中国語学習者にとって、ピンインの習得はなかなか大変です。特に声調に関しては、まるで海岸で宝石を拾うように、ひたすら一個ずつ暗記していることでしょう。でも何かしら「指針」や「法則性」が分かれば、学習の手助けになるはずです。
  引き続き今回も脳内の音の処理に基づいて、声調の分類と使い分けについてお話します。以下に述べる内容は、主に述語に使われる品詞を対象にしたもので、単語の4割を占め、別の複雑な分類体系をもつ名詞には当て嵌まりません。しかし地図を持たずに山登りするより、何か手がかりがあれば少しは楽になります。このヒントを参考に声調をグループ化し、そのイメージを創るなどして、自分に合った習得の仕方を工夫してください。
 

▶第一声は言語音として認識(左脳)

               ⇒「高くて平らな音」明瞭且つ正確に伝えたい用語
 漢代(BC206~AC220年)に儀式や祭典にこの声音が使われ始めました。高く平らな音は、左脳で優先的に処理されます。この声調は音の高さが一定で、明瞭かつ安定した印象を与えます。日本語では「はい」「こんにちは」の声音が感覚的にこれに近いです。中国語の第一声は、日常生活や自然現象に関連する動/形容詞や名詞に多く使われます。 

  これは、基本的な情報や事象を明確に表現するのに適しているからです。また音が正確に伝わるため、知識や感情に関連する抽象的な概念を表す単語にも用いられます。
 ・動詞や名詞:[shuo1], 听[ting1], 开[kai1], 吃[chi1]

        天[tian1], 身[shen1] 
 ・明確性の表現:[gao1], 新[xin1], 清[qing1], 多[duo1]

         轻[qing1], 深[shen1]
 ・抽象的な概念:[si1], 知[zhi1], 真[zhen1], 安[an1], 心[xin1]

▶第二声は感情音として認識(右脳)

               ⇒「急に上がる音」疑問・感情、原因や状態の継続
 唐代(AC618年~907年)に詩歌において感情の強調に使われ始めました。急に上がる音は、右脳の感情処理領域が強く反応します。この上昇する音は、感情や疑問、原因や状態の継続を表現するのに効果的です。日本語では「本当に!?」「すごい!」などの興奮や驚きの表現がこれに近いです。第二声は、感情的な表現や疑問詞、状態やその継続を表す品詞、抽象的な概念や原因を示す単語によく使われます。
 ・感情:[fan2], 愉[yu2](喜ぶ), 忙[mang2], 急[ji2]

     瞒[man2] (隠す)
 ・疑問:[he2], 谁[shei2], 吗[ma2](どんな),

     什么[shen2me](なに)
 ・原因:[yin2] (による),  由[you2](から) , 为[wei2]
 ・継続:[lian2], 从[cong2], 于[yu2], 临[lin2](の際に) 

 ・状態の表現:[lai2], 明[ming2], 长[chang2], 没[mei2]

        难[nan2], 白[bai2]

   ・抽象的な概念:[yuan2], 条[tiao2] (条件)

         情[qing2] (状況), 人[ren2]

         
▶第三声は言語音として認識(左脳)

                ⇒「下げて上がる音」動作・状態変化、強調・確認
 石器時代から残る古い声音で、後世にその半分以上が第一声・第二声へと分化しました。音を一旦下げてから上がる声は、左脳の言語処理領域で処理され、意味の理解に重要な役割を果たします。日本語にはこの声調はありません。中国語では「(xing3,起きる)」「(lao3,老いる)」などの変化を表す動/形容詞、また強調や確認のニュアンスを持たせるのに効果的です。人称代名詞や自己や他者を指す単語、関係を表す抽象的な単語にも使われます。
 ・動作の変化: [xing3], 起[qi3], 走[zou3], 买[mai3],

        找[zhao3], 有[you3]  
 ・状態の変化: [lao3], 改[gai3], 远[yuan3], 晚[wan3]

        美[mei3], 稳[wen3]
 ・程度の強調:[xiang3], 很[hen3], 挺[ting3]

        首[shou3](第一), 尽[jin3](全力) 
 ・確認の表現:吗?[hao 3ma], 懂吗?[dong3 ma?]

