僕はここにいるよ。 -2ページ目

僕はここにいるよ。

ホミンの小説を、好き勝手に書いてます。
きわどい内容もあるので、ご注意下さい。

俺は、部屋の荷物をまとめると、家を出る準備をした。

お袋が半狂乱で、止めにかかるが、それを振り切ってダンボールに荷物を詰める。

親父がお袋に、
「放っておけ!
その内に音を上げて戻って来るさ。」
そう言った。

俺は、アパートを借りて、一人暮らしを始める事にした。
自立の第一歩だ。

それから、ユナさんに連絡を取り、会う約束をした。
ユナさんは、普通にデートだと思ったらしく、嬉しそうに腕を絡めた。

はたから見たら、幸せそうなカップルに見えるだろう。

カフェに入ると、俺たちは向かい合って座り、それぞれ飲み物を頼んだ。
コーヒーを飲みながら、俺は、何度も自分を鼓舞する。

そして、勇気を振り絞って、ユナさんを見すえた。
「あの…実は、話があります。」
「はい?」

「すいません。
俺と、別れて下さい!」

俺は、テーブルに頭をつけて、深々と謝罪をする。

「どういう…事ですか?」
ユナさんの顔から、血の気が失せていく。

俺は、罪悪感で胸が締め付けられながら、口を開いた。
「どうしても、忘れられない人がいます。
俺は、その人じゃなきゃダメなんです。」

「…私じゃ、ダメなんですか?」
「すいません。」

しばらくの間、沈黙が続く。

スッと席を立つ気配がした。
俺が顔を上げると、ユナさんはもういなかった。
テーブルには、婚約指輪が置いてある。

俺は、もう一度頭を下げた。

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俺とチャンミナが別れたあと、どういう経緯かは知らないが、テミンとチャンミナが、連絡を取り合うようになったらしい。
元気のないチャンミナを、テミンが随分と励ましたそうだ。

人生とは、不思議なものだ…。

「チャンミンさん、強がってはいるけど、本当はとても辛いんだと思います。」
「…。」
「もう一度、よりを戻してはどうですか?」
「でも、振られたのは、俺のほうだし…」

それに、ユナさんだっている。

もう、どうにもならない所まで来てしまった。

「悪いが、もう無理なんだよ。」

「…そうですか。」
テミンが、辛そうにうつむく。

チャンミナを思わない日は、1日だってない。
相変わらず、大好きだ。

だけど、俺たちは別々の道を歩き出している。

…もう、忘れないといけないんだ。

その時、ピアノのメロディーが流れ始める。
ハッとした俺の身体に、戦慄が走った。

演奏していたのは、なんと、チャンミナだった。

「…!」

寂しげにうつむき、長いまつ毛を揺らして、演奏に没頭している。

チャンミナ…少し痩せたか…。

だけど、少し痩せた横顔さえ、チャンミナの美しさを損ねてはいなかった。
神々しいまでに、オーラを放つ姿に、目が離せない。

あぁ…なんて、綺麗なんだ。

切なさが込み上げて、涙が溢れてきそう…。

俺たちの過ごした思い出が、走馬灯のように蘇ってきた。
それは、何にも代えがたい、幸せな時間だった。

ダメだ。
俺は、やっぱり…。

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今日も、ユナさんと会う約束をした。

二人で映画を見て、それからレストランで食事をする。

食事がひと段落したところで、唐突にユナさんが、
「ユンホさんには、好きな人がいらっしゃるんでしょう?」
と言って来た。

その瞬間、チャンミナの顔が頭をよぎり、俺は言葉を失った。
そう…俺はまだ、あいつの事が忘れられずにいる。
ユナさんを目の前にしながら、遠くのチャンミナを思っていた。

いたたまれずに、うつむく。

レストランからの帰り道、再びユナさんが口を開いた。
「私…、あなたが他に好きな人がいても、いいんです。
そんなあなたを、好きになったんですもん。
一緒にいられるだけで、幸せです。」

