最近 こういう人が増えたなぁ~て感じます

まるでかつての植民地政策を

正しい行いだったと信じて

謝罪も賠償もしない欧米のようですね

 

 

# 見えない鏡

秋晴れのキャンパスに、美咲の声が響いた。

「私たちの権利を守るために、
もっと多くの人に賛同してほしいんです」

今日の美咲は、先週パリから届いたばかりの
新作バッグを肩にかけていた。
十万円はするだろうそれが、
秋の日差しの中で鈍く光っている。

学生食堂の前で配るチラシを、
通り過ぎる学生たちはほとんど受け取らなかった。
美咲と数人の仲間たち
――皆、ブランド物で身を固めた、
学内で「セレブ集団」と呼ばれるグループだ
――は、半年前から学内での
女性の権利向上を訴える活動を続けていた。

「今日のランチ、例のイタリアンにする?」
仲間の一人が言った。

「昨日インスタで見たパスタ、絶対映えるわよ」

「いいわね。活動の後は港区のカフェで
打ち合わせしましょう。
新しくできたあのお店、めちゃくちゃ可愛いの。
オーガニック素材使ってて、
環境にも配慮してるんだって」

「さすが美咲ちゃん、意識高いわよね」

「美咲ちゃん、そのピアス素敵!」

「これ?先週、母さんのカードで買ったの。
限定品だから即決したわ。
このブランド、フェアトレードにも
力を入れてるの。
私たち、社会貢献してるブランドを選ぶべきよね」

「そうよね。私たちみたいに意識を持って
消費することが大事だわ」

彼女たちの会話を横目に、
学食で三百円のうどんを食べる
学生たちが通り過ぎていく。

「おかしいわ」
美咲は仲間に言った。

「こんなに重要な問題なのに、
なぜみんな無関心なの?」

「まだ時代が追いついていないのよ」
仲間の一人が、新しく買った
ネイルを見せびらかしながら答えた。

「古い価値観に縛られている人が多いんだわ。
私たちみたいに社会問題に目を向けられる人って、
まだ少数派なのよね」

「そうよね。
私たち、ちゃんと意識を持って行動してるもの」
別の仲間が同意した。

「この前読んだ海外のフェミニズム本にも
書いてあったわ。
意識の高い人たちが先導していかないと、
社会は変わらないって」

「昨日も夜中まで、ジェンダー問題の
海外ドキュメンタリー見てたの」
美咲は誇らしげに言った。

「Netflixで配信されてる、あの受賞作。
見たあと、深く考えちゃって。
私たちって、こういう社会課題に
ちゃんと向き合ってるわよね」

美咲は頷いた。
自分たちの主張は正しい。
新しい。進歩的だ。
他の学生たちは
まだそのレベルに達していないだけなのだと。

教室では、美咲たちのグループが入ってくると、
周囲の空気が微妙に変わる。

「また今日もブランド品自慢か」

「親の金でいい暮らししてるくせに、
権利がどうとか言われてもな」

「先週も高級レストランの写真上げてたよね」

「『意識高い系』って自分で言ってるの、
逆に痛いよな」

そんな小声が聞こえても、美咲には届かない。
いや、届いていても気にしない。
むしろ、批判する人たちこそが
「意識が低い」のだと思っている。

講義が始まる前、美咲は仲間に言った。

「ねえ、今度の活動で、
ジェンダーギャップについての
セミナー開かない?私たちが啓蒙していかないと」

「いいわね!
私たち、この学校で一番
社会問題に敏感なグループだもの」

「他の学生たち、
もっと意識持ってほしいわよね。遊んでばかりで」

そう言いながら、
彼女たちは週末の銀座ショッピングの
予定をスケジュール帳に書き込んでいた。

ある日の午後、
美咲は図書館の前で一人の男子学生を見つけた。
彼はいつも一人で本を読んでいる、
目立たない学生だった。
服装は地味で、
おそらく奨学金で通っているのだろう。

「ねえ、あなた」

美咲は高級ブランドのブーツの音を
響かせながら彼に近づいた。

「なぜ私たちの活動に賛同してくれないの?」

男子学生
――拓也は、困ったような表情で顔を上げた。
彼の隣には、
図書館でアルバイトをしているらしい
名札が置いてあった。

「僕は別に反対しているわけじゃ...」

「でも賛成もしないでしょう?なぜ?説明して」

拓也はため息をついた。
逃げられないと悟ったのだろう。

「君たちのグループは、
かつて僕のような学生を
散々見下してきたじゃないか」

「え?」

「アニメやゲームが好きな僕たちを、
気持ち悪いって。オタクは消えろって。
『そんな安っぽい趣味に時間使うなんて
信じられない』って笑っただろう。
学内で居場所がなくなって、
郊外の小さな集会所で集まっていたら、
そこにまで押しかけてきて嘲笑したよね」

美咲の表情が固まった。

「『こんな場所でこんなことしてるの?
ダッサ!インスタに載せちゃおうかな』って。
僕たちの大切な居場所を、
君たちの娯楽のネタにしたんだ」

「そんな...私はそんなこと...」

「君は覚えていないかもしれない。
君にとっては数ある
『面白エピソード』の一つだったから。
でも多くの学生が知っている。
君たちが僕たちを追い出した日のことを」

拓也は静かに続けた。

「君たちは親の金で毎週末、
何万円も使って遊んでる。
でも僕たちがバイト代で買った
数千円のフィギュアは馬鹿にする。
僕たちの好きなものは認めず、
君たちだけの主張を受け入れろという。
それは多様性じゃなくて、
ただの我儘の押し付けだよ」

美咲の手の中で、
高級ブランドのバッグが重く感じられた。

「自分がされて嫌なことは、
他人にもしてはいけない。
それを守らないから、
君たちの主張を誰も受け入れないんだよ」

そう言って、拓也は図書館の中へ消えていった。

美咲は立ち尽くした。
でも、心の中で何かが抵抗していた。

*私は悪くない。
私たちは正しい主張をしているだけ。
時代がまだ追いついていないだけ。
あの人たちが僻んでいるだけ――*

その夜、美咲は高級レストランで
仲間たちと食事をしていた。
一人あたり二万円のコース料理。
父親のカードで支払った。

「今日さ、変な男子に絡まれちゃって」
美咲は笑いながら言った。

「私たちの活動を理解できないんだって」

「やだー、まだそんな古い考えの人いるんだ」

「ほんと、時代遅れよね」

「私たち、ちゃんと勉強して意識を高めてるのに」
仲間の一人が言った。

「向上心のない人って、
結局は努力してないのよね」

「そうそう。
私たちみたいに海外の論文とか読んで、
セミナーとか行って、
自分を高める努力をしてないから
理解できないのよ」

「意識の差って、こういうところに出るわよね」

彼女たちは高級ワインのグラスを傾けながら、
同意し合った。
自分たちは特別だと。
意識が高いのだと。
進んでいるのだと。

彼女たちは笑い合った。

美咲の目には、
相変わらず自分の主張しか映っていなかった。
鏡を見ることなく、ただ前だけを見て。

自分が他者にしてきたことを省みることもなく。

親が幼い頃に「してはいけないこと」を
厳しく教えなかったのかもしれない。
それとも、何でも買い与えられ、
何でも許されてきた環境が、
自分だけは特別だと
思い込ませてしまったのかもしれない。

いずれにせよ、
美咲はこれからも自分が正しいと
信じ続けるだろう。

そして、いつまでも理解されない理由を、
他人のせいにし続けるだろう。

翌週、
美咲のインスタグラムには
新しい投稿が上がっていた。

「#社会問題に向き合う #私たちの声を届けたい 
#変革の時 #意識高い系じゃなくて
意識高い #エシカル消費 #サスティナブルライフ 
#自分らしく生きる」

写真には、高級カフェのラテアートと
最新のデザイナーズバッグ。
キャプションには
「今日も社会をより良くするための
活動について仲間と議論。
こういう時間、大切にしたい✨」
と書かれていた。

コメント欄は空っぽだった。

キャンパスの秋は、
誰に対しても平等に深まっていった。

よく映画やドラマで拳銃を向けられた人が

自信満々に「撃てない」という場面があって

大抵 撃たないで終わるんですよね

自分は毎回「撃てばいいのに」って思います

立場が悪い時によく相手の弱み

と思われる点を突いて逃れる事があるけど

それでも強行しないと状況は好転しないんですよね

映画やドラマでもこういう状況の後は

大抵 状況が更に悪化していき

結果的に最初の状況よりかなり悪くなるのに

悪化した時よりはマシと

無理やりハッピーエンドだと纏めます

それっておかしくない?

あの時に撃っていれば

もっと状況はよかったのに・・・

ある意味 脚本のテクニックなのかもしれませんが

沢山使われ過ぎてもう別の展開にした方がいいと思います

 

 

 

# 信頼の代償

廃ビルの一室で、二人の女は向かい合っていた。

窓から差し込む夕陽が、
埃の舞う空気を赤く染めている。
片方の女——黒いジャケットを着たミサキは、
右手に拳銃を握り、相手に銃口を向けていた。

狙われているのは、白いブラウスを着たアヤノだ。
彼女は壁を背にして立ち、ミサキを見据えている。
恐怖の色は見えない。
むしろ、その瞳には確信めいたものが宿っていた。

「あなたは私を撃てないわ」

アヤノが口を開いた。
声は静かだが、力がこもっている。

「あなたの彼氏の秘密を私が暴露したら、
あなたと彼も破局よ。それでもいいの?」

ミサキの指が、わずかに震えた。
アヤノはそれを見逃さなかった。

「タカシは過去に——」

「黙れ」

ミサキが低く呟いた。
だが、銃を下ろすことはしない。

沈黙が流れた。
二人の間には、三メートルほどの距離がある。
それは、信頼と裏切りの距離だ。

「それでも話しなさい」

ミサキが言った。
その声には、諦めにも似た決意が滲んでいた。

「そうしないと、
みんな立ち止まったままで先に進めない。
あの事件の真相を知っているのは、
あなただけなんだから」

アヤノの表情が歪んだ。

「私が話したら、あなたは何もかも失うのよ?
 あなたの大切な人も、築いてきた信頼も」

「それは私が決めること」

ミサキの手から、震えが消えた。
銃口は、アヤノの胸を正確に狙っている。

「話せ。誰が本当にあの夜、渋谷の倉庫にいたのか。
誰があの取引を仕組んだのか。そして——」

ミサキは一瞬、言葉を切った。

「誰があの子を殺したのか」

アヤノは相手を睨み返した。
数秒の沈黙の後、彼女は口角を上げた。

「それでも、あなたは撃てない」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに——

銃声が鳴り響いた。

乾いた音が廃ビルに反響し、窓ガラスを震わせた。
硝煙が立ち上る。

アヤノは肩を押さえて床に崩れ落ちた。
致命傷ではない。
だが、
その目には明らかな驚愕の色が浮かんでいる。

ミサキは拳銃をホルスターに仕舞いながら、
倒れた女に背を向けた。

「相手を信じ過ぎるのはよくないね」

足音を響かせながら、彼女は部屋を出て行った。

後には、肩を押さえて呻くアヤノと、
夕陽に染まった血痕だけが残された。

廊下を歩きながら、
ミサキは携帯電話を取り出した。

「終わった。話すそうだ。救急車を」

彼女は電話を切り、ビルの階段を降りていった。

信頼と裏切り。真実と嘘。

その境界線の上で、彼女は引き金を引いた。

そして、ようやく物語は動き始めた。

今のパートナーとの出会いを

お話にしてみました

当然 AIが書いたので脚色もありますが

大筋は実際にあった事です

とくに最後の彼女からのメッセージを見て

微笑んだなんていい感じに書いてありますが

実際は転げ回って喜んでました

もう15年以上前の話ですけどね 苦笑

でも今でもお互いを思いやっているし

自分にとってはとっても大好きな人で

毎日 大好きだよと言ってます

 

