第二百十弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その14」の続きです

 

 

第二十一章 魔導師の原罪 ―後編―

村の維持は難しく、
村人は皆、町に移住することになった。
ダミアンは絶望したものの、
他の村人と共に町に移住した。

だが――
町での村人の生活は、非常に苦しかった。
まともな仕事に就けなかった。
フリーの冒険者になる者も多かったが、
魔物退治で命を落とす者が多かった。
それ以外は、建設土木作業や清掃など、
町の人がやりたがらないような仕事しか回ってこなかった。
ダミアンは、両親の残したお金を少しずつ生活費に当てた。

だが――
町の荒くれ者に奪われた。
信じていた村人にも裏切られた。
徐々に、お金は減っていった。
それにより両親が望んだ進学は出来なくなった。
同時に、村人を含む他人に対する信頼度も減った。
結果――
ダミアンは、誰も信じられなくなった。

それと比例するように、
ダミアンの魔力はどんどん向上していった。

怒り。
絶望。
憎しみ。
それらが、力になった。

前世での恨み。
この世界での悲しみ。
それら全てが、魔力として蓄積されていき
ダミアンは冒険者として、名声をどんどん上げた。
魔物を倒し、依頼をこなし、報酬を得た。
だが、心は空虚だった。

「誰も、信じない」
ダミアンは誓った。

「もう、誰も」

周囲から勇者と言われるようになった頃――
村の奥地に、災害級の巨大な魔物が出現した。
流石に冒険者や警察では対処が出来ずに
王国軍が派遣された。
だが、それでも魔物に太刀打ちできなかった。
そこに、王国の虎の子であるガーディアンが投入された。
ダミアンは、ガーディアンを初めて見た。
巨大な人型の兵器。
魔法と科学の融合。
そのガーディアンは非常に強かった。
だが、魔物と互角で、退治し切れなかった。

「……やってやる」

ダミアンは前線に出た。
そして、魔法を放った。
超高位魔法。
複数同時展開。
圧倒的な火力。
魔物は、消滅した。

これにより、ダミアンは国王に招聘され

報奨された後に王国の魔導師団に入ることになった。

「ダミアン・マクシミリアン。
お前の力を、この国のために使ってほしい」
国王は言った。

「……わかりました」
ダミアンは頷いた。

だが――
そこで、ダミアンは階級差別に晒された。
魔導師団の多くは、貴族出身だった。
彼らは、平民出身のダミアンを見下していた。

「所詮、田舎者か」

「魔力だけは強いが、品がない」

「我々と同じだと思うなよ」

陰口。
嘲笑。
露骨な差別。

ダミアンの強大な魔力は、仲間と敵を作った。
仲間になったのは、同じく平民出身の魔導師たち。
敵になったのは、主に貴族たち。
彼らは元々、平民を見下していた。

そして――
ダミアンを慕ってくれた仲間が、理不尽に左遷された。

「なぜだ!」

ダミアンは上官に詰め寄った。

「彼は優秀だ! なぜ辺境に飛ばす!」

「命令だ。従え」

「……!」

その後も、次々と仲間が消えていった。
あらぬ罪で捕らえられ、処刑された者もいた。

「やめろ! 彼は無実だ!」
ダミアンは叫んだ。

だが、誰も聞く耳を持たなかった。

ダミアンの中で、何かが切れた。

「もう、いい」
彼は呟いた。

「もう、たくさんだ」

その夜――
ダミアンは魔導師団の本部に乗り込んだ。

「ダミアン! 何をする気だ!」

「お前たちを、許さない」

ダミアンの魔法が、炸裂した。

火。
水。
土。
風。

木。

白。

黒。
全ての属性が、同時に展開された。

魔導師団は、抵抗した。
だが――
ダミアン一人の魔力が、全てを上回った。
魔導師団は、全滅した。

ダミアンは逃亡し、王国軍が彼を追った。

だが――
ダミアンの魔法は、
既に一国の軍隊で止められるものではなかった。
数千の兵士が、ダミアン一人に敗れた。
ガーディアン部隊も投入された。
だが、ダミアンは全てを破壊した。

「もう、止まらない」
ダミアンは言った。

「誰も、俺を止められない」

それにより、複数の国家による連合軍が編成された。
ダミアンを討伐するために。

だが――
それでも、太刀打ちできなかった。
ダミアンの魔力は、もはや人間の域を超えていた。

「化け物だ……」
兵士たちは呟いた。

「あれは、人間じゃない……」

ダミアンは、最終的に生まれた村の奥地の
大森林に建っていた古城を見つけた。
廃墟となった、古の城。
彼はそれを再建した。
魔法で。
一人で。
そして、そこに住んだ。

「ここが、俺の城だ」
ダミアンは宣言した。

「誰も、立ち入らせない」

王国は、その地域を不可侵地区として指定した。
以降、ダミアンに手を出す国家は無くなった。

世界最強の魔導師。
孤高の存在。
誰にも愛されず、誰も愛さず。
ただ、一人で生きる。
それが、ダミアン・マクシミリアンだった。

そして――
孤独な城で、ダミアンは考え続けた。

「力を得ても、何も救えなかった」

両親。
先生。
仲間。
全てを失った。

「ならば……」

ダミアンは決意した。

「永遠に生きよう」

「永遠に力を保とう」

「そうすれば、二度と失わない」

それが――
転生実験の始まりだった。

――続く――
 

第二百九弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その13」の続きです

 

第二十章 魔導師の原罪 ―前編―


遥か昔、別の世界
大友大輝は、ブラック企業に勤める社畜だった。
両親は駆け落ちして結婚したものの極貧で、
子供を作る気は無かった。
だが油断から大輝が生まれた。
父親は自分のことを棚に上げ、母親を責めた。
だが父親がギャンブル三昧で、
自分の都合で職を転々としていることが大元の原因だった。
かといって母親がまともなのかと言えば、
そうではなかった。
毎夜、夜遊びして男漁りをしていた。
当然のように、大輝は育児放棄され
虐待もされた。

結局、児童相談所に通報され、
大輝は児童養護施設に入り育った。
高校を卒業して養護施設を退所し、就職した。
だが、入ってみたらブラック企業だった。
それにより大輝の精神は、どんどん疲弊していった。
遂には、世の中全てを恨むようになった。

社会が。
政府が。
自治体が。
学校が。
施設が。
先生が。
会社が。
同僚が。
友人が。
幸せな家庭や人々が……
憎い。
全て、憎い。

大輝は過労による心臓疾患により、
深夜に会社のデスクで亡くなった。
享年二十四歳。
誰にも看取られることなく、独り。

だが――
彼の意志は強く、魂は消えずに彷徨った。
そして、別の次元の別の世界で生まれた赤ん坊に宿った。

そこは、フォークストン王国の地方にある貧しい村だった。
その頃のフォークストン王国は、まだ貧しい小国だった。
その後、魔導師を中心とした
世界最高の学術大国になるなんて、誰も予想できなかった。
ただ、魔導師は多くいた。
科学よりも魔法が生活の中心であり、
高い魔法適性があれば都会に出て出世できた。


