母の記憶に (ケン・リュウ短篇傑作集3)   画像が大きすぎですね^^;。

                                    この本だけ小さくできません。

 

  母の記憶に (ケン・リュウ短篇傑作集3)   ケン リュウ

 

 近いか遠いかはわからない未来の物語。AIが怖ろしいほどに進歩し、人の生命のあり方までも変えてしまう世界で、その世界に順応していく人々と、最期まで人の姿と心のままでいたいと考える人々の苦悩が描かれています。

 科学がたくさん登場しますが、情緒的でどこかノスタルジック。もの悲しさが心地よくさえありました。悲しみも後悔も人の心のありよう。老いも死も人の姿のありよう。そういったものを受け入れることが生きることではないでしょうか。どれもおもしろかったけど、とくに「カサンドラ」「レギュラー」が好きです。強い女はすてき!

 


モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語  モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語  内田 洋子

 

 タイトルから想像していたのとは少し違う内容でしたが、イタリアの人々と作者の本への思いが出合って織り上げた厚みのある作品でした。

 『本は闇の中の蝋燭の火であり、荒波の先に光る灯台だった。』 人が生み、育ててきた言葉と想像力が本になり、わたしたちを過去にも未来にも見知らぬ世界へも連れて行ってくれる…。本の力を信じた人々の喜びと誇りが遠い山奥の村からわたしのところへも伝わってきました。

 街の小さな本屋(図書室)も憧れでしたが、移動図書館もいいですね。少し前に新聞の歌壇でこんな歌を見つけました。『あこがれは移動図書館運転手菜の花畑を雨の峠を』杉野さんという方の歌です。わたしは読んだ本を図書館で引き取ってもらっているのですが、自分で車に積んで回る手もあったなと無謀なことを思ってしまいました^^。

 



さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい (単行本)  さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい   古内 一絵

 

 心地良い物語が終わってしまいました。つらい思いを抱えている人にシャールさんがどんな言葉をかけ、どんな料理を出すのか、自分のことのようにかみしめながら読みました。ここにたどり着けた人は幸せです。たどり着けずに悩み続けている人がどれだけいるか…。物語なのに現実と重なって感情移入してしまいました。立ち直るためには、心にも体にも滋養が必要。疲れたときに休めるお店があるといいですね。

『ヴァン・ゴッホ・カフェ』『マカン・マラン』本の中で出合えただけでもよしとしますか。古内さん、シャールさん、ありがとうございました。



ともだちは海のにおい (きみとぼくの本) ともだちは海のにおい (きみとぼくの本)  工藤 直子

 

 はじまりは涙の粒。涙があふれて海になり、その海でいるかとくじらは出会いました。お互いが大好きで、大切で、二人の会話はまあるくてやさしい。読んでいるこちらまで幸せな気持ちになります。こんな素直な思いを持ちたいのに持てないことが、ちょっぴり悲しくもなります。

『いいともだちがいて、いるかほこらし』』『いいともだちがいて、くじらもほこらし』そんな日記を書きたいですね。図書館から借りたのですが、手元に置いて繰り返し読みたい本。心の海にいるかとくじらを住まわせて、ときどき仲間に入れてもらいます。



シマフクロウとサケ (日本傑作絵本シリーズ)  シマフクロウとサケ (日本傑作絵本シリーズ)  宇梶 静江

 

 厳しい北の大地に生きるアイヌの人々と動物たちが、素朴な言葉で静かに語りかけてきます。『自然の中で生きるものは、互いの恵みで生かされている。互いに敬意をもって生きなさい』と…。この物語を村の長から直に聞いたら、子どもは自分たちがいろいろなものに守られていることを感じるはず。つましいけれど、それはとても心豊かな暮らしです。

 話も味わい深いけど、この本の一番の魅力は絵、古布絵です。古布と太い刺繍糸が描く力強い絵は、シマフクロウの力強さそのもの。シマフクロウの賢明さと孤独が伝わってきます。

 


竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫) 竈河岸 髪結い伊三次捕物余話  宇江佐 真理


 20年近く続いたシリーズの最終巻。物語の中で、登場する人々も歳を重ねました。結婚し、親になり、祖父母になり…。日々の暮らしに起こる悲喜こもごものできごとに変わりはないけど、受けとめる側の心の持ちようは歳とともに変わっていきます。

