これまで何度か出て来た

人型戦略機動兵器「ガーディアン」が

何故 人型兵器なのか?

その理由のお話です

 

 

# 鋼鉄の信念――ユニコーンZEROの邂逅

宇宙の暗闇を切り裂いて、
全高40メートルの人型戦略兵器が進んでいた。

「ユニコーンZERO、目標まで残り3000メートル」

コックピット内に響く女性の声。
それは自律型有機AI
「イリス・ユニコーンZERO」だった。
人間の感情を理解し、学習し、進化する
――そんな有機AIが、
この巨大な人型兵器の全てを制御している。

搭乗者フレデリック・D・マクミランは、
自ら設計し製造したこの機体の
コントロールシートに深く身を沈めていた。
彼の視線の先には、
漆黒の宇宙空間に浮かぶ
全長150メートルの宇宙船があった。

「やっと……やっと見つけた」

フレデリックの声には、
五年間の探索の疲労と、
ようやく到達した安堵が滲んでいた。

その宇宙船には、
天才科学者マリオン・クライヴが暮らしている。
「ガーディアン」の開発者にして、
半永久機関「MOTOR」
――mighty only time over reactorの発明者。
無尽蔵のエネルギーを生み出す
この革命的な動力源は、人類の戦略を一変させた。

しかし、マリオンは「ガーディアン」を
世に送り出した直後、忽然と姿を消した。

「イリス、ドッキング準備」

「了解しました、フレデリック」

ユニコーンZEROの巨大な手が、
まるで人間のように慎重に宇宙船の外壁に触れた。
繊細な動作だった。
これほどの巨体が、これほど精密な動きをする
――それは全て、イリスの高度な制御能力と、
MOTORの安定したエネルギー供給が
あってこそ実現できることだった。

だが、フレデリックには長年の疑問があった。

何故、人型なのか。

兵器として見れば、人型は決して最適解ではない。
むしろ非効率的だ。
それなのに、イリスはMOTORを、
そして「ガーディアン」そのものを、
外見が人型でなければ稼働させない。
この制約は絶対的で、製造過程で
どれだけ改変を試みても解除できなかった。

エアロックが開き、
フレデリックは宇宙船内部へと足を踏み入れた。

通路は薄暗く、静寂に包まれていた。
だが、奥から漏れる柔らかな光が、
人の存在を示していた。

「ようこそ、フレデリック君」

メインホールに入ると、
そこには白衣を着た初老の男性が立っていた。
マリオン・クライヴ。
伝説となった科学者は、
想像以上に穏やかな表情をしていた。

「マリオン博士……」

「五年か。よく探し当てたね」
マリオンは微笑んだ。

「まず、座りたまえ。話すことは山ほどある」

二人は向かい合って座った。
フレデリックは抑えきれずに尋ねた。

「何故、人型なのですか? 
イリスが人型以外では動作しない理由が、
僕にはずっと分からなかった。
技術的な制約? 
それとも何か深い戦略的な意味が?」

マリオンは少し間を置いてから、
意外なほど率直に答えた。

「個人的な趣味だよ」

「……え?」

「私は人型機動兵器が好きなんだ。
幼い頃から夢見ていた。
だから、人型にした。それだけだ」

フレデリックは言葉を失った。

マリオンは続けた。

「MOTORを発明した時、私は歓喜した。
無限のエネルギー。
人類の可能性が無限に広がると思った。
だが同時に恐怖も感じた。
もし何の制約も付けなければ、
これまであった兵器が、ただ強力になるだけだ。
戦車が、戦闘機が、戦艦が
――それらが無限のエネルギーを得て、
破壊の規模だけが拡大する」

マリオンの目が、遠くを見つめた。

「だから決めたんだ。
私の好きな人型機動兵器でしか
動かないようにしようと。
そのために、イリスを開発した。
彼女たちには、人型でなければ
MOTORを起動させないという制約が、
DNAレベルで組み込まれている。
製造過程で外すことは不可能だ」

「つまり……兵器の形状に
美学を持ち込むことで、制限をかけた?」

「そうだ。人型は非効率だからね。
必要な技術的ハードルも高い。
つまり、誰もが簡単には作れない。
そして――」

マリオンは立ち上がり、窓の外を指差した。
そこには、彼の宇宙船が広がっていた。

「この船もMOTORを搭載している。
そしてイリスが制御している」

フレデリックは驚いて立ち上がった。

「では、この船も人型に……?」

「いや」
マリオンは首を振った。

「私の特別製のイリスは、
人型でなくても動作する」

「何故ですか?」

マリオンの表情が真剣になった。

「最強の人型戦略兵器である
『ガーディアン』に襲われても、逃げられる
――もしくは勝てるようにするためだ」

フレデリックは息を呑んだ。

「兵器として見れば、
人型よりも従来の形状の方が優れている。
だから、人型に優位性がなければ、
人型は兵器としては生き残れない。
だから私は『ガーディアン』を作った。
だが私が捕まりこの優位性が崩れれば
『ガーディアン』の時代は終わる
だからこそ、『ガーディアン』に
殺されないための保険が必要だった」

沈黙が降りた。

やがて、フレデリックは深く頷いた。

「博士……あなたは本当に、
人型機動兵器を愛していたんですね」

「ああ」
マリオンは穏やかに微笑んだ。

「愛していたからこそ、制約にした。
愛していたからこそ、
それを超える手段も用意した。
矛盾しているかい?」

「いいえ」
フレデリックは答えた。

「それが、本当の愛だと思います」

窓の外では、ユニコーンZEROが静かに佇んでいた。
40メートルの巨体が、まるで騎士のように
――人間のように。

フレデリックは、マリオン・クライヴという男を、
心から尊敬した。

世界を変える力を手にしながら、
それを最も愛するものの形に縛り付け、
同時にそこから自由になる道も残す。
その矛盾を抱えながら、宇宙の果てで一人、
自らの信念を守り続ける孤独な科学者。

「博士」
フレデリックは言った。

「一つだけ、お願いがあります」

「何だね?」

「僕と一緒に、故郷に戻りませんか。
あなたの『ガーディアン』たちは、
今も戦い続けている。
でも、人型である理由を理解している者はいない。
あなたの言葉が必要です」

マリオンは長い間、沈黙した。

そして、静かに首を横に振った。

「それはできない、フレデリック君」

「何故ですか?」

「私が故郷に戻れば、
必ず誰かが私を利用しようとする。
権力者、軍部、企業
――誰もが、制約のないMOTORを欲しがるだろう。
私を監禁し、脅し、あるいは……」
マリオンは言葉を濁した。

「私の存在そのものが、
人型という制約を破壊する鍵になってしまう」

フレデリックは反論しようとしたが、
マリオンは手を上げて制した。

「いいかい、フレデリック君。
私がここにいる限り、人型が主役の時代は続く。
『ガーディアン』という美しい騎士たちの時代が。
もし私が捕らえられ、
無制約のMOTORが量産されれば、
世界は再び破壊の時代に戻る。
それだけは、避けなければならない」

「でも……」

「君は素晴らしい技術者だ。
ユニコーンZEROを見れば分かる。
君のような者たちが、人型という制約の中で、
技術と美学を追求し続ける。
それこそが、私の望んだ世界なんだ」