マクシミリアン家の長男。
ダミアンと名付けられた大輝は、
高い魔法適性を持って生まれた。
両親共に魔法適性は低く、家は貧乏農家だった。
それ故に、魔法適性の高いダミアンは両親から重宝された。
ダミアンの魔法により、
マクシミリアン家の畑の収穫量は増えた。
それにより収入も増加した。
両親は生活レベルを過度には上げず、
ダミアンが都会に進学するための資金を貯めた。

「ダミアン、お前は頭がいい。
都会に出て、立派な魔導師になるんだ」
父親は優しく言った。

「私たちの自慢の息子よ」
母親は微笑んだ。

ダミアンは、前世と違って幸せだった。
愛されている。
必要とされている。
それが、嬉しかった。

村では、近所のお姉さんが

子供達に勉強や生活の為の魔法を教えてくれていた。
お姉さんは一度都会に出たものの、
いろいろあったらしく村に戻ってきた。
教える人がいなく廃校になっていた
村の学校を再開して、先生になった。
優しい美人先生で、子供達からはとても慕われていた。
ダミアンにとっても、憧れの片想いの相手だった。

「ダミアン君、今日も頑張ったわね」
先生は微笑んだ。

「はい、先生」
ダミアンは照れながら答えた。

「あなたなら、きっと素晴らしい魔導師になれるわ」

「……ありがとうございます」

ダミアンは、先生の優しさに心が温かくなった。
前世では、誰も自分を認めてくれなかった。
でも、この世界では違う。
両親も、先生も、みんなが自分を認めてくれる。

「この世界で、やり直せる」
ダミアンはそう思っていた。

だが――
ある日。
村が、魔物を率いた大規模な野盗に襲撃された。
村の冒険者が対応したが、太刀打ちできる数ではなかった。
ダミアンも対抗しようと思った。
だが――

「ダミアン! 逃げるんだ!」
父親が叫んだ。

「父さん!」

「いいから! これを持って、町に助けを呼びに行くんだ!」

父親は、貯めていた大金をダミアンに渡した。

「でも……!」

「あなたは生きるのよ! 私たちの希望なんだから!」
母親も泣きながら言った。

両親は、密かにダミアンを村から逃がした。
ダミアンは走った。
涙を流しながら、必死に走った。

その時――

「きゃああああ!」
悲鳴が聞こえた。

ダミアンは振り返った。
村の広場。
そこに、先生がいた。
野盗に囲まれ、服を引き裂かれ、泣き叫んでいた。

「やめて! やめてえええ!」
先生の叫び声。

ダミアンは立ち止まった。
助けなければ。
でも――
両親の想い。
彼らの希望。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

ダミアンは泣きながら、その場から逃げた。
先生の叫び声が、遠ざかっていく。
ダミアンは走り続けた。

町の警察に駆け込み、村の惨状を伝えた。
大規模な機動隊が派遣された。
だが――
機動隊が村に着いた時には、全てが終わっていた。
家々は焼かれ、人々は殺され、村は廃墟となっていた。
警察は捜査の結果、盗賊のアジトを発見して強襲した。
人質になっていた人々を救出した。
ダミアンの両親は、遺体で発見された。
先生は、精神崩壊した状態で発見された。
記憶喪失となっていた。

ダミアンは、先生の病室を訪ねた。

「先生……」

だが、先生は虚ろな目で窓の外を見ているだけだった。
ダミアンのことも、認識していなかった。

「先生……ごめんなさい……」
ダミアンは泣いた。

自分が助けていれば。
自分が戦っていれば。
でも、逃げた。
両親の想いを優先して、逃げた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

――続く――

 

続きは今日中に載せる予定です

 

第二百八弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その12」の続きです

 

 

第十九章 封印されし魔王

アンは自室で、鏡を見ていた。
疲れた顔。
涙の跡。

そして――
その時、アンの表情が一変した。
眼が赤くなった。
禍々しいオーラが、体から放たれる。
一瞬で、周囲の空気が重くなった。

「まだ暴れ足りない……」

アンの口から、声が漏れた。
だが、それはアンの声ではなかった。
低く、歪んだ、邪悪な声。

「もっともっと暴れたい。もっともっと蹂躙したい」

鏡の中のアンが、歪んで笑っている。

「縋るような叫び声……諦めた絶望が聞きたい」

その声は、
まるで深淵の地獄の底から聞こえてくるような声だった。
アンは自分の頭を抱えた。

「やめて……やめて……!」

だが、声は止まらない。

「殺せ。壊せ。全てを灰にしろ」

「やめて!」
アンは叫んだ。

瞬間――
赤い眼が、元に戻った。
オーラが、消えた。
アンは床に崩れ落ちた。

「また……また、あれが……」

彼女は震えていた。

昔――
神聖ラングバルト帝国郊外のキノー地方に、
Dと呼ばれる魔王が住み着いた。
それを討伐するため、

神聖ラングバルト帝国は軍を派遣したが

全く太刀打ち出来なかった

その後に神聖ラングバルト帝国の第三皇子
デイモス・ラングバルトが立ち上がった。
その時の協力者がいた。
デイモスの親友で、
帝国最強剣士と名高いアルヴェルト・ドライゼ。
世界最強の魔導師として頂点に君臨し続けている
ダミアン・マクシミリアンの弟子で、
フォークストン王国の王子で千の術を持つと言われる
技巧派の魔導師、フランクリン・リーフ。
元々ダミアンに対抗するために生み出された
人造魔導師だったが、ダミアンに圧倒され虜になり
弟子になったマリア・マルゴー・マクミラン。通称「3M」。
そして――
帝国貴族の長男だったが家督相続をせずに冒険者となり、
その勇猛果敢な戦い方から
「鬼神」の二つ名で呼ばれていた
ブラッドウィン・マクドミラ。

 

それぞれ皆 個々にこの討伐に参加した目的があった。

 

デイモスはこの手柄を持って次期皇帝の座を簒奪する事。

アルヴェルトは親友であるデイモスへの協力。

フランクリンとマリアは師ダミアンの代理。

ブラッドウィンは名声を上げる為。


それでも困難を承知でDの討伐に向かった彼らは

五人の英雄と呼ばれた。

だが――
討伐は、失敗した。
Dは、あまりにも強かった。
魔王の力は、想像を絶していた。
五人は、別の方法を選んだ。
Dを倒すことはできない。
ならば――封印する。
Dの精神を5つに分けて、5人の体内に封印する。
それが、唯一の方法だった。

「やるしかない……!」
デイモスが叫んだ。

「これで、世界を救える!」

五人は、禁呪を発動させた。
Dの精神が、引き裂かれる。
そして――
五人の体内に、それぞれ封印された。
討伐は、成功した。


だが――
これは全てダミアン・マクシミリアンの計画だった。

自身のクローンである魔王Dの精神を取り込ませる事で

その人物の魔力と身体能力を強化させて、それを利用する

それを使って・・・。

だが、これには1つ欠陥があった。

ダミアンの狂気も受け継いでしまうのだ。

デイモス・ラングバルトは、その後、狂王となって
侵攻を繰り返し、無意味な戦争を引き起こした。
結果的に、神聖ラングバルト帝国を弱体化させた。
それもあって、今ではシュトゥットガルト公国と
同レベルまで軍事力が低下していた。
マリア・マルゴー・マクミランは、
ダミアンの実験で死亡した。
フランクリン・リーフは、

