米海軍の巡航ミサイル潜水艦が異世界転移して
次元潜航艇に変化するお話を作りました
転移したのは宇宙戦艦ヤマト+スタートレックな世界で
スペースオペラちっくな異世界転移モノって感じです
# 亜空間の彷徨者
北極海の深度四百メートル。
巡航ミサイル潜水艦USSミシガンは静かに航行していた。
オハイオ級弾道ミサイル潜水艦を改修したこの艦は、
百五十四発のトマホーク巡航ミサイルと
特殊部隊を搭載し、
アメリカ海軍の秘密の矛として任務を遂行してきた。
「艦長、異常な磁気変動を探知しました」
ソーナー員の報告に、
艦長のジェームズ・ハリス中佐は眉をひそめた。
「詳細は?」
「不明です。これまで観測したことのない波形で——」
次の瞬間、艦全体が激しく震動した。
照明が明滅し、計器類が狂ったように
数値を乱舞させる。
乗員たちが悲鳴を上げる間もなく、
世界が白く染まった。
---
意識を取り戻したハリス艦長が最初に感じたのは、
重力の違和感だった。
体が妙に軽い。
周囲を見渡すと、艦橋の様子が一変していた。
見慣れた計器盤は光沢のある未知の素材に置き換わり、
スクリーンには三次元の星図が浮かんでいる。
「艦長! 外部映像をご覧ください!」
副長のサラ・チェンの声に導かれ、
メインスクリーンを見る。
そこには漆黒の宇宙空間が広がっていた。
無数の星々、そして遠くに青白く輝く惑星。
「……報告を」
ハリスは努めて冷静に命じた。
混乱の中、各部署からの報告が続々と入った。
機関部からは原子炉が消失し、
代わりに「重力制御装置」なる動力源が
稼働していると報告された。
兵装部は、魚雷がホーミングフェイザータレット、
トマホークが光子魚雷なる兵器に
変化したと伝えてきた。
さらに防御シールド、レプリケーター、
亜空間ソーナーといった、
SFの世界から飛び出してきたような装備が
艦に追加されていた。
「落ち着け、全員」
ハリスは静かに、しかし力強く言った。
「我々は海軍の軍人だ。
どんな状況であろうと、パニックを起こせば終わりだ。
一つずつ状況を把握していく」
百五十余名の乗員たちは、艦長の言葉に従った。
確かに誰もが混乱していたが、
長年の訓練と規律がパニックを防いだ。
潜水艦という閉鎖空間で任務を
遂行してきた彼らには、
危機的状況でも冷静さを保つ能力が染み付いていた。
---
状況確認が続く中、
新たに「亜空間ソーナー」に変化した
探索装置が何かを捉えた。
「艦長、接近する艦艇を探知。
距離三万キロメートル、
速度は——信じられません、
秒速五百キロメートル以上です」
「回避行動を」
ハリスは即座に判断した。
「交戦は避ける。我々の能力も相手の意図も不明だ」
「艦長、潜航は——」
「亜空間潜航だ」
ハリスは新たに理解した概念を口にした。
なぜか、どう操作すればいいのか分かった。
まるで知識が頭の中に直接流れ込んできたかのように。
「探査用プローブを有線ケーブルで展開、
通常空間の監視を継続しろ」
ミシガンの艦体が、次元境界面を滑るように
通過していく。
スクリーンに映る宇宙空間が歪み、色彩が変化し、
やがて奇妙な紫色の空間に包まれた。
亜空間——通常の宇宙空間とは異なる次元層。
ここに潜れば、
通常空間からの探知は極めて困難になる。
「潜航完了。深度、亜空間第三層」
「水測、厳密な索敵を継続しろ」
かつて水中測的員と呼ばれた職種の乗員が、
新しい装置を操作する。
有線ケーブルで繋がったプローブからの
データが流れ込んでくる。
「接近艦艇、一隻のみ。中型、全長約二百メートル。
形状から判断して、長距離警備任務用の
フリゲート艦と思われます」
ハリスは艦橋の椅子に深く腰を下ろし、考えた。
このまま隠れ続けることもできる。
しかし、それでどうなる?
艦が変容し、長期間の活動は
可能になったかもしれない。
レプリケーターとやらで食料も水も生成できるらしい。
だが、人間は機械ではない。
狭い艦内で延々と過ごせば、
いずれ乗員の精神が持たない。
どこかに上陸する必要がある。
休息、情報、そして
——故郷への帰還方法。
それには友好的な勢力と接触し、
協力を要請しなければならない。
もちろん、最悪の事態も想定しなければならない。
敵対的であれば、即座に亜空間に逃げ込む。
「通信、フリゲート艦に対して
平和的意図を示す信号を送れ。全周波数で」
しばらくして、応答があった。
奇妙な言語
——だが、なぜか意味が理解できた。
ここでも、何らかの翻訳機能が働いているようだった。
長い問答が続いた。
ミシガンの正体、目的、出自。
ハリスは可能な限り正直に答えた。
嘘は長期的な関係を築く上で有害だ。
フリゲート艦の艦長は、最初は疑い深かったが、
やがて好意的になった。
彼らは「星間連合」という組織に所属しており、
最寄りの宇宙要塞
——ステーション・エリシオンに案内すると申し出た。
「宇宙要塞……軍事施設ですか?」
「いや」
通信機から流れる声は穏やかだった。
「エリシオンは人工天体だが、
軍事基地というより居住ステーションに近い。
緑溢れる庭園もあれば、商業区画もある。
人口は約五万だ。君たちはそこで休息し、
我々の上層部と今後について協議できる」
ハリスは肩の力が抜けるのを感じた。
問題の一つが解決した。
少なくとも、乗員たちを休ませる場所が確保できる。
「全艦に通達。我々は友好的な勢力と接触し、
彼らの宇宙要塞に向かう。
各員、礼儀を忘れるな。
我々は今、アメリカ海軍として、
そして地球人類として、
初めての異星接触を行っている」
艦橋に安堵の空気が流れた。
だが、ハリスは知っていた。
これは始まりに過ぎない。
地球への帰還方法、この変容の原因、
そしてこの宇宙における
我々の立ち位置
——解決すべき問題は山積している。
戦争があるのか?