マリオンはフレデリックの肩に手を置いた。

「私は消える。深淵の宇宙へ。
二度と見つからないように。
それが、私にできる最後の責任だ」

「博士……」

「さあ、行きたまえ。
君の『ガーディアン』が待っている」

フレデリックは何も言えなかった。
ただ、深く頭を下げた。

宇宙空間に、二つの影が並んだ。

全高40メートルの人型戦略兵器
「ユニコーンZERO」と、
全長150メートルの宇宙船。

しかし、やがて二つの影は、
それぞれ反対方向へと進路を取った。

ユニコーンZEROは故郷へ。
マリオンの宇宙船は、未知の深淵へ。

フレデリックはコックピットから、
遠ざかる宇宙船を見つめた。

「イリス」

「はい、フレデリック」

「僕たちは、博士の信念を守らなければならない」

「理解しました。それが、私たちの使命です」

マリオンの宇宙船は、
やがて暗黒の彼方に消えていった。

天才科学者は、自らの発明が
正しく使われ続けるために、
永遠の逃亡者となることを選んだ。
誰にも利用されず、誰にも見つからず、
ただ宇宙の果てで、
人型機動兵器の時代を見守り続ける。

それが、マリオン・クライヴという男の、
最後の覚悟だった。

フレデリックは、
ユニコーンZEROのスロットルを押した。

「帰還する。故郷へ」

宇宙に、一つの人型の影だけが残された。

そして、その影は静かに、
故郷へと向かっていった。

マリオン・クライヴの名は、
やがて伝説となり、そして神話となる。

だが彼自身は、誰も知らない宇宙の片隅で、
ただ一人
――自らの信念を守り続けるのだった。

―了―
 

ガンダムのアナザーストーリーを作りました

人型機動兵器って現実的に見れば

非情に使い勝手が悪く

MSの技術でボールを改造すれば

MSなんてものよりも

余程 有効な機動兵器になると思います

地上戦においてもMSと同じ技術で

通常兵器を造ればMSよりも

余程 有効だと思います

ミサイルもレーダーが使えないから

無意味というのもおかしくて

ミサイルの誘導方式なんて

有線誘導だけではなく

レーザービームライディングや

画像赤外線誘導、光学誘導もあり

作中でレーザー通信を使っている以上

レーザービームライディングは可能だと思います

人型にしたら効率が悪いし

装甲も薄くなるし

攻撃範囲も狭まるから

不効率極まりないと思いますね

あれはリアルロボットではなく

あくまでもロボットファンタジー

という夢物語、ロマンですから・・・

 

# 幻想の終焉

宇宙に浮かぶ円筒形の居住空間
——スペースコロニー。
その巨大な構造物が、
星々を背景に静かに回転している。

その付近に、数機の戦闘ポッド
「ボール」が浮かんでいた。
球形の機体に、上下にビーム砲、
左右にロケットランチャーと
バルカン砲を装備している。
元は作業用ポッドだったが、
ジオンの人型機動兵器に対抗するため、
連邦は急遽改良を施した。
人型機動兵器に使われる核融合炉を搭載し、
ビーム兵器を使えるようにしたのだ。
装飾も威圧感もない、
ただ実用性だけを追求した姿。
宇宙空間では非常に使い勝手が良い機体だ。
連邦軍の主力機動兵器だった。

「第三警戒ライン、異常なし」

ボールのパイロット、
ミハエル・カーンは定時報告を入れる。
彼の声には倦怠感が滲んでいた。
サイド5での大規模戦闘から三週間。
前線は膠着し、
この宙域は今のところ平穏だった。

「了解。引き続き警戒を——」

管制の声が途切れた。
いや、正確には途切れたのではない。
ノイズに埋もれたのだ。

「ミノフスキー粒子濃度、急上昇!」

僚機の叫び声。
レーダースクリーンが
完全に使い物にならなくなった。
電波が乱反射し、何も映らない。
通信も断続的になる。
ミハエルは即座に光学カメラに切り替えた。

肉眼で見るしかない。

宇宙の闇を凝視する。
星々の光の中に——あった。
かなりの距離の宇宙空間に、
緑色の宇宙巡洋艦が浮かんでいた。
スペースコロニー群のひとつ、
サイド3に建国された
ジオン公国に所属する軍艦だった。

「敵艦!」

ミハエルの叫びと同時に、
敵艦から三機の人型機動兵器が発進した。
「ザク」——ジオン公国軍の主力機動兵器。
二機は右手にマシンガン、
右肩に盾を装備している。
残りの一機は、
全長の長い長射程ライフルを持っていた。

光が走った。

長距離狙撃用ザクのライフルが火を吹き、
ミハエルのボールをかすめる。
警告音が鳴り響く中、
彼は冷静に機体を捻った。
ボールは人型機動兵器よりも機動性が高く、
そう簡単には当たらない。
小さく、軽く、反応が速い。

「散開! パターンDで迎撃!」

ミハエルの指示に、僚機たちが応える。
三機のボールが三角陣形を組み、
互いの死角を補い合いながら前進する。
光学カメラの倍率を上げ、目を凝らす。
ミノフスキー粒子が散布された戦場では、
レーダーも誘導兵器も使えない。
頼れるのは自分の目と、
機体に刻み込まれた訓練だけだ。

ザクが距離を詰めてくる。
その動きは、確かに人間的だった。
腕を振り、脚を蹴り出し
——だがその「人間らしさ」こそが弱点だった。
宇宙空間に上下はない。
前後左右の概念すら曖昧になる無重力の世界で、
人型であることに何の意味があるのか。

光学照準器の十字線にザクを捉える。
ミノフスキー粒子下では自動追尾も効かない。
全て手動だ。
ミハエルは呼吸を整え、
機体の慣性を計算し、引き金を引いた。

ミハエルは左右のロケットランチャーを発射した。
弾頭がザクの手前で破裂する。
散弾だ。
無数の破片が扇状に広がり、
回避を困難にする。

ザクが盾を構えて回避行動に入った瞬間、
ミハエルは上下のビーム砲を放った。
二条の光条が宇宙を切り裂く。
一発目は盾に阻まれたが、
二発目がザクの左脚を貫通した。
姿勢制御を失ったザクが宙で回転する。

「二番機、撃墜確認!」

僚機の報告。
別のザクが爆散していた。
三機目——長距離狙撃機が後退を始める。

「逃がすな!」

だが、その必要はなかった。
遠距離からの支援砲撃が、撤退するザクを捉えた。
コロニー防衛部隊の増援だ。

戦闘は、わずか三分で終わった。

ミハエルは深く息を吐いた。
スクリーンに映るザクの残骸を見つめながら、
彼は思う。

人型機動兵器が戦争で有益だなんて幻想は、

簡単に打ち砕かれた。

ジオン公国は
「人型こそが未来の戦場を制する」と喧伝していた。
モビルスーツという概念に莫大な予算を投じ、
パイロットを英雄として祭り上げていた。
確かに、地上では脅威だったかもしれない。
だが宇宙は違う。

球形のボールは、
あらゆる方向に均等な装甲を持ち、
姿勢制御も簡単だ。
複雑な四肢を持たないため、故障も少ない。
生産性も高い。そして何より——的が小さい。

「各機、損傷報告」

「第二小隊、異常なし」

「第三小隊も問題ありません」

無傷だった。

ミハエルは苦笑した。
戦争の初期、ザクの登場は確かに衝撃だった。
だが人類は学んだ。
形ではなく、機能が重要だと。
美学ではなく、合理性が生存を保証すると。

「管制、戦闘終了。警戒体制を継続します」

「了解。よくやった、ボール隊」

ミハエルは再び、静かな宇宙に目を向けた。
遠くに見えるコロニーでは、
百万人の人々が日常を過ごしている。
彼らを守るのは、英雄的な騎士ではない。
この無骨な球体——作業用ポッドに
核融合炉とビーム砲を詰め込んだ、
即席の戦闘機——と、冷静な判断力だ。