        怎么?[zen3 me?] 
 ・人称代名詞: [wo3], 你[ni3]   ※他・她・它は石器時代以降の

         新造語で第一声が定着
 ・抽象的な単語: [zhe3], 所[suo3], 然[ran3] (しかるに)


▶第四声は感情音として認識(右脳)

                ⇒「力強く急に下げる音」命令・強い感情や意志
 明代(1368年~1644年)に確立され、軍事命令として使われていた第四声が広まりました。音が急に下がる声は、右脳の感情処理領域が強く反応します。演劇や演説では、強調効果がよく知られて、日本語の例としては「止まれ」「やれ」「行け」「出ろ」などの命令語がこれに当たります。第四声は、強い感情や意志を素早く伝えたいときに特に有効で、命令形や感情を表す動詞によく使われます。「你看 (ni3 kan4, ほら見ろ!)」「很大 (hen3 da4, 大きい!)」など、意味をさらに力強く強調させたい重要単語に使われます。
 ・命令:[(kuai4], 看[(kan4], 干[gan4],放[fang4], 

     记[ji4], 却[que4](退却)
 ・意志:[duan4], 做[zuo4], 借[jie4], 去[qu4]

     要[yao4], 命[ming4] 
 ・感情:[pa4], 怒[nu4], 恨[hen4], [ma4], 

     爱[ai4], 大[da4] 
 ・強調:[bi4], 最[zui4], 定[ding4], 对[dui4], 

     差[cha4], 累[lei4]

 中国語のリスニングを何度やっても上達しないとお嘆きの方も多いと思います。一旦 立ち止まって、「これまでのリスニング方法で良かったのかな?」と顧みることも賢明な判断です。脳科学分野では、脳についての研究が広く行われています。人間の五感において、聴覚は左側の脳で処理され、視覚は左右両方の脳で分担されると言われています。この脳内処理において、日常生活の様々な場面に影響を及ぼすようです。
▶運転中の注意力と脳の処理能力
 運転中の注意力と脳の処理能力について考えてみましょう。運転しながら携帯電話を操作すると注意力が分散するため、運転中の電話は禁止されています。会話により運転中の安全が十分に確保できなくなるからです。人間の脳は同時に二つの処理が得意ではありません。どちらかの処理が優先されます。そして、脳は耳で聞く聴覚情報より目で見る視覚情報の方が、理解が早い視覚優位の特性を持っています。この特性から、中国語リスニング学習への応用を考えてみましょう。
▶リスニング学習法の工夫
 リスニング学習では、一度聞くのみでは理解できないケースを度々経験します。その場合、テキスト文や映画の字幕を目で追いながら、何度もリスニングをやり直します。しかし、脳は同時に二つの処理が得意ではなく、表意文字で構成される中国語のリスニングにおいては、やや不都合な面が出てきます。それは聴覚より視覚情報が強くなり過ぎることです。日本人は漢字を瞬時に認識できるので、目で見える漢字に引っ張られることが、発音の認識と記憶の定着を妨げます。
 欧米人は反対に漢字が苦手です。アルファベットが並んだピンインの方が取り組みやすく、聴覚を頼りにピンインと音声を結合して聞き分けます。実際にある中国の大学では、漢字が分かる日本人より、漢字が分からない欧米の留学生の方が、早く中国語で会話ができるという報告もあります。
▶効果的なリスニング学習法
 そこで漢字の視覚情報を弱めて、聴覚が優先されるようなリスニング学習法へ変える工夫が必要です。具体的にはリスニング時に、頭の中で音声をピンインに起こして聞き、目先の漢字に引っ張られずに音声に集中させることです。音声をピンインに置き換えて聞き、聴覚に集中させて音声を文字化する学習法はリスニング力の向上に効果的です。
 初期訓練としては、音声の速度をかなり落として、文章をなんとなく軽く眺める程度に抑え、神経はしっかりと音声とピンイン・声調の結び付けに集中させるリスニング法です。発音の違いをより明確に認識でき、ピンインを使って発音をしっかりと捉えることができます。海外の研究報告では、視覚情報を制限した状態でのリスニング学習が、聴覚情報の処理能力を高めることが確認されています。
▶実例と具体的な効果
 例えば、初〔chu1〕と言う発音を聞いた時、ピンインをマスターしていない初心者は、朱〔zhu1〕居〔ju1〕究〔jiu1〕秋〔qiu1〕に聞こえて、どれが該当するのか判別が付きません。西〔xi1〕も同様に思〔si1〕需〔xu1〕书〔shu1〕休〔xiu1〕に聞こえて識別できません。初心者は、ピンインを曖昧にして記憶しており、類似音を耳から入る音声のみでは、聞き分けが難しく正確性が下がります。
 脳内で音声をピンインに「見える化」することで、発音の微妙な違いを聞き分けることができます。文章や字幕の視覚情報に引っ張られずに、音声に集中させることで、より細かい音の違いやニュアンスを聞き取れるようなります。
▶まとめ 
私たちは幼少の頃、聴覚を通じて言葉を身に付けました。再び聴覚優位を目指すには、音声をピンイン文字に変換して識別させる重要性について論じました。ただし、リスニング学習へ応用するには、前提条件としてピンインと発音の基礎を、きちんとマスターしておくことが不可欠です。なお、視覚情報が、必ずしも不利というわけではありません。同音異義語が多く、ピンイン〔yi1〕を例にとると22個の単語を持ちます。耳でピンインを聞き分けながら、漢字とリンクさせるには、視覚情報の漢字の記憶も重要です。
 今回は、リスニング学習における視覚と聴覚の視点から、新たなアプローチ法について述べました。これまで述べた脳の特性と紹介した方法を参考に、自分に合った学習法を見つけて、リスニング力の向上を目指してください。 加油,加油!
 