 九つの物語はどれもめでたしめでたしの終わりではありません。やりきれなさも残るけど、その中でも少しだけ救いを見つけて折り合いをつけるしかない、人々のささやかな知恵で締めくくられています。悪は許せないけど人の弱さは許してあげよう、助けてあげよう。その方が自分も生きやすいから。物語の中にいた人々が今もどこかで生き続けていて、そう言っているような気がします。

 


14歳、明日の時間割  14歳、明日の時間割  鈴木 るりか

 

 軽やかで読みやすい文章ですが、描かれていることはけっこう深く、これを中学生が書いたのかと思うと「おそるべし、14歳」です。1時間目から6時間目の教科と昼休み、放課後のどの章にも、家族や友だちへの素直で温かい思いがあふれています。自分を語る心の声も楽しくて、ときにシビアで、そうだよなあと共感しながら読みました。

  校長先生の言葉『一点の曇りもなく最良の日だったと思えるのは生涯でせいぜい4.5日』、道徳くんの涙、茜のおじいちゃんの話。心に残る場面がたくさんありましたが、とにかく西行、ゴー、ウエストが最高でした。

 

 

画像の花はガウラ

ヤマモモもソウともハクチョウソウとも呼ばれています。

好きな花ですが、なかなか定着しなくて、毎年買っては枯らしています。

今年はこのピンクの花だけが頑張って咲いてくれました。

 

また一つ歳を重ねた自分へのプレゼントに

プロフィール画像を変えてみました。

 

年齢のせいか暑さのせいか、たくさんは読めませんでしたが

今月も心動かされる本に出合えました。

とくに心に残ったのは、ナイジェリア出身の作家が書いた「半分のぼった黄色い太陽」。

アフリカの女性が恋愛や戦争を軸に人々の日々の暮らしを描いたもので

考え方、言葉の力に感心しながら読みました。力強い作品です。

 


半分のぼった黄色い太陽半分のぼった黄色い太陽  チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

 

 物語の舞台はビアフラ共和国、1967-1970の3年間だけ存在した国です。その3年間はちょうどわたしの高校時代と重なり、ビアフラの子どもたちのやせ細った足と膨らんだお腹の写真を見て衝撃を受けたことを思い出しました。

 数百万人が餓死したとも伝えられ、悲劇のイメージだけが残っていましたが、当然そこには人々の暮らしがあり、家族や恋人への愛情、友情があり、民族の伝統や誇り、そして葛藤もあります。日常のすぐ隣にクーデターがあり、戦争があり、賢明さも醜さもあり、それらがていねいに描かれた重厚な作品でした。タイトルの半分のぼった太陽は、結局のぼりきることはありませんでした。

 


償いの雪が降る (創元推理文庫) 償いの雪が降る   アレン・エスケンス

 

 書店に行くたびに美しい表紙とタイトルに惹かれて手に取り、背表紙のあらすじを読んで残酷さに耐えられないかもとまた戻し…。数か月繰り返して思い切って読み始めたら、惹きこまれて一気読みでした(3日かかりましたが)。

 散りばめられたピースは重くつらいものばかりでしたが、主人公が、よくぞここまでと感心するほど賢明でけな気で、主人公を助ける恋人や警官たちも誠実で、読み終えて爽やかな気持ちになるほどでした。とくに弟への愛情と互いの信頼関係に心が温まりました。

 ベトナム戦争の悍ましさは、これまでも活字や映像で目にしていましたが、兵士の心にもこんなに傷を残すのだと改めて思い知らされました。

 

 

琥珀のまたたき (講談社文庫) 琥珀のまたたき   小川 洋子

 

 人の心はどこまで自由に広がり、そして自由に閉じることができるのでしょう。その心を、琥珀色の左目に大切に入れて生きた少年。世界も心も少年の左目の中にあり、ときを経ても何も失われてはいない。そこにいてほしい人はいつも静かにそこで微笑んでいる…。

 そんな小石がわたしの中にもひっそりと埋もれていてほしいと思う、小さな悲しみと深い喜びに満たされた物語でした。

 小川さんの物語を読むと、普通なら幸せに思えない世界が、ある人にとってはとても居心地のいい世界なんだと気づかされることがあります。外側から眺めるのと内側から眺めるのとの違いにも。不思議な世界を静かに存在させる作家です。

 


凍結捜査 (集英社文庫) 凍結捜査   堂場 瞬一

 

 シリーズ1冊目「検証捜査」の陰湿で気の重くなるおもしろさが好きでした。以来読み続けているのは、ミステリーとしてのどきどき感だけでなく、検証捜査のメンバーが少しずつ絡み合い助け合っている、そのチームワークに惹かれてです。知恵だけでなく、ときに体を張っての連携に今回はプラス恋愛。