# 千分の一の奇跡

俺は、世間一般で言う「モテる男」ではなかった。

顔は平凡、トークスキルも並以下。
金持ちでもなければ、
華やかな経歴があるわけでもない。
ただ一つ、恋愛においては真面目で正直だった。
相手を騙すような真似だけはしたくなかった。

「自分に合う人が、必ずどこかにいる」

そう信じて、俺は多くの女性に声をかけ続けた。

知り合って会ってくれるのは十人に一人。
二回目も会ってくれるのは、さらに十人に一人。
付き合ってくれるのは、さらに十人に一人。
一年以上続くのは、さらに十人に一人。

確率で言えば、一万分の一だ。

それでも俺は諦めなかった。
これまで約十人の女性と付き合ったが、
全て破局に終わった。
最近も別れたばかりで、
その時はもうどうしようもなく落ち込んだ。

*自分なんて、誰にも必要とされていない*

そんな泣き言を、
誰も見ていないはずの自分のブログに書き殴った。

ところが数日後、コメントがついていた。

「大丈夫ですよ。
あなたのそういう正直なところ、
きっと誰かが見ていてくれます」

それは自分を慰めてくれる、優しい文章だった。
誰にも相手にされないと思っていたから、
心底嬉しかった。
また相手を探そうと、立ち上がることができた。

正体不明の誰かに感謝しながら、
俺は再び彼女探しを始めた。

---

数カ月後、
あるコミュニティでよく話す女性が二人できた。

一人は雑貨店の経営を目指している女性で、
比較的近くに住んでいるらしい。
もう一人は地方在住の女性だった。

なぜか気になるのは、地方在住の彼女の方だった。

数カ月悩んだ末、
思い切って「会いたい」と伝えた。
すると彼女から意外な返事が返ってきた。

「実は結婚しているんです。
でも、DVで実家のある東京に帰ってきていて・・・」

それなら会うのは難しいかと思ったが、
彼女は会うことを了承してくれた。

待ち合わせ場所は大きなターミナル駅。
時間は昼間。
約束の時間よりも早く着いて、
俺は駅前で待った。

初めて会うというのは、
どちらにとっても怖いことだ。
だから二人きりになるのは避けて、
人目が多く、いざという時には
逃げられる場所を選ぶ。
これは俺が初対面の時に決めている
自分のルールだった。

約束の時間になると、
幼稚園の保母さんのような
可愛らしい女性が小走りでやって来た。

息を切らしている。

「ごめんなさい、
待ち合わせの場所が分からなくて……
遅れると思って」

彼女は申し訳なさそうに言った。

俺の好きなタイプだった。
そして、遅刻しそうだからと小走りで来てくれる、
その正直で真面目な姿勢が、
たまらなく可愛らしく思えた。

心臓が跳ねた。
舞い上がってしまいそうになるのを必死で抑えた。

その後、
人通りの多い繁盛している喫茶店で話をした。
俺は自分のことを包み隠さず話した。
たとえそれが恥ずかしい話でも。

彼女はそれを気に入ってくれたのか、
「また会いたい」と言ってくれた。

喫茶店を出ると、外はもう暗くなっていた。
しまった、と思った。
明るいうちに別れるつもりだったのに。

それを正直に伝えると、
彼女は笑って許してくれた。

「もう遅いから、夕食も一緒に食べていきましょう」

そう言って、近くの食堂に入った。

俺の心の中は、
彼女とキスしたいという気持ちでいっぱいだった。
でも実際は、
初めてデートをした男の子のように
ガチガチに緊張していた。

彼女があまりにも理想的だったからだ。
こんな女性が世の中にいるのか、
と思うほどだった。

これまで約十人と付き合ってきて、
こんな感情になったのは初めてだった。

彼女はたまに、緊張している俺の手を握ってきた。
それで俺がビクッとなってしまう反応を見て、
楽しんでいるようだった。

俺としては、
彼女が自分と一緒にいて
楽しんでくれているのが分かって、
それが何より嬉しかった。

食事をしながら、何気ない会話が続いた。
仕事のこと、趣味のこと、そして——

「そういえば、ブログやってるんですよね」

彼女が突然そう言った。

「え、どうして知ってるの?」

「コミュニティのプロフィールに書いてあったから、
たまに見てたんです」

俺は箸を持つ手が止まった。

「実は、
あの時……落ち込んでいる時に
コメントしたんです。覚えてますか?」

頭が真っ白になった。

あのコメントが、彼女だった?

「びっくりした?」
彼女は少し困ったように笑った。

「でも、ありふれたことを書いただけですよ。
本当に大丈夫そうだったから」

「ありふれた……」

俺は言葉を失った。
あのコメントが、どれだけ自分を救ってくれたか。
それがこの目の前にいる彼女からだったなんて。

「あの言葉、本当に嬉しかったんだ。
あれがなかったら、
今日ここにいなかったかもしれない」

彼女は少し照れたように俯いた。

「そんな大げさな……
でも、元気になってくれて良かったです」

食事を済ませて、彼女を駅まで見送った。

「また会おうね」

手を振って別れた。
もちろん、連絡先は交換済みだ。

家に帰ったが、多分ずっと浮かんでいたと思う。
足が地面についていなかったんじゃないか、
そう思うくらいの気分だった。

---

その夜、
家に帰ってからも俺はずっと浮かれていた。

あのブログのコメントが彼女だったなんて。

彼女は「ありふれたことを書いただけ」
と言ったけれど、
あの言葉がどれだけ俺を救ってくれたか。
そして、その彼女と今日こうして会えたなんて。

偶然なのか、必然なのか。

でも、どちらでもいい。

大切なのは、諦めなかったことだ。

千分の一でも、一万分の一でも、
自分に合う人は必ずいる。

そう信じ続けたことだ。

俺はベッドに横になって、天井を見上げた。

明日からまた、新しい一日が始まる。

そして今度こそ、この奇跡を手放さないように——

スマホが振動した。彼女からのメッセージだった。

「今日は本当に楽しかったです。
また会いましょうね」

俺は画面を見つめて、静かに笑った。

近い将来こういう時代になったら

便利だなぁ~と思いました

当然 こんな社会にはなって欲しくない!

という人もいるでしょう

 

 

 

# リモートボディ

通勤電車の揺れが心地よかった。
窓の外を流れる景色を眺めながら、
僕は今日も会社へ向かっている。
満員の車内で、
スーツ姿の人々が静かに立ち尽くしている。
誰が本物で、誰がドローンなのか、
もう見分けがつかない。

国の統計ではリモートボディ利用者は

全国民の6割以上とされているが

実際はもっと多いかもしれない。

本当の僕は、自宅のベッドの上にいる。

数年前の自動車事故で、
自立歩行が出来なくなり
それからリモートボディを使うようになった。

リモートボディが最初に発表されたとき、
社会は騒然としていた。
「人間性の喪失だ」
「顔のない社会になる」
「犯罪に悪用される」。
反対運動が各地で起き、デモ隊が街を埋め尽くした。
導入初期には、
ドローンを使う人々への偏見や差別もあった。

でも、時間が経つにつれて、
人々の意識は変わっていった。

利用制限が劇的に緩和された事で

利用者数が激増した事も後押しになっただろう。
障害者や高齢者が自由に外出できる喜び。
不登校だった子供たちが
学校に通えるようになったこと。
精神的な病で苦しんでいた人々が
社会復帰できたこと。
そして何より、
犯罪が劇的に減少したという事実。

反対派の声は次第に小さくなり、
いつしかリモートボディは社会に浸透していった。
さらに、リモートボディの技術を元にした
人型ドローンも開発された。
人間が遠隔操作するこれらのドローンは、
人手不足に悩む様々な業界で
活躍するようになった。
介護現場、建設現場、物流倉庫。
人々は自宅から複数の仕事を
掛け持ちすることもできるようになり、
労働市場は大きく変化した。
今では、これが当たり前になった。

不登校の学生も、
精神的な病で出社できない会社員も、
リモートボディを使っている。
外見は本人と同じにしてもいいし、変えてもいい。
ドローンネームという
新しい名前を使う人も増えた。
過去のしがらみから解放され、
新しい人生を始めた人もいる。

犯罪発生率は激減した。
ドローンが犯罪に遭遇すれば、
その映像データは即座に警察に送られる。
街中が監視カメラで覆われているようなものだ。
しかも、ドローンの中身は軽合金製の頑丈なボディ。
警察の許可があれば、強力なパワーを発揮できる。
警察官の代理として使われることもあるという。

会社に着き、自分のデスクに座る。

「おはようございます」

隣の席の彼女に挨拶をした。
彼女もドローンだ。
外見は本人とは違うだろう。
でも、僕は最近、彼女のことが気になり始めていた。
毎日の何気ない会話。
仕事への真摯な姿勢。
優しい笑顔。
彼女の言動を見続けているうちに、
いつの間にか好感を持つようになっていた。

昼休憩。勇気を振り絞って、
彼女にデートを申し込んだ。

彼女は躊躇していた。
当然だ。普段はドローンでしか
会っていないのだから。
本当の姿を知らない相手と会うのは、
誰だって不安だろう。

僕は自分の立体映像を見せた。
僕はドローンの外見も自分自身と同じにしてある。
でも、それを彼女は知らない。
画面に映る僕の顔とドローンの顔が同じことに、
彼女は少し驚いた様子だった。
ほとんどの人が
タレント並みの容姿に変えているからだ。