なんて健気な事を言ってくれるんだ。
思わず、胸がキュンとした。

無意識のうちに、俺は、ユナさんを抱き寄せていた。
そして、その唇にキスをする。

不思議な事に、心が穏やかになっていく。
この人となら、うまくやっていけそうな、そんな気がした。

こうして、俺たちは少しずつ、関係を深めていく。

チャンミナとの事が、少しずつ思い出に出来ればいい…。

それからしばらくして、俺はユナさんと婚約をした。
ユナさんの薬指に、指輪をはめてあげる時、ちょっぴりくすぐったいような、不思議な感覚が芽生えた。

これでもう、後戻りは出来ない。

さようなら…チャンミナ。

そんなある日。
久しぶりに、テミンから連絡が来た。

バイトを辞めて以来、なかなか会う事はなかったけど、SNSなどで近況は知っていた。

そんなテミンに連れて行かれたのは、雰囲気の落ち着いたレストランだ。
席に案内され、椅子に座る。

なぜかこのレストランは、部屋の真ん中に大きなグランドピアノが置いてあった。

ピアノか…。
忘れかけていた、心の傷がうずきだす。

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《Y サイド》

それから、さらに半年が過ぎた。

俺は、親父の会社に就職をした。

まだまだ見習いで、毎日、仕事を覚えるのに精一杯だ。

チャンミナとは、もちろん会っていない。
今、どうしているのかさえ、分からないでいる。

それでも、まだチャンミナの事が忘れられずにいるんだ。

心の痛みは、日ごとに和らいでいくのに、チャンミナとの思い出は、いまだ鮮やかに俺の中に生きている。

そんなある日。
俺は、親父に呼び出された。

一枚の写真を見せられると、
「お前に、見合いの話がある。
取引先のお嬢さんで、なかなか良い子だぞ。」
突然、話を持って来た。
「…。」
俺は言葉もなく、写真を見ていた。

見合いなんて、自分には縁がないと思っていた。
まともに恋愛もしてこなかったくせに、いつか運命の人と出会い、その人と結婚をする…。
漠然とだが、そんな風に考えていたから。

そしてチャンミナと出会った。

俺の運命の相手だと、信じて疑わなかった。
なのに…そのチャンミナはもういない…。

もう二度と、誰かを好きになる事はないだろう。
なら、見合いでもなんでも、同じだ。

もう…どうでもいいや。

俺は、投げやりな態度で、親父に言っていた。
「あぁ、分かったよ。
その人と会えばいいんだろ…?」

こうして、見合いの日がやって来た。

ホテルのラウンジで、お袋と並んで、その人が来るのを待つ。
しばらくして、入り口からスラリと背の高い女性がやって来た。

「初めまして、ユナと申します。」
その人…ユナさんは、写真で見るよりも、ずっと綺麗な人だった。

話をすると、意外に共通点も多く、それなりに盛り上がる。
へぇ…、結構いい人じゃん…。
俺はホッとして、大きく息を吐いた。

それから、俺たちは何度もデートを重ねる。

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《C サイド》

ヒョンと別れて以来、僕の毎日から、色が消えた。

何を見て、何を聞いても、感動を覚えない。
無気力な毎日が続く。

今日も、ヒョンの写真に語りかけた。
ヒョン…。
元気にしてますか?

