最近 こういう人が増えたなぁ~て感じます
まるでかつての植民地政策を
正しい行いだったと信じて
謝罪も賠償もしない欧米のようですね
# 見えない鏡
秋晴れのキャンパスに、美咲の声が響いた。
「私たちの権利を守るために、
もっと多くの人に賛同してほしいんです」
今日の美咲は、先週パリから届いたばかりの
新作バッグを肩にかけていた。
十万円はするだろうそれが、
秋の日差しの中で鈍く光っている。
学生食堂の前で配るチラシを、
通り過ぎる学生たちはほとんど受け取らなかった。
美咲と数人の仲間たち
――皆、ブランド物で身を固めた、
学内で「セレブ集団」と呼ばれるグループだ
――は、半年前から学内での
女性の権利向上を訴える活動を続けていた。
「今日のランチ、例のイタリアンにする?」
仲間の一人が言った。
「昨日インスタで見たパスタ、絶対映えるわよ」
「いいわね。活動の後は港区のカフェで
打ち合わせしましょう。
新しくできたあのお店、めちゃくちゃ可愛いの。
オーガニック素材使ってて、
環境にも配慮してるんだって」
「さすが美咲ちゃん、意識高いわよね」
「美咲ちゃん、そのピアス素敵!」
「これ?先週、母さんのカードで買ったの。
限定品だから即決したわ。
このブランド、フェアトレードにも
力を入れてるの。
私たち、社会貢献してるブランドを選ぶべきよね」
「そうよね。私たちみたいに意識を持って
消費することが大事だわ」
彼女たちの会話を横目に、
学食で三百円のうどんを食べる
学生たちが通り過ぎていく。
「おかしいわ」
美咲は仲間に言った。
「こんなに重要な問題なのに、
なぜみんな無関心なの?」
「まだ時代が追いついていないのよ」
仲間の一人が、新しく買った
ネイルを見せびらかしながら答えた。
「古い価値観に縛られている人が多いんだわ。
私たちみたいに社会問題に目を向けられる人って、
まだ少数派なのよね」
「そうよね。
私たち、ちゃんと意識を持って行動してるもの」
別の仲間が同意した。
「この前読んだ海外のフェミニズム本にも
書いてあったわ。
意識の高い人たちが先導していかないと、
社会は変わらないって」
「昨日も夜中まで、ジェンダー問題の
海外ドキュメンタリー見てたの」
美咲は誇らしげに言った。
「Netflixで配信されてる、あの受賞作。
見たあと、深く考えちゃって。
私たちって、こういう社会課題に
ちゃんと向き合ってるわよね」
美咲は頷いた。
自分たちの主張は正しい。
新しい。進歩的だ。
他の学生たちは
まだそのレベルに達していないだけなのだと。
教室では、美咲たちのグループが入ってくると、
周囲の空気が微妙に変わる。
「また今日もブランド品自慢か」
「親の金でいい暮らししてるくせに、
権利がどうとか言われてもな」
「先週も高級レストランの写真上げてたよね」
「『意識高い系』って自分で言ってるの、
逆に痛いよな」
そんな小声が聞こえても、美咲には届かない。
いや、届いていても気にしない。
むしろ、批判する人たちこそが
「意識が低い」のだと思っている。
講義が始まる前、美咲は仲間に言った。
「ねえ、今度の活動で、
ジェンダーギャップについての
セミナー開かない?私たちが啓蒙していかないと」
「いいわね!