 事件も戦後にまで遡り、ロシアマフィアや新しい警察の捜査部署が関係して、納得のいかない結末でした。そんな時代なんでしょうか。ひょっとして次作は国際捜査? ついていけないかもしれません。



優しい音楽<新装版> (双葉文庫) 優しい音楽  瀬尾 まいこ

 

 3話の短編集。タイトルの通り、優しい物語でした。どの話も始まりはちょっと危ない感じですが、着地はとても爽やかです。悪意がないというのはこんなに幸せなことなんだと、また改めて考えさせられました。

 違う環境で育った人と親しくなれるのは楽しい。違う考え方も受け入れてみれば、自分や自分の暮らしが少し変わるかもしれない。そんなおおらかさがいいですね。不倫相手の妻と子どものために一肌脱いだ深雪さんがかっこよかった!
 

 

 


かぜは どこへいくの (世界の絵本)  かぜは どこへいくの (世界の絵本)  シャーロット・ゾロトウ

 

 『おしまいに なってしまうものは、なんにもないの。べつのばしょで べつの 

  かたちで はじまるだけのことなの。どんなものでも。』 

おしまいにならないのは、お母さんの愛情。

          世界がこどもたちに贈るやさしい想い。

虹

 

67才の夏がこんなに忙しいとは…。

毎日仕事に出かけている人から見ると忙しいうちには入りませんが

老後をのんびりと、と思っていた身からすると予想外の1ヶ月でした。

 

忙しさのもとは、夏休みの孫と猫たち。

我が家の場合、2学期が始まってホッとしたのは、母親よりおばあちゃんかも^^;。

 

悲しいできごとが一つ。

病気で里親探しができないからと保護団体から預かった子猫が

空へと旅立っていきました。

預かって3週間、ほぼ一日おきに病院で注射をしてもらっていたのですが

明け方に静かに旅立っていきました。

多分、まだ8ヶ月くらいだったでしょうか。人懐こくてかわいい男の子でした。

名前はなっくん。

病気で走り回ることもできませんでした。

 

  なっくん、忘れないよ。  空の上で元気に遊んでね。

 

うれしいこともありました。

娘と同じくらいの年齢の友人ができたのです。

娘とは仲良しですが、思っていることを全部言えるわけではありません。

母親としての立場もあり、遠慮もあり…。

でも、なぜかその友人には今まで誰にも言わなかったような心の澱を話していました。

相手には迷惑な話ですが…。

 

残念なことに一度しか会えず、友人は南の島へと新天地を求めて行ってしまいました。

もう店じまいをするかのようなわたしの生活。

これから新しいことを始める若い友人が羨ましくもありますが、きっと大変なことも多いはず。

健康を祈って、カンパイ! 

 

  画像が横になることに関してはもう居直っています。

        暑中お見舞い申し上げます

 

                            今回も90度回転のまま

       長い梅雨の後、忘れてかけていた暑さがちゃんとやってきましたね。

       

       暑い…。熱い…。

 

       少しずつ老いていくことは感じていますが

       この頃は、夏の猛暑でさらにガクンと大きく老いるような気がします。

       猫たちもぐったりしています。

       読書もはかどりません。

       なのに、食欲はちっとも落ちないのが不思議。

       水太り、アイス太り、冷やし中華太り。

 

       そんなことより読書の記録、ですね。

 


ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫) ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記   かたやま 和華


まじめで人の好い宗太郎の追っかけ^^ですが、今回は遠山の金さん並みにかっこいい父、銀四郎も登場。今どきの〇〇詐欺を思わせる巧妙な犯行を、二人で解決していきます。猫のままでもいいぞ、と受け入れてもらえたようで、はてさて道は近づいたのか遠くなったのか…。

 三話目はどこまでもお気楽な大店の若旦那の、ちょっと切ない恋物語。最後にいくらか救いがあるのかなと思っていたのですが、最後まで二転三転の切なさでした。生きて、生きて、生き抜いたものだけに来世があると、若旦那に教えてあげる人がいるとよかったのに。

 


君がいない夜のごはん (文春文庫) 君がいない夜のごはん   穂村 弘

 

 穂村氏は歌人で絵本も書いていると紹介欄にありましたが、申し訳ないことにエッセイしか読んだことがありません。そのエッセイがおもしろくて、穂村氏の人の好さ、ユニークさに癒されます。年が10歳くらいしか違わないせいか、出てくる食べ物の名前や思い出に「同じ。わかる。」と共感するものがたくさんありました。『伸びしろ』なんて全くその通り。