 筆者が暮らした陕西省西安市は、中国を代表する古都です。古代には秦・漢・隋・唐など(BC1121~AC907年)の都が置かれました。2000年度の全国人民大会において、「西部大開発」の党方針が採択され、大規模投資により大都市に発展しました。その隣の河南省郑州市も、人口1282万人、面積は1300㎢を有し、西安市を超える大都市に変貌しました。
 「黄河文明」発祥の地、郑州市はBC1600年にの都が置かれました。その後、西安市に都が移り、西周(BC1134年)からまでの1100年間にわたって、西安市で漢文化が栄えました。この両都市一帯は、中国大陸の中央に位置し、中国文化と中華思想の土台となる重要な地域です。中国の歴史が一般に五千年と言われますが、黄河文明の始まりの時期を指しています。郑州市の郊外には、それより古い8000年前の裴李岗遗址贾湖村遺跡が発見されています。さらに当地から26000年前の陶器製ネックレスが出土しており、美を愛する気持ちが、既に存在したことに驚かされます。以前にも述べましたが、古代人も現代人も人間としての大元は同じです。2万6千年と言う悠久の時間を経ても、人間と言うものはそれほど変わらないものです。人類は遥か昔の600万年前から、存在しているからです。
 河南博物院では、両遺跡で出土した数々の出土品を、保存・展示しています。館内の見せ所は、世界で最も古い管楽器の贾湖骨笛[jiǎhú gǔdíj]です。この骨笛は8000年前の新石器時代に作られたものです。1987年に中国芸術研究院の専門家が、この骨笛を用いて河北民歌「小白菜」を演奏した際、透き通った音、伸びやかな高音、暖かい低音の心が癒される音色には、出席者全員が驚嘆しました。この骨笛は、贾湖村遺跡で発見されました。出土した時から、褐色で陶器に塗る上薬を塗ったように、ピカピカに光り輝いていました。残念ながら三箇所の破断部がありましたが、小さな孔を開けて、細心の注意で繋ぎ合わせた補修の痕があり、この笛の持ち主は大変大切に扱っていたことが想像できます。骨笛の制作は、非常に難しい作業であり、河南博物院では10年の歳月をかけて複製品を作成しました。北京動物園で自然死した丹頂鶴の骨は小さくて使えず、自然保護協会から大型鳥類のはく製の骨を入手し完成させました。骨の両端の関節部を切断し内部を清掃し、キリで等間隔に孔を開けました。鳥類の骨は人の骨より硬く7倍の強度があり、当時は道具もなくこの骨笛の製作は、相当困難であったでしょう。
 遺跡からは、全部で40個以上の骨笛が出土しています。音孔が2孔や3孔、あるいは5孔、最終的7孔に落ち着くまで1000年の歳月が流れました。中国では七音からなる音階は、これまで西側から伝わったと考えられていましたが、この骨笛の発見により、世界の音楽史が書き換えられました。音楽を産み出した決定的なきっかけは分からないにしても、動物の中で人類だけが、音楽を楽しむ種族へ進化しました。古代中国において、音楽が人の体に影響を与える生理的作用を漢方医療へ応用し、また協調性や一体感を生みだす社会的作用の効果を王朝の諸儀式へ利用したとされています。私たちが普段よく耳にしている音楽の七音階が、この時期に誕生したことに驚きを禁じ得ません。世界の音楽史を書き換えたこの骨笛の発見は、8000年前に既に音楽を創造する能力を持っていた古代人の驚異的な才能を示しています。
 郑州市へ訪れる日本人観光客は多くないですが、高速鉄道では北京から2時間半、西安から1時間で到着します。黄河文明の起源を辿って、中国訪問時にはぜひ足を延ばしてください。〔写真:出土した骨笛(河南博物館HP-収蔵品紹介より引用)〕