私たち、この学校で一番
社会問題に敏感なグループだもの」
「他の学生たち、
もっと意識持ってほしいわよね。遊んでばかりで」
そう言いながら、
彼女たちは週末の銀座ショッピングの
予定をスケジュール帳に書き込んでいた。
ある日の午後、
美咲は図書館の前で一人の男子学生を見つけた。
彼はいつも一人で本を読んでいる、
目立たない学生だった。
服装は地味で、
おそらく奨学金で通っているのだろう。
「ねえ、あなた」
美咲は高級ブランドのブーツの音を
響かせながら彼に近づいた。
「なぜ私たちの活動に賛同してくれないの?」
男子学生
――拓也は、困ったような表情で顔を上げた。
彼の隣には、
図書館でアルバイトをしているらしい
名札が置いてあった。
「僕は別に反対しているわけじゃ...」
「でも賛成もしないでしょう?なぜ?説明して」
拓也はため息をついた。
逃げられないと悟ったのだろう。
「君たちのグループは、
かつて僕のような学生を
散々見下してきたじゃないか」
「え?」
「アニメやゲームが好きな僕たちを、
気持ち悪いって。オタクは消えろって。
『そんな安っぽい趣味に時間使うなんて
信じられない』って笑っただろう。
学内で居場所がなくなって、
郊外の小さな集会所で集まっていたら、
そこにまで押しかけてきて嘲笑したよね」
美咲の表情が固まった。
「『こんな場所でこんなことしてるの?
ダッサ!インスタに載せちゃおうかな』って。
僕たちの大切な居場所を、
君たちの娯楽のネタにしたんだ」
「そんな...私はそんなこと...」
「君は覚えていないかもしれない。
君にとっては数ある
『面白エピソード』の一つだったから。
でも多くの学生が知っている。
君たちが僕たちを追い出した日のことを」
拓也は静かに続けた。
「君たちは親の金で毎週末、
何万円も使って遊んでる。
でも僕たちがバイト代で買った
数千円のフィギュアは馬鹿にする。
僕たちの好きなものは認めず、
君たちだけの主張を受け入れろという。
それは多様性じゃなくて、
ただの我儘の押し付けだよ」
美咲の手の中で、
高級ブランドのバッグが重く感じられた。
「自分がされて嫌なことは、
他人にもしてはいけない。
それを守らないから、
君たちの主張を誰も受け入れないんだよ」
そう言って、拓也は図書館の中へ消えていった。
美咲は立ち尽くした。
でも、心の中で何かが抵抗していた。
*私は悪くない。
私たちは正しい主張をしているだけ。
時代がまだ追いついていないだけ。
あの人たちが僻んでいるだけ――*
その夜、美咲は高級レストランで
仲間たちと食事をしていた。
一人あたり二万円のコース料理。
父親のカードで支払った。
「今日さ、変な男子に絡まれちゃって」
美咲は笑いながら言った。
「私たちの活動を理解できないんだって」
「やだー、まだそんな古い考えの人いるんだ」
「ほんと、時代遅れよね」
「私たち、ちゃんと勉強して意識を高めてるのに」
仲間の一人が言った。
「向上心のない人って、
結局は努力してないのよね」
「そうそう。
私たちみたいに海外の論文とか読んで、
セミナーとか行って、
自分を高める努力をしてないから
理解できないのよ」
「意識の差って、こういうところに出るわよね」
彼女たちは高級ワインのグラスを傾けながら、
同意し合った。
自分たちは特別だと。
意識が高いのだと。
進んでいるのだと。
彼女たちは笑い合った。
美咲の目には、
相変わらず自分の主張しか映っていなかった。
鏡を見ることなく、ただ前だけを見て。
自分が他者にしてきたことを省みることもなく。
親が幼い頃に「してはいけないこと」を
厳しく教えなかったのかもしれない。
それとも、何でも買い与えられ、
何でも許されてきた環境が、
自分だけは特別だと
思い込ませてしまったのかもしれない。
いずれにせよ、
美咲はこれからも自分が正しいと
信じ続けるだろう。
そして、いつまでも理解されない理由を、
他人のせいにし続けるだろう。
翌週、
美咲のインスタグラムには
新しい投稿が上がっていた。
「#社会問題に向き合う #私たちの声を届けたい
#変革の時 #意識高い系じゃなくて
意識高い #エシカル消費 #サスティナブルライフ
#自分らしく生きる」
写真には、高級カフェのラテアートと
最新のデザイナーズバッグ。
キャプションには
「今日も社会をより良くするための
活動について仲間と議論。
こういう時間、大切にしたい✨」
と書かれていた。
コメント欄は空っぽだった。
キャンパスの秋は、
誰に対しても平等に深まっていった。