それでいい、とミハエルは思った。

戦争に必要なのは、幻想ではなく現実だから。

 

ちょと変わった日常話を作りたいな

と思って考えたお話です

元にしたのは夢で見たものでした

 

 

 

 

# 昭和レトロ喫茶店

携帯の地図アプリを確認すると、
今日の現場は駅から
徒歩二十分以上かかる場所だった。
俺は迷わず車で行くことにした。
フリーターで工事現場を渡り歩く生活も三年目。
電気工事の資格を取ってからは、
それなりに仕事は途切れない。

現場近くのコインパーキングに車を滑り込ませ、
スマホで時刻を確認する。
集合時間まであと三十分。少し早く着きすぎた。

「近くで時間でも潰すか」

車を降りて周囲を見回すと、
すぐ近くに古びた喫茶店の看板が見えた。
『純喫茶 タイムトンネル』。
いかにも昭和な名前だ。
まだ工事中なのか、
入口には養生テープが貼られている。
でも、営業してそうな雰囲気もある。

試しに扉を引くと、あっさり開いた。

「すみません、営業して──」

言いかけて、俺は固まった。

店内には作業着姿の男たちが数人、
資材を運んだり、壁の養生をしたりしている。
見覚えのある顔もある。
一緒に現場に入ったことがある職人たちだ。

「あれ、お前も来てたのか」

声をかけてきたのは、
顔見知りの塗装工の田中さんだった。

「え、ここ……現場ですか?」

「そうだよ。内装工事。
外観はもう仕上がってるから、
今日から中だけやるんだ」

なるほど、
だから外から見ると営業中の店に見えたのか。
俺は思わず苦笑いした。
時間潰しに入ろうとした喫茶店が、
まさか今日の仕事場だったとは。

「まあ、早く来たんなら丁度いいや。
準備手伝ってくれ」

店内を見回すと、昭和レトロな雰囲気を
再現しようとしているのが分かる。
アンティークのペンダントライトが
段ボールから顔を出し、
レトロなテーブルとチェアが隅に積まれている。
壁には映画のポスターを飾るつもりらしい。

遅れて数人のメンバーが到着し、
全員揃ったところで現場監督の佐々木さんが
工程の説明を始めた。

「じゃあ、役割分担な。
照明の取り付けは俺と山田、
内装は田中と鈴木、床の仕上げは──」

淡々と指示が出される。
俺は電気系統の配線チェックと
照明の補助を任された。

「あ、そうだ。
最後にオーナーさんを紹介しとく」

佐々木さんがそう言って、
奥の厨房から誰かを呼んだ。

「オーナー、ちょっといいですか」

厨房から現れたのは──

俺は息を呑んだ。

それは、人間ではなかった。
いや、人型ではあるのだが、
体表が硬質な殻のようなもので覆われ、
複眼のような目が顔の左右についている。
触角のようなものまで生えている。
虫? いや、それにしては直立二足歩行で、
スーツまで着ている。
宇宙人? いや、そんなわけが──

「はじめまして。
今回オーナーをさせていただく
グリシュタと申します。よろしくお願いします」

流暢な日本語だった。声も意外と普通だ。

周囲を見回す。田中さんも、佐々木さんも、
他のみんなも、まったく動じていない。
普通に「よろしくお願いします」
と挨拶を返している。

え、なんで? 誰も驚かないの?

「よろしく頼むよ」

グリシュタさん(?)が俺の方を見て、
複眼を僅かに動かした。笑っているのか、
怒っているのか、表情が読めない。

「あ、はい。よろしくお願いします」

俺は慌てて頭を下げた。
とりあえず、平静を装う。
周りが平気なら、きっと大丈夫なんだろう。
そう自分に言い聞かせる。

仕事が始まった。

俺は配線図を確認しながら、黙々と作業を進める。
時折チラリとグリシュタさんを見るが、
普通に店内を歩き回り、工事の進捗を確認している。
触角が時々ピクピクと動く。
あれはどういう意味なんだろう。

「おい、そこのケーブル、こっちに回してくれ」

田中さんの声で我に返る。
そうだ、仕事に集中しよう。
相手が何者であれ、俺の仕事は変わらない。

昼休憩を挟んで作業は順調に進み、
夕方にはほぼ内装が完成した。
ペンダントライトが灯り、
レトロなテーブルとチェアが配置され、
壁には古い映画のポスターが飾られた。

「いい感じだな」

佐々木さんが満足そうに呟く。

「騒音の苦情が来るから、
今日はこれくらいにしとこう。
続きはまた明日だ」

グリシュタさんが工事の出来栄えを確認し、
何度も頷いている。満足しているようだ。

「皆さん、素晴らしい仕事をありがとうございます。
少しですが、賃金に上乗せさせていただきます」

おお、ボーナスか。ありがたい。

改めてグリシュタさんを見る。
どう見ても人間には見えない。
でも、仕事への情熱は本物だ。
この店に対する愛情が、その動きから伝わってくる。

片付けを済ませ、俺は駐車場へ向かった。
車に乗り込み、自販機で買ったコーヒーを飲む。
疲れた体に甘さが染み渡る。

ふと、視界の端に動くものが見えた。

グリシュタさんだ。こちらに気づいて、
触角をピクリと動かす。
俺は慌てて会釈をした。
グリシュタさんも手(?)を振り返してくれた。

そして、同じ駐車場に停めてあった
黒塗りの高級車に乗り込む。
ベンツだ、それも新型の。

宇宙人でも免許証って取れるのか?

そんなどうでもいいことを考えてしまう。
まあ、今日の賃金はちゃんと出たし、文句はない。
むしろボーナスまでもらえた。いい現場だった。

車のエンジンをかけようとした時、
ポツリポツリと雨が降り始めた。

「今日は車で来て正解だったな」

俺は小さく呟き、
ワイパーを動かしながら駐車場を出た。
バックミラーに映るグリシュタさんの高級車も、
ゆっくりと動き出す。

昭和レトロな喫茶店『タイムトンネル』。
オープンしたら、
客として来てみるのもいいかもしれない。
あの店のコーヒーは、きっと美味いに違いない。

雨粒がフロントガラスを叩く音を聞きながら、
俺は家路についた。

 

 

このお話はフレデリック・D・マクミランが

数億の国民と共に巨大要塞惑星で

故郷を離れ別次元に去った後の

元の次元のお話で

昔 書いたものを

AIに書き直して貰ったものです

 

〈機神の眠る国〉 ― 黄金の守護者 ―

ルパート王国国営放送のスクリーンに、
若き王アルト・カシミールの映像が
映し出されていた。
厳しい表情で国民に訴える声は、
かつてジーナ・リヴィングストンが知っていた
幼馴染の声ではなかった。

隣国アルパイン連邦が、
反政府組織ルパート解放軍への
支援を正式に表明――。
報道のテロップが淡々と流れる。
そしてその解放軍を率いるのは、
もう一人の幼馴染
――キャサリン・バートランド。

三人で描いた未来は、
いまや三つの異なる信念に裂けていた。

郊外の家で、ジーナは老いた母と暮らしていた。
首都が戦火に包まれるのも時間の問題。
だが、母を置いて疎開することなどできない。

そんなある晩、扉を叩く音が響く。
訪ねてきたのは、少数民族ヤード族解放戦線の代表、
アレン・マクドミラだった。

「……頼みがある、ジーナ。君しかいないんだ」

彼が差し出した古びたデータパッドには、
かつて存在したとされる伝説の兵器
――ガーディアンの設計図が映っていた。

全高約40メートル。
有機金属装甲と生体回路を持つ巨大人型機体。
その名は――ファラオ。

天才科学者マリオン・クライヴによって設計され、
無尽蔵のエネルギーを生み出す半永久機関
**MOTOR(Mighty Only Time Over Reactor)**を
搭載するガーディアン。
制御中枢には、有機AI「イリス」が宿り、
搭乗者との“心の適合”によって
機体の全性能を解放する。