僕は、かろうじて生きています。

1分1秒たりとも、あなたの事を忘れていません。
あなたが、幸せである事を祈っています。

…さようなら。

そして、学園祭の初日が来た。

演奏会でピアノを披露する日である。
ピアノがあるから、どうにかここまでやって来れた。

学園祭でピアノを弾く事、それを目的に練習してきたんだ。

とりあえず、練習室で何度も弾いては、感覚を確かめる。
よし、大丈夫だな。

舞台袖には、部長とチョウさんがいて、僕を励ましてくれた。
そんな二人にお礼を言って、観客の待つ舞台へと、歩みを進める。

大きな拍手が、出迎えてくれる。

ふと観客席を見た時、前列にヒョンがいるのを見つけた。
あぁ…。来てくれたんだ…。
ありがとう…ヒョン。
頑張るから見ていてね。

大きく息を吐くと、鍵盤に指を這わせた。
美しいメロディーが生まれ、客席からため息が漏れる。

それに勇気づけられ、力いっぱい弾ききった。
終わると、割れんばかりの拍手が、沸き起こる。

ヒョンを見ると、嬉しそうに微笑んでいた。

切なさが胸にこみ上げてくる。
やっぱり、ヒョンが好き...。
どうしようもなく、悲しくて、やりきれない。

だけど、その手を離したのは、僕なんだ…。
僕は、未練を断ち切るように、舞台袖へと歩いて行った。

うっすらと目に浮かぶ涙を、そっと腕で拭った。

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チャンミナと別れてから、2ヶ月が経つ。

相変わらず、チャンミナを思い、無気力に生きていた。

まるで生きる屍のように。

周りのみんなからは、痩せたと驚かれる。
悩みがあるのなら聞くよ、とも言われる。

だけど、話してどうにかなるのなら、とっくにそうしてるだろう。

それでも、大学には通ってる。
そうでもしないと、本当に引きこもりになるから。

学友達は、近づく学園祭の話題で、持ちきりだ。
そんな浮かれた奴らとは、少し距離をおいて、俺は一人校内を歩いていた。

そんなある時、大学の掲示板の前で、ふと立ち止まる。
そこには、学園祭の催し物が掲示されていた。
何気なく、それらを見ていくと、ピアノの演奏会のポスターも貼られている。

あっ!
演奏者のところに、チャンミナの名前が書いてあった。
恋しい名前に、胸が熱くなる。

チャンミナ…、頑張れよ。

そして、学園祭当日。
俺は、ホールの椅子に座って、その時が来るのを待った。
舞台袖から、一人の男性が現れる。
…チャンミナだ。

拍手に迎えられ、チャンミナがピアノまで、歩いていく。
そして椅子を引くと、ゆっくりと座った。

シーンと静まったホールに、ピアノのメロディーが流れ始める。
ショパンの『英雄ポロネーズ』だ。

大胆かつ繊細な指さばきで、雄大なメロディーを紡ぎ出す。
俺は、まばたきさえも忘れて、チャンミナを見つめた。
神々しいまでの姿が、この胸を熱くさせる。

あぁ…チャンミナ、お前は強いんだな。

俺も、お前を見習って、強い男になるから。

演奏が終わると、割れんばかりの拍手が、会場を覆い尽くす。
俺は、そっと会場を後にした。
ふらつく足を、どうにか動かして、車までたどり着く。

そして、運転席に乗り込むと、ハンドルに突っ伏して、泣き崩れた。

人生で、こんなに泣いた事はないだろう。

チャンミナから、別れを言い渡されるなんて…。
嘘であれば、どんなに幸せか。

1時間、いや、2時間くらい泣き続けてから、俺は家へと向かった。
他に行く場所がなかったから。

部屋に入ると、惚けたように座り込む。

ちょうど目の前に、チャンミナとのツーショット写真があった。
これを撮った時は、こんな日が来るなんて、想像すらしていなかったのに。

胸を搔きむしるような、息苦しさに、大きく喘ぐ。
チャンミナ…。
苦しいよ…。
こんなに苦しい思いをするなら、いっそ殺して欲しいくらいだ。
《Y サイド》

チャンミナに呼び出されて、アパートに向かう。

いつもより、沈んだ声で話すあいつが、なんだか深刻な状況を予想させて、不安にさせた。

アパートに着いてドアを開けると、青い顔をしたチャンミナが顔を出す。
「おい、どうしたんだ!?
…大丈夫か?」
俺の問いには答えず、ズンズン部屋の奥へと歩いていく。
そのままストンと座り込むと、大きく息を吐いた。

