスニング学習法しか書かれていません。決定的なリスニングの秘訣や奥儀を説いた参考書は見当たりません。そこで医学博士の養老孟司先生による「脳における言語処理の研究」が、リスニング力向上の手がかりになります。

右脳と左脳の違い

 脳の右脳は「図形処理・幾何学」を処理し、左脳は「話す・聞く」を処理しています。中国語の漢字は右脳で認識し、日本語「かたかな」の発音は左脳で認識します。リスニングの語句が聞き取れない時、漢字を見ると咄嗟に「な~んだ!知ってた字だ!」と気付くことが多々あります。

 つまり左脳の聴覚で聞き取りが難しいですが、右脳の視覚では瞬時にイメージが湧きます。欧米人の場合は逆で、漢字は日本人がアラビア文字を見るような感覚、見てもイメージが湧きません。聴覚でイメージが湧きます。これがリスニング向上のカギです。つまり右脳でイメージが閃めくように、左脳を鍛えるのです。

中国語を二/三音節で聞く意識

 ピンインを一文字も聞き漏らすまいと必死に頑張っても、日本人にとって正確に聞き取るのは至難の技です。特に介詞の也,离,比,就,地,都,过などの発音は短く小さく聞き取り辛いです。音節と音節が繋がる時は、一つの発音に聞こえます。加えて地方間や個人間で発音が異なります。また初級者は発音をカタカナに置き換えて覚えるので、頭の中で単語を探しても見付からず、頭が真っ白になり尚更です。

 中国語は複数の音節を有する漢字を並べたものです。その音節は子音のji,qi,chi,zhi,tiなど良く似た発音も多く、また発音が大変短くて聞き取り辛く、二音節や三音節単位にまとめて聞くと聞き取り易いことが判っています。発音の最小単位を音節と言い、日本語の「かたかな」は一文字が一音節です。中国語の谢谢は音節が二つですが、日本語の「ありがとう」になると五つも有り、音節の数が多い日本語の聞き取りは容易です。日本語を聞くように一本調子の聞き取り方では、中国語の聞き取りは難しいと言えます。

►リスニングは閃きを鍛えること

 日本語は音節を順番に聞いていくと分かるので、言葉に抑揚を付ける必要もなくフラットです。中国語は声調が伴わないと何を言っているか分からず、声調という抑揚を付けます。これが中国語のリスニング向上の決め手になります。リスニング時、ピンインを頭に浮かべ、漢字に置き換えて意味を理解していたのでは、話す速度に付いていけません。イントロクイズのようにイメージが頭にパッと浮かぶようにしなければなりません。その浮かぶイメージは、差し当たり日本人にとって漢字という図象になります。どの漢字が当てはまるか頭を回転させ、イントロクイズの要領でアタリを付けるのです。

►中国語対応の脳と耳

 参考書にはシャドーイングが有効と書かれています。中国語話者のモノマネをして、リズム感を掴み記憶します。例えば動揺の「ha~runo(は~るの)♪♪」と聞けば、パッと「春」が浮かぶ要領です。ピンインの“qiaoqiao”を聞いた時、「tiaotiaoの発音かな?」と躊躇して考えるより先に、悄悄がパッと頭に閃めく練習です。声調のリズム感を身に付けるため、正しい声調とピンイン発音による声を出す音読が重要です。頭の中で発音と文字を繋げ、記憶として定着させていくのです。

 欧米人は漢字を知らなくても、中国語を話せる人がいます。英語は表音文字ですが、「Oh,my god!」や「I go to school」などは読まなくても一つの単語に見えて、パッとイメージが頭に浮かぶようです。中国語ではKFCのような外来語は肯德基のように、それに近い発音の文字を用いる表音文字法で表記します。このように中国人はピンインに対して大変敏感で、聞けばその単語の意味やイメージを瞬時に頭に浮かべるようですが、日本人がそこまで到達するには少々ハードルが高いです。。

 私たちはやみくもにリスニングや口述筆記を重ねても、時間が幾らあっても足りません。原点に返って、効率の良いリスニングのやり方を思考するのも、一つの賢明な選択です。今までピンインを頭に浮かべていたリスニングから、漢字がパッパッと閃く中国語対応の脳と耳へ鍛えていくやり方です。今回は漢字を文字でなくイメージとして閃かせるリスニングトレーニングを取り上げました。他にもリスニングのコツがあると思いますが、一つのやり方の例として参考にしてください。

 ある日突然、聞き取れるようになったと実感できることを祈ります。加油!