彼女は周りに見られないように、
立体映像を送ってくれた。

モニタに映った彼女は、
眼鏡をかけた大人しそうな女性だった。

一瞬で、心臓を撃ち抜かれた。

いわゆる女優のような美人顔が苦手で、
可愛らしい女性の方が好きな僕にとって、
彼女はまさにそういうタイプだった。
柔らかな雰囲気。
少し困ったような微笑み。
すべてが、僕の心を捉えて離さなかった。

どうにか彼女とデートをすることが決まった。
僕が動けないということで、
週末に家に来てくれることになった。

今から週末が待ち遠しい。

多分、僕は今、少し浮いているのでは、
と思うくらいに浮かれていた。
電車の中でも、会社でも、
ドローンの表情制御が追いつかないほどに。
ベッドの上の本当の僕も、
きっと笑顔を浮かべているだろう。

リモートボディが普及した世界で、
人と人が出会う意味は変わったのかもしれない。
でも、誰かを好きになる気持ちは、
きっと何も変わらない。

週末、彼女が来る。
本当の彼女と、本当の僕が出会う。

その日が、楽しみで仕方がなかった。
 

耳障りの良い主張って

多くの人が騙されて乗りやすいけど

そういうものに限って

そういう風に仕組まれた

ものの可能性が高いですね

例えば大人の男性が主張するよりも

可愛い子供の女の子が主張した方が

多くの人が受け入れたり共感したりしますよね

世の中 子供が主張する時は

大抵 裏に何かを画策する大人がいますからね

 

 

# 目覚め

春の陽射しが大学のキャンパスに降り注ぐ中、
美咲は友人の誘いで
初めて平和団体の集会に参加した。
「戦争反対」

「平和を守ろう」
というスローガンに、純粋な心が反応した。
戦争なんて、誰も望んでいないはずだ。
平和であることは、当たり前の願いのはずだ。

美咲はすぐに活動にのめり込んでいった。
週末のデモ行進、署名活動、SNSでの情報発信。
やればやるほど、
自分が正しいことをしている
という確信が深まった。

「SNSで、
この活動は隣国の工作だって書かれてるよ」

ある日、
別の友人がスマホの画面を見せてきた。
美咲は首を横に振った。

「そんなの、デマだよ。
平和を願うことが工作なわけないじゃん」

活動仲間の多くは高齢者だった。
美咲のような若者は珍しく、
いつも「若い人が来てくれて嬉しい」
と歓迎された。
地方の集会に参加すると、
そこには意外と若い支持者もいた。
後から知ったことだが、
地方には共産主義のサークル活動が盛んな地域や、
宗教を元にした政治活動が
根付いている場所があった。
家族ぐるみで信仰し、
政治活動に参加している若者も多いのだという。

「我々と違って、

今の若い人は戦争を経験していないから無関心で……」

よく聞く嘆きの言葉だった。
美咲は、自分は違うと誇らしく思っていた。

しかし、ある日の昼休み、
大学の親友・絵里がふと疑問を口にした。

「ねえ、美咲。その高齢者の人たちって、
70代って言ってたよね?」

「うん、そうだけど」

「でも終戦って1945年でしょ。
終戦の年に生まれた人でも、もう80歳だよ。
70代の人は戦後生まれじゃない?」

美咲は言葉に詰まった。
確かに、計算が合わない。

それから美咲は、
活動を別の視点で観察するようになった。
デモ行進の列を歩きながら、周りを見渡す。
確かに、退職した高齢者や
自分のような若者が目立つ。
でも、少し後ろの目立たない場所には、
アジア系の人々が驚くほど多くいた。

お昼の休憩時間、無料のお弁当が配られる。
毎回、立派な弁当だ。
誰がスポンサーなんだろう。
帰りには交通費を受け取る人も多い。
全員ではないが、かなりの人数だ。
これを毎回続けるには、
相当な資金が必要なはずだ。

疑問が、美咲の心に少しずつ積み重なっていった。

「ねえ、美咲」

またも絵里が話しかけてきた。

「戦争反対活動をしている人の多くは、
昔この国が戦争したことに反対なんだよね。
それって、侵略戦争に反対ってことでしょ?
でも、あなたたちの要求している
『戦争反対』だと、
防衛戦争まで禁じることにならない?
攻められた時、誰がこの国を守るの?」

美咲は答えられなかった。
今まで、戦争のための武力は
全て必要ないと信じていた。
でもそれは、自分を守る術を
失うことでもあるのだろうか。

自分の信念が揺らぎ始めた。
あまり深く考えたくなくて、
いつもより早く活動本部に向かった。

ドアの前に立った時、中から話し声が聞こえた。

「もっと戦争反対の声を大きくしてください。
それによって、
この国の防衛手段をもっと小さくします」

美咲は息を呑んだ。
聞き覚えのない、低い男の声だった。

「それと並行して、
引き続き武力を使わない侵略を推し進めます。
この国の平和ボケな連中は、
武力を使わなければ侵略とは思いませんからね。
民主的と言えば何でも許されます。
反対する人にはヘイトだ、
差別だと言えば問題ありません」

別の声が笑った。

「政治家も、官僚も、企業家も、大学教授も、
マスコミも……金と女でこちらの言いなりです」

美咲は震えた。足が動かなかった。

自分は、コマに過ぎなかった。
何も考えずに、
この国を侵略するために協力していた。

絵里が教えてくれた話を思い出した。
ウイグルのこと。
日本のマスコミが絶賛する素早い臓器移植の裏側。
安い食料品の裏側。
便利でお得な通販商品の裏側。
そこには、誰かの犠牲で成り立つ構造があった。

美咲は静かにその場を離れた。

図書館に向かい、本を借りた。
国際関係、安全保障、歴史。
自分がいかに無知だったか、痛感した。

平和を願う心は間違っていない。
でも、平和を守るためには何が必要なのか。
本当の平和とは何なのか。
自分の頭で考えなければならない。

美咲は、勉強を始めた。
そして、変わることを決意した。

騙されていたことへの怒りではなく、
無知だった自分への反省を胸に。

本当の意味で、平和を守れる人間になるために。

**終わり**

 

日曜日という事でヒーローものを

それも昔は映画でよくあった

ヒーロー対ヒーローという作品にしました

まぁ昔の映画のは

結局 ヒーロー同士が共闘するのですが・・・

 

 

 

# 正義の衝突

緊急指令が鳴り響いた。

「レンジャー、出動せよ。
北部ダム建設現場に怪人出現。
軍隊の制圧失敗。直ちに鎮圧に向かえ」

国家機関の特別任務チーム
「レンジャー」の五人は、
専用装甲車に飛び乗った。
赤、青、黄、緑、桃。
それぞれの色を纏った戦士たちは、
正義の執行者として数々の脅威を退けてきた。

装甲車が山道を登り、ダム建設現場が見えてきた時、

彼らは息を呑んだ。

軍のトラックが横転し、
武装した兵士たちが地面に倒れ伏している。
その中心に、巨大な影が立っていた。
鋭い複眼を持ち、
強靭な脚を構えた緑色の怪人
——バッタ怪人だ。

「指揮官が危ない!」

青が叫んだ。軍の指揮官が瓦礫の陰で怯えている。
バッタ怪人の一跳びで届く距離だ。

「行くぞ!」

レンジャーは一斉に飛び出し、
指揮官の前に立ちはだかった。
赤が構えを取る。

「下がっていてください。ここは我々が」

指揮官は安堵の表情で後退した。

赤は一歩前に出た。

「国家の工事を妨害するな。
正義の鉄槌を食らわせてやる!」

「レンジャーアタック!」

五人は一斉にバッタ怪人に襲いかかった。

赤の拳がバッタ怪人の胸部を捉える。
青の蹴りが脚を狙う。
黄と桃が左右から挟み撃ちにし、
緑が後方から跳躍する。

だがバッタ怪人の動きは予想以上に速かった。

「ハァッ!」

バッタ怪人の強靭な脚が地を蹴り、
一瞬で十メートル上空へと跳躍した。
レンジャーたちの攻撃が空を切る。

「上だ!」

黄が叫んだ瞬間、バッタ怪人が急降下してきた。
その両脚が青と桃を直撃し、
二人は地面に叩きつけられた。

「くそっ!」

赤が銃を抜き、連射する。
火花が飛び散るが、
バッタ怪人の外骨格は弾丸を弾き返した。

「ならば近接戦闘だ!」

赤は格闘用の警棒を取り出し、
バッタ怪人に突進した。火花を散らしながら、
両者の武器がぶつかり合う。
バッタ怪人の腕から鋭い刃が伸び、
赤の警棒を受け止めた。

「何故だ! 何故国家に逆らう!」

赤が叫びながら連続攻撃を繰り出す。
だがバッタ怪人は一歩も引かない。

「貴様らこそ、何故だ!」

バッタ怪人の反撃が赤を吹き飛ばした。
赤は地面を転がり、すぐに立ち上がる。

黄が援護に入り、緑が側面から攻撃する。
三人がかりでバッタ怪人を追い詰めようとした。

轟音とともに拳と蹴りが交錯する。
土煙が舞い上がり、金属音が響き渡る。

その時——

「バッタ怪人、頑張れ!」

「負けるな!」

「あいつらを追い返せ!」

緑の耳に、奇妙な声が届いた。

遠巻きに見守る地元住民たちの声だ。
応援しているのは、倒すべき怪人の方だった。

緑は一瞬、動きを止めた。

老人、女性、子供
——住民たちの表情に恐怖はなく、
必死の祈りがあった。

「待て、これは……」

緑が叫んだ瞬間、
赤の猛攻がさらに激しくなった。

「黙れ怪人! 貴様のような悪を、
この世に存在させてはならない!」

赤は完全に我を忘れていた。
攻撃は徐々に殺意を帯び、
バッタ怪人を地面に押し倒そうとしている。

「赤、待て!」

黄が叫んだ。

「やめろ、赤!」

青が駆け寄る。

「何かおかしい! 話を聞くべきだ!」

緑が赤の腕を掴んだ。

「離せ! こいつは敵だ! 軍を倒した怪人だぞ!」

赤は振りほどこうとしたが、
桃も加わって赤を押さえつけた。

「落ち着け! 見ろ、住民たちの様子を!」

四人がかりで、ようやく赤の動きを止めた。
赤は荒い息をつきながら、
ゆっくりと周囲を見渡した。

住民たちは怯えながらも、
バッタ怪人の背後に集まっていた。

「……どういうことだ」

赤が呟いた。

バッタ怪人は攻撃を止め、
ゆっくりと立ち上がった。

「ようやく気づいたか」

バッタ怪人が言った。

「正義? お前たちの正義は一般人の、
それも子供にまで暴行を加えることなのか! 
そんなことは、正義の名において許さない!」

その言葉に、レンジャーたちは凍りついた。

緑が指揮官に向き直った。

「どういうことだ? 
我々は何も聞かされていない」

指揮官が苦々しい表情で口を開いた。

「村の住民が立ち退きを拒否したんだ。
話し合いは決裂した。
我々は命令に従い、強制排除を実行しただけだ」

「暴行の事実は?」

桃が詰め寄った。

「……一部の兵士が、抵抗する住民に対し、
必要以上の実力を行使したことは認める。
特に前任の指揮官が……強硬派でな」

レンジャーたちの間に重い沈黙が流れた。

赤は拳を震わせながら、バッタ怪人を見た。

「貴様は……」

「この村は、俺たちの先祖が
何代も守ってきた土地だ」

バッタ怪人が言った。

「国は一方的に決めた。話し合いは形だけだった。
そして拒めば、暴力で排除する。
子供が兵士に殴られ、老人が地面に
叩きつけられるのを見た。
これが正義か? 
俺は、この村の人々を守るために立ち上がった。
それが俺の正義だ」

