これまで何度か出て来た
人型戦略機動兵器「ガーディアン」が
何故 人型兵器なのか?
その理由のお話です
# 鋼鉄の信念――ユニコーンZEROの邂逅
宇宙の暗闇を切り裂いて、
全高40メートルの人型戦略兵器が進んでいた。
「ユニコーンZERO、目標まで残り3000メートル」
コックピット内に響く女性の声。
それは自律型有機AI
「イリス・ユニコーンZERO」だった。
人間の感情を理解し、学習し、進化する
――そんな有機AIが、
この巨大な人型兵器の全てを制御している。
搭乗者フレデリック・D・マクミランは、
自ら設計し製造したこの機体の
コントロールシートに深く身を沈めていた。
彼の視線の先には、
漆黒の宇宙空間に浮かぶ
全長150メートルの宇宙船があった。
「やっと……やっと見つけた」
フレデリックの声には、
五年間の探索の疲労と、
ようやく到達した安堵が滲んでいた。
その宇宙船には、
天才科学者マリオン・クライヴが暮らしている。
「ガーディアン」の開発者にして、
半永久機関「MOTOR」
――mighty only time over reactorの発明者。
無尽蔵のエネルギーを生み出す
この革命的な動力源は、人類の戦略を一変させた。
しかし、マリオンは「ガーディアン」を
世に送り出した直後、忽然と姿を消した。
「イリス、ドッキング準備」
「了解しました、フレデリック」
ユニコーンZEROの巨大な手が、
まるで人間のように慎重に宇宙船の外壁に触れた。
繊細な動作だった。
これほどの巨体が、これほど精密な動きをする
――それは全て、イリスの高度な制御能力と、
MOTORの安定したエネルギー供給が
あってこそ実現できることだった。
だが、フレデリックには長年の疑問があった。
何故、人型なのか。
兵器として見れば、人型は決して最適解ではない。
むしろ非効率的だ。
それなのに、イリスはMOTORを、
そして「ガーディアン」そのものを、
外見が人型でなければ稼働させない。
この制約は絶対的で、製造過程で
どれだけ改変を試みても解除できなかった。
エアロックが開き、
フレデリックは宇宙船内部へと足を踏み入れた。
通路は薄暗く、静寂に包まれていた。
だが、奥から漏れる柔らかな光が、
人の存在を示していた。
「ようこそ、フレデリック君」
メインホールに入ると、
そこには白衣を着た初老の男性が立っていた。
マリオン・クライヴ。
伝説となった科学者は、
想像以上に穏やかな表情をしていた。
「マリオン博士……」
「五年か。よく探し当てたね」
マリオンは微笑んだ。
「まず、座りたまえ。話すことは山ほどある」
二人は向かい合って座った。
フレデリックは抑えきれずに尋ねた。
「何故、人型なのですか?
イリスが人型以外では動作しない理由が、
僕にはずっと分からなかった。
技術的な制約?
それとも何か深い戦略的な意味が?」
マリオンは少し間を置いてから、
意外なほど率直に答えた。
「個人的な趣味だよ」
「……え?」
「私は人型機動兵器が好きなんだ。
幼い頃から夢見ていた。
だから、人型にした。それだけだ」
フレデリックは言葉を失った。
マリオンは続けた。
「MOTORを発明した時、私は歓喜した。
無限のエネルギー。
人類の可能性が無限に広がると思った。
だが同時に恐怖も感じた。
もし何の制約も付けなければ、
これまであった兵器が、ただ強力になるだけだ。
戦車が、戦闘機が、戦艦が
――それらが無限のエネルギーを得て、
破壊の規模だけが拡大する」
マリオンの目が、遠くを見つめた。
「だから決めたんだ。
私の好きな人型機動兵器でしか
動かないようにしようと。
そのために、イリスを開発した。
彼女たちには、人型でなければ
MOTORを起動させないという制約が、
DNAレベルで組み込まれている。
製造過程で外すことは不可能だ」
「つまり……兵器の形状に
美学を持ち込むことで、制限をかけた?」
「そうだ。人型は非効率だからね。
必要な技術的ハードルも高い。
つまり、誰もが簡単には作れない。
そして――」
マリオンは立ち上がり、窓の外を指差した。
そこには、彼の宇宙船が広がっていた。
「この船もMOTORを搭載している。
そしてイリスが制御している」
フレデリックは驚いて立ち上がった。
「では、この船も人型に……?」
「いや」
マリオンは首を振った。