 中国語入門者はピンイン学習から始めますが、ピンイン音節において「子音と母音を分けて発音」する発声について紹介しましょう。
►ピンインは子音と母音の結合
 中国語で日本語に近い発音としては 、[ai4][an1]などがありますが、その割合は3割と言われています。残る7割は日本語と異なり、日本語のカタカナでは発音できません。
 中国語は「子音+母音」が結合しています。「子音と母音を分けて発音」することが正確な発音に繋がります。例えば数字の[san1]は、日本語の「サン」でも十分通じますが、厳密には“s+an”、子音と複母音anが結合した音節です。まず口の形と舌の位置で子音sを発音し、母音anを繋げます。
►子音と母音を分けて発音
 理解し易い単語で説明すると中国人の姓の[cai4]はローマ字読み出来ません。無理矢理「カイ」と読む人は少ないでしょう。[cai4]”子音c+複母音ai”で構成されています。子音cは「舌歯音」、上下の歯を軽く噛み合わせた歯の隙間に舌先を近付けて、日本語の「ッ」を摩擦させる発音です。続けて複母音ai「ァィ」を発音、両者繋げて[cai4]「ツ・ァィ↓」と発音します。このように子音と母音を神経質に意識して分けて発音します。
►日本語訛りの中国語はカタカナ発音が原因
 中国の友人は、私の日本語訛りの中国語を聞くと思わず顔をしかめます。
 日本語と中国語の発声方法は、基本的に異なっています。日本のひらがなは、子音と母音に分解して教えることはできません。日本語のひらがなの「か」(ka),「た」(ta)「さ」(sa)の発音では、前の子音”k,t,s”は発声と同時に一瞬で消えて、後の母音”a”の方が強くはっきり残ります。
 中国語の場合、中国の小学校では漢字の一文字ずつ、子音と母音に分解して発音を教えます。中国語の発声は、前の子音をゆっくりはっきり言い、後はその子音に合った母音を続けて発音します。「か,た,さ」を中国式に発音すれば、ka(か)「クァ」ta(た)「ツァ」sa(さ)「スァ」の発声になります。この点が日本語と中国語の発声の基本的に異なる点です。

 挨拶の你好[ni3hao3][hao3]を例に挙げると“ h ”は舌の後方を持ち上げて喉の奥から「ハー」“ao”「アオ」を繋げて「ハァォ」となり、カタカナ読みの「ハオ」ではありません。
►ただいま練習中の[zhe4]の発音は超難しく
 [zhe4]“zh+e”の「子音+母音」は、zhはそり舌の先を上あごに軽く付け隙間から「ヂ」と発音し、e「ェ」の口の形で「ウ‐ァ」、両者を繋げて「ヂゥ‐ァ」と発音します。zheのどちらも日本語にない発音でとても難しいです。まず発音の近い同音異議語から練習しましょう。
  ・[zhou1]は、  そり舌のzh「ヂ」に  ou「オゥ」  を繋げて  zhou「ヂォゥ」と発音
  ・[zhen1]は、  そり舌のzh「ヂ」に  en「エン」  を繋げて  zhen「ヂェン」と発音
  ・[zhong1]は、そり舌のzh「ヂ」に  ong「オン」 を繋げて  zhong「ヂォン」と発音
 上記の流れで这[zhe4]:そり舌のzh「ヂ」に  e「ゥ‐ァ」を繋げて   zhe「ヂゥ‐ァ」 ですが・・・できたでしょうか?
►音節表とインターネットを利用した学習
 中国語音節表はピンインの音節を一つずつ確認でき便利です。縦行の子音を口の形・舌の位置・息の吐き方をマスターします。横行の母音は日本語にない発音もあり、これも一つずつマスターします。21個の子音と36個の母音の組合せで、約400通りの発音を全て覚えます。近年は、インターネットによるeラーニング教材も充実していますので、10年前と比べ格段に学習し易くなっています。ピンイン音節の一つずつを音声と視覚で確認して、丁寧に一つずつ覚えていくしか近道はありません。