師ダミアンと好意のあったマリアを失い、
国に戻り王位に就いた。
だが、神聖ラングバルト帝国の侵攻で戦死し、国が滅んだ。
アルヴェルトとブラッドウィンは、まともと思われた。
だが――
今回のシュトゥットガルト公国の大侵攻が起きた。
ブラッドウィンの中の、Dの精神が目覚めたのだ。

そして、アン。
ブラッドウィンの養女であるアンも、
元々はDに対抗して人工的に造られた人造生命体だった。
そのベースに使われたのは――
ダミアン・マクシミリアンの遺伝子。
すなわち、大元はDと同じなのだ。
アンの持つダミアンの遺伝子と、
ブラッドウィンが体内に封印したDの精神が呼応している。
その影響で、アンは突然信じられないくらいに
凶暴になることが頻繁にあった。
『クレオパトラ』での戦闘。
あの鬼神のような戦い方。
あれは、アンの意志だけではなかった。
ダミアンの狂気が、彼女を支配していたのだ。

その夜。
カイン・マクドミラは、自室で通信端末を操作していた。

「どうにかして、フレデリック兄さんに伝えないと……」
彼は呟いた。

アンの秘密。
Dによる精神汚染。
それを、フレデリックに伝えなければ。
このままでは、姉が――

「送信開始……」

カインは、暗号化された通信を送ろうとした。
だが――
『通信が遮断されました』
機械音声が告げた。

「何!?」

カインは驚いた。
『妨害電波を検知。送信不可能』

「くそっ!」

カインは何度も試した。
だが、全て遮断される。

この手の技術を得意とする

カインが失敗するはずが無い。
誰かが、意図的に妨害をしている。

「誰が……」

その時――
扉が開いた。

「カイン」

ブラッドウィンが立っていた。

「父上……」

「お前、何をしている?」

ブラッドウィンの目は、赤く光っていた。
カインは息を呑んだ。

「い、いえ……何も……」

「嘘をつくな」

ブラッドウィンが一歩、近づいた。

「お前、アンの秘密を
フレデリックに伝えようとしただろう」

「……!」

「させるわけにはいかん」
ブラッドウィンの声が、歪んだ。

「アンは、我が最強の駒。
その秘密を知られるわけにはいかん」

カインは後ずさった。

「父上……あなたも、Dに……!」

「Dではない」

ブラッドウィンは笑った。
邪悪な笑み。

「我々は一つになったのだ。
偉大なるダミアン様の一部として・・・」

「そんな……」

「お前は、大人しくしていろ。さもなくば――」
ブラッドウィンは脅すように言った。

「アンを……排除する!」

カインは凍りついた。
姉を守るためには、従うしかない。

「……わかりました」
カインは俯いた。

ブラッドウィンは満足そうに頷き、部屋を出て行った。

一人残されたカイン。
彼は拳を握りしめた。

「フレデリック兄さん……すみません」
彼は呟いた。

「僕には、何もできない……」

情報は、遮断された。
フレデリックは、アンの秘密を知らないまま、
戦うことになる。
報われない想い。
届かない真実。


全ては、ダミアンの呪いだった。

――続く――

 

 

第二百七弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その11」の続きです

 

 

第十八章 公王の野望

シュトゥットガルト公国首都ババロン。
王城の玉座の間。
玉座には、一人の男が座っていた。
ブラッドウィン・マクドミラ。
シュトゥットガルト公国公王。
鋭い目つき。
傷だらけの顔。
荒々しい風貌。
元々は有名な宇宙海賊だった男だ。
没落しつつあったシュトゥットガルト公国を乗っ取り、
公王の座に就いた。
そこから配下の宇宙海賊を元に、
強力な軍事国家を作り上げた。
今では神聖ラングバルト帝国と
互角で張り合うレベルに急成長している。

だが――
その代償として、国民は疲弊していた。
他国を侵略して搾取することで、
どうにか国を維持している。
この綱渡りのような状態は、
何か切っ掛けがあれば簡単に破滅してもおかしくなかった。

ブラッドウィンの前には、二人の人物が立っていた。
一人は、赤い髪を結い上げた美しい女性。
王女アン・シャーリィ・マクドミラ。
もう一人は、黒い髪の若い男性。
王子カイン・マクドミラ。
その他にも、多くの重臣がいた。

今日の議題は、次の侵略目標を決めることだった。

「既に周辺の小国は、あらかた侵略している」
ブラッドウィンが言った。

「次に攻めるとしたら……ルパート王国が最有力だ」
重臣たちが頷いた。

カルタゴ帝国とは戦争状態にあるが、拮抗状態にある。
戦力を集中させ過ぎると、各地の穴が大きくなってしまう。

「ただでさえ、王城を奇襲されたばかりだ」
ブラッドウィンの声に、苛立ちが混じった。

「アンの活躍で、どうにか退けたが……
アンと『クレオパトラ』がいなかったら、
どうなっていたことか」

アンは何も言わなかった。
ただ、静かに立っているだけ。

「それに比べて……」

ブラッドウィンは、カインに視線を向けた。

「カイン。お前の状況はどうなっている」

カイン・マクドミラ。
王子でありながら、戦場には出ない男。
彼はアンと同じく、王立工科学院に通っていた。
フレデリックやジョナサンの後輩で
フレデリックを慕っていた。
当時は、アンとフレデリックがくっつき、
自分がフレデリックの義弟になるのを楽しみにしていた。
それが、こんな状況に変わった。
カインは、かなり不貞腐れていた。

「ババロンの防衛システムを見直して、刷新しています」
カインは淡々と答えた。

「王城周辺の防衛を、特に強固にしています」

彼は非常に優秀な技術者だった。
そして――マシンチャイルド。
コンピュータとリンクし、自由に操作可能な存在。
更に、生まれつき霊力や魔力の影響を受けない
特殊な体質を持っていた。
周囲約2〜3メートルの球形状に、その効果範囲を持つ。
その中の自分と周囲の人間を、
全ての力から保護することが可能だった。

だが――
射撃や格闘などの戦闘は苦手。
その為に、自身でプログラムした小型のアサルトビット
――自律型無人戦闘攻撃機――を最低でも2機、
常に自身の周囲に浮遊させていた。
今も、カインの左右に、小さな機械が浮いている。

「ふん。防衛ばかりだな」
ブラッドウィンは不満そうに言った。

「攻撃こそが最大の防御だ。それがわからんのか」

「……はい」
カインは俯いた。

長い会議が続いた。
ルパート王国への侵攻計画。
戦力の配置。
補給線の確保。
様々なことが話し合われた。

だが――
ブラッドウィンは、突然立ち上がった。

「待て」

重臣たちが、動きを止めた。

「私は決めた」
ブラッドウィンの声が、玉座の間に響いた。

「プレスコット共和国への侵攻を行う」

瞬間――
場が凍りついた。
予想外の国名。
重臣たちは、動揺を隠せなかった。

「陛下! プレスコット共和国は……!」
一人の重臣が声を上げた。

「これまで侵略してきた小国とは、比べ物になりません!」

「カルタゴ帝国程ではないが、軍事力が高い!」

「経済力では、カルタゴ帝国を上回っています!」

重臣たちが、次々と反対の声を上げた。

だが――
ブラッドウィンは動じなかった。

「カルタゴ帝国方面軍は縮小して
プレスコット共和国侵攻軍に加える」

「陛下!」

「決定だ」
ブラッドウィンの声は、冷たかった。

「異論は認めん」

重臣たちは、黙り込んだ。
ブラッドウィンは、本気だった。
もしプレスコット共和国が落ちたら――
勢力図が、大きく変わる。
シュトゥットガルト公国は、更なる大国になる。
だが、失敗すれば――
国が、滅びる。