油炸知了猴(セミ幼虫のから揚げ)

 公園ではセミがジージーとやかましく、より一層 暑く感じる日が続いています。

 山東省済南市を訪問した夜、夕食会メニューで知了猴[zhi1liao3hou2] (セミの幼虫)料理のおもてなしを受けたことを思い出します。歓迎の意を込め特別料理として出されたものでした。セミの幼虫は夏季だけ食べられる高級食材、漢時代から皇帝も食べた食材です。流通量が少なく、一般のスーパーや市場などでは、入手できません。昔は日本の田舎でも、セミの幼虫を食べる地域があったようです。

 セミの幼虫は、クマ蝉を養殖したものを使います。山東省ではセミの養殖場が多く、広い土地にセミが好むリンゴの木を沢山植えています。毎年 クマ蝉が卵を産み付けた枝を集めて、人工羽化させ、翌年リンゴに再び吊るしておくと幼虫が地上に落ち、その後 地中に潜って七年間過ごします。セミの幼虫は、漢方薬にもなり1匹1.5元(20円)の高値で取引され、200㎡程度の小さな養殖場でも、多い日で1日1,000匹を捕獲でき、1日の収入は1500元(3万円)にも達します。セミの羽化時期の7月中旬から8月初旬頃、暗くなった夕方から、頭にヘッドライトを付け、プラスチックのバケツを持って、木の幹や根元、または地面に這っている幼虫を捕獲します。木の幹の高さ1.5m付近にビニールテープを巻いておくと、セミは足が滑って、それ以上登れなくなり簡単に捕獲することができます。

 セミの幼虫を水洗いし、腹側に付いた泥を蛇口の水流で洗い流します。その後、適量の塩を振っておきます。少量の油を加熱しセミの幼虫を炒め、各種調味料を加えて黄金色になるまで、絶えずヘラでかき回して炒めます。もっと簡単に済まそうと思えば、油でサッと揚げ、塩で味付けするだけで出来上がります。サクサクと歯ざわりもよく、味は香ばしい感じで食べ始めたら病み付きになります。

油炸小龙虾(ザリガニのから揚げ)