青が静かに言った。

「これは……国家間の戦争と同じなのかもしれない」

黄が頷いた。

「正義と悪の戦いではない。
正義と正義の衝突だ」

緑が続けた。

「どちらが正しいとか、
どちらが間違っているとか、そういう話じゃない。
一方の正義は、
もう一方にとっては悪でしかないんだ」

赤は警棒を下ろした。だが構えは解かなかった。

「ダム建設は治水のためだ。
完成すれば、下流域の何万という人々が
洪水から守られる」

「それは分かっている」

バッタ怪人が答えた。

「だが、そのために俺たちの故郷が沈む。
そして話し合いではなく暴力で排除される。
それでも従えというのか?」

レンジャーとバッタ怪人の睨み合いが続いた。

誰も武器を上げなかった。
だが、誰も引き下がらなかった。

住民たちは息を呑んで見守り、
倒れた兵士たちは呻き声を上げている。

この対峙の結果がどうなるのか、
まだ誰にも分からない。

ただ一つ確かなのは、ここには二つの正義があり、
両方とも譲れないということだけだった。

——終わり

近年の日本や世界の状況

近所の生活環境を見ていて

近い将来、日本のそこら中がこうなるかも?

もしかしたら

もう日本のどこかにこういう地域があるかも?

と思い作りました

 

 

 

# 誠意の行方

田中浩一は、人間の善性を信じていた。
三十二歳、IT企業に勤める彼は、
どんな問題も対話と理解で解決できると考えていた。
大学時代には国際交流サークルに所属し、
様々な国の留学生と友情を育んできた。
「言葉や文化は違っても、
誠意を持って話せば必ず分かり合える」
――それが彼の信条だった。

その信念が揺らぎ始めたのは、
住んでいるアパートの周辺に
外国人住民が急増してからだった。

最初は小さな違和感だった。
道端に煙草の吸い殻が増え、
空き缶が転がるようになった。
やがてゴミ置き場は無法地帯と化した。
収集日を無視したゴミ袋が山積みになり、
分別されていない生ゴミから異臭が立ち込めた。
夏の暑さの中、
その臭いは耐え難いものになっていった。

浩一は行動を起こすことにした。
まず、多言語対応のポスターを作成した。
英語、中国語、ベトナム語、ポルトガル語。
翻訳アプリを使い、
ゴミ出しのルールを分かりやすく図解した。
「月・木曜日は燃えるゴミ」
「ペットボトルはラベルを剥がして」
――丁寧に、親切に、誠意を込めて。

ゴミ置き場だけでなく、アパートの掲示板、
道の途中の電柱にも張り紙をした。
これだけすれば、
きっと理解してもらえるはずだった。

しかし、一週間経っても二週間経っても、
状況は変わらなかった。
それどころか悪化していた。
張り紙は剥がされ、
破られ、落書きまでされていた。

「仕方ない」

浩一は自ら清掃を始めることにした。
早朝、出勤前の三十分を使って、
ゴミ置き場を片付け、道路を掃除した。
汗をかきながら、
それでも「自分の行動を見れば、
きっと心を動かしてくれるはず」と信じていた。

ある朝、浩一がゴミ袋を整理していると、
目の前にビニール袋が投げ捨てられた。

「え?」

振り返ると、
隣のアパートに住む外国人の男性が立っていた。
三十代半ばと思われるその男は、
無表情で浩一を見下ろしていた。

「あの、今掃除をしているので……」

浩一が日本語で言いかけると、
男は流暢な日本語で答えた。

「清掃しているんだろ? ならゴミ捨ててよ」

「いや、そういうことじゃなくて――」

「何が問題なんだ?」

浩一は深呼吸をして、できるだけ穏やかに説明した。
ゴミ出しのルールについて、分別の必要性について、
収集日を守ることの大切さについて。
このままでは衛生面で問題が起きること、
近隣住民全員に迷惑がかかることを、
誠意を込めて伝えた。

男は腕を組んで聞いていたが、
浩一が話し終えると、肩をすくめた。

「自分は全く気にしないよ」

そう言い残して、男は去っていった。

それから数日後、
同じようなことが何度も起きた。
掃除をしている目の前にゴミを捨てられる。
注意すると
「あなたが掃除するんでしょ?」と言われる。
ある女性は
「私の国ではこれが普通」と笑って答えた。

浩一の理想は、少しずつ崩れていった。

転機が訪れたのは、ある土曜日の午後だった。

買い物に行こうと歩道を歩いていると、
背後からエンジン音が近づいてきた。
次の瞬間、制御を失った軽自動車が
歩道に乗り上げてきた。
浩一は咄嗟に飛びのいたが、
バランスを崩して転倒した。
持っていたトートバッグが地面に叩きつけられ、
中身が散乱した。
財布、スマートフォン、鍵、文庫本――。

車は去っていった。
浩一は膝を擦りむき、手のひらから血が滲んでいた。
痛みをこらえながら立ち上がろうとしたとき、
小さな影が近づいてきた。

十歳くらいの少年だった。
近所でよく見かける外国人家族の子供だ。
浩一は安堵した。

「ありがとう、手伝ってくれるんだね――」

しかし少年は、浩一のスマートフォンと
財布を素早く掴むと、走り出した。

「待って! それは僕の!」

浩一は痛む足を引きずりながら追いかけた。
少年は振り返り、日本語で叫んだ。

「落ちていたものを拾っただけだ!」

そして、路地裏に消えていった。

浩一は立ち尽くした。
膝の痛みよりも、
心の痛みの方が遥かに大きかった。

警察に届けを出し、カードを止め、
スマホの遠隔ロックをかけた。
幸い、スマホは翌日、駅のゴミ箱で見つかった。
財布は戻ってこなかった。

その夜、浩一は自室で一人、深く考え込んだ。

生まれた環境が違えば、常識も違う。
育った文化が違えば、倫理観も違う。
同じ日本人同士でさえ、
価値観の相違で話が通じないことがある。
ならば、根本的に異なる文化背景を持つ人々と、
本当に「分かり合える」のだろうか。

日本人は――もちろん例外はあるが
――世界的に見ても、公共のルールを守り、
他者への配慮を重んじる傾向が強い。
それは長い歴史の中で培われた文化だ。
しかし、その「当たり前」は、
決して世界共通の「当たり前」ではない。

浩一は、自分の理想主義が、
ただの甘さだったことに気づいた。

誠意は通じる
――それは同じ土台に立つ者同士の話だ。
土台が違えば、誠意は届かない。
いや、誠意と認識すらされない。

翌週から、浩一は変わった。

ゴミを投げ捨てる人を見つけたら、
年齢も性別も国籍も問わず、厳しく注意した。
曖昧な笑顔は消え、明確な言葉で
「やめてください」と伝えた。
従わない者には、管理会社に通報し、
警察に相談した。

優しさと甘さは違う。理解と黙認は違う。

誠意を持って接することと、
ルール違反を見逃すことは、
まったく別のことだった。

浩一はもう、無条件に
「分かり合える」とは思わなくなった。
しかし、
それは人間不信になったわけではなかった。

ただ、彼は学んだのだ。

共生するためには、
時に厳しさが必要だということを。
ルールは、誠意だけでは守られないということを。
そして、理想を持ちながらも、
現実を直視する強さが必要だということを。

しかし、浩一の新しい姿勢は、
予想外の反応を引き起こした。

それは、厳しく注意を始めてから
二週間ほど経ったある夜のことだった。

仕事から帰宅すると、
自室の窓ガラスにひびが入っていた。
カーテンの隙間から覗くと、床に石が転がっている。
慌てて窓を開けると、
下の路地から複数の笑い声が聞こえた。

翌日の夜も、翌々日も、石は投げ込まれた。

そして、ある朝。

ゴミ置き場で分別作業をしていると、
背後から突然、強い力で突き飛ばされた。
浩一は前のめりに倒れ、
額をコンクリートにぶつけた。
視界が揺れる中、
誰かが去っていく足音が聞こえた。

警察に相談したが、証拠がないと言われた。
防犯カメラの設置を勧められたが、
賃貸アパートでは容易ではなかった。

浩一は警戒しながら生活するようになった。
夜は早めに帰宅し、窓にはカーテンを厳重に閉めた。
ゴミ置き場での清掃も、
周囲を確認しながら行うようになった。

ある土曜日の午前中、
浩一がコンビニに向かって歩いていると、
向こうから見知った顔が近づいてきた。

「おはよう! 田中さん!」

明るい声で挨拶してきたのは、
二階に住む外国人家族の父親、ラジーブだった。
四十代前半、IT企業で働く真面目な男性だ。
妻と二人の子供と暮らしていて、
いつも笑顔で挨拶を交わしてくれる。
子供たちの日本語の宿題を
手伝っている姿も見たことがある。

「あ、おはようございます」

浩一が返すと、ラジーブは満面の笑みで続けた。

「今日はいい天気ですね。
週末、どこか出かけるんですか?」

「いえ、ちょっと買い物に……」

「そうですか。うちは午後から公園に行くんですよ。子供たちが楽しみにしていて」

ラジーブは本当に幸せそうだった。
ごく普通の、平凡な家族の父親。
地域に溶け込もうとしている、善良な隣人
――浩一はそう思っていた。

しかし、その夜。

浩一が自室で本を読んでいると、
また石が窓に当たる音がした。
今度は窓ガラスを貫通し、
部屋の中まで石が飛び込んできた。

浩一は慌てて窓辺に駆け寄り、外を見下ろした。

街灯の光の中に、複数の人影が見えた。
その中の一人が、浩一を見上げて手を振った。

凍りついた。

それは、ラジーブだった。

彼の隣には妻がいた。
そして、彼らの友人と思われる外国人たちが数名。
彼らは笑いながら、何か言葉を交わしている。
ラジーブの妻が、
まるで悪戯を楽しむ子供のように、
笑顔で次の石を拾い上げた。