ヤード族が長年封印し、守ってきたその機体は、
かつて戦場を黄金に染めたという。
陽光を反射する純金装甲
――その輝きこそ、
敵味方を問わず畏怖された『王の証』。
その美しさと恐怖が、“ファラオ”の名を生んだ。

「……どうして私なんですか」

ジーナが問うと、
アレンはためらいながらも答えた。

「文献の中で唯一、“ファラオ”の操縦者として
記録されていた名がある。
 ――ジョナサン・リヴィングストン。
君の祖父だ」

「祖父は……十年以上前に失踪しました。
今も生死は分からないままです」

「我々の記録では、ジョナサンは“ファラオ”を
最後に動かした操縦者だ。
その後、彼は消息を絶ち、機体も封印された。
だが、“イリス”が次に選ぶのは彼の血を継ぐ者
――そう伝わっている」

 アレンはわずかに微笑んだ。

「君なら、“黄金の機神”
を再び目覚めさせられる」

その夜。
ジーナは夢の中で光に包まれた空間に立っていた。
黄金の粒子が舞い、前方に女性の幻影が現れる。

 > 『――ジョナサンの血脈……
あなたが、次の私のパイロット?』

 その瞳は琥珀のように光り、
静かな微笑みをたたえていた。

 > 『私はイリス・ファラオ。
あなたを、ずっと待っていました。
あの人の“続きを”歩むために。』

目を覚ますと、ジーナの胸は
不思議な熱で満たされていた。
祖父の意思が、自分に繋がっている
――そう確信できた。

翌日。
ヤード族の地下聖域。
封印の印が外され、厚い岩壁が開く。

そこに眠っていたのは、黄金の巨神だった。
照明の光を受け、金属ではなくまるで
“生きた金”のように輝く装甲。
胸部のMOTORコアが脈動するたび、
光の波が装甲を伝い、
まるで鼓動のように機体全体が呼吸していた。

> 『適合率――99.9%。
エネルギー循環安定。
ガーディアン・ファラオ、起動承認。』

格納庫の天井が開き、地上の夜風が吹き込む。
黄金の機神がゆっくりと立ち上がり、
その全身が月光を受けて輝く。
まるで“王”が再臨したかのようだった。

> 「ファラオ――行こう。
祖父の、
そしてこの国の未来を取り戻すために。」

金の光が走り、夜空を裂く咆哮が大地を揺らした。
十年の沈黙を破り、黄金のガーディアン
・ファラオが再び目を覚ます。

その輝きは、希望か、それとも滅びの兆しか。
誰にも、まだ分からなかった。

 

新しい主人公像を考えているのですが

なかなか思いつかず

取り敢えずって感じで考えたお話です

 

 

 

「赤土の境界線」

機体番号はただの記号にすぎなかった。
彼はそれを「箱」と呼んだことは一度もない。
全高五メートルの人型兵器
――陸上自衛隊特別機甲科の
ワンマンロボットタンクは、彼の体の延長であり、
目であり、拳であり、指揮所でもあった。

右手に30mm機関砲、
左手に40mmグレネードランチャー、
背部には8連装VLS。
そして周囲を飛ぶのは、
彼の意志で動く多用途ドローン群。
戦場の中で、彼は“ひとりで小隊”だった。

だが、今の任務は戦うことではない。
ここ南米の内戦地帯では、
国連平和維持軍の一員として、
難民キャンプの外周警戒を任されていた。
赤土の地にテントが並び、風に布がはためく。
その合間に、子どもの笑い声が風に混じっていた。
「この声を守るために来たのだ」と、
彼は自分に言い聞かせていた。

警報が上がったのは、日が沈みかけた頃だった。
「ドローン03、通信ロスト」
短く、冷たい報告が機体内部に響く。
彼の心臓が、機械より先に反応した。

即座に残りのドローンを展開。映像が連結し、
広域センサーが敵影を捕捉する。
トラックが砂埃を上げて接近していた。
反応は武装。
明確な敵意。

「……やるしかない」
言葉が口から零れ、彼の機体が動いた。
右腕の30mm砲が咆哮し、
続けてドローンのロケットが発射される。
一台のトラックが爆炎に包まれ、
横転して地に沈んだ。
だが、それは始まりに過ぎなかった。

無数の小型自走ドローンが現れた。
金属の昆虫のように地を這い、
弾丸と火花をまき散らす。
難民キャンプの方向にも飛んでいく。
だが、キャンプ側には
自走レーザー砲が数台配備されていた。
白光が夜空を貫き、次々とドローンを撃ち落とす。
地平線に火花が散り、砂が弾けた。

「……まだだ」
彼の左手の40mmグレネードランチャーが
唸りを上げる。
爆炎が地を割り、数機の敵ドローンを吹き飛ばした。
戦場が一瞬、静まり返る。

そのときだった。
砂煙の向こうから、
一台の白いバンがこちらへ突っ込んでくる。
運転席には頭髪の薄い中年男性、
助手席には小さな子ども。
焦点が合った瞬間、
彼の脳裏に自分の子の顔が浮かんだ。
逃げ遅れた難民
――そう信じた。

機体の動きを止め、
誘導信号を送ろうとしたその刹那、
バンは直進したまま――爆ぜた。

閃光。
音が消え、世界が白に塗り潰される。
高威力のIED。
機体の下半身が吹き飛び、
彼の肉体も腰から下を失っていた。

意識が遠のく中、
モニター越しに炎上するバンの残骸が見える。
キャンプの方角でも、爆炎が上がっていた。
「……まさか……」
彼の声は、通信に乗ることなく消えた。

数日後、国連広報官が
淡々と読み上げる声明が世界を回った。

南米地域における国連平和維持活動区域で
爆発事件が発生。
難民キャンプに被害が及び、
子どもを含む多数の犠牲者が確認された。
攻撃に対し、国連側の武力応答があったが、
一部の誤爆も指摘されている。

ニュース映像には、焦げたテントの残骸と、
泣き叫ぶ母親の姿が映っていた。
彼の名前は伏せられたまま、
ただ「自衛隊員1名殉職」と報じられた。

数日後、追加報道が流れる。

現地国連事務局の内部調査により、
襲撃作戦に関する情報が外部に
漏洩していたことが判明。
内通者は、現地調整官として勤務していた
国連職員であり、武装組織と通じていた疑いが強い。
目的は、国際世論を揺さぶるための
「演出された虐殺」だったと見られる。

報道スタジオのキャスターは、
機械的に次のニュースへと移った。
彼が守ろうとした子どもたちの名も、
失われた命の理由も、そこにはなかった。

彼の搭乗していた人型機の残骸は、
後に現地部族の祈りの場の片隅に移された。
赤土に半ば埋もれたコクピットの内部には、
焼け焦げたヘルメットと、
小さな紙切れが一枚
――息子からの手紙が残っていた。

「おとうさん、はやくかえってきてね。」

風が吹き、砂がその上を静かに覆った。
戦争は、まだ終わっていなかった。
















 

第八十二弾の半治視点の話を作りました

 

「影と土の対話」

夜明け前の伊賀。
山霧の中で、ひとりの青年が黙して立っていた。
名は藤林半治。
伊賀流伝説の忍、獅子頭の半左衛門の末裔にして、
現代の忍。

東京へ向かう列車の中、半治の目は閉じられていた。
任務――それは、伊賀流幹部を殺害し、
姿を消した裏切り者の暗殺。
潜伏先は、とある地域の高校。
そこに“殺人犯”が潜んでいるという。