敵対勢力は?
経済システムは?
法律は?
文化は?
だが、ひとまずは休める。
それだけで十分だった。
ハリスは窓の外、
いや、スクリーンの外に広がる星々を見つめた。
USSミシガンは静かに、
フリゲート艦に先導されながら、
未知の未来へと航行を続けた。
潜水艦は海の静寂の中を進むものだ。
そして今、その海は星々の大洋に変わった。
だが、変わらないものもある。
乗員たちの絆、任務への献身、
そして未知に立ち向かう勇気。
「針路、ステーション・エリシオン」
ハリスは命じた。
「全速前進」
「了解。全速前進」
亜空間の紫色の空間を、
かつて地球の海を守った潜水艦が進んでいく。
---
三時間後、
フリゲート艦との距離は十キロメートルにまで
縮まっていた。
相手の艦長
——名をカイル・ヴォランという
——は通信で、そろそろ通常空間に
浮上してもらえないかと打診してきた。
「亜空間航行は我々も可能だが、
艦隊司令部との通信には通常空間に出る必要がある。
君たちの存在を正式に報告し、
エリシオンでの受け入れ準備を整えたい」
ハリスは副長のチェンと視線を交わした。
彼女は小さく頷いた。
「了解した。浮上準備に入る」
「艦長」
水測員が報告する。
「周辺空域に他の艦艇の反応はありません。
浮上は安全と判断します」
「よし」
ハリスは深呼吸をした。
「全艦、浮上態勢。
プローブ回収、亜空間より通常空間へ浮上する」
有線ケーブルが巻き取られ、
探査プローブが艦内に収容される。
機関部から準備完了の報告が入った。
「浮上、始め」
艦が上昇を始める。
いや、正確には「上」という概念はないのだが、
感覚的にはそう感じられた。
次元境界面が近づいてくる。
スクリーンの紫色の空間が波打ち、歪み、
そして——
世界が反転した。
紫色が消え、漆黒の宇宙が広がった。
無数の星々が瞬き、
遠くに巨大な赤色巨星が燃えている。
そして、すぐ近く
——わずか五キロメートルの距離に、
フリゲート艦の姿があった。
流線型の美しい船体。
白と青の塗装。
船体には見慣れぬ文字で艦名が記されている。
『ヴィジランス』
——警戒、という意味だろうか。
「ミシガン、浮上を確認した。
ようこそ、我々の世界へ」
ヴォランの声が通信機から流れる。
その瞬間、ミシガンの周囲に光が弾けた。
フリゲート艦が色とりどりの信号弾
——いや、ホログラム投射装置のようなものを
展開したのだ。
光の花火が宇宙空間に咲き乱れる。
「これは……」
「歓迎の儀式だ」
ヴォランは笑みを含んだ声で言った。
「未知なる旅人を迎える、我々の伝統でね。
さあ、並走しよう。エリシオンまであと六時間だ」
ハリスは思わず微笑んだ。
艦橋の乗員たちも、
緊張が解けたように安堵の表情を浮かべている。
「了解。並走する」
二隻の艦
——地球の潜水艦と異星のフリゲート艦は、
並んで星々の海を進み始めた。
通常空間に戻ったミシガンのセンサーが、
より広範囲の情報を捉え始める。
遠方に他の艦艇の反応。
宇宙ステーション。
通商路を示す航行ビーコン。
これは孤独な宇宙ではない。
文明があり、秩序があり、
人々が生活している空間だ。
「艦長」
通信士が報告する。
「ステーション・エリシオンから
入港許可の信号です。
ドック三番への誘導を開始するとのこと」
「受領した」
窓の外、いや、スクリーンの外に、
やがて巨大な構造物が姿を現した。
ステーション・エリシオン
——回転する円環状の人工天体。
その内側には、確かに緑が見える。
大気を保持したドーム、建造物の群れ、
そして行き交う小型艇の灯火。
「見ろよ……」
若い乗員が呟く。
「本当に、人が住んでるんだ」
ハリスは頷いた。
これは夢ではない。
我々は本当に、別の世界に来てしまったのだ。
だが、ここには希望がある。
理解してくれる者たちがいる。
ミシガンとヴィジランスは並んで、
ステーション・エリシオンへと針路を取った。
新たな海で、新たな物語が始まろうとしていた。