「私の特別製のイリスは、
人型でなくても動作する」
「何故ですか?」
マリオンの表情が真剣になった。
「最強の人型戦略兵器である
『ガーディアン』に襲われても、逃げられる
――もしくは勝てるようにするためだ」
フレデリックは息を呑んだ。
「兵器として見れば、
人型よりも従来の形状の方が優れている。
だから、人型に優位性がなければ、
人型は兵器としては生き残れない。
だから私は『ガーディアン』を作った。
だが私が捕まりこの優位性が崩れれば
『ガーディアン』の時代は終わる
だからこそ、『ガーディアン』に
殺されないための保険が必要だった」
沈黙が降りた。
やがて、フレデリックは深く頷いた。
「博士……あなたは本当に、
人型機動兵器を愛していたんですね」
「ああ」
マリオンは穏やかに微笑んだ。
「愛していたからこそ、制約にした。
愛していたからこそ、
それを超える手段も用意した。
矛盾しているかい?」
「いいえ」
フレデリックは答えた。
「それが、本当の愛だと思います」
窓の外では、ユニコーンZEROが静かに佇んでいた。
40メートルの巨体が、まるで騎士のように
――人間のように。
フレデリックは、マリオン・クライヴという男を、
心から尊敬した。
世界を変える力を手にしながら、
それを最も愛するものの形に縛り付け、
同時にそこから自由になる道も残す。
その矛盾を抱えながら、宇宙の果てで一人、
自らの信念を守り続ける孤独な科学者。
「博士」
フレデリックは言った。
「一つだけ、お願いがあります」
「何だね?」
「僕と一緒に、故郷に戻りませんか。
あなたの『ガーディアン』たちは、
今も戦い続けている。
でも、人型である理由を理解している者はいない。
あなたの言葉が必要です」
マリオンは長い間、沈黙した。
そして、静かに首を横に振った。
「それはできない、フレデリック君」
「何故ですか?」
「私が故郷に戻れば、
必ず誰かが私を利用しようとする。
権力者、軍部、企業
――誰もが、制約のないMOTORを欲しがるだろう。
私を監禁し、脅し、あるいは……」
マリオンは言葉を濁した。
「私の存在そのものが、
人型という制約を破壊する鍵になってしまう」
フレデリックは反論しようとしたが、
マリオンは手を上げて制した。
「いいかい、フレデリック君。
私がここにいる限り、人型が主役の時代は続く。
『ガーディアン』という美しい騎士たちの時代が。
もし私が捕らえられ、
無制約のMOTORが量産されれば、
世界は再び破壊の時代に戻る。
それだけは、避けなければならない」
「でも……」
「君は素晴らしい技術者だ。
ユニコーンZEROを見れば分かる。
君のような者たちが、人型という制約の中で、
技術と美学を追求し続ける。
それこそが、私の望んだ世界なんだ」
マリオンはフレデリックの肩に手を置いた。
「私は消える。深淵の宇宙へ。
二度と見つからないように。
それが、私にできる最後の責任だ」
「博士……」
「さあ、行きたまえ。
君の『ガーディアン』が待っている」
フレデリックは何も言えなかった。
ただ、深く頭を下げた。
宇宙空間に、二つの影が並んだ。
全高40メートルの人型戦略兵器
「ユニコーンZERO」と、
全長150メートルの宇宙船。
しかし、やがて二つの影は、
それぞれ反対方向へと進路を取った。
ユニコーンZEROは故郷へ。
マリオンの宇宙船は、未知の深淵へ。
フレデリックはコックピットから、
遠ざかる宇宙船を見つめた。
「イリス」
「はい、フレデリック」
「僕たちは、博士の信念を守らなければならない」
「理解しました。それが、私たちの使命です」
マリオンの宇宙船は、
やがて暗黒の彼方に消えていった。
天才科学者は、自らの発明が
正しく使われ続けるために、
永遠の逃亡者となることを選んだ。
誰にも利用されず、誰にも見つからず、
ただ宇宙の果てで、
人型機動兵器の時代を見守り続ける。
それが、マリオン・クライヴという男の、
最後の覚悟だった。
フレデリックは、
ユニコーンZEROのスロットルを押した。
「帰還する。故郷へ」
宇宙に、一つの人型の影だけが残された。
そして、その影は静かに、
故郷へと向かっていった。
マリオン・クライヴの名は、
やがて伝説となり、そして神話となる。
だが彼自身は、誰も知らない宇宙の片隅で、
ただ一人
――自らの信念を守り続けるのだった。
―了―