浩一の頭の中が真っ白になった。

あの優しい笑顔は何だったのか。
あの気さくな挨拶は何だったのか。

翌朝、また会った。

「おはよう、田中さん! 昨夜はよく眠れましたか?」

ラジーブは同じ笑顔で、同じ調子で挨拶してきた。
まるで何事もなかったかのように。

浩一は答えられなかった。
ただ頷いて、足早にその場を去った。

帰宅後、浩一は震える手で
コーヒーカップを持ちながら考えた。

彼らにとって、投石は挨拶の延長なのだろうか。
いや、違う。これは報復だ。
ルールを守らせようとする者への、
明確な敵意の表明だ。

しかし、それが昼間の笑顔と矛盾なく両立している。
善良な家庭人の顔と、夜の暴力の顔が、
彼らの中で何の葛藤もなく共存している。

浩一は理解した。

彼らは悪人ではない。
ただ、価値観が根本的に違うのだ。
「注意されることへの報復」が、
彼らの文化では許容される
――いや、当然の権利なのかもしれない。
公共のルールよりも、
個人の面子や自由が優先される世界観。

そして、二つの顔を使い分けることに、
何の罪悪感も感じていない。

窓の外では、相変わらず多国籍な住民たちが
行き交っている。
ラジーブが子供たちと手をつないで歩いている。
彼は浩一の部屋の窓を見上げ、また手を振った。

浩一は窓から離れ、カーテンを引いた。

理想は死んだ。

そして今、浩一は新たな恐怖と向き合っていた。

共生とは何か。理解とは何か。

誠意が通じない世界で、どう生きるべきなのか。

答えは、まだ見えなかった。

しかし、浩一は何もせずにいられなかった。
知らなければならない。理解しなければならない。

その夜から、浩一は調べ始めた。

移民と社会の関係について。文化の衝突について。
歴史上、異なる民族や文化がどのように共存し、
あるいは共存できなかったのかについて。

パソコンの画面に向かい、論文を読み、
歴史書を紐解いた。
そこで浩一が目にしたのは、
自分が想像もしていなかった現実だった。

ローマ帝国。
かつて地中海世界を支配した大帝国は、
後期には大量のゲルマン民族を受け入れた。
彼らは兵士として、労働者として帝国を支えた。
しかし、やがて彼らは帝国内で
独自の勢力を形成し、
ついには476年、西ローマ帝国は崩壊した。

ビザンツ帝国。
東ローマ帝国として千年続いた国家も、
セルジューク・トルコの移住と侵入により、
徐々にその領土を失っていった。

インドのムガル帝国。
イスラム教徒の支配層と
ヒンドゥー教徒の民衆の文化的断絶は、
最終的に帝国の分裂を招いた。

もっと近代の例もあった。

レバノン。
かつて「中東のスイス」と呼ばれた繁栄国は、
パレスチナ難民の大量流入後、
宗教間の内戦に突入し、
十五年以上も続く混乱に陥った。

コソボ。
セルビア人が多数派だった地域に、
アルバニア系住民が増加し、
やがて人口構成が逆転。
民族対立は激化し、
最終的に独立紛争へと発展した。

浩一は画面を凝視したまま、動けなくなった。

これらはすべて、遠い昔の話でも、
遠い国の話でもなかった。
人類の歴史が繰り返し証明してきた、
厳然たる事実だった。

異なる文化、異なる価値観を持つ集団が
同じ土地に住むとき、必ずしも調和は生まれない。
むしろ、摩擦が生じ、対立が深まり、
やがて社会の根幹が揺らぐ。

それは差別の問題ではない。
人種の優劣の問題でもない。
ただ、「異なるルールで生きる人々が、
同じ空間で共存することの困難さ」という、
冷徹な現実があるだけだった。

浩一は椅子に深く座り込み、両手で顔を覆った。

「俺は……何も知らなかった」

大学時代、
国際交流サークルで留学生と仲良くなった。
彼らは教養があり、礼儀正しく、
日本のルールを尊重してくれた。
だから浩一は思い込んでいた。
「みんな分かり合える」と。

しかし、
それは選ばれた少数のエリートとの交流だった。
高等教育を受け、異文化への適応能力を持つ人々。
彼らは移民全体のごく一部に過ぎなかった。

大多数の移民は、自分たちの文化、
自分たちの価値観、
自分たちの生き方を変えようとしない。
なぜなら、
それが彼らにとっての「当たり前」だからだ。

そして、その「当たり前」が衝突したとき、
数の力が物を言う。

浩一のアパート周辺で起きていることは、
世界中で、歴史上何度も繰り返されてきたことの、
小さな縮図に過ぎなかった。

パソコンの画面には、
また別の資料が表示されていた。
ヨーロッパの都市部で形成される
「ノーゴーゾーン」について。
地元住民が近づけなくなった地域。
警察すら入れない移民の自治区。

浩一は震える手でマウスを握った。

「俺の理想主義は……愚かだった」

誠意を持って話せば分かり合える。
それは、同じ前提を共有する者同士の話だった。
同じ教育を受け、同じ社会規範を学び、
同じルールを尊重する意思がある者同士の話だった。

しかし現実には、
その前提が成立しない人々が大勢いる。
そして、その事実から目を背け、
「分かり合える」という理想だけを掲げることは、
無責任以外の何物でもなかった。

浩一は自分の過去を思い返した。

「日本人は排他的だ」という批判を聞くたびに、
「いや、もっと寛容になるべきだ」と思っていた。
「多様性は素晴らしい」という言葉を、
疑いもせず信じていた。

しかし、多様性を守るためには、
共通のルールが必要だった。
そのルールを守る意思がない者を受け入れれば、
多様性ではなく無秩序が生まれる。

そして、無秩序は必ず、社会の崩壊につながる。

歴史がそれを証明していた。何度も、何度も。

なぜ自分はそれを知らなかったのか。
なぜ学ばなかったのか。

浩一は悔恨の念に襲われた。

自分の無知が、自分の理想主義が、
どれほど危険だったか。
もし自分のような考えの人間が
社会の多数派だったら。
もし政策決定者が自分のような
甘い考えを持っていたら。

この国は、滅ぶ。

それは大げさな表現ではなかった。
歴史上、実際に起きたことなのだから。

窓の外では、また石が投げられる音がした。

浩一は窓には近づかなかった。
ただ、暗い部屋の中で、
パソコンの光だけが彼の顔を照らしていた。

理想は死んだ。

そして浩一は知った。

自分の理想が、
どれほど愚かで、どれほど危険だったかを。

知らないことが、どれほど罪深いことかを。

今、彼にできることは何なのか。

答えは、まだ見えなかった。

しかし、一つだけ確かなことがあった。

二度と、無知であってはならない。

二度と、目を背けてはならない。

たとえそれが、どれほど残酷な真実であっても。

 

 

第九十三弾の続きです

 

 

 

# 強制された平和

ホワイトハウスの大統領執務室で、
ジョン・トンプソン大統領は眼の前の人物が
どういう人物なのかを考え、
頭をフル回転させていた。

先日、アメリカ上空に突然現れた巨大な浮遊物体。
情報局と米軍が追っていた

カブトムシ怪人を解放させ、アメリカを脅した組織。
その代表が目の前に立っていた。

フレデリック・D・マクミランと名乗った
その人物は、突然トンプソン大統領の
眼の前に現れた。
説明によれば、彼は今L'sコーポレーションの
会長をしているという。
絶対に秘密にすると約束させた上での告白だった。

トンプソンは驚きを隠せなかった。
L'sコーポレーションは数年前にアメリカで創業し、
瞬く間に大企業になり、各国に支社を作った多国籍企業。
その技術力は地球の現代の技術レベルを
遥かに凌駕していて、
アメリカの情報部も全力で調査したが、
全く情報を得られなかった企業だ。

その裏にこんなカラクリがあったとは・・・。

「我々の思惑に反しない限りは、
従来通り干渉しません」

フレデリックの言葉は穏やかだったが、
トンプソンにはその裏の意味が痛いほど分かった。
支配や征服を望んでいるわけではないらしい。
しかし、彼の命令一つで国や
世界が簡単に滅ぼされるという脅しでもある。
逆らったら終わりということだ。

「欲を出し過ぎず、
真面目に暮らせば平和を約束します

多少の改善は要求しますが・・・。」

フレデリックはそう言うと、
現れた時と同じように消え、
ホワイトハウスを去った。

---

それから数日で、
世界のあらゆる戦争が終わった。

国境を超えた国の軍隊は、
全て瞬時に消滅させられた。
紛争地域も強制的に会談が再開させられた。
C国等が行っていた武力を使わない戦争も、
全て終了させられた。

---

最初に反発したのはR国だった。

クレムリンの会議室で、
ウラジーミル・ペトロフ大統領は拳で机を叩いた。

「我が国は誰の命令も受けない!
これは主権への侵害だ!」

R国軍は国境付近に展開していた部隊を引き上げず、
さらに増強した。
示威行動のつもりだった。
国家の威信を守るために、
引き下がるわけにはいかなかった。

その翌日、午前9時23分。

R国の極東軍管区司令部が、跡形もなく消失した。
建物だけではない。
半径500メートル内の全てが、
文字通り「無くなった」。
地面にはただ完璧な球形の空洞が
残されただけだった。

幸いなことに――いや、意図的にだろう
――司令部の人員は全員、
事前に建物の外に転送されていた。
彼らは自分たちがいた場所が消滅する様子を、
目の前で見せられた。