 中国でも公司年终晚会忘年会)のシーズンに入り、酒を飲む」機会も増えています。中国では忘年会の費用は会社が負担します。もちろん飲酒運転は中国でも厳禁です。優秀社員の表彰やゲームや抽選をして賞金や賞品を授与し、幹部が各テーブルを回って従業員の労をねぎらうスタイルは日本と変わりません。さて「飲む・食べる」を例に挙げて補語の用例を紹介しましょう。
►酒を(飲む)の色んな言い方
 動詞の喝了飲んだ」と言っても「飲み干したのか」,「飲み終えたのか」どのような状況で酒を飲んだのか知りたいところです。中国語は動詞の後に補助成分を付け、意味を拡張させる補語用法があります。例を挙げると喝光了飲み干した),喝完了飲み終えた),喝空了飲んで空にした),喝多了飲み過ぎた)などの現実味のある言い方で会話します。
 中国の酒は非常に度数が高く飲めない人も沢山います。この「飲めない」と言う表現も色んな言い方があります。喝不了元々飲めない),喝不下飲み過ぎて飲めない), 喝不起金がないので飲めない),喝不到酒が無いので飲めない)などです。因みに構文の動詞には、必ず補語が必要となります。
は多くの造語を産み出す魔法の単語
 次に「飲む」以外に食べる」を考えてみましょう。吃の左辺は(くち)、右辺を構成する(くも)の象形は気流が乱れる状態「口が滑らかに動かない(どもる)」が原義です。現代では「食べる」以外に、他の動詞を後に付け造語を造る役割が主になっています。その結果「食べる」以外の全く別の造語がたくさん作られています。吃力骨が折れる),吃惊驚く),吃醋やきもちを焼く),吃苦辛酸をなめる),吃亏損をする),吃香歓迎される),吃重責任が重い),吃不开歓迎されない),吃不出耐えられない),吃不准自信がない),吃不上食いはぐれる),吃不下食べられない),吃不消やり切れない),吃不透しっかり理解できない),吃跑了お腹いっぱい),开吃さあ食べよう)など、まだ更に多くの単語があります。
►意外なことには良く用いる単語!
 日本では「」は縁起の良くない言葉ですが、中国語では「非常に~である」の用法でよく使います。累死了まったく疲れた),吓死了とてもびっくりした),麻忙死了忙しくてたまらない)、烦死了面倒くせい),高兴死了嬉しくてたまらない)などです。
 「」を用いた言い方としては热得要命暑くてたまらない),饿得要命腹が減って仕方ない)。両語ともどちらかと言うとネガティブな表現で用います。
►日常よく使う生活用語
 身近な生活用語を少し紹介しましょう。配眼鏡めがねをあつらえる),补牙歯を治療する),淋雨[lin2yu3](雨に濡れる),胡说でたらめを言う),不在乎気にしない),は「休む」以外に假货(にせもの)、は「逆さ」以外に倒一杯茶茶を注ぐ)という用い方をします。
 一風変わった面白い単語で野孩子しつけの悪い子),二手中古),耳背耳が遠い),不求人背中を掻く孫の手),踅噘[xue2jue1] (ふくれっ面をする),太阳很大日差しが強い),防晒油[fang4shai4you2](日焼け止め),太牛了すごい), 数不清数えきれない),有数よく知っている),天选之子運の強い人),正儿八经几帳面)など当地中国に行かなければ、なかなかお耳に掛かれない言葉です。
 中国ネイティブのサポートを受けてこれまで5回に亘り、中国語の用法を紹介してきました。
 今年もいよいよ終わりに近づき、次月は中国における今年の最新流行語をお届けしましょう!
 

 

 

 中国語の漢字は一文字で多様な意味を持ち、それが日本の漢字と異なる点です。たとえばも色んな用法を持つ単語です。挨拶の请多关照「よろしくお願いします」、请坐「どうぞお座りください」、请进「お入りください」など敬語としてよく用いられます。春秋戦国時代末期(BC300年)に繁体字のが誕生し、左側のはその意味を表す文字、右側のは発音を表す文字を合わせた漢字です。簡体字ではと書きます。日本に伝来してから「要請,請負,請願」などと和製漢字が生まれました。
の語源を辿る
 左側の言の下にあるの文字は、神に祈る祝詞(のりと)を入れる箱を示し、その上に刃物を置いた象形文字です。神に祈祷する言葉に偽りがあれば、この刃物で刑罰を受けるという意味を持ちます。古代の意味は上位の人や目上の人に謁見し、敬語を使いお願いし、時には許しを請い、懇願のためお招きして接遇するなどです。現代中国語も同じように①求める②敬語③させる(してもらう) ④招聘するなど基本的に変わっていません。
请客の请は「おごる」の使役動詞
 一般には敬語の「どうぞ~ください」の英語pleaseのイメージを持ちます。でも请客がなぜ「おごる」の意味に結び付くのか違和感を覚えます。解明していくとは使役動詞の「させる=してもらう(③)」の働きを持っており、请客を敢えて使役文で書けば、我请你做客「私はあなたを客にさせます(なってもらう)」となり、省略されて请客となっています。他の例を挙げれば今天我请女朋友做晚饭(今日は彼女に晩御飯を作ってもらう)と「~してもらう」のニュアンスで使います。
 他方 请坐请喝茶などの请は使役動詞ではなく、敬語(②)の使い方です。目上の人や普段あまり会わない人に敬語のを使います。自分から所望する時は、请给我一杯茶(お茶を一杯下さい)とやはり敬語のを付けて丁寧に言います。
请假は一つに括られた離合詞
 会社で我今天身体不舒服。明天我想请一天假(今日は体調が悪いので,明日休暇をとりたいです)のように日常よく使います。この文例の请假(休暇をとる/もらう)も違和感を覚えます。このの使い方は、「求める①」の動詞に目的語のを付けた離合詞として南朝時代(AC500年頃)に誕生し、一つに結合した語句となっています。前述の使役文形式の「×我请你请假」に置き換えることはできません。请假は「動詞+名詞」の離合詞、この後に目的語を置けません。他に请假以外には请问,请教,请示,请求があります。この三つの語句は「動詞+動詞」で目的語を置ける普通の動詞です。请假も目的語を置くなら、请求假期请求放假なら文として成立します。他には他向医生请教病因(彼は医者に病因を教えていただく)など動詞の後ろに目的語を置けます。
►結言
 