転校初日。
半治は運動テストで驚異的な身体能力を披露し、
たちまちクラスの人気者となった。
「転校生だから話題になるのは当然だ」
と心で割り切りつつ、
常に周囲の動きを観察していた。

そんな中で、ひとりの少年に目が止まる。
村瀬蒼太。
彼はいつも無口で、クラスの隅にいた。

放課後、人気のない階段裏。
数人の不良が蒼太を殴っていた
――はずだった。
だが、半治の目には奇妙なものが見えた。
蒼太の体に張りつく数体の小さな人型。
それらが攻撃の全てを防いでいる。

(……式神? いや、構造が違う。まるで――)

■ 観察 ――忍の眼

転校して三日目。
半治は、教室の隅でひとり読書している
村瀬蒼太を再び目にした。
昼休みも、放課後も、彼は常に“群れ”の外にいた。
それは人付き合いが苦手なだけの生徒に見えたが
――半治の本能は、そこに“異物”を感じ取っていた。

(気配が違う……。ただの陰気な生徒ではない。
身体の動かし方が一般人じゃない。
意識せずに、死角を取る位置に立っている。)

観察初日。
半治は蒼太の歩くリズム、立ち位置、
人との距離を分析した。
意識的に避けているというより、“
当たり前に”死角を取っている。
それは、鍛えられた者の感覚だ。

二日目。
蒼太が体育の時間、ボールを避ける瞬間――
半治は息を呑んだ。
反応が早すぎる。
ボールが放たれる“前”に、
わずかに身体が動いていた。

(見えている……? いや、予測じゃない。
何かに“守られて”いる……)

そして三日目。
放課後、階段裏の出来事。
数人の不良が蒼太を囲み、殴りかかる。
だが蒼太は、ただうつむいたまま動かない。

不良たちの拳が、確かに蒼太の体を捉えた
――はずなのに、
鈍い音も、呻き声もない。

半治の「鷹の見」が、
そこに奇妙な光景を映し出した。
蒼太の体の周囲に、小さな人型が複数
――まるで土人形のような存在が、
拳を受け止めていた。
(……やはりな。あれは式神ではない。
もっと物質的な、構築された防壁だ。
まるで……“造られた守護”だな。)

不良たちが逃げ去った後も、
蒼太は何事もなかったように鞄を拾い、
そのまま校門を出ていった。
表情には痛みも怒りもない。
ただ静かに、ひとりで帰っていく。

半治は、屋根の上からその姿を追った。
夕日を背に歩くその背中には、
どこか、自分と似た孤独の影があった。

(――妙な少年だ。
だが、俺の任務とは無関係ではない気がする。)

そして四日目の朝、
半治は決めた。

「……話をしてみるか。」

忍が観察をやめ、接触を選ぶのは、
理由がある時だけだ。
半治の中で、蒼太という存在が“情報”から
“可能性”へと変わった瞬間だった。

翌日、半治は蒼太に声をかけた。

「君、昨日……何かに“守られて”いたな。
あれは何だ?」

蒼太は一瞬、息を呑んだ。
そして俯きながら、かすかに答える。

「見えてたんだ……? あれは“ゴーレム”だよ。
僕は、生まれつきいろんな素材からゴーレムを作れる。
誰にも言ってない。親にも、先生にも。」

半治は目を細めた。
その秘密を打ち明けた少年の勇気を感じ取ると、
静かに言った。

「安心しろ。
俺も、人には言えない仕事をしている。」

そして、次の瞬間。
彼の姿は蒼太の目の前から“消えた”。

「えっ……!?」

声はすぐ近くから聞こえる。
だが、姿が見えない。

「これが“影遁”だ。
相手の視界の外に常に位置を取り続ける
――忍びの技だ。」

「すごい……本当に見えない……」

「君のゴーレムの防御は見事だ。
もし協力してくれるなら
――この街に潜む殺人犯を炙り出せる。」

蒼太は驚きつつも、真剣にうなずいた。

「……わかった。僕でよければ、協力するよ。」

その瞬間、半治は初めて、
彼を「君」ではなく、名で呼んだ。

「頼むぞ、蒼太。」

蒼太もまた、少し照れたように笑って言った。

「……うん。よろしく、半治。」

夜の校舎屋上。
冷たい風が吹き抜ける。
遠くのビルの上、ひとつの黒い影が揺らめいていた。

半治の声が、風の中で低く響く。

「……あれが、伊賀を裏切った者。」

蒼太は頷き、足元に手をかざす。
地面が震え、無数のゴーレムが立ち上がる。
土、鉄、砂、木
――彼らは蒼太の意思で動き、
半治の影と共に戦場を作る。

影と土が交わる刹那、
屋上に立つ黒い影が嗤った。

「獅子頭の血か……まだ残っていたとはな。」

半治の瞳が鋭く光る。

「その血を裏切ったのは貴様だ。」

蒼太のゴーレムが一斉に動く。
半治は影の中を疾駆する。
人の視界の外――まるで風そのもののように。

忍と創造者。
静寂の中、二人の呼吸だけが夜を裂いた。

そして――

「蒼太、右の柱を崩せ!」

「了解、半治!」

声が交わるたび、戦いのリズムが研ぎ澄まされていく。

影と土が響き合い、やがてひとつの技へと昇華する。
それは、忍の技巧と創造の力が融合した、
“現代の忍法”だった。

夜明け。
戦いの跡には、崩れたゴーレムの残骸と、
静かな朝の光だけが残っていた。

蒼太は肩で息をしながら、ふと笑った。

「半治、僕……少しは役に立てたかな?」

半治は空を見上げ、静かに答える。

「ああ。立派な忍びの心を持っている。」

二人の影が、ゆっくりと朝の光の中に溶けていった。

――影と土、その絆は、まだ始まったばかりだった。


 

ごく普通の平凡に生きて

何も残せずに平凡で亡くなっていく

普通の人

でも社会には取り残された思いを抱く人

の最後をと作りました

彼はもしかしたら最後の行動で話題になり

新聞か地方コラムか何かで

名前が出るかもしれない

子供を助けたなんて誰にも言わず

ただ道路に飛び出して

轢かれて亡くなったとだけ

書かれるかもしれない

でも結局は本人の気持ち次第なんだよなぁ~

って思いますね

 

# 最後の輝き

公園のベンチは、陽だまりの中で静かに佇んでいた。

田中昭夫は今日もそこに座り、
遊ぶ子供たちを眺めていた。
七十三歳。
転職を繰り返し、
これといった実績を残すこともなく、
恋人も家族も持たずに生きてきた人生。
そして三ヶ月前、
医師から告げられた言葉——「余命三ヶ月」。

最初は呆然とした。
怒りも湧いた。
だが、やがてその感情も静かに沈んでいった。

残された時間をどう使うか。
昭夫にはこれといってやりたいことも、
会いたい人もいなかった。
だから毎日、
この公園に来て子供たちを見ることにした。

「ねえ、また来てるわよ、あの人」

井戸端会議をしている主婦たちの声が、
風に乗って聞こえてくる。

「気持ち悪いわよね。
毎日毎日、子供たちをじっと見てるなんて」

「うちの子に近づかないでほしいわ。
何考えてるかわからないもの」

「ほんと、ああいう独身の老人って、
子供に悪影響よね」

昭夫は聞こえないふりをした。
慣れていた。
誤解されても、説明する気力もなかった。
ただ、子供たちの笑顔を見ているだけでよかった。

笑い声、泣き声、叫び声。

近頃は「子供の声がうるさい」と
苦情を出す人もいるらしい。
昭夫にはその感覚が理解できなかった。
子供は元気でいい。
せめて子供のうちは何も気にせず、
思い切り生きてほしい
——自分にはできなかったように。