ペトロフ大統領に届けられた映像には、
兵士たちが呆然と立ち尽くす姿が映っていた。
ある者は泣き、ある者は地面に崩れ落ち、
ある者は狂ったように笑っていた。

だがペトロフは引かなかった。
いや、引けなかった。

「これは脅しだ。
実際に人を殺してはいない。
奴らにも限界がある」

R国軍は核ミサイルの発射準備に入った。
世界を道連れにする覚悟だった。

その瞬間だった。

R国全土の核兵器が、同時に消失した。
大陸間弾道ミサイル、
戦略爆撃機に搭載された核爆弾、
原子力潜水艦の核魚雷。
全てが、である。

さらに、モスクワ上空に巨大な浮遊物体が出現した。
それは太陽を遮り、首都全体を影で覆った。

その物体から、一つの映像が全てのスクリーンに
――テレビ、スマートフォン、パソコン、
街頭の電光掲示板、
あらゆるディスプレイに映し出された。

顔の見えない黒い人影だった。

「R国の皆さん、ペトロフ大統領。
これは最後の警告です」

彼の声は穏やかだったが、
その背後には測り知れない力が感じられた。

「次に反抗した場合、
あなた方の国の全ての軍事施設、
全ての政府機関の建物を消失させます。
そして――」

F.D.Mは少し間を置いた。

「ペトロフ大統領を含む、政府高官全員を、
24時間、宇宙空間に転送します。
宇宙服なしで、です。
その後、生存していれば地上に戻します」

映像の背後に、
地球を宇宙から見た光景が映し出された。
そこに人間の姿が浮かんでいる様子が
シミュレーションで示された。
凍結し、窒息し、
苦しみながら死んでいく様子が。

「これは脅しではありません。
能力の提示です。選択してください」

映像は消え、巨大物体も姿を消した。
しかしモスクワの空には、
一時間ほど完璧な円形の影の跡が残っていた。
雲さえも、その形に押しのけられていた。

ペトロフ大統領は震えていた。
側近たちも青ざめていた。

R国は、それから一切の反発を止めた。

---

C国の反応は、より計算されていた。

北京の中南海で、
習近林国家主席は冷静に状況を分析していた。

「R国の失敗から学ぼう。
直接的な軍事対決は無意味だ。
しかし、我が国の主権と尊厳は
守らなければならない」

C国は表面上は従う姿勢を見せながら、
秘密裏にサイバー攻撃を開始した。
米国が掴んだ情報を盗み

相手の正体を知ろうと奔走
そして世界中のネットワークを使った
対抗策の模索。

C国の技術力は地球上で最高レベルだった。
数千人のハッカーが、
国家の威信をかけて攻撃を仕掛けた。

それは、わずか3分で終わった。

突然、C国の全てのインターネット接続が
遮断された。
完全に、完璧に。
国内のネットワークさえも機能しなくなった。
携帯電話の通信も、衛星通信も、
全てが停止した。

14億人が、瞬時に外部との接続を失った。

それだけではなかった。

C国の主要な軍事施設
――東海艦隊司令部、瀋陽軍区司令部、
戦略支援部隊のサイバー戦部門
――の建物が、次々と「浮上」し始めた。

文字通り、地面から離れ、
空中に浮かび上がったのだ。

建物内にいた人員は全員、
事前に地上に転送されていた。
そして彼らの目の前で、
自分たちの職場が高度1000mまで上昇していった。

そこで24時間、建物は浮遊し続けた。

世界中のメディアがその光景を撮影した。
C国は何も隠すことができなかった。
いや、隠す手段そのものを奪われていた。

24時間後、
建物はゆっくりと元の場所に戻された。
完璧に、傷一つなく。
しかし内部のあらゆるデータは消去されていた。
代わりに、全てのコンピューターに
同じメッセージが表示されていた。

「次は、戻しません」

インターネット接続は回復した。
しかしC国の情報機関は知った。
彼らの「グレート・ファイアウォール」は
無意味だと。
彼らのサイバー技術は、
子供の遊びに過ぎないと。

さらに、習近林主席の執務室に、
一通の手紙が現れた。
誰も入れない、最高レベルのセキュリティで
守られた部屋に、である。

手紙にはこう書かれていた。

「習近林主席へ。
あなたの個人資産の詳細、あなたの家族の居場所、
そしてあなたが過去に下した全ての命令の記録を、
私は保有しています。
これらは現在、暗号化された状態で
世界中のサーバーに分散保存されています。
次の反抗があった場合、全てを公開します。
あなた個人だけでなく、
政治局常務委員全員の情報も含めて。
選択は、あなた次第です。――F.D.M」

習主席は手紙を読み終えると、
震える手でそれを破り捨てた。
しかし破片は空中で発光し、消失した。
そして新しい手紙が、
机の上に現れた。全く同じ内容の。

C国もまた、それから一切の反発を止めた。

---

世界は理解した。

反抗する選択肢は、そもそも存在しないのだと。

---

国連本部、ニューヨーク。

緊急安全保障理事会が招集された。
しかし、会議が始まる前に、
全ての代表団の端末に同時にメッセージが届いた。

送信者は、F.D.M。

会議室の大スクリーンに、

顔の見えない黒い人影が映し出された。
今回は映像ではなく、リアルタイムの通信だった。

がその声は合成音声だった。

「国際連合の皆さん、
お時間をいただきありがとうございます」

F.D.Mの声に、会議室は静まり返った。

「私は今日、
あなた方に一つの質問を投げかけたいと思います。
国際連合は、本当に『国際』を代表していますか?」

スクリーンに次々とデータが表示され始めた。

「1945年の設立以来、
常任理事国5カ国が拒否権を行使した回数。
アメリカ合衆国83回、イギリス29回、
フランス16回、R国とその前身である
ソビエト連邦118回、C国17回」

「この拒否権によって阻止された
決議案の内容を見てみましょう。
人道支援、虐殺の停止、平和維持活動の展開。
多くの国々が賛成した提案が、
たった一カ国の反対で無効になりました」

会議室にざわめきが広がった。
多くの小国の代表が頷いていた。

「次に、国連予算の分担金を見てみましょう。
上位10カ国で全体の約70%を負担しています。
しかし、決定権は金額に比例していません。
いや、むしろ――」

F.D.Mは少し間を置いた。

「1945年の戦勝国という、
80年前の地位によって決まっているのです」

スクリーンに、過去の紛争で
国連が介入に失敗した事例が次々と表示された。
ルワンダ虐殺、スレブレニツァの虐殺、

シリア内戦、ウクライナ戦争。

「これらの悲劇が起きた時、
国連は何をしていましたか?
常任理事国の一カ国が拒否権を発動し、
何も行動できませんでした。
何百万人もの命が失われる中で、
あなた方は『会議』を続けていました」

F.D.Mの声は、依然として穏やかだった。
しかしその言葉は、
会議室にいる全員の心に突き刺さった。

「私はあなた方に強制はしません。
しかし、提案します。
国際連合を、真に『国際的』な組織に
改革してください。
全ての加盟国が平等な発言権を持つように。
一部の国が特権を持つのではなく、
人類全体の意思が反映されるように」

「あなた方には7日間の猶予を与えます。
改革案をまとめてください。
もし7日後も現状維持を選ぶのであれば――」

F.D.Mは、初めて冷たい声色を発した。

「国際連合本部のこの建物を、国際司法裁判所、
そして全ての国連関連施設とともに、
南極大陸に移転させます。
物理的に。建物ごと。
そこで、あなた方は好きなだけ
『会議』を続けることができます」

映像は消えた。

会議室は騒然となった。
常任理事国の代表たちは激昂し、
小国の代表たちは
――多くが、複雑な表情で沈黙していた。

アメリカのトンプソン大統領の代理として
出席していた国連大使、
マイケル・チェンが立ち上がった。

「議長、発言を求めます」

驚いたことに、チェンは冷静だった。

「F.D.M氏の指摘は、多くの点で正しい。
我々は80年間、同じシステムにしがみついてきた。
そしてその間、
数え切れないほどの悲劇を防げなかった」

R国の代表が立ち上がろうとしたが、
チェンは続けた。

「アメリカ合衆国は、
拒否権の放棄を含む国連改革を支持します」

会議室が静まり返った。

フランスの代表が立ち上がった。

「フランス共和国も、改革を支持します。
我々は特権にしがみつくのではなく、
真の国際協調を選びます」

一つ、また一つと、
国々が改革支持を表明し始めた。
イギリス、ドイツ、日本、ブラジル、インド。

最後まで沈黙していたR国とC国の代表も、
最終的には「検討する」と述べざるを得なかった。
彼らは最近の「教訓」を思い出していた。

---

7日後、国連改革案が発表された。

**主要な改革内容:**

1. 常任理事国制度の廃止。
全ての加盟国が平等な投票権を持つ。
2. 拒否権の完全撤廃。
重要決議は加盟国の2/3以上の賛成で可決。
3. 地域ごとの代表制導入。
各地域から選出された代表国が、
交代制で安全保障理事会を構成。
4. 緊急人道介入の手続き簡素化。
虐殺や大規模な人権侵害には、迅速な対応を可能に。
5. 透明性の向上。全ての会議と決議過程を公開。

しかし、発表の直前に、
もう一つのメッセージが国連に届いた。

「改革案を拝見しました。良い内容です。
しかし、一つ重要な項目が欠けています」

F.D.Mの声は、今度は録音ではなく、
国連総会議場に直接響き渡った。
誰もその音源を特定できなかった。

「人類の歴史には、
未だ清算されていない負債があります。
植民地支配という名の略奪と虐殺。
数百年にわたる搾取と抑圧。
そして現在に至るまで、
加害国の多くは公式な謝罪も、
適切な賠償も行っていません」

スクリーンに、世界地図が表示された。
かつての植民地が赤く染まっていく。
アフリカ大陸のほぼ全域、アジアの大部分、
南米、オセアニア。

「これらの地域で行われたこと。
資源の略奪、文化の破壊、言語の強制、
奴隷貿易、虐殺。
そして『独立』という名目で放棄した後も、
経済的支配は続いています」

次に表示されたのは、具体的な数字だった。

「イギリスがインドから奪った富。推定45兆ドル。
フランスがアフリカ諸国に今も課している
『植民地税』。年間約5000億ドル。
ベルギーがコンゴで行った虐殺。
1000万人以上の犠牲者。
オランダがインドネシアで。
スペインとポルトガルが南米で。
ドイツがナミビアで」

「これらの国々は、自国では人権と
民主主義を語ります。
しかし被害国に対しては、『過去のこと』
『当時は合法だった』と主張し、
責任から逃れています」

会議場のヨーロッパ諸国の代表たちは、
青ざめていた。

「したがって、
改革案に以下の項目を追加してください」

F.D.Mの声は、厳格になった。

「第6項:歴史的清算委員会の設置。
過去に植民地支配を行った国家は、
90日以内に被害国との公式会合を開催すること。
そこで、公式な謝罪と、
適切な賠償について協議すること」

「賠償の形態は、各国間の協議に委ねます。
金銭的賠償、技術移転、教育支援、
文化財の返還、負債の免除など、
双方が合意できる形で構いません。
しかし、協議そのものを拒否すること、
誠意のない対応を取ることは、許されません」