会議が終わった後。
アンは、一人で廊下を歩いていた。

「姉上」

背後から声がかかった。
振り向くと、カインが立っていた。

「カイン……」

「プレスコット共和国への侵攻……本気ですか、父上は」

「ええ。本気よ」
アンは疲れた顔で答えた。

「でも、無謀です。プレスコット共和国は……」

「わかっている」
アンは首を振った。

「でも、父上の決定は絶対。私たちに、選択肢はないわ」

「……そうですか」
カインは俯いた。

「姉上……あの時、王城を奇襲した白いガーディアン」

「……」

「あれは、フレデリック兄さんですよね」

アンは何も言わなかった。
ただ、静かに歩き続けた。

「姉上は……兄さんと戦って、どう思いましたか」

「……私は、ただ任務を遂行しただけ」
アンの声は、震えていた。

「それ以上でも、それ以下でもないわ」

「嘘だ」
カインが言った。

「姉上は、泣いていたじゃないですか。コクピットで」

アンは立ち止まった。

「……カイン」

「僕には、わかります。姉上は、兄さんを……」

「黙りなさい!」
アンが叫んだ。

カインは、驚いて黙った。

「……ごめんなさい」

アンは深く息を吐いた。

「でも、もう過去のことなの。
フレデリックは敵。私は、公国の王女。それだけよ」

「……はい」
カインは、それ以上何も言わなかった。

アンは再び歩き出した。
その背中は、どこか寂しげだった。

その夜。
アンは自室で、一人窓の外を見ていた。
星空。
美しい、星々。

「フレデリック……」
彼女は呟いた。

「なぜ、あなたは来たの……」

涙が、頬を伝った。

「なぜ……」

彼女の手には、小さなデータチップがあった。
フレデリックが渡した、設計データ。
それを、ずっと握りしめていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
アンは、声を殺して泣いた。
報われない想い。
届かない声。
二人は、敵同士だった。

――続く――

 

「鋼鉄の夢、永遠の想い その10」の続きです

 

第十七章 再起への道


フォークストン王国、地下格納庫。
フレデリックは、ボロボロになった
『ブランシュ』を見上げていた。

左腕は千切れかけている。
装甲は至る所が破損している。
武装は、ほとんどが失われている。

「次は、最初から一緒に行く」
ジョナサンがそう言った。

「ジョナサン……」

「お前一人に、あんな化け物と
戦わせるわけにはいかない」

ジョナサンは真剣な顔をしていた。

「ありがとう」
フレデリックは深く頭を下げた。

そして――
気持ちの問題を払拭するかのように、修理を始めた。

キーボードを叩く。
コマンドが流れる。
損傷箇所の診断。
エネルギー伝達ラインの再構築。
装甲の交換。
フレデリックは昼夜を問わず、作業に没頭した。

一週間後――

『ブランシュ』は、元の姿を取り戻した。
白い装甲。
青い差し色。
シンプルで機能美に溢れた機体。
だが、まだ終わりではない。

「ゲーリー、データを頼む」
フレデリックは通信を開いた。

『了解。送信する』
ゲーリーの声が返ってきた。

『紅男爵』と『コブラ』が収集したデータ。
それが、フレデリックの端末に転送された。
膨大な量のデータ。

『クレオパトラ』の動き。
攻撃パターン。
防御の展開タイミング。
エネルギー出力の変化。
そして――

「これは……」

フレデリックは、あるデータに目を留めた。
動作のタイムラグ。
微細な、だが確実に存在する遅延。

「やはり……機体と有機AI『イリス』の相性が、
あまりよくないのか」
フレデリックは呟いた。

『クレオパトラ』は、
フレデリックの設計データからのコピー。
完璧には再現できていない部分がある。
特に、エネルギー伝達ラインは職人技に依存している。
そのズレが、『イリス』との同調に影響を与えているのだ。

「天才であるアンが育てた有機AIでも、ダメなのか……」

フレデリックは、そこに希望を見出した。
完璧に見える『クレオパトラ』にも、弱点がある。
それは、ハードとソフトの不一致。

「ならば……」
フレデリックは決意を固めた。

「『ブランシュ』を、高機動型にする」

『ブランシュ』のコクピットで、
フレデリックは『イリス』に告げた。

「ブランシュ、これが最後の戦いになるかもしれない」

「わかっています、フレデリック」
『イリス』の声が、静かに響いた。

「でも、今回のデータで、試す根拠ができた」

「『クレオパトラ』のタイムラグ……ですね」

「ああ。あの一瞬を突く。
そのために、機動性を極限まで高める」

フレデリックはキーボードに向かった。

「これから、数ヶ月かかる。付き合ってくれるか?」

「もちろんです」

それから――
フレデリックは『ブランシュ』の基礎を、
できる限り徹底的に強化した。

フレーム構造の見直し。
関節部の強化。
エネルギー伝達ラインの最適化。
『MOTOR』の出力調整。
数ヶ月かけて、一つ一つ丁寧に作り上げていく。

「これで、特化機体に劣るものの、
かなりマシになったはずだ」
フレデリックは満足そうに頷いた。

次は、装甲。
重装甲では、高機動は不可能。
装甲を、かなり軽装甲に変更する。
重量を、大幅に軽減する。
防御力は犠牲になる。
だが、速度を得る。

「デザインが決まったら……」

フレデリックは、先のデータから作った
『クレオパトラ』のシミュレーションモデルを起動させた。

「戦闘シミュレーションをして、問題点を叩き出す」

仮想戦場。
『ブランシュ』と『クレオパトラ』が対峙する。
戦闘開始。
『ブランシュ』が高速で動く。
だが、装甲が薄すぎて、一撃で致命傷を負う。

『シミュレーション終了。敗北』

「装甲デザインを変える」

フレデリックは修正を加えた。
重要部位だけ、装甲を厚くする。
他は、極限まで薄くする。
再びシミュレーション。
今度は、機動性が足りない。
『クレオパトラ』のタイムラグを突けない。

『シミュレーション終了。敗北』

「もう一度」
フレデリックは、何度も何度も繰り返した。
装甲デザインを変える。
シミュレーションを行う。
問題点を見つける。
修正する。
また、シミュレーションを行う。

半年が過ぎた。
フレデリックは、ついに対『クレオパトラ』用の
装甲デザインを完成させた。
白い装甲。
だが、以前とは明らかに異なる。
流線型のフォルム。
薄く、軽く、それでいて強靭。
重要部位――コクピット、『MOTOR』、関節部
――だけが厚い装甲で守られている。
他は、極限まで削ぎ落とされている。

「美しい……」
ジョナサンが呟いた。

「これが、お前の最後の賭けか」

「ああ」
フレデリックは頷いた。

「でも、これでも勝てはしないだろう」

「わかってる」

「それでも?」

「それでも……ここから突破口を見つけ出したい!」
フレデリックは強い決意を込めて言った。

『クレオパトラ』には、まだ勝てない。
だが、データは取れる。
弱点は、見えてきている。
次こそ――
次こそ、アンに届く。
そう信じて。

格納庫の中央に、
新しい『ブランシュ』が立っていた。
白く、美しく、それでいて鋭い。
まるで、研ぎ澄まされた刃のような機体。

「行くぞ、ブランシュ」
フレデリックは呟いた。

「はい。共に」
『イリス』が答えた。

二度目の戦い。
それが、いよいよ始まろうとしていた。

――続く――

 

AI小説の登場人物をAIに描いて貰いました

 

主人公のフレデリック・D・マクミラン

これは一からAIに作って貰ったものです

出来上がって上手く出来たと思っていたのですが

今 見るとものまねをしている

松浦航大さんに似てるような?苦笑

 

 

これは以前 AIで作ったフレデリック

こっちは自分で描いた絵を元に作りました

 

 

ヒロインのアン・シャーリー・マクドミラ

可愛らしく出来たのでは?