そして、チャンミナが口を開いた。
親父たちが訪れた一部始終を、話し出す。

ショッキングな内容に、俺は言葉を失った。

なんて事だ…。
親父たちにバレていたのか。

いずれは、チャンミナとの事は話すつもりでいた。
だけど、こんなに早く、決着をつける日が来るなんて。
俺は頭を抱えた。

そんな俺を見て、チャンミナが意を決したように、口を開く。
「ヒョン…。
僕たち、別れましょう。」

「なっ!
何言ってるんだよ!?
そんな事、出来るわけないだろっ!」

驚いて、立ち上がる俺。

「あなたには、背負って立たないといけない未来があります。
それには、責任も伴います。
もう、学生の頃のようには、いかないんですよ。
分かって下さい…。」

俺は大きく頭を振った。

「分かんねえよ、んな事!
分かり…たくもない。」

「だけど、諦めなきゃいけない事もあるんです。
それが…人生だから…」

「ヤダよ、チャンミナ!
なんでそんな事、言うんだよ!」

いつの間にか、俺の頬を、涙が伝って流れ落ちた。
それを拭いもせず、両手でチャンミナの肩を掴んで、揺さぶる。

「なぁ、お前は平気なのかよ?
こんな…こんな簡単に、決めちゃってさぁ!」

チャンミナの顔が辛そうに歪んで、横を向いた。
それでも、決意は翻らない。

「お願い…します。
僕と、別れて下さい…」

土下座をして、必死に頼み込む姿が、あまりに痛々しい。
俺は、ただ呆然とそれを見た。

この状況が、どれだけ続いたんだろう。
しばらくして、ついに俺が、
「分かっ…たよ。
もう…いいから」
そう、言葉に出していた。
《C サイド》

ある日の午後。
部屋でピアノを弾いていたら、突然、ドアのインターフォンが鳴る。

のぞき穴を覗くと、見知らぬ男女が立っていた。
誰だろう…?
ドアを開けて、確認してみる。
「こんにちは。」
身なりの良い、中年の男性と夫人らしき人だ。

首をかしげる僕に、
「私は、チョン・ユンホの父と、これは母親です。」
自己紹介を始めた。
僕は唖然としながらも、挨拶をする。

テーブルを挟んで、ヒョンの両親と向かい合った。
「まず、単刀直入に伺いたい。
あなた、ユンホと付き合ってるんですか?」
お父さんに尋ねられる。

え、どうしよう…。
ヒョン…僕はなんて言えばいい?

「答えなくても、分かってるんです。
調査会社に頼んで、調べてもらいましたから。」

そう言うと、何枚かの写真をテーブルに並べた。
それは、僕とヒョンが仲良く写ってる写真だった。
中には、キスをしてるのもある。

「ユンホには、将来うちの会社を継がせるつもりでいます。
だけど、こういうスキャンダルが発覚すると、大変にまずい。

あなたは、ユンホの足かせになる。

大変に申し訳ないのだが、ユンホとは別れて下さらないでしょうか?
あの子の将来の為に、お願いします。」
隣の夫人にも、頭を下げられる。
「私からも、どうぞ、お願いいたします!」

そんな二人を前にして、僕は、
「少し…だけ、考えさせて下さいませんか?」
そう言うのが、精一杯だった。

二人が帰ったあと、僕は茫然自失の状態で、寝転がっていた。

ヒョン…、僕はどうしたらいいの…?
俺たちが付き合って、一年が過ぎた。
この間、二人でお祝いをしたばかりだ。

あれから俺たちは、喧嘩をしながらも、仲良くやって来た。

今日は、俺のレポート作成を手伝いに、チャンミナがやって来る。
俺は、大慌てで部屋を片付けた。

部屋が汚いと、あいつは途端に機嫌が悪くなるからな…。

なんとか綺麗に片付いて、ホッとしたところだった。
家政婦のキムさんが、部屋をノックして、
「お友達がいらっしゃいましたよ。」
と、声をかけてくれた。

リビングのソファーに、チャンミナがちょこんと座っていた。
窮屈そうに背中を丸めて、視線が泳いでる。
あぁ…相変わらず、落ち着かないんだ。

以前チャンミナが、俺ん家は広すぎて、落ち着かないと言っていた。
俺の部屋に入ると、ようやくホッとしたような表情になる。

それから、一緒にレポートを書き終わると、まったりと過ごした。

「ヒョンはいいですね。
お父さんの会社に入るから、就活しないで済むんですもんね。」
「んっ、まぁな。」

確かに、俺は卒業と共に、親父の経営する会社に入る予定だ。
大変な就職活動の苦労はない。

だけど、それは本当にやりたい事とは違う。
俺は、いったい何がしたいんだろう…?

俺は、絨毯の上にゴロンと大の字になると、隣にいるチャンミナを見た。
俺の愛おしい天使…。
こいつさえいてくれたら、他に何も望まない。

やりたい事なんて、なくたって構わないじゃないか。
チャンミナの隣にいられたら、それで俺は幸せだ。

俺はむくっと起き上がると、チャンミナの顔を両手で挟んで、その唇にキスをした。