イギリスの代表が立ち上がった。

「それは内政干渉だ!我が国は既に――」

その瞬間、彼の姿が消えた。

5秒後、彼は同じ場所に戻ってきた。
しかし全身ずぶ濡れで、海藻が髪に絡まっていた。
明らかに海中に転送されていたのだ。

「内政干渉ですか?
では、あなた方が他国を
植民地にしていたことは何と呼びますか?」

F.D.Mの声は、依然として穏やかだった。

「繰り返します。これは強制ではありません。
選択です。

誠実に過去と向き合い、被害国と対話するか。
それとも拒否して、相応の結果を受け入れるか」

「なお、公式会合の内容は全て記録され、
国際社会に公開されます。
形だけの謝罪、不誠実な態度、
被害国を見下すような発言。
全てが世界中に知られることになります。
どのような姿勢で臨むかは、
各国の判断に委ねます」

沈黙が会議場を支配した。

フランスの代表が、震える声で言った。

「アフリカ14カ国との会合を、
直ちに設定します」

イギリスの代表も、水を滴らせながら頷いた。

「インド、南アフリカ、ケニア、
その他旧植民地諸国との協議を開始します」

オランダ、ベルギー、スペイン、ポルトガル。
次々と、かつての植民地大国が
会合の開催を約束した。

「賢明です」
F.D.Mは言った。

「人類が真に前進するためには、
過去を直視しなければなりません。
謝罪は弱さではなく、成熟の証です」

---

改革案に第6項が追加され、最終版が発表された。

発表の翌日、
F.D.Mから国連事務総長に
一通のメッセージが届いた。

「賢明な判断です。
人類は、ようやく一歩前に進みました。
この改革を実行に移してください。
私は見守っています」

トンプソンは執務室の窓から外を眺めた。
世界各国の首脳から次々と連絡が入ってくる。
誰もが混乱し、誰もが恐怖していた。
しかし同時に、長年続いた紛争が終わった
という事実もあった。

「これは平和なのか?」

トンプソンは自問した。

確かに戦争は止まった。
人々の命は救われた。
しかし、それは人類の意志ではなく、
圧倒的な力による強制だった。

副大統領のサラ・ジョンソンが部屋に入ってきた。

「大統領、国連から緊急会議の要請が来ています」

「分かっている。
だが、何を話せばいい?我々には選択肢がない」

「それでも、話し合わなければなりません。
この新しい現実に、どう対処するかを」

トンプソンは深くため息をついた。
人類は新しい時代に入った。
それは望んだ形ではなかったが、
後戻りはできない。

窓の外では、
いつもと変わらない日常が続いていた。
人々はまだ、
世界が根本的に変わってしまったことに
気づいていない。

「皮肉なものだ」
トンプソンは呟いた。

「この強大な侵略者のおかげで、
世界は少し前進した」

それは征服でも支配でもなかった。
ただ、人類に選択の余地を与えない、
絶対的な力による平和の押しつけだった。

歴史家たちは、この日をどう記録するのだろうか。
人類が自由を失った日か。
それとも、
ようやく愚かな争いから解放された日か。

トンプソンには、まだ答えが見つからなかった。

 

第七十二弾の続きで

カブトムシ怪人の続編を作りました

米国のヒーロー映画を見て

いつも微妙に思っていたのが

政府がすぐにヒーローを

管理下に置こうとしたり

「大いなる力には大いなる責任が伴う」

とか勝手な論理を押し付けたりする点でした

何故 相手の勝手な言い分に従わないといけないのか?

暴走するかもしれないと

勝手に危機感を持ち

何もしていないのに拘束しようとする

こういう横暴は許せません

よってまずは米国政府を屈服させる事にしました

屈服させたからといって別に征服するわけではありません

結局 平和を実現するには強力な力が必要だという事です

一番強い人が平和を望み、それに異を唱えるものを

力で押さえれば一番強い人が望む平和は続きます

人類の平和はこうでもしないと実現不可能ですね

歴史を学べばよく解ります

力を必要としない平和なんて

永遠に実現した夢想に過ぎません

それでも少しでも争いを減らす

モチベーションの糧にはなるから

言うだけはいいと思います

あくまでも実現しない事を理解した上で・・・

 

 

 

# 甲虫の騎士

ダン・フランシスコの人生は、
決して平坦ではなかった。
貧しい家庭に育ち、
大学進学の夢は早々に諦めざるを得なかった。
だが彼は腐らず、遺跡発掘のアルバイトで
日銭を稼いでいた。

運命が動いたのは、あの日だった。

発掘現場の奥深く、
誰も気づかなかった石棺の中から、
琥珀色に輝く古代のカブトムシが現れた。
それは数千年の眠りから覚めるや否や、
ダンの胸へと飛び込み、
彼の身体と融合したのだ。

激痛。そして、目覚め。

ダンは気づいた。自分が変わったことに。
意思一つで漆黒の外骨格を纏い、
人間を超えた力を発揮できるようになったことに。

彼はその力を秘密にした。
ただ、事故や事件が起きた時だけ、
カブトムシ怪人へと変身し、人々を助けた。
いわゆるヒーロー活動だ。
派手さはなく、ただ誰かの命を守るために。

だが、正義には代償がついてくる。

***

「出て来い、カブトムシ野郎!」

拡声器から響く声に、ダンは歯噛みした。
偽の情報——ビル火災の通報——に誘き寄せられ、
今や彼は完全に包囲されていた。
アメリカ陸軍と特殊作戦部隊。
少なくとも百人はいる。

指揮官が前に出た。
中年の男で、冷徹な目をしている。

「君のような過ぎた力は、
政府がコントロールする必要があるんだ。
平和のために協力してくれ」

平和。
その言葉の裏に隠された本音を
ダンは理解していた。
支配したいだけだ。
言うことを聞かなければ実力行使か、
親類を人質に取るつもりだろう。

だが、答えは決まっていた。

「NO」

ダンの返答と同時に、
指揮官が腕を振り下ろした。

「全軍、発砲開始!」

一斉射撃。

M4カービンの銃声が空気を引き裂いた。
数十の銃口から火を噴き、
5.56mm弾が雨あられとダンに降り注ぐ。
だが、変身したダンの漆黒の外骨格は、
まるでダイヤモンドのように硬質だった。
弾丸は次々と弾かれ、
火花を散らしながら地面に落ちていく。

「効いていない!」

「カールグスタフ、用意!」

特殊作戦部隊の二人の兵士が、
84mm無反動砲を構えた。
一人が砲身を肩に担ぎ、
もう一人が弾薬を装填する。対戦車榴弾だ。

「後方爆風注意! 発射!」

ドォン!

鈍い爆発音と共に、後方に炎が噴き出し、
84mm弾がダンに向かって飛来する。
秒速310メートル。
だがダンは、その弾道を見切っていた。
右腕を前に突き出し、掌で砲弾を受け止める。

爆発。

炎と黒煙がダンを包み込んだ。
周囲の兵士たちが一瞬、歓声を上げかけた。

だが——

煙の中から、無傷のダンが姿を現した。
外骨格に焦げ跡一つない。

「馬鹿な……」

「戦車を呼べ! 今すぐだ!」

遠方からM1エイブラムス戦車が二台、
轟音を立てて接近してくる。
120mm滑腔砲がダンに照準を合わせた。

「発射!」

ズドン!

耳を劈く砲撃音。砲弾がダンの胸部に直撃した。

だが、ダンは立っていた。

足元の地面が砲撃の衝撃でクレーター状に陥没し、
周囲の窓ガラスが全て粉々に砕け散った。
それでもダンは、わずかに後退しただけで、
立ち続けていた。

「これは……人間じゃない……」

恐怖が兵士たちの顔に浮かぶ。

「引き下がるな! 継続射撃!」

再び銃弾の雨。
今度はより重火器が加わった。
M2重機関銃の12.7mm弾、
MK19グレネードランチャーの40mm榴弾。
爆発と銃声が途切れることなく響き渡る。

ダンは苛立ちを覚えた。
彼らは止まらない。
母親はどこにいる? このままでは——

「もう、やめろ!」

ダンは右腕を大きく振った。

瞬間、目に見えない風圧の刃が放たれた。

最前列の兵士たち十数人が、
まるで目に見えない巨人に
殴られたかのように吹き飛ばされた。
装甲車が横転し、
路上に展開していた機関銃座が吹き飛ぶ。
兵士たちは空中で回転し、地面に叩きつけられ、
呻き声を上げた。

「ひるむな! 包囲を維持しろ!」

指揮官が叫ぶが、その声は震えていた。

戦車が再び砲撃の準備をする。
ヘリコプターが上空に現れ、
ミサイルを発射しようとしている。

そのとき、
指揮官の背後から別の車両が近づいてきた。

後部ドアが開いた。

「ダン!」

その声に、ダンの心臓が凍りついた。

母親だった。
兵士に両腕を掴まれ、恐怖に顔を歪めている。

「いつ……どこで……」

正体がバレたのか。
混乱が頭を駆け巡る。
母親を人質に取られては、どうしようもない。

ダンは拳を握りしめた。
そして、ゆっくりと両手を上げた。

「わかった。降伏する。
だから、母さんには手を出すな」

指揮官が満足げに頷いた瞬間。

世界が、暗転した。

***

周囲がざわめく。
昼間だったはずの空が、突然夜のように暗くなった。

「何だ……?」

ダンも、兵士たちも、同時に空を見上げた。

そこには、巨大な物体が浮かんでいた。

都市を覆うほどの大きさ。
表面は鏡のように滑らかで、
どこか有機的な曲線を描いている。
つい一秒前には何もなかったのに、
まるで空間そのものが裂けて
現れたかのようだった。

「これは……何だ?」

指揮官の声が震えている。

その巨大物体から、一筋の赤い光が伸びた。

レーザーではない。
もっと純粋な、破壊の意思を体現したような光。
その先には——

ホワイトハウスがあった。

突然、頭の中に声が響いた。
ダンだけでなく、
その場にいる全員の脳内に直接響く声。

**『そこのカブトムシ人間を解放しない場合、
アメリカを消滅させる』**

周囲が凍りついた。

**『まず手始めにホワイトハウスを
粉微塵にして大統領を抹殺する。
一応言うが、シェルターなど無意味だ』**

兵士たちは戸惑い、指揮官は蒼白になった。
誰もが同じことを考えていた
——これは脅しではない。

ダンもまた、戸惑っていた。
この空に浮かぶ物体を、
彼も初めて見たのだから。

「おい、命令を! どうすれば……!」

指揮官の無線機から、
パニックに陥った上層部の声が漏れ聞こえる。
だが、答えは返ってこない。
誰も、この状況に
どう対処すればいいのかわからないのだ。

赤い光がより強く輝き始めた。

「待て! 待ってくれ!」

指揮官が叫んだ。

「解放する! 今すぐ解放する!」

兵士たちが母親を解放し、ダンの拘束も解く。

だが、赤い光は消えなかった。

**『賢明な判断だ。
だが、これだけでは不十分』**

声が続ける。

**『今後、このカブトムシ人間を含む、
いかなる超常的存在に対しても、
政府による強制的な管理・拘束を
一切行わないこと。
これを全世界に向けて宣言せよ』**

指揮官が無線機に向かって叫ぶ。

「聞いたか! 大統領に伝えろ! 今すぐだ!」

数分後、
全世界のメディアに緊急放送が流れた。
アメリカ合衆国大統領による、前例のない声明。
超常的存在の自由を保障する宣言。

その日、
アメリカは正体不明の組織に完全降伏した。

***

空の巨大物体は、声明が終わると同時に消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。

残されたのは、混乱した兵士たち、
呆然とする指揮官、
そして母親を抱きしめるダンだけだった。

「何だったんだ……あれは……」

ダンは空を見上げた。青い空が広がっている。

助けられた。だが、誰に? なぜ?