 

こんなのも作ってみました 苦笑

 

人を見た目で判断する人って

相変わらず多いですが

見た目で判断が出来る程に人は浅くなく

見た目の判断は時に取り返しの付かない

失敗を伴う可能性があります

 

 

 

# 眼鏡の裏側

## 第一章 静かな男

 桜の花びらが風に舞う四月の朝、
村瀬慎一はいつもと変わらぬ時刻に出社した。

 紺のスーツに白いシャツ、細いフレームの眼鏡。
背は高くもなく低くもなく、
顔立ちは整っているが目立たない。
エレベーターに乗り込んでも誰かと目を合わせることなく、

押すボタンは決まって七階。
システム開発部のフロアだ。

「おはようございます」

 小さな声で言っても返事は返ってこない。
村瀬はそれを気にした様子もなく、
自席のパソコンを起動させた。

 入社五年目。
社内では「あの地味な人」と認識されている程度の
存在だが、彼のコードには一切の無駄がなかった。
プロジェクトのデッドラインを一度も破ったことがなく、
上司に言われたことは翌朝には完成している。
しかし口下手で会話が続かない。
飲み会には呼ばれず、
ランチは一人でコンビニのサンドイッチをデスクで食べる。

それが村瀬慎一という男の日常だった。

「村瀬さ、昨日のバグ報告ちゃんと見た?
あんな凡ミスしてもらったら困るんだけど」

 隣の席の田所が、わざとらしく大きな声で言う。
実際には田所自身の入力ミスが原因であることを、
村瀬は知っていた。
それでも彼は「すみません、確認します」
と静かに答える。

 田所と、その取り巻きの数人。
彼らは村瀬を格好のサンドバッグにしていた。
資料を隠す、仕事のミスを押し付ける、
休憩室でわざと聞こえるように悪口を言う。
陰湿で、執拗で、子供じみた嫌がらせだった。

 村瀬はそのすべてを、
まるで雨粒を傘で受け流すように、
スルーし続けていた。

---

## 第二章 強面の新人

 入社式の日、
総務部から回ってきた新入社員名簿を眺めていた村瀬は、
ふと手を止めた。

 *黒田大樹、二十二歳。*

 名前に見覚えはない。
ただ名簿に添付された証明写真を見て、
村瀬は小さく息を呑んだ。

 ——でかい。

 写真の枠ギリギリに収まった顔は、

彫りが深く眉が太く、口元はへの字に結ばれていた。
普通に撮った証明写真のはずなのに、
なぜか凄みがある。

 その黒田が実際にフロアに現れたとき、
開発部の空気が一瞬だけ変わった。

 身長は百九十近くあるだろう。
肩幅が広く、スーツの上から見ても体の厚みがわかる。
太い首、大きな手、
そして写真よりもさらに迫力のある顔。
しかし黒田は周囲の視線に気づいているのかいないのか、
ただ静かに頭を下げた。

「黒田大樹です。よろしくお願いします」

 声は低くて落ち着いていた。

 人事部長から
「黒田くんの教育担当は村瀬さんにお願いします」
と告げられたとき、村瀬は静かに頷いた。

 翌朝、
黒田の人事ファイルに目を通した。
出身大学、アルバイト歴、資格、健康診断の結果。
どこにも問題はなかった。
柔道二段。それが唯一「強さ」を連想させる記述だったが、

それ以外は至って普通の、真面目そうな青年の履歴だった。

 *やっぱり見た目だけか。*

 村瀬は小さく独りごとを言ってファイルを閉じた。

---

## 第三章 広がる噂

 問題が起きたのは、
黒田が入社して二週間ほど経った頃だった。

 最初は休憩室での小声の会話だった。

「あの新人さ、元ヤンらしいよ」

「マジで?どこ情報?」

「なんか暴走族の副総長だったって」

「ええ……それで警察にも何度か?」

「そうそう。捕まったこともあるって」

 噂というものは、否定されなければ育つ。

 黒田本人はそんなことを知らずに黙々と仕事をしていた。

教えられたことはその日のうちに覚え、
わからないことは素直に聞く。
ミスをすれば深く頭を下げ、同じミスは二度しない。
村瀬から見れば、申し分のない新人だった。

「黒田くん、このソースコードの構造、理解できた?」

「はい。ただここの分岐処理が、自分にはまだ……」

「ここはな、」

 村瀬は黒田の画面に向かい、
指でコードをなぞりながら説明した。
黒田は体を前に傾け、真剣な顔で聞いている。
その真剣さが本物であることは、
翌日の黒田の作業を見れば一目でわかった。

 しかし休憩室では、噂が更新され続けていた。

「今日聞いたんだけど、指に傷があるって」

「元ヤンなら当たり前じゃん」

「柔道二段らしいよ」

「喧嘩で鍛えたんでしょ」

 村瀬はそれを耳にするたびに、ため息をついた。
しかし自分が何か言えば、
余計に火に油を注ぐかもしれない。
根拠のない噂など、時間が経てば自然に消えるものだ。
そう思って、彼はしばらく静観することにした。

