国際学部の交換留学制度
得るものは何もない、と感じていた僕は、国際学部の留学制度に応募した。
この大学では、米国五大湖周辺の5つの大学と提携関係にあって、互いに留学生を受け入れ合ったり単位の交換ができるような制度があった。アメリカの学生を毎年数名受け入れる代わりに、日本からも若干名、これらの大学に送り込む。
試験が大好きな僕は、さっそくこれに応募して、パスした。日本で4年間、退屈な大学生活を送るかわりに、そのうちの1年をアメリカで過ごすことができるというわけだ。アメリカで取得した単位を日本の大学に変換すれば、全く留年しなくて済む。
コンクリート・ジャングル
緑茂る広大なキャンパスをファッショナブルな男女学生たちが行き交い、サークル活動に青春を燃やし、学園祭の時には恋が芽生え、大学周辺のカフェでは活発に議論を戦わせる・・・ そんな学生生活を想像していた僕は、ある重要な事実を見落としていた。この大学の理工学部は、メインキャンパスから30分以上離れた別の場所に存在するということだ。
文学部の講堂で行われた入学式が終わったあと、30分歩いて理工学部のキャンパスに到着した僕は、雰囲気の違いに愕然とした。「コンクリート・ジャングル」と嘲笑されるそのキャンパスは、コンクリートむき出しの安っぽい建築で、工業高校と変わらない印象だ。芝生はおろか樹木すらも皆無に等しく、学生は真っ暗な研究室で、サムい冗談を言い合いながらニヤニヤしている。オタクの城だ。クラい、キモい、サムい、なんてCMでも作れそうだ。
しかも、そのコンクリートのキャンパスには男しかいない。向かいに女子短期大学があるが、男性は中には入れてもらえないし、「あの大学の男の子とだけは付き合わないように」と強く言われているそうだ。学生生活の最大の楽しみである学園祭の期間は、「理工展」と呼ばれるイベントを同時開催する。いわゆる研究発表会だが、そんなのは学会でやれ!と言いたくなる。
案の定、大学での講義は退屈を極めた。
まず、よほどの変人でもない限り、こんなにたくさんの成人間近の男たちが、ひとつの部屋に集まっていること自体、心地よく思うわけがない。必修の実験では、メーターの数値を読んではノートに書き写す作業が続き、夜にはそれをもとに意味のないレポートを書かなければならなかった。教授の著作による大小さまざまな専門書(売れないから超高価!)を買わされるが、中身は禅問答のように難解そのもの、全くの抽象論ばかりだった。