 筆者が滞在中にブームになっていた食材で、龙虾[xiao3long2xia1](ザリガニ)があります。丸い食卓の中央に置かれたボールに、龙虾が山盛り積まれ、ビニール手袋を両手にはめ、殻をむいて食べます。山盛りあっても捨てる部分が多いので、食べられる量はさほど多くありません。硬い殻をむくのは少々時間がかかりますが、エビやカニのような味わいと、香辛料の麻辣の辛さが組み合わさって美味しいです。中国っ子が好きな理由も納得できます。日本では田んぼの溝などに生息し、泥臭さや臭みがあると感じられますが、食べてみると臭みは全くありません。食べ方は、頭を引っ張って取り、手足をむしり取り、腹の部分の殻から背側の殻をむいていきます。口で殻を割ろうとすれば、口を怪我したり歯を折る恐れがあるため、注意が必要です。殻をむくと手のひらより大きかったザリガニが、小指ほどの大きさになり、小さくてガッカリします。でもエビのようなプリッとした食感が楽しいです。ザリガニを一生懸命食べていると、会話もお留守になるほど、みんな夢中になって食べます。後に残るのは殻の山、捨てる部分の量が多いので複雑な気分です。

 ザリガニは、実は中国古来の食材ではなく、1929年に日本から中国に養殖目的に持ち込まれたものです。この小龙虾が中国料理として広まったのは、ほんの10年前、若い人を中心に人気が出ました。ちなみに中国で食される龙虾は、養殖池の綺麗な水で育てられています。

 ザリガニの料理方法は、小龙虾・唐辛子・花椒・ネギ・生姜・パクチー・ニンニク・八角・シナモン・醤油・砂糖・塩・酒を加えて炒めた麻辣小龙虾が一般的です。専門店に行けば、塩茹でやザリガニ雑炊などもあるようです。中国へ渡航した際には、ぜひお召し上がりください!

(写真左:セミの幼虫のから揚げ[山東省済南市]、写真右: ザリガニのから揚げ[浙江省台州市])

 

 中国で一般に食べられているものの、日本であまり馴染みのない食材がたくさんあります。タウナギザリガニはその一つです。両者とも現代の中国において重要な食材になっています。タウナギは中国語で鳝鱼(shan4yu2)と書きます。タウナギはウナギよりひと回り小さく、色が茶色でウツボのように見える不気味な魚ですが、市場やスーパーで普通に生きたまま販売しています。夜行性で池や小川に住み小魚や昆虫を餌にしています。

 タウナギは見た目がウナギやアナゴにも似ています。タウナギを捕って背割りでさばき、タレを付けてかば焼きにしても、味がウナギと全然違って違和感を覚えます。最近、ウナギの値段が非常に高いですが、残念ながらタウナギは代用品には成りえません。身が固く脂身が少なく蛇の肉に近い食感です。魚や肉の柔らかい食感の食材が多い中で、弾力性に富んだタウナギの食感は珍しい部類です。

 中国ではタウナギを炒め物や煮物、から揚げにして食べており、宴会でもよく出されるポピュラー料理です。中国料理の味付けは濃厚で、タウナギ独自の泥臭さは気になりません。でも淡泊な日本料理には適さず普及しなかったのでしょう。中国では古くから漢方薬として、滋養強壮効果が高い食材として養殖され一般に広く食べられています。ウナギよりタウナギの方がむしろ扱いやすく、蒸す・煮る・揚げる・炒めるなど色んな料理に使えるので重宝します。

 中国のタウナギ料理の火爆鳝鱼(huo3bao4shan4yu2)を紹介しましょう。タウナギの内臓を取り出し、骨抜きして5㎝ぐらいにぶつ切り、菜種油を高温に熱した鍋に入れて炒めます。一旦別の皿へ取り出し、鍋に残った油へニンニク、唐辛子、胡椒、生姜、山椒を入れて良く炒めます。途中で豆瓣酱(dou4ban3jiang4)を加え更に炒めます。最後に、取り出しておいた鳝鱼を戻し、珠江酱油(中国の醤油)で味を整えます。