 ——だがその判断は、甘かった。

---

## 第四章 取り返しのつかないこと

 営業部の浜田が取引先のシステム担当者との
打ち合わせでそれを言ったのは、
五月の終わりだった。

 会話の流れで弊社の新人の話題になり、
浜田は軽い気持ちで口を滑らせた。
「うちの新人、実は元暴走族の副総長だったらしくて」と。

 相手の担当者は笑って聞いていたが、
後日その会社の上層部がその話を聞き、懸念を示した。
個人情報の観点からも、取引先への信頼という観点からも、

これは看過できない問題になった。
取引先から正式なクレームが入り、
社内は一気にざわついた。

 翌朝、開発部のフロアに人が集まり始めた。

 田所を中心とした数人が、
周囲を取り込みながら声を上げている。

「会社の信用に関わる問題だ」

「そういう経歴のある人間を採用した人事にも責任がある」

「とにかく退職してもらうしかないだろ」

 黒田は自席で、押し寄せる声を聞いていた。
その大きな体は、しかし怒っているようには見えなかった。

ただ静かに、どこか申し訳なさそうに、下を向いていた。

 やがて彼はゆっくりと立ち上がり、
村瀬の元へ歩いてきた。

「村瀬さん」

 低い声が、村瀬の耳に届いた。

「自分が辞めれば、丸く収まると思います。
お世話になりました」

 深く、丁寧なお辞儀だった。

 村瀬は画面を見たまま、三秒ほど動かなかった。

 ——ああ、そうか。もう静観している場合じゃないな。

 眼鏡のフレームをそっと押し上げ、
村瀬慎一は立ち上がった。

---

## 第五章 眼鏡の裏側

 フロアが静まり返った。

 普段は存在すら薄い村瀬が、
突然机を離れて人垣の前に躍り出たからだ。
体は細く、声は小さく、
それなのに何故かその場の全員が彼に目を向けていた。

「お前ら」

 村瀬の声は低く、
しかし腹の底に響くような重さがあった。
眼鏡の奥の目が、人垣を静かに睨んでいる。

「何根拠も無いデマに踊らされていやがるんだ」

 誰も口を開かなかった。
田所でさえ、何かを言いかけて口を閉じた。

「俺は彼の教育担当だ。
彼の人事ファイルも経歴も、全部見ている」

 村瀬は一歩、前に出た。

「彼は元ヤンじゃない。暴走族でもない。
警察に捕まったこともない。
お前たちが広めた噂は、
最初から最後まで根拠のないデタラメだ」

 しん、とした静寂の中で、
誰かが「でも……」と言いかけた。

 村瀬はそれを一言で遮った。

「どっちかって言うと、
俺の方が昔そういうのをやってた」

 フロアの空気が、ぴたりと止まった。

 村瀬は続けた。
淡々と、まるで天気の話でもするように。

「十五から十九まで、地元の連中と一緒にやってた。
総長をやっていた時期もある。
警察の厄介になったことも、一度や二度じゃない」

 誰も笑わなかった。
誰も茶化さなかった。

 目の前に立つ細身の眼鏡の男が、
突然別の輪郭を持ち始めたように、
全員の目に映っていた。

 その瞬間、エレベーターが開く音がした。

---

## 第六章 じいちゃん

 現れたのは、六十代後半とおぼしき白髪の男性だった。
仕立ての良いスーツを纏い、背筋が真っ直ぐで、
目に静かな力がある。
その隣に、四十代ほどの落ち着いた女性が控えていた。
秘書だろう。

 グループ全体を束ねる持株会社の会長、村瀬義孝。
この支社には月に一度視察に来ることがあった。
今日がたまたまその日であり、
エントランスで騒ぎを耳にして足を運んできたのだった。

 会長は開いたフロアを静かに見回し、
人垣の中心に立つ男に目を止めた。

 その男も会長に気づいていた。

「……じいちゃん」

 村瀬慎一の口から、思わずその言葉が漏れた。

「何でここにいるんだ?」

 フロアにいた全員が、
その一言の意味を処理するのに、数秒を要した。

 *じいちゃん。*

 *あの会長を、じいちゃんと呼んだ。*

 会長は孫の姿を見て、少しだけ目を細めた。
秘書の女性は静かに微笑んでいる。

 後から人事部経由で明らかになった事実はこうだった。
村瀬慎一は、グループ会社会長
・村瀬義孝の一人孫である。
幼い頃に両親を事故で亡くし、
祖父が親代わりとなって育てた。
秘書の田中女史は、
長年にわたって慎一の母親代わりを務めてきた人物であり、

祖父と秘書の間に不適切な関係など一切なく、
ただ一人の少年を二人で支えてきただけだった。

 慎一自身は、祖父の会社に縁故入社することを
一度も望まなかった。
実力だけで評価されたかった。
だから別の姓を名乗ることなく、
ただ目立たないように、静かに仕事をし続けてきた。

---

## 第七章 その後

 騒ぎは、呆気ないほど早く収束した。

 会長の存在と、村瀬の言葉と。
その二つが重なったとき、
抗議の声を上げていた人垣は、
波が引くように散っていった。
田所たちは顔を青くして、
一言も発せずに自席に戻った。

 黒田大樹への噂は、翌日には完全に立ち消えていた。
それどころか誰もその話題を口にしなかった。
なぜなら彼らの話題は、いつの間にか
村瀬慎一の過去に塗り替えられていたからだ。

 黒田は翌朝、いつもより早く出社していた。
村瀬が自席に着くなり、立ち上がって深く頭を下げた。

「昨日は、本当にありがとうございました」

「気にするな」

 村瀬はそれだけ言って、パソコンを起動させた。

「でも……なぜ、あそこまで」

 黒田の声には、本心からの疑問が滲んでいた。

 村瀬はしばらく画面を見ていたが、やがて静かに言った。

「根拠のないデマで人が潰されるのを見るのが、
嫌いなんだよ」

 眼鏡の奥の目が、一瞬だけ遠い場所を見ていた。

 もしかしたら彼は、
かつての自分を見ていたのかもしれない。
人に言えない過去を抱えて、
ただ黙々と前を歩こうとしていた、
十九歳の自分を。

「お前は真面目にやってる。それで十分だ」

 黒田はもう一度、深く頭を下げた。

---

 それから黒田大樹は、
一つひとつ着実に結果を積み上げていった。

 最初の案件をクリアし、初めてのプレゼンを乗り越え、
初めての後輩ができた日も、
彼は静かに頭を下げる男だった。

 村瀬慎一は相変わらず、
コンビニのサンドイッチを一人でデスクで食べていた。
ただ以前と少しだけ違うのは、
昼になると黒田が無言で隣に座るようになったことだ。

 二人は多くを語らなかった。

 それでも、その沈黙はどこか温かかった。


                 ——了

 

朝 起きて思いついたので

慌ててメモを取って落ち着いてから

それを元にあらすじを書きました

SNSで卒業式の写真を見たのが

切っ掛けかもしれません

 

 

 

# 「またね」の意味

## 一

春の風が、校門の桜並木を揺らしていた。

花びらが舞い散るたびに、僕の胸はずきりと痛んだ。
今日で、先輩と別れなければならない。

卒業式を終えた生徒たちが、笑顔で写真を撮り合い、
涙を流しながら抱き合っている。
僕はその輪の外に立って、
人波の中に先輩の姿を探していた。

「悲しそうな顔してる」

背後から聞こえた声に、心臓が跳ね上がった。
振り返ると、先輩が制服姿で微笑んでいた。
卒業証書を胸に抱いて。

「そんな顔してません」

「嘘つき」

先輩はくすりと笑って、僕の隣に並んだ。
桜の花びらが、二人の間をゆっくりと落ちていった。

しばらく黙って並んでいると、
先輩が少し身をかがめて、僕の耳元でそっと言った。

「またね」

それだけ言って、先輩は人波の中へ消えていった。

*またね。*

その言葉の意味が、僕にはわからなかった。

---

## 二

僕が両親を失ったのは、中学二年生の秋のことだった。

雨の夜だったと聞いた。
ただの交通事故。
あっけない話だ。
昨日まで夕飯を一緒に食べていた両親が、
翌朝には冷たくなっている。
人の命というのは、そういうものらしかった。

葬儀の席で、
親戚たちが小声で話し合っているのが聞こえた。
誰も僕を引き取りたがっていなかった。
それはわかった。
でも正直なところ、そんなことはどうでもよかった。
僕は母のことを考えていた。
もう母の声が聞けないという事実が、
胸に大きな穴を開けていた。

