の続きです
# 異能の転生者
## 第五十五章 後悔
### 一
ルークは自分を呪った。
ダンの体を貫く木を見た瞬間、ルークの頭の中で、
過去の判断の全てが高速で巻き戻された。
火天ライナスが現れた時点で、気づくべきだった。
ライナスは単独ではないはずだった。
王城での夜、ヴィルヘルムとジレルと
ライナスが同じ方向を向いていることは、
既に確認していた。
三者が絡んでいる可能性を、ルークは知っていた。
知っていながら、索敵範囲を広げなかった。
ライナスを倒した時に、尋問すべきだった。
あの黒焦げの状態でも、思念通話は使えた。
ダーウェント子爵の時と同じように、
頭の中を読めばよかった。
なぜそれをしなかったのか。
ライナスを仕留めることで、満足していたからだ。
フリーダの時と同じだった。
ラングバルト男爵が暗殺された時、
ルークはダーウェント子爵家への対処で満足して、
その背後にある連鎖を断ち切ることを怠った。
結果としてフリーダの父が命を落とした。
あの時も、同じ失敗をした。
そして今また、同じ失敗を繰り返した。
もう二度と油断しないと決めていた。
あの夜、フリーダが父の訃報を告げた時の顔を見て、
ルークは心の中で誓っていた。
しかし誓いは、この瞬間に意味を失っていた。
誓いが破れた理由は、油断ではなかった。
油断よりもっと根本的な問題だった。
ルークはこの世界に来てから、
力の行使については完璧に近かった。
しかし、人間の悪意がどのように連鎖するか
という判断において、まだ甘さがあった。
前世において、フレデリック・マクミランは
他者の悪意に晒されたことがほとんどなかった。
誰も彼に悪意を向けることができなかったからだ。
だから、悪意の連鎖を追う経験を、
ルークは持っていなかった。
その経験不足が、今日の結果を生んだ。
ダンの口から血が落ちる音が、ルークの耳に届いた。
ルークは顔を上げた。
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## 第五十六章 次元破壊砲
### 一
遠くに、ジレルがいた。
索敵がその位置を正確に示していた。
木々の奥、かなりの距離があった。
しかしその顔の表情まで、ルークには見えていた。
嘲笑っていた。
ダンが倒れた光景を見て、満足した顔で嘲笑っていた。
ルークはその表情を、一秒見た。
一秒で十分だった。
項垂れていた顔が上がった。
ルークはゆっくりと右手を上げた。
急がなかった。
急ぐ必要がなかった。
人差し指を伸ばした。
遥か遠方にいるジレルを、正確に指した。
照準は完璧だった。
距離は関係なかった。
どれほど遠くにいても、どれほど隠れていても、
ルークの認識の中では、
ジレルの位置は一点として固定されていた。
「次元破壊砲」
声は静かだった。
怒鳴っていなかった。
感情的な叫びもなかった。
ただ、静かに、その言葉を言った。
次の瞬間、世界が白くなった。
光だった。
光という概念が持つ全ての波長が、
一点から解き放たれたような光だった。
目を閉じても網膜を焼くような輝きが、
全方位に広がった。
騎士たちは何も見えなくなった。
目を塞いでも、光は瞼を透過した。
視界が完全に白く塗り潰された。
音も、消えた。
光があまりにも強烈だったため、
他の感覚が一時的に機能を停止した。
光が収まった。
ゆっくりと、視界が戻ってきた。
騎士たちは目を開けた。
ルークが指を向けていた方向を、全員が確認した。
森が、なかった。
木々が、なかった。
地面が、なかった。
ルークが指を指していた方向に存在していた
全てのものが、消えていた。
森の終わりから始まっていたはずの山脈も、なかった。
その向こうに続いていたはずの地形も、なかった。
ただ、空があった。
地平線の向こうまで、何もない空間が広がっていた。
地面すら存在しない、ぽっかりと空いた空間だった。
空間そのものが、消えていた。
騎士たちは声を出せなかった。
何を見ているのかを、
理解する言語を持っていなかった。
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次元破壊砲。
それはルークが使える攻撃の中で、
最大の威力を持つものだった。
空間を消す。
物質を消すのではなかった。
空間そのものを、指定した範囲において消滅させた。
物質も、エネルギーも、
空間を構成する全ての要素が、存在しなくなった。
その効果は、空間の概念を超えていた。
別の次元にいる標的も、消せた。
別の時間軸にいる標的も、消せた。
過去にいる標的も、未来にいる標的も、
ルークが認識し、指定した瞬間に、
その空間ごと消える。
時間軸と次元の壁は、
この攻撃の前では意味を持たなかった。
次元断層があっても関係なかった。
次元そのものを消すのだから、
断層は防壁にならなかった。
防ぐ方法は、理論上一つだけあった。
本体を複数、同時に異なる時間軸と
次元に存在させること。
一つの本体が消えても、別の本体が残る。
しかしそれが可能な存在は、
この宇宙においても、ほとんどいなかった。
ルークは、それができた。
しかしこの世界に、そのような存在はいないだろう、
とルークは判断していた。
だから、次元破壊砲を使った。
確実に仕留めるために。
ダンを失った痛みが、どれほどのものかは、
ルーク自身にもまだ正確には測れていなかった。
しかしジレルの嘲笑を見た瞬間に、
ルークの中で何かが決まった。
中途半端はない。
この攻撃を選んだのは、怒りからだけではなかった。
これ以上、取り返しのつかないことが起きる前に、
根を断つ。それがルークの判断だった。
木天ジレルは、もうどこにも存在しなかった。
---
### 二
光が完全に収まった後、戦場には静寂があった。
焦げた匂いが残っていた。
倒れたヒュドラの残骸が、あちこちに転がっていた。
上空には、もうワイバーンの影もなかった。
そして、森があった場所には、空間だけが残っていた。
騎士たちは誰も動かなかった。
声を出せなかった。
何を見たのかを、言語化できなかった。
ルークはゆっくりと手を下ろした。
それからダンのところに向かった。
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## 第五十七章 光
### 一
フリーダは空を見ていた。
校庭での訓練の最中だった。
グレイが新しい複合魔法の術式を説明していた。
フリーダはそれを聞きながら、
必要な部分を頭の中で整理していた。
その時、空が光った。
北の空だった。
突然、空の色が変わった。
昼間の青空が、一瞬にして白に塗り替えられた。
目を細めなければならないほどの輝きが、
北の方角から広がってきた。
フリーダは手で目を遮りながら、空を見た。
何か、嫌なことが起きていなければいい。
その思いが、理由なく来た。
ルークのことが頭に浮かんだ。
今日、ルークは土天ダンと一緒に出かけていた。
国境の方向——北の方角に。
光が、北から来ていた。
フリーダの胸の中に、冷たいものが走った。
説明のつかない不安だった。
根拠はなかった。
しかし消えなかった。
「グレイ教授」フリーダは言った。
返事がなかった。
横を見ると、グレイが空を見ていた。
目が輝いていた。
ノートを取り出していた。
何かを書き始めていた。
あの光の現象を、既に研究対象として捉えていた。
口の中で、何かを呟いていた。
「この光の質から推定される出力が
——空間の消失を伴う場合の理論的な——」
フリーダはグレイを見た。
それから空を見た。
光は消えていた。
北の空は、元の青に戻っていた。
しかし何かが変わった感覚が、
フリーダの中に残っていた。
ルーク。
彼の名前が、また頭に浮かんだ。
無事でいてほしい、
という言葉が、フリーダの中に自然に出てきた。