 タウナギの分類は魚種ですが、エラがないので水の中で呼吸できません。水面上に顔を出して息継ぎします。生息域は諏訪湖や奈良県などを中心にかなり広い範囲に広がっており、食料として100年ほど前に外国から持ち込まれたものです。タウナギは水田に穴を開け、一晩で水田を干してしまうため、農家にとっては脅威の外来種です。幸いにさほど被害が出ていませんが、温暖化の影響で、冬眠しないタウナギが出現すれば、更に繁殖するかも知れませんので農家は気が抜けません。沖縄に生息するタウナギは日本の固有種で、絶滅危惧種に指定されています。

 東京でタウナギを味わえるレストランが数軒あるようです。関西では残念ながら、お目に掛かれません。中国へ渡航された際には、ぜひタウナギ料理をご賞味ください。貴重な体験になります。

 かつて北京に出掛けた時、中国人の同僚が屋台で「鶏の足」を買って、歩きながら美味しそうに食べるのを見て驚いたことがあります。 どこの街へ行っても必ずと言っていいほど売られています。中国語では(ji1zhao3)と言うポピュラー料理、市場では山積みにして売られています。アジア圏では、韓国やベトナムでも日常的に食べているようですが、日本でまだお目に掛かったことがありません。何しろ鶏の足がそのまま出て来るのですから、グロテスクで日本では定着しないようです。

 この鶏の足は、胸肉やモモ肉とはまったく異なり、コラーゲンを多く含むゼラチン質でプルプルとした食感です。ビールのつまみに良く合います。

食糧難の貧しい時代、食材を無駄にしないため、18世紀ごろの広東省から全国に広まったようです。中国では、鶏足はコラーゲンが豊富で美容や健康に良いと言われ、女性もよく食べます。

 鶏足の調理法は多岐にわたり、湯通ししてから煮て、特製のタレに漬け込むのが一般的です。タレには、醤油、砂糖、唐辛子、にんにく、生姜などが使われ、甘辛い味が特徴です。その他、鶏足は蒸したり揚げたりすることもでき、各地域で独自の調理が施されています。この幅広い調理法が、鶏足をより魅力的な料理にしています。もちろん調理前に念入りに洗うことは言うまでもありません。

 鶏足の作り方はいろいろあります。いくつか紹介しましょう。

红烧鸡(鶏足の醤油煮)まず鶏足をきれいに洗い、爪を取り除き半分に切ります。 生臭さを消すために鶏足を湯通し、 その後、黒砂糖で鶏足を炒めて色を付けます。ビール、調味料、適量の水を加え、鶏足がやわらかくなるまで煮ます。

蒜香(ガーリック風味の鶏足)鶏足を湯通しし、ネギとタマネギを刻み調味料を加えてタレを作ります。 そのタレを鶏の爪にかけ、冷蔵庫で冷やしながら漬け込みます。

卤鸡(鶏肉の煮しめ):鶏足を湯通しした後、スパイスと調味料を用意します。鶏足と調味料を鍋に入れ、適量の湯を加えて煮ます。 鶏足がやわらかく風味が出るまで煮込んだら、ソースで煮詰めます。

柠檬酸辣无骨鸡爪(レモン風味の鶏足) 鶏足を茹で、骨を取り除きます。レモンサワー・チリソースを作り、 鶏足にかけ、レモンとその他の材料を加えてよく混ぜます。冷蔵庫に入れ漬け込みます。(写真:红烧鸡爪)

 