その時だった。

一人の男の子が、
母親の目を離れて走り出すのが見えた。
母親はベンチでスマートフォンに夢中で、
気づいていない。
井戸端会議をしている主婦たちも、
おしゃべりとスマホの画面に集中して、
誰一人として少年の危険に気づいていない。
少年の先には公園の出口があり、
その向こうには車通りの多い道路が広がっている。

昭夫の胸に、何か熱いものが込み上げた。

立ち上がる。
足は重い。
それでも、少年の後を追った。

「あら、あの変な老人、何してるのかしら」

主婦の一人が、
昭夫の動きに気づいて眉をひそめた。
だが、子供の危険には誰も気づいていなかった。

少年が公園を出た瞬間、
歩道を猛スピードで走ってきた
ママチャリが衝突した。

「ちょっと! 子供が飛び出すからじゃない!」

自転車の主婦が怒鳴る。
少年は衝撃で車道へと弾き飛ばされた。

昭夫は息を切らしながら、
できる限りの速さで駆けた。
体が言うことを聞かない。
それでも、足を動かした。

少年のそばに辿り着いた時、
左から何かが迫ってくるのが見えた。

電動キックボード。
女子大生が乗ったそれが、
信じられないスピードで突っ込んでくる。

考える間もなく、昭夫は少年の体を押した。

少年の体が歩道へ戻る。

井戸端会議をしていた主婦たちの悲鳴が聞こえた。

「危ない!」

「何してるの!」

——誰に向けられた声なのか、もうわからなかった。

衝撃。

電動キックボードが昭夫の体を捉え、
彼は地面に叩きつけられた。
頭が硬いアスファルトを打った。

「最悪! 何してんのよ、おじいさん!」

女子大生の甲高い声が響く。

「見てよ、服汚れちゃったじゃない! 
これ新しく買ったばっかりなのに!」

「スマホの画面も割れてる! 
どうしてくれんのよ、もう!」

彼女の怒声が、遠くから聞こえてくる。

痛みはなかった。
ただ、静かに世界が遠ざかっていった。

視界の端に、立ち上がった少年の姿が見えた。
泣いている。
でも、無事だ。

昭夫の唇が、かすかに動いた。

「これで僕も……少しは……
世の中の役に立ったかな」

微笑みが、その顔に浮かんだ。

平凡な人生。
何者にもなれなかった人生。
それでも、最後の瞬間に、
彼は確かに誰かの光になった。

空は青く、どこまでも澄んでいた。

子供たちの笑い声が、風に乗って聞こえてくる。

田中昭夫は静かに目を閉じた。
その顔には、穏やかな笑みが残されていた。

—— 了 ——

第八十二弾の続きです

自分自身が身体障害者なので

そういうキャラも出したいな~

って思って作りました

自分は学生じゃないし

ドローンも操れないし

一人暮らしで親もいませんけどね 苦笑

 

 

 

# 三つ星(トライスター)

窓の外を、僕のドローンが飛んでいる。

僕の名前は、水野健人。十七歳。

モニター越しに見る街は、いつも少し遠い。
手を伸ばしても届かない場所。
歩いて行けない場所。
あの事故の日から、僕の世界はこの部屋と、
画面の向こう側に分断されてしまった。

「高校生」。

その言葉を口にするたび、喉の奥に小さな棘が刺さる。
週に数回のリモート授業。
顔も知らないクラスメイト。
制服を着ることもない日々。
僕は本当に高校生なのだろうか。
それとも、ただ高校生のふりをしているだけの、
何か別の存在なのだろうか。

ノートパソコンの脇には、
今日も積み上げられた小説と漫画。
せめてもの繋がり。
物語の中でなら、僕は誰にでもなれる。

チャイムが鳴った。

「あ、あのさ…健人、いる?」

蒼太だ。村瀬蒼太。幼稚園からの幼馴染。
小説も漫画もアニメも好きな、唯一無二の友人。
小学校の頃、彼は虐められていた。
暗くて、人と話すのが苦手で、いつも俯いていた。
でも僕だけは、彼の優しさを知っていた。
彼の想像力の豊かさを知っていた。
だから僕たちは、ずっと二人だった。
母が玄関で応対する声が聞こえる。

「お邪魔しまーす」

蒼太の声に続いて、知らない声がした。

「失礼します」

ドアが開く。蒼太の隣に、見知らぬ少年がいた。
背が高く、爽やかな笑顔。
蒼太とは対照的な、明るい雰囲気を纏っている。

「えっと…藤林半治くん。転校生で…」

蒼太の声は、いつもより少し小さかった。

心臓が、妙な音を立てた。

嫉妬。

その感情を認めるのは簡単ではなかった。
蒼太には蒼太の人生がある。当たり前のことだ。
でも、僕たちはずっと二人だった。
お互いが唯一の理解者だった。それなのに。

「本、好きなんだって。
健人と話が合うんじゃないかなって…思って」

藤林くんは明るく会釈した。
運動神経が良くて、転校してすぐに
クラスの人気者になったと蒼太から聞いていた。
こんな陽気な人が、なぜ蒼太と?
という疑問が頭をよぎる。

「よろしく。村瀬から君のこと、色々聞いてたよ」

三人で話し始めると、不思議なことに嫉妬は薄れていった。
藤林くんは古典文学に詳しく、
僕が最近読んでいた夏目漱石について熱く語った。
意外だった。
明るくて運動ができて人気者。
そういう人は本なんて読まないと、勝手に決めつけていた。
蒼太は相変わらず現代ファンタジーの話
ばかりしていたけれど、いつもより饒舌だった。
藤林くんの前では、蒼太も少し明るく見えた。
三人の会話は自然に、心地よく混ざり合った。

「そういえば…」

蒼太が、いつもより少し真剣な顔になった。

「いつも、助かってる…健人のおかげで」

僕は小さく頷いた。

コンピューターと機械いじり。
それが僕に残された武器だった。
自作したドローン四台を使って、街を見回る。
不審な人物、危険な場所、助けを必要としている人。
見つけたら、蒼太に連絡する。

そして蒼太は、ゴーレムを作る。

土と石と、彼の意志で作られる人形。
それを操って、小さなトラブルを解決する。
誰にも知られず、誰にも見つからず。

「実は…藤林くんにも、話したんだ」

僕は目を見開いた。

「え」

「信頼できる人だから。それに…」

蒼太は藤林くんを見た。

「藤林くん、忍者の末裔なんだって」

「忍者!」

その言葉を繰り返すと、
藤林くんは少し照れたように笑った。

「伝統芸能みたいなものです。
でも、一応使えることは使える。
村瀬くんのゴーレムを見て、
僕も協力したいと思いました」

蒼太がスマートフォンを取り出した。

「三人で…連絡を取り合えたらって。
健人のドローンと、僕のゴーレムと、
藤林くんの身体能力。
組み合わせれば…
もっと、多くの人を助けられるかもしれない」

僕たちは連絡先を交換した。

「グループの名前、どうする?」

藤林くんが尋ねた。

「三人だから…三つ星、とか?」

蒼太が控えめに提案する。

「トライスター、か。いいね」

藤林くんが明るく頷いた。僕も賛成だった。

三人のグループチャット。
名前は「三つ星(トライスター)」。

誰かが見たら、笑うかもしれない。
高校生の子供じみたごっこ遊びだと。
正義の味方ごっこだと。

でも、僕たちは真剣だった。

窓の外で、ドローンが夕陽を浴びて光っている。

僕は歩けない。学校にも行けない。
普通の高校生活は送れない。

でも、この小さな部屋から、僕にできることがある。

モニターを見つめながら、僕は初めて思った。

もしかしたら、これでいいのかもしれない。

高校生であることの証明は、
制服を着ることでも、
教室にいることでもない。

誰かのために、自分にできることをする。

その気持ちがあれば、
僕はどこにいても、僕自身でいられる。

「さて…パトロール、始めようか」

蒼太の声に、僕は頷いた。

キーボードに指を走らせる。
ドローンが一斉に街へ飛び立つ。

三人の、小さくて密かな戦いが、今日も始まる。

 