漢字のを例に挙げて述べたことを纏めれば、中国語にも文法は存在するのですが、英語のように厳格なものでありません。英語は発音通りに記述する表音文字、中国語は漢字の一つひとつが、ある対象を総括する概念を表す表意文字です。中国語の漢字一つひとつが、多様な意味と用法を有します。したがい英語と同じような明瞭な文法体系ではないですが、中国語の文型として成立していればそれでいいのです。中国語の文章を作るには漢字一文字ずつをブロックのように繋げていきますが、基本文型や組合せの熟語(殆どが二文字熟語)を覚えることも大切なことです。

(写真:保定市名酒の広告看板)

 中国と日本において、同一漢字で用法が異なる漢字が多数あります。例えば见・看・会の動詞は、中日双方で用法が異なっており、中国語学習者を悩ませます。
の違い
 中国語のの字源は、「目」の下に儿を付け膝まずいて見る様子を表現しています。は、「目」の上に手をかざして遠くを見る様子を表しています。の状況・状態を見る所作から、名詞の面(顔)を繋げると「会う」と言う意味になります。见を用いた例文では初次见面(初めまして)、再见(さようなら)など、「会う」として用いられています。
 一方中国語のは、看电视(テレビを見る), 看见(見える)は「見る」の意味で用いられています。日本語の漢字「会」は「会う」ことを表し、を用いません。「看」は日本語では「世話をする、見守る」、中国語では「見る」の意味で使われます。このように同一漢字でも用法が異なります。
は臭いを嗅ぐ意味
 漢字から意味が想像できない漢字もあります。その一つが中国語のです。日本語では「聞く」の意味ですが、中国では「嗅ぐ」と言う意味です。春秋戦国時代末期(BC300年)の古文書に闻酒香(酒の香りを聞く)とあり、「嗅ぐ」と言う意味で使われ始めたようです。日本の酒造りや香道の世界では、今でも「香りを聞く」というこの優美な表現が残っています。
►「行く」の色んな言い方
 日本語の「行く」は、中国語では去・走・上・行の表現があります。例文を挙げると、我去公园(公園へ行く),我们走吧(行こう),我上街(街へ行く),行路(道を歩く)など、場面に応じて使い分けします。なお中国語のは、日本語では「走る」の意味ですが、中国では「歩く」の意味、走着去(歩いて行く)などと言います。奔走、逃走などの中国語の熟語には、当初の「走る」という意味が残っています。
►古代の意味を保持している日本語の漢字
 日本では中国から伝わった古来の伝統文化を今でも守り、既に中国で廃れてしまった文化・習慣も残っています。例えば、雅楽、茶道、身近なところでは和服、ひな祭りなどです。同じように中国語の漢字も、時代とともに意味・用法が変化しましたが、日本側では漢字の伝来当初の意味を保持しています。日本側の意味が、1600年前の漢字本来の意味に近くなっています。
 中国語の一文字の漢字も、複数の意味と用法が増え、動詞・名詞・量詞にも変化するなど、語法が複雑になりました。日本語での用い方はその一部を簡単な形で導入されています。今から1600年前、非常に高度な教養を持った人たちが、漢字の構成を分かり易い形に整理し、やまと言葉に合うように定着させたと推察されます。今まで述べたことを参考に见・看・会・闻・走の五文字を眺めれば、日本側の意味が漢字本来の象形的な原義に近いことが分かります。
 因みに中国語のは「眠い」の意味ですが、繁体字のを簡体字に変えた際、左辺の目を省きとしました。日本語の「困る」とは関係がありません。