呆然と座っていた僕の前に、
一人の男性がしゃがみ込んだ。

二十代前半だろうか。
線の細い、でも目だけは真っ直ぐな人だった。

彼は膝をついて、僕と目線を合わせた。

「僕が君を引き取ることになったよ」

静かな声だった。

「僕でもいいかな?」

他に選択肢があるとは思えなかった。
でも彼の目に、憐れみの色はなかった。
それだけが、その時の僕には少し救いだった。

僕は黙って頷いた。

---

## 三

彼のことを「おじさん」と呼ぶことにした。

遠縁の親戚だと聞いたが、
どのくらい遠いのかもよくわからなかった。
おじさんのマンションはギリギリ学区内だったので、
中学校を転校せずに済んだ。
生活そのものは、表面上は大きく変わらなかった。

変わったのは、周りの目だった。

クラスメートも、先生も、近所の人も、
みんな僕を見る目が変わった。
まるで今にも割れてしまいそうな、
ガラス細工の人形を扱うように。
腫れ物に触るように。

その視線が、じわじわと僕を蝕んだ。

気づけば、誰とも深く関わらないようにしていた。
話しかければ返事はする。
でもそれだけだ。
心の扉に、静かに鍵をかけた。

高校を選ぶとき、
中学の同級生が誰も受験しないような学校を選んだ。
通学に1時間以上かかる。
おじさんは何も言わなかった。
反対もしないし、理由も聞かなかった。
ただ「そうか、頑張れよ」と言っただけだった。

おじさんはいつもそうだった。
僕の言うことに反対しない。
だから僕も、おじさんに反対されるようなことは
言わないようにした。
二人の間には、穏やかで、
少し寂しい均衡が保たれていた。

---

## 四

高校でも、僕はひとりだった。

それは予想通りのことで、別に構わなかった。
教室の隅の席で本を読んでいれば、誰も干渉してこない。
それが僕にとっての平和だった。

高校一年生の五月のある朝、電車が遅延した。

人身事故だったらしい。
構内アナウンスが何度も謝罪を繰り返す中、
乗客たちはため息をついていた。
僕は諦めて改札を出た。
この路線を使って通学しているのは
学校でほとんどいないはずで、
遅延証明書を見せれば遅刻扱いにはならないだろう。

駅から学校への道を、一人でとぼとぼと歩いていた。

「あなたもあの電車だったの?」

背後から声をかけられて、思わず立ち止まった。

振り返ると、スラリと背の高い女生徒が立っていた。
うちの高校の制服。
ゆるやかに波打つ黒髪。
涼しげな目元。

一瞬、息が止まった。

母に、少し似ていた。

「……はい」

「そう。あの路線、
使っているのは私とあなただけみたいね」

彼女は微笑んだ。
責めるでも哀れむでもない、
ただ自然な笑顔だった。

「一緒に行きましょうか」

それが先輩との最初の会話だった。

---

## 五

後から知ったことだが、先輩は生徒会長だった。

ある財閥系企業の令嬢で、清楚で気品があって、
学校中の誰もが知っているような存在だった。
多くの男子生徒が告白して、
全員断られたという話も有名だった。

そんな先輩が、なぜか僕に絡んでくるようになった。

廊下で会えば声をかけてくる。
昼休みに図書室で本を読んでいると、隣に座ってくる。
帰り道、駅のホームで「また同じ電車ね」と笑う。

クラスの男子たちの視線が、針のように刺さった。
でも元々友人のいない僕には、
失うものが何もなかったので、気にしないことにした。

先輩と過ごす時間は、不思議と居心地がよかった。

先輩は僕を特別扱いしなかった。
ガラス細工として扱わなかった。
ただ普通に話しかけて、
普通に笑って、
普通に並んで歩いた。

気づかないうちに、それが一番の楽しみになっていた。

---

## 六

一年が経つころには、はっきりと自覚していた。

僕は先輩のことが好きだった。

初恋というのは、
こんなにも静かで、こんなにも痛いものなのかと思った。
告白するなんてことは、最初から考えなかった。
先輩は遠い人だ。
令嬢で、生徒会長で、誰もが振り返る人だ。
そして何より、来年には卒業してしまう。

ある秋の夕方、
先輩に誘われて、駅近くの喫茶店に入った。

窓の外に日が沈んでいくのを眺めながら、
先輩は静かに話し始めた。

「私ね、弟がいたの」

コーヒーカップを両手で包みながら、先輩は語った。
弟は数年前に病気で亡くなったこと。
明るくて、人懐っこくて、よく後ろをついてきたこと。

僕はそれを聞きながら、理解した。

先輩は気づいているのだと。
僕の気持ちに。
そしてこうして話すことで、
答えを伝えてくれているのだと。

喫茶店を出ると、秋の風が冷たかった。

その夜から、
僕は初恋を、思い出の引き出しにしまった。
丁寧に折りたたんで、奥の方に。

---

## 七

そして、卒業式の日。

「またね」

その言葉の意味が、わからないまま、春が過ぎた。

---

## 八

四月。
僕は高校三年生になった。

始業式の朝、
おじさんが珍しく改まった顔で言った。

「今日、学校から帰ったら会わせたい人がいる」

会わせたい人。
おじさんがそんなことを言うのは初めてだった。

*もしかして、結婚するのだろうか。*

そんなことを考えながら学校へ向かった。
今年は先輩がいないので、この電車も少し寂しい。
でも先輩の影響で、クラスに数人、
話せる友人ができていた。
それは先輩がくれた、思いがけない贈り物だった。

授業が終わると、いつもより少し足を速めて家に帰った。

マンションのエレベーターを降りて、玄関のドアを開ける。

「ただいま」

リビングに向かうと、おじさんがソファに座っていた。
そしてその隣に、背の高い女性が背を向けて座っていた。

黒髪が、窓からの光に照らされている。

僕の足音に気づいたのか、その人が立ち上がった。
ゆっくりとこちらを振り返る。

僕は目を疑った。

「先輩……!」

そこにいたのは、
卒業式の日に別れたはずの、あの人だった。

先輩も驚いたように目を見開いて、
それからふっと笑った。

「やっぱりあなただったのね」

「え……二人、知り合いなの?」

おじさんが間の抜けた声で言った。

---

## 九

話を聞けば、なるほどと思った。

普段は家でゴロゴロしているように見えるおじさんは、
実は業界では名の知れたシステムエンジニアだったらしい。

先輩の父親、つまり大きな会社の社長が、
おじさんの仕事に惚れ込んだ。
息子を病気で亡くし、
会社を継がせる者のいなくなった社長は、
おじさんを婿養子にしたいと言い出した。

おじさんは最初、断った。
娘さんが可哀想だ、と。

だがお見合いの席で顔を合わせた二人は、
不思議なくらい気が合った。
話が弾んで、笑いが生まれて、
本人たちが「この人でいい」と思った。
それで結婚することになったのだという。