 去る4月10日放映の「NHKテレビ中国語会話」の冒頭、流行語の躺平(横たわり族)が紹介されました。またその番組中で、春节(chun1)の発音は、unが子音と結合するのでeが省略されています。発音はunでなく三重母音uen、弱いeの発音が隠れていますと説明がありました。
 さてこれまで三編に亘り、紹介してきた中国流行語もいよいよ最終編です。
躺平 「横たわり族」 2021年
 2021年4月17日にネット上へ、1人の青年から以下の投稿がありました。
躺平才是宇宙间客观的唯一真理,休息,睡觉或是死亡,充满欲望和亢奋的生命体静止和消逝的瞬间或是才是真正正义的体现,我选择躺平,我不再恐惧。「横になるのは宇宙観の客観的な唯一の真理、休み、寝るまたは死亡、欲望と興奮に満ちた生命体を静止したり消えたりする瞬間、あるいは本当の正義の体現です。私は横になることを選びます。もう怖くないです」。
 当局はこの投稿に気付き慌てて削除しましたが、瞬く間に拡散されました。これが躺平族[tan3ping2zu2](横たわり族)という一種の精神的支柱として広まりました。中国は過去にない速さで経済成長し、食べ物に困るような貧困者も少なくなり、国民の生活も向上しました。反面、厳しい受験戦争を通り抜けても就職ができない、限度を超えた長時間労働、高くて買えないレベルに達した住宅、一人っ子政策がもたらした双両親介護など、国が豊かになっても、自分たちが豊かになるとは限らないと、将来に悲観的になっています。躺平を直訳すれば、寝そべるや休むですが、多くの人が意味している躺平は、ガムシャラに働かない、車・住宅を買わない、結婚しないなどです。伝統的な考えに縛られず、自分の精神的な幸福を尊重する生き方を重視しています。
 立身出世や拝金主義、車や家などのモノに無関心になり、心の健康と余裕を取り戻す選択です。
政府は、労働力不足や人口減少に繋がることで経済成長が止まるだけでなく、社会の仕組みや制度の不満に繋がり、政府批判に転じることを懸念しています。
内卷 「内部競争」  2021年
 職場や学校での過度の競争状態を指します。中国の国有企業は、潰れることがないので铁饭碗[tie3fan4wan3]「食いはぐれる心配のない職業」と呼ばれていました。仕事が楽で、頑張って頑張らなくても給料はさほど変わらず、定時一斉退社が当たり前、企業団地内には病院や幼稚園、小学校なども完備し福利厚生面では優れています。ぬるま湯の中で競争意識が抜け、生産性は伸びず軒並み赤字に陥りました。今では国有企業も改善され、残業代が出ないのは当たり前、建屋の照明は夜遅くまで消えることはありません。
 でも年々 職場や学校で限られたパイを取り合う非理性的な競争が激しくなっています。前述の躺平は内卷[nei4juan3]の裏返しの意味も持ちます。
我的眼睛就是尺 「私の目は定規です」 2022年
 2022年2月5日夜、北京冬季五輪中継を解説していた王濛が言った言葉です。男女2000mスケートの混合リレー決勝で、范克新、曲春雨、任志偉、呉大静のチームが、2分37秒35のタイムを達成イタリアチームを圧倒し、中国代表団の最初の金メダルを獲得しました。司会の黄建祥がゲストの王濛にコメントを求めたところ、興奮し立ち上がり机を叩いて「勝ったに違いない!最初の金が生まれた!」「 私の目は物差し定規だ! ビデオを見る必要はありません! 」と言いました。彼女の熱意は会場の聴衆に伝わり、テレビを視聴していた多くの人々をさらに興奮させました。
倒也不必 「そこまでする必要はない」 2023年
 すでに起こっていることが、既に合理的な結果を産み出しており、その事柄について過度に追説明したり誇張したりする必要がない場合に用います。また、ある事柄について過度に心配したり要求したりする必要がないという意味にも使います。
 ・你倒也不必每天工作到很晚。 (毎日遅くまで働く必要はない。)
 ・他们倒也不必担心考试。 (彼らは試験を心配する必要は全くない。)
 ・我们倒也不必现在就决定。 (今決める必要はない) 
 