第八十二弾の美咲視点の話です

第二十二弾で研究者の苗字を

AIが藤崎として

第六十四弾の主人公のクラスメイトで

片想いの相手もAIが藤崎と名付けたので

この二人を繋ごうと思い作りました

 

 

 

# 見えない傷跡

窓の外では桜の花びらが舞っている。
春の陽射しが教室を暖かく照らしているのに、
私の心は晴れなかった。

「おはよう、美咲ちゃん」

クラスメイトの声に笑顔で応える。
藤崎美咲——それが私の名前。
地元では資産家の娘として知られているけれど、
私はただの高校生だ。
お金があっても、解決できない問題がある。

教室の隅で、村瀬蒼太くんが一人で本を読んでいた。
半年前、彼への露骨ないじめを止めたことがある。
クラスメイトたちに「やめて」と言った。
その時、みんなは私の言葉を聞いてくれた。

でも、それは表面だけ。

廊下でのささやき声、トイレに隠された上履き、
SNSでの陰口。見えないところで、いじめは続いている。
私が気づいた時には止めるけれど、
全てを見張ることなんてできない。

私が争いごとを嫌うようになったのは、
兄のせいかもしれない。
父が事業で成功する前、我が家は貧しかった。
兄は奨学金とアルバイトで必死に勉強し、
大学院まで進んだ。
でも、彼の研究は認められなかった。
それどころか、周囲から馬鹿にされ、笑われた。

かつては目を輝かせて研究の話をしてくれた兄が、
次第に言葉少なくなっていった。
部屋に閉じこもる時間が増え、
食事の席でも俯いたまま。

「人を傷つけることって、こんなに簡単なんだ」

当時小学生だった私は、そう思った。
言葉の暴力は、目に見える傷を残さない。
だからこそ、より残酷なのかもしれない。

「所詮、自己満足なのかな」

放課後、一人になった教室で呟いた。

人は欲があるから成長する。
認められたい、勝ちたい、褒められたい
——そういう欲求が人を前に進ませる。
兄だってそうだった。
研究者として認められたいという欲が、
彼を大学院まで突き動かした。

でも、その同じ欲が、争いを生む。

誰かより優れていたい。
誰かを見下したい。
自分の地位を守りたい。
村瀬くんをいじめている人たちも、
きっとそういう欲を持っている。
弱い者を攻撃することで、
自分が強いと感じたいのかもしれない。

兄を馬鹿にした人たちも、同じだ。
自分の研究の方が優れていると示したくて、
兄を否定した。
自分の地位を守るために、新しい考えを排除した。

「人の欲は、成長の源でもあり、
争いの種でもあるんだ」

私は窓の外を見つめた。

矛盾している。
でも、それが人間なんだ。
欲をなくせば争いは減るかもしれない。
でも、成長も止まる。
欲を肯定すれば成長はするけれど、
必ず誰かが傷つく。

どうすればいいのか、分からない。

この矛盾をどうにかすることなんて、私にはできない。
大人だって、人類の歴史だって、
この矛盾を解決できていない。

「私なんかに、何ができるんだろう」

無力感が胸を締め付ける。でも——。

「おい、村瀬」

突然、明るい声が教室に響いた。

藤林半治——先週転校してきたばかりの生徒だ。
運動神経抜群で、すぐにクラスの人気者になった。
その彼が、村瀬くんの机に近づいていく。

「その本、面白い? 俺も読んでみたいんだけど」

村瀬くんが驚いたように顔を上げた。
藤林くんは自然な笑顔で、村瀬くんの隣に座る。

私は息を呑んだ。
人気者が孤立している生徒に声をかける
——それは時に、さらなるいじめの口実になることもある。
でも、藤林くんの態度には嘘がなかった。
本当に興味を持っているようだった。

「あ、うん......これ、SF小説なんだけど」

村瀬くんの声は小さかったが、確かに返事をしていた。

翌日、藤林くんと村瀬くんが
一緒に昼食を取っているのを見た。
その翌日も、また次の日も。
二人は友達になったらしい。

「これで、少しは......」

私は心の中で願った。
村瀬くんへのいじめが減ってくれるように、と。

でも、それで終わりじゃない。
私ももっと何かできるはずだ。

兄は今も部屋に閉じこもったままだ。
父の会社を手伝う話もあったけれど、兄は拒否した。
「どうせ俺なんか」という言葉を繰り返し、
誰とも目を合わせようとしない。
かつて輝いていた目は、今は虚ろだ。
過去の傷は、彼を蝕み続けている。

村瀬くんも、きっと同じだ。
藤林くんという友達ができても、
過去に受けた傷は残っている。
そして、いじめが完全になくなったわけでもない。

「私に何ができるんだろう」

教室を見渡す。
笑顔で話す生徒たち、グループで固まる友達同士、
一人で過ごす生徒。それぞれに事情がある。
それぞれに、
見えない痛みを抱えているのかもしれない。

藤林くんは、自然体で村瀬くんと接している。
特別扱いせず、でも確かに友達として。

「ああ、そうか」

私は気づいた。
私がやってきたことは、いじめを「止める」ことだった。
でも、藤林くんは違う。
彼は村瀬くんを「受け入れて」いる。

止めることと、受け入れること。
両方が必要なんだ。

翌日、私は村瀬くんに声をかけた。

「ねえ、村瀬くん。今度、図書委員会に入らない? 
本が好きなんでしょう?」

村瀬くんは驚いたように私を見た。

「でも、僕なんか......」

「そんなことないよ。
図書委員会、人手不足で困ってるの。
お願いできないかな?」

嘘じゃない。本当に人手不足だった。
でも、それ以上に、村瀬くんに居場所を作りたかった。

「......考えてみます」

小さな声だったけれど、拒絶じゃなかった。

完璧な解決策なんてない。
いじめを完全になくすことも、きっとできない。
でも、少しずつ、一人ずつ、
手を差し伸べることはできる。

藤林くんのように自然に、そして私なりの方法で。

窓の外では、また桜の花びらが舞っていた。
散っても、また来年咲く。
その繰り返しの中で、
少しずつ、世界は変わっていくのかもしれない。

その日の夕方、家に帰ると、
兄が珍しくリビングにいた。

「美咲」

久しぶりに、兄が私の名前を呼んだ。

「アメリカの大学から、受け入れの連絡があってな。
向こうで、もう一度研究をやってみようと思う」

兄の声は静かだった。

「日本じゃ誰も認めてくれなかったけど、
向こうの教授は俺の論文を読んで、
可能性があるって言ってくれたんだ」

兄の目には、まだ疲れが残っていた。
でも、その奥に、かすかな光が見えた気がした。
自分の研究が、どこかで誰かに届いたという、
小さな希望の光。

「行ってくるよ」

小さな、とても小さな希望。
でも、確かにそこにあった。

人は、何度傷ついても、
また立ち上がることができるのかもしれない。
時間はかかる。
たくさんの痛みを抱えながら。それでも。

私の力は小さい。
でも、諦めない。

村瀬くんの、兄の、そして誰かの、
明日が少しでも明るくなるように。

——終——

 