その答えは、誰も知らない。

ただ一つ確かなのは、
世界が変わったということ。
そして、ダンの戦いは、
これからも続くということだった。

—— 了 ——

第四十弾で活躍した

探偵ジョージ・リチャードソンと

助手のアルヴェルトとラーナのお話の続きです

探偵業から運送業に転職し

スペースオペラ風にしてみました

 

 

# 星間運送船グリーンピース号の航海

## 第一章:新たな航路

ジョージ・リチャードソンは、
かつて探偵として名を馳せた男だった。
助手のアルヴェルト・ドライゼと
ラーナ・ラヴロフスキーと共に、
数々の難事件を解決してきた。
だが、ミダス教を国教とするオーク人民共和国と
ルパート王国の星間戦争が長期化するにつれ、
探偵業への依頼は激減していった。

「このままじゃ干上がっちまう」
ジョージは溜息をついた。

アルヴェルトが冷静な口調で提案した。

「船舶免許なら持っている。
運送業というのはどうだ?」

ラーナも賛成した。

「戦時下では物資輸送の需要は高いわ。
悪くない選択よ」

三人は貯金をかき集め、中古の宇宙船を購入した。
フレームは頑丈だが、
それ以外には取り柄のない船。
彼らはそれを「グリーンピース号」と名付けた。

剣の達人であるアルヴェルトが操縦士、
そして秘密だが実は生体ロボットである
ラーナが航法士、
ジョージが船長という布陣で、
彼らの新しい航海が始まった。

## 第二章:血塗られた航路

グリーンピース号はルパート王国軍の
軍事物資輸送を主な業務とした。
弾薬、食糧、医療品、補給部品
――戦争を支える無数の物資を最前線へと運ぶ。
派手な仕事ではないが、
確実に戦争の要となる重要任務だった。

しかし、その航路は常に危険と隣り合わせだった。

---

セクター7-Gを航行中、警報が鳴り響いた。

「オーク軍の巡洋艦、三隻!」
ラーナが叫んだ。

「距離、八万キロ。高速接近中!」

ジョージは即座に判断した。

「アルヴェルト、回避機動!」

「了解!」

グリーンピース号は急旋回した。
だが重量のある貨物船では、
軍用艦の速度には敵わない。

「レーザー砲、発射されました!」

ラーナの声が緊張で上ずった。

赤い光線が船体を掠めた。
シールドが火花を散らす。

「畜生、もう一発食らったら終わりだ!」

ジョージが歯噛みした。

その時、アルヴェルトが冷静に告げた。

「小惑星帯まであと三十秒。そこに逃げ込む」

グリーンピース号は岩石が浮遊する
小惑星帯へと突入した。
オーク軍の巡洋艦も追撃してくる。

「左舷、大型小惑星!」

ラーナが警告した。

アルヴェルトの手が操縦桁を握る。
剣を振るうような鋭い動き。
グリーンピース号は小惑星の影へと滑り込んだ。

オーク軍の砲撃が小惑星に直撃し、
岩石が爆発した。破片が宇宙空間に飛び散る。

「今だ!」

アルヴェルトは破片の影を利用して急加速。
オーク軍の艦隊をやり過ごし、
小惑星帯を抜け出すことに成功した。

---

## 第三章:海賊の罠

だが、危険はオーク軍だけではなかった。

デネブ星系への補給任務の帰路、
突然、通信が入った。

「こちらルパート王国軍補給艦〈マーシャル〉。
エンジントラブルで漂流中。救援を求む」

ジョージは眉をひそめた。

「ラーナ、確認できるか?」

ラーナがセンサーを走査した。

「……船影を確認。
ただし、エネルギー反応が妙に高い。
エンジントラブルの船にしては――」

「罠だ!」

ジョージが叫んだ瞬間、周囲の宇宙空間が歪んだ。

ステルス機能を解除した
海賊船が四方から姿を現した。

「クソッ、囲まれた!」

海賊船の一隻から通信が入った。
荒々しい男の声。

「よう、お嬢ちゃん達。
おとなしく積み荷を渡せば命だけは助けてやる」

ジョージは舌打ちした。

「アルヴェルト、どうにかできるか?」

「四隻では厳しい。一隻なら……」

アルヴェルトが冷静に分析する。

その時、ラーナが言った。
「私に考えがあるわ」

「何をする気だ?」

「貨物船のフリをするのはもう終わり。
本気を見せましょう」

ラーナの指が高速でコンソールを叩いた。
次の瞬間、グリーンピース号の船体各所から
隠されていた武装が展開した。

「お前、いつの間に武器を!?」

ジョージが驚愕した。

「念のためよ。船長」

ラーナが微笑んだ。
生体ロボットとしての真価を発揮する瞬間だった。

「後部レールガン、発射準備完了。
前方ミサイルポッド、展開」

海賊船が慌てて態勢を立て直そうとした。
だがその隙を、アルヴェルトは見逃さなかった。

「今だ!」

グリーンピース号は急加速し、
海賊船の陣形の間隙を突いた。
同時にレールガンが火を噴く。
一隻の海賊船のエンジン部に直撃し、
爆発炎上した。

「二隻目、追撃してきます!」

「ミサイル発射!」ジョージが命じた。

ラーナが発射ボタンを押す。
小型ミサイルが螺旋軌道を描いて
海賊船へ向かった。

海賊船は回避機動を取ったが、
ミサイルは追尾し続けた。
最終的にシールドを破壊し、
船体に損傷を与えた。

「残り二隻、撤退していきます!」
ラーナが報告した。

アルヴェルトがため息をついた。

「何とかなったな」

ジョージは安堵の息をついてから、
ラーナに向き直った。

「ラーナ、助かった。
お前がいなかったら今頃は海賊の捕虜だったぜ」

「お互い様よ、船長」

しかし次の瞬間、ジョージは頭を抱えた。

「……だが、ミサイル四発も
使っちまったじゃねえか。
あれ一発いくらすると思ってんだ。
五万クレジットだぞ、五万!
合計二十万クレジットが煙と消えた……」

「命の値段と比べれば安いものでしょう」
ラーナが冷静に返した。

「そりゃそうだが……
くそっ、今月の利益がまた飛んだ。
レールガンの弾だって安くねえんだぞ。
整備費もかかるし……」

ジョージはぶつぶつと文句を言い続けた。

「なあ、レールガンをレーザー砲に替えないか? 
エネルギーさえあれば撃ち放題だし、
弾代もかからない。ずっと安上がりだろ」

ラーナが即座に却下した。

「レーザー砲は射程が短いし、威力も不足するわ。
それに発電機の増設が必要。
改装費用だけで百万クレジットはかかる」

「百万……」
ジョージは呻いた。

アルヴェルトが呆れたように言った。

「生きていればまた稼げる」

「わかってるよ! わかってるけど言わせろ!」

ジョージは天井を仰いだ。

「ああ、
探偵業の方がまだマシだったかもしれねえ……」

---

## 第四章:戦場の輸送屋

襲撃は日常茶飯事だった。

ある時は、オーク軍の戦闘機部隊に追い回された。
アルヴェルトの神業的な操縦で、
惑星の大気圏を利用して敵機を振り切った。

またある時は、
オーク軍の機雷原に突入してしまった。
ラーナが瞬時に航路を再計算し、
機雷の隙間を縫うようにして脱出した。

さらに別の時には、
オーク軍の駆逐艦と正面から遭遇した。
絶体絶命の状況で、
ジョージは大胆にもルパート王国軍の
救難信号を発信。
近くにいた王国軍の艦隊が駆けつけ、
間一髪で救われた。

---

それでも、彼らは仕事を続けた。

グリーンピース号が運ぶ物資は、
前線の兵士たちの命を繋ぐものだった。
弾薬がなければ戦えない。
食糧がなければ飢える。
医療品がなければ傷ついた兵士は死ぬ。

派手に評価されることはなかった。
だが、彼らの仕事は確実に戦争を支えていた。

ある日、ルパート王国軍の補給基地で
荷を下ろしていると、
若い兵士が声をかけてきた。

「あんたらが例の運送屋か。噂は聞いてる。
オーク軍の包囲網を突破して
物資を届けたんだって?」

ジョージは照れくさそうに頭を掻いた。

「たまたま運が良かっただけさ」

「いや、あんたらのおかげで俺たちは戦える。
ありがとう」

兵士は敬礼した。

その姿を見て、ジョージは改めて思った。
探偵業とは違う形だが、
自分たちは今も人を助けている。

---

## 第五章:終わらない航海

夜、グリーンピース号の食堂で
三人は酒を酌み交わしていた。

「まさか運送屋がこんなに命懸けだとはな」

ジョージが笑った。

アルヴェルトが淡々と答えた。

「探偵業も命懸けだっただろう」

「それもそうだな」

ラーナがグラスを傾けながら言った。

「でも、悪くないわ。充実感はある」

「報酬もそこそこ良いしな」
ジョージが付け加えた。

三人は笑った。

窓の外には、星々が輝いていた。
戦争は続いている。
オーク人民共和国とルパート王国の戦いは、
まだ終わりが見えない。

だが、彼らは今日も飛ぶ。
グリーンピース号と共に。

危険な宇宙を駆け抜け、誰かの命を繋ぐために。

それが、星間運送船グリーンピース号の、
そしてジョージ・リチャードソンたちの航海だった。

---

**【完】**