 前号に引き続き中国の流行語をお届けします。流行語となるには、多くの人が潜在心理として感じていたことが、文字として顕在化され共感した時に流行語となります。流行語を読み解くと大衆の深層心理が読み解けます。
  社死「社会的死」(2023年)
 2020年7月7日、杭州市に住む张芳(仮名)さん(女24歳)は、届いた宅配を受け取りに出向いたマンション階下の宅配センターで、宅配の少年から荷物を受け取る様子を隣の便利店の店主 王宇轩(仮名)(27歳)に、こっそり動画を撮影されました。店主 王宇轩(仮名)と友人の李浩宇(仮名)(24歳)が、「宅配の少年とパトロン女」を表現した文章を捏造し、盗撮した動画とともにグループチャットへ投稿しました。王宇轩(仮名)はグループチャット内で冗談であると言っていましたが、他グループへ転送され瞬く間に広まりました。その結果、ネット上で张芳(仮名)さんを「浮気性の女」「少年を誘惑した女」「有閑マダム」など誹謗中傷が殺到し、自分の周りの家主、上司、同僚、友人たちにまで、色々取り沙汰されました。
 (仮名)さんはうつ病を患い会社を辞めざるを得ず、暫くは人との接触を断ちました。4ヶ月以上経っても、時々ヒステリーを起こすなど情緒不安定となり、感情のコントロールができません。杭州公安当局は、二人を逮捕し勾留しましたが僅か9日間の拘留で釈放しています。しかし被害者の趁呉さんは仕事を探すのも難しくなり、12万元の賠償を求めています。
 社死とはネット上で個人のプライベートなことや過去、恥ずかしい行動や不名誉な出来事を無理やり公開し、社会的な評判や信用を落とし社会的に抹殺させ、まともな生活が送れなくなる状況を言います。深い羞恥心や他人の前で面目を失うほどの屈辱を感じることから、社会的死とも呼ばれます。日本でもSNS上での誹謗中傷が日本でも社会問題化しています。今回の事案は悪意のあるものですが、中国ではこの種の犯罪の損害賠償の算定が難しく難航しているようです。
  社交牛B症「人付き合いが得意な人」(2021年)
 この流行語を分解すると社交は「ソーシャル」を意味します。牛B牛逼の置き換え文字で「すごい」という意味です。逼⇒Bに置き換えて下品なことばの表現を改めています。は「症状」を意味し、直訳すれば「人との交際が非常にすごい症状」となります。この流行語は、他人の目を気にせず、嘲笑されたりすることを恐れず、見知らぬ人や親しくない人と会話できる人を指します。 こうした人々は外向的で社交的、適切な距離感を心得ており、人に圧迫感や不快感を与えることはなく、EQ(心の知能指数)が高い人たちと言えます。人と接するときに心理的なプレッシャーがなく、自由に行動し、人前で恥ずかしい思いや不快に感じたりすることなく積極的な行動をとることができます。自信があり、他人の目や嘲笑されることを恐れず、簡単にコミュニケーションをとることができる人を指します。
 なぜ流行語となったのか社会的背景を探ってみましょう。社交牛B症が流行する前には、社交恐惧症という言葉が流行っていました。調査によると80%の大学生が、自分はコミュニケーション障害だと自覚しているそうです。でも人とのコミュニケーション力向上には意欲を持っています。Tiktokの社交牛B症の関連動画の再生回数は、20億回を超えていることからも、この種の悩みに関心を持っている中国人が多いのは意外です。多分このような共通した悩み的背景から誕生した流行語でしょう。
  显眼包「煌めく人」(2023年)
 直訳すれば「人目を引くバッグ」の意味です。バッグの外見やセンスだけでなく、他の人とは違う個性や表現の多様性を表すことができれば、注目を引きつけられます。人々に対しても同様で、その人の内面的なバイタリティーを表すことに本当の意義があります。 
 もともと显眼包は「目立ちたがり屋」として、人を貶す意味合いで使われていました。現在は、ほめる意味で使われることが多くなり、貶す意味合いは次第に失われつつあります。ある人を顕眼包と表現した場合、外面的に「目立ちたがり屋」だけでなく、それ以上にその内面から活力が溢れて煌めいていることを表します。