第六十四弾の続きです

ゴーレムメイカーが

第七十四弾に出て来た伊賀流忍者

獅子頭の半左衛門の子孫と

出会う話を作りました

 

 

 

# 影と石の約束

放課後の校舎裏、
コンクリートの壁に背中を押しつけられる。
三人の男子生徒が俺、村瀬蒼太を囲んでいた。

「おい、この前貸した金まだかよ」

貸した、ではなく、奪った、の間違いだ。
だが俺は何も言わない。
言えば殴られる。
黙っていても殴られる。

リーダー格の拳が迫る。
俺は素早くポケットから小石を取り出し、握りしめた。
意識を集中させる。
石が温かくなり、脈打つように感じる。
そして——小さな人型が俺の手のひらで生まれた。

拳が顔面に迫る直前、
五センチほどのゴーレムが俺の頬に張りついた。

ゴッ、という鈍い音。
だが痛みはない。
ゴーレムが衝撃を吸収してくれた。

「あれ?」

相手は不思議そうに首を傾げる。
確かに殴ったはずなのに、手応えがない。

「チッ、今日はこれくらいにしといてやるよ」

三人が去った後、
俺は小さなゴーレムを手のひらに乗せた。
石でできた小さな守護者。
生まれつき持っているこの能力——触れた物質から、
意のままに動くゴーレムを作り出す力。
これだけが、俺を守ってくれる唯一のものだった。

親にも、クラスメイトにも、この秘密は絶対に話せない。
化け物だと思われるだろう。
今以上に孤立するだろう。

ただ一つの救いは、藤崎美咲の存在だった。

地元でも有名な資産家の一人娘である彼女は、
誰にでも優しく、争いを好まない性格だった。
彼女が教室にいるときは、露骨ないじめは減る。
美咲が穏やかな笑顔で「やめなよ」と一言言えば、
不思議とみんな従う。
そんな彼女に、俺は密かに恋をしていた。

もちろん、告白するつもりなど毛頭ない。
いじめられっ子の俺が、
資産家の令嬢に想いを伝えるなんて、
おこがましいにもほどがある。
ただ遠くから見ているだけで、それだけで十分だった。
それ以上を望む資格なんて、俺にはない。

だが、美咲がいない場所では、いじめは続いている。

---

転機が訪れたのは、五月の終わりだった。

「今日から転校生が来ます。藤林半治くんです」

担任の言葉とともに、教室に入ってきたのは、
細身で目つきの鋭い少年だった。
三重県からの転校らしい。

「藤林です。よろしく」

短い挨拶。特に印象に残る感じではなかった。
俺は最初、全く気にしていなかった。

だが、数日後の体育の授業で、
クラス全体が藤林に注目することになった。

その日は持久走だった。
グラウンドを十周。誰もが憂鬱そうな顔をしている中、
藤林は淡々と走り始めた。

そして——彼は圧倒的だった。

まるで地面を滑るように、無駄のない動きで走り続ける。
呼吸も乱れず、フォームも崩れない。
他の生徒がゼエゼエと息を切らす中、
藤林だけは涼しい顔でゴールした。
しかも、二位に大差をつけて。

「すげえ!」

「あいつ、陸上部とかやってたのかな?」

「三重県の記録保持者とか?」

教室に戻ると、藤林の周りに人だかりができていた。

翌週のバスケットボールでも、
彼の運動能力は際立っていた。
信じられない反射神経でボールをカットし、
的確なパスを出し、シュートも外さない。

「藤林くん、バスケ部入らない?」

「いや、サッカー部に来てよ!」

部活の勧誘が殺到する中、
藤林は困ったように笑って

「考えとくよ」
と答えるだけだった。

一週間ほどで、藤林半治はクラスの話題の中心になった。
俺も彼の運動能力には驚いたが、
それ以上に気になることがあった。

だが、一週間ほど経った頃、奇妙なことに気づいた。

やたらと、藤林と目が合うのだ。

廊下で、教室で、昼休みの中庭で。
視線を感じて振り向くと、必ず藤林がこちらを見ている。
目が合うと、彼はすぐに視線を外すが、
明らかに俺、村瀬蒼太を観察しているようだった。

何か知られたのだろうか。
まさか、ゴーレムのことが——?

不安が募る中、それは起きた。

放課後、図書室で本を探していたとき、
ふと気づくと、藤林と二人きりになっていた。

静かな空間。本棚に囲まれた空気。

藤林がゆっくりと近づいてきた。

「君は、魔法使いか何かなの?」

心臓が凍りついた。

「え……何を——」

「とぼけなくていいよ。見えてるから」

藤林の目は真剣だった。

「君の周りには、いつも小さな……何かがいる。
普通の人には見えないんだろうけど、僕には見える」

俺は口ごもった。否定すべきか。でも、もう遅い。

沈黙が続く中、藤林は小さく息を吐いた。

「僕は伊賀流の末裔なんだ」

「え?」

「忍者の、ね。もちろん、今は普通の高校生だよ。
でも、家に伝わる訓練は受けてる。
目が良いから、素早く動くものでも見えるんだよね。
君の一緒にいるのは、妖精か何かかな?」

藤林は少し寂しそうに笑った。

「僕の先祖は、獅子頭の半左衛門って言うんだ。
伊賀流でも屈指の天才忍者だったらしい。
でも、無名で終わった。
歴史の表舞台に出ることもなく、誰も知らない。
それが……正直、悔しいんだよね」

彼の目に、複雑な感情が浮かんでいた。

「忍者は影に生きる存在だから、
名前が残らないのは当然なんだけど。
それでも、あれだけすごい人だったのに、
誰も覚えていない。僕だけが知っている。
それが、なんだか……」

藤林は言葉を切った。そして、また笑顔に戻った。

「だから君みたいに、
普通じゃない力を持つ人に会えて嬉しいんだ。
君も秘密を抱えて生きてるんだろう? 
その気持ち、少しわかる気がする」

彼は自分の秘密を明かすことで、
俺の秘密を引き出そうとしているのだ。

俺は迷った。
だが、藤林の目には敵意がなかった。
むしろ、好奇心と……共感のようなものがあった。

「……ゴーレムだ」

俺は小さく答えた。

「物質に触れて、意識を集中すれば、
俺の意のままに動く人形を作れる。それだけだ」

嘘は言っていない。
ただ、全てを話したわけでもない。
作れる大きさの限界、同時に操れる数、
ゴーレムに付与できる能力——それらは伏せておいた。

藤林は目を輝かせた。

「すごいな。それって、どうやって
——いや、聞かない方がいいか」

彼は笑った。人懐っこい笑顔だった。

「秘密は秘密のままでいい。
でも、君みたいな奴がいるって知れて、なんか嬉しいよ。
普通じゃない力を持つ者同士、友達になれないかな?」

友達。

その言葉が、胸に染みた。

いじめられ、孤立し、秘密を抱えて生きてきた俺に、
初めて対等な関係を申し出てくれる人間が現れた。

「……ああ」

俺は頷いた。

「よろしく、藤林」

「半治でいいよ。」


「じゃあ、僕のことも蒼太って呼んでくれ」

その日から、俺と半治くんの奇妙な友情が始まった。

美咲が表の世界で俺を守ってくれるなら、
半治くんは裏の世界で
俺を理解してくれる存在になった。

まだ、この友情がどこへ向かうのかは分からない。

だが、少なくとも今、俺は一人ではなかった。

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(続く)