「大学には行かせてもらえることになったから」
と先輩が言った。
「しばらくはここから通うことになるけど、よろしくね」

リビングに、静かな時間が流れた。

僕は胸の中にしまった引き出しを、もう一度確かめた。
ちゃんと、そこにある。
初恋は、初恋のまま、きれいに折りたたまれている。

それでいい。

僕はまっすぐ先輩を見て、微笑んだ。

「これからよろしくお願いします、お母さん」

先輩は一瞬、目を細めた。
それから、ゆっくりと微笑み返してくれた。

温かくて、穏やかな笑顔だった。

---

## エピローグ

*またね。*

卒業式の日に先輩が言った言葉の意味が、
ようやくわかった気がした。

またね、というのは「さようなら」じゃなかった。
本当に、「また会いましょう」という意味だったのだ。

春の光が、リビングの窓から差し込んでいた。

桜の花びらが、どこかで舞っているだろう。
今年の春は、去年よりも少しだけ、明るく見えた。
 

第二百三弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その9」の続きです

 

 

 

第十六章 鬼神との戦い

フレデリックは最初に、大型の多弾頭ミサイルや
ロケット弾を撃った。
背部のミサイルポッドが開き、無数の弾頭が放たれる。
肩部のロケットランチャーも咆哮する。
爆炎が、ババロンの上空を覆った。
だが――
この種の兵器は、ガーディアンには通用しない。
建造物や地形には被害を与えられるが、
常に浮遊しているガーディアンに地形変化は無意味だ。
主目的は、ジャミングと撹乱。
視界と各種センサーを潰すこと。
それが狙いだった。

「『ブランシュ』は、『紅男爵』から
常にデータリンクで情報が伝達されている」
フレデリックは呟いた。

戦場を把握できる能力は、
『クレオパトラ』を上回っているはずだった。

その為に――
先に監視衛星を破壊した。
反物質反応弾等で地上のセンサーを無効化した。
ダメ押しが、このミサイルとロケット弾の攻撃だった。

「投棄!」

フレデリックは発射後、関連装備を切り離した。
撃ち終わったミサイルポッド、ロケットランチャー。
それらが宙域に放たれる。
重量を減らす。
機体への負担軽減のためだ。
その間にも、フレデリックは
『クレオパトラ』の防御シールドの隙間を探していた。
速射砲が火を噴く。
レールガンが咆哮する。
各種砲弾を撃ち込む。
当然、『クレオパトラ』からの砲撃も来る。
光の弾丸が、『ブランシュ』を狙う。
だが――
紙一重で避けられる精度だった。

「センサーへの攻撃が、効いている……!」
フレデリックは確信した。

だが――
そう思った瞬間。
『ブランシュ』の数メートル前を、斬撃が横殴りに走った。
光剣の眩い光。
目が眩む。

「くっ!」

ここで後退したら、追撃される一方になる。
フレデリックは機体は下げずに、砲撃を増やした。
絶対に防がれる砲撃も増やして、牽制する。
エネルギーゲージの減りが、大きくなる。
『MOTOR』が悲鳴を上げている。

『クレオパトラ』の攻撃は、容赦なかった。
光の刃が、次々と『ブランシュ』を襲う。
砲撃用武器が、破壊されていく。
肩部のレールガン――破壊。
右腕の速射砲――損傷。
使えなくなったものは、投棄していった。

「アン! 答えてくれ!」
フレデリックは叫んだ。

だが、アンは最初の通信以降、何も応じなかった。
眼の前の鬼気迫る勢いの、
まるで鬼神のような『クレオパトラ』。
あれに、アンが乗っているなんて――
フレデリックには信じられなかった。
優しかった彼女。
笑顔が美しかった彼女。
『イリス』を愛情深く育てていた彼女。
その彼女が、こんな――

「違う……これは……」

フレデリックの思いが、油断になった。
瞬間――
『クレオパトラ』の光剣が、
『ブランシュ』の左腕を捉えた。

ガギィィィン!

装甲が裂ける。
内部のエネルギー伝達ラインが切断される。

『警告! 左腕動力系統、損傷! 稼働不能!』
機械音声が告げた。

「くそっ!」

フレデリックは左腕の動力をカットした。
エネルギー消費は抑えられた。
だが、死角が増えてしまった。

徐々に、左側からの被弾が増えていき、

エネルギーの消費量が増えていく。
『クレオパトラ』は、容赦なくその死角を突いてくる。
光の刃。
光の弾丸。
衝撃波。
その攻撃に、ジリジリと後退せざるを得なくなる。

「これまでか……」

フレデリックがそう思った時――
『クレオパトラ』の斬撃が、迫った。
光剣が、『ブランシュ』の胸部を狙う。
直撃だ。
データ収集1度目にして、
『ブランシュ』が落ちるのか……
フレデリックは目を閉じた。
だが――

ガキィィィン!

金属が激しくぶつかり合う音。
フレデリックは目を開けた。

「!?」

『ブランシュ』の左前の空間が歪んでいた。
そして――
緑色のガーディアンが、突然出現した。
転送か?
いや、違う。
高度なステルスだ。
明らかになったそのガーディアンは――
『ドライアード』。
ジョナサン・リヴィングストンの愛機だった。
全身を覆う防御バインダー。
重装甲と強力な防御シールド。
更には、魔法による結界まで発動できる。
完全防御型の、接近戦が得意な機体。
『ドライアード』は、
『クレオパトラ』の光剣を防いでいた。

「もう限界だ。撤退しろ」
ジョナサンの声が、通信に響いた。

「ジョナサン……!」

「いいから、早く!」

フレデリックは、素直に従った。
『ブランシュ』が後退する。
『ドライアード』は、『クレオパトラ』の攻撃を
全て防御しながら、徐々に後退していく。
防御バインダーが次々と展開される。
魔法の結界が、光の刃を弾く。
そして――
その戦場から、離脱した。

流石に、『クレオパトラ』も追撃はしてこなかった。
『クレオパトラ』のコクピットで、アンは呟いた。

「……フレデリック」

彼女の手は、震えていた。

「なぜ……なぜ、あなたが……」

『イリス』が静かに言った。

「陛下、敵は撤退しました」

「わかっている」

アンは操縦桿から手を離した。

「わかっているわ……」

彼女の目から、一筋の涙がこぼれた。

宙域の彼方。
『ワイバーン』が、『ブランシュ』と
『ドライアード』を回収した。

「データは取れたか?」

クリスが尋ねた。

『ああ……何とか』

フレデリックの声は、疲れ切っていた。

「カルタゴ帝国とルパート王国は……
この戦いで数十隻の艦艇を失った」
ゲーリーの重い声が、通信に響いた。

「ミサイル艇は、全機撃墜された」

沈黙。
重い、重い沈黙。

「すまない……僕のせいで……」
フレデリックが呟いた。

「お前のせいじゃない」
クリスが言った。

「これは、戦争だ。犠牲は出る」

「でも……」

「データは取れたんだろ? 
なら、彼らの死は無駄じゃない」
クリスは強い口調で言った。

「次で、勝てばいい。それが、彼らへの弔いだ」

フレデリックは何も言えなかった。
ただ、拳を握りしめることしかできなかった。

『ブランシュ』のコクピットで、
フレデリックは一人、呟いた。

「アン……君は、何も言ってくれなかった」
彼の声は、震えていた。

「僕の声は、届いていたのか?」

答えは、ない。
ただ、静寂だけがあった。
報われない想い。
届かない声。
そして、増えていく犠牲。
フレデリックは、更に追い詰められていった。

――続く――