 まあ、こんな「食」をよく料理に関する本に連載していたなと、出版社側と穂村氏の大胆さに感心し、でも、こういう人がいてくれてこそ「食」も人生も楽しいとまた感心しました。やさしい人ですね。

 


三鬼 三島屋変調百物語四之続 (角川文庫) 三鬼 三島屋変調百物語四之続   宮部 みゆき

 

 宮部氏の時代物を読むと、恐ろしいものはわたしたちのすぐそばにあって、生きた人間の心の闇が作り出すのだとつくづく思います。そして、その闇から人を救い出すのも同じ人間の愛情と知恵だと。

 今回はつらい経験をしたおちかを見守り、おちかの幸せを願ってくれる周りの人々のやさしさに、読んでいるわたしまで温かい気持ちになりました。そんな人が一人でもいてくれれば、誰も亡者や鬼にならなくてすむのに。それにしても宮部作品の念の強さ。読みながらうとうとしている間に、自分の家族が恐ろしいできごとに巻き込まれる夢をみてしまいました。

 


([し]4-6)花咲小路一丁目の刑事 (ポプラ文庫) 花咲小路一丁目の刑事   小路 幸也

 

 書店でよく目にする作家。楽しそうな表紙につられて手に取ってみました。

主人公は心根のまっすぐな新米刑事さん。『自分の手で何かを作って生活している人たちが、僕は好きだ。僕の仕事は、最終的には、そういう人たちを守ることなんじゃないかなと考えたこともある。』

 非番の日のよろず相談が話の主ですが、本番でもなかなかできる刑事さんかもしれません。小路…小路幸也さんと重ねてる?

 


草を結びて環を銜えん (ケン・リュウ短篇傑作集4) 草を結びて環を銜えん (ケン・リュウ短篇傑作集4)  ケン リュウ

 

 ケン・リュウ氏の描く日本や中国の独特な世界が好きです。遠い時代から吹き続けてきた風のようで、淡々と流れる音楽のようで、哀しみの方が多く懐かしく…。

 表題作は、非情で残忍な歴史に翻弄された遊女の物語。その強さと愛と、草を結ぶと信じて生きていく(死んでいく)人間の切なさに涙がこみ上げてきました。

 「万味調和」はヘニング・マンケルの「北京から来た男」と重なる部分がありました。アメリカで生きていくことを決意した中国人ローガンの語る物語や言葉が深い味わいを持って心に沁みてきます。ただ、氏の描く科学の世界は苦手です。



異邦人(いりびと) (PHP文芸文庫) 異邦人(いりびと)   原田 マハ

 

 芸術とお金が絡み合った画廊や美術館の仕事。その仕事に、東京も京都も違いはないのではと思うのですが、この作品では「東京」がかなり異邦人(いりびと)として描かれています。

 古からの人々の暮らしが築き上げてきた、京都ならではの美。その美に魅せられた女性たちの生き方は、まるで絵巻物を見ているように幻想的で、怖さを感じるほどです。最後の方は思いもつかぬ展開でしたが、それも妖しげなものを隠して受け継がれてきた京都ならではの美なのかもしれません。惹き込まれて読みましたが、読み終えて、わたしも異邦人でしかないと思いました。
 

 

7月2日3日と帰省してきました。

もう両親はいないのですが、妹に会うため。そしてお墓参りをするために。

故郷は鹿児島県。

飛行機が飛ぶかどうかわからない南九州のあの大雨の中

だめなら諦めようと一応羽田に向かい

引き返すかもしれないという条件つきで搭乗。

鹿児島空港の上空で30分以上旋回してやっと着陸。

心の中で、頑張れエンジン、頑張れ翼 頑張れ機長と繰り返していました。

 

飛行機の中で読んだ「翼の王国」

7月号の特集の一つは 南薩摩の水からくり。

 

ご存じですか。「翼の王国」か

どうやっても画像が横になってしまい申し訳ないのですが

首を左に傾けてみてください。

昔からある夏祭りで披露されることが多く

子どもの頃、飽きもせずに眺めていたのを思い出しました。

 

                             「翼の王国」から

夏祭りはにぎやかで楽しいものですが

もう会えなくなった人たちを思い出したりして

どことなくもの悲しさも覚えます。

 

    6月の読書


騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫) 騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上)   村上 春樹


 タイトルも含めて謎に満ちた展開。先日、新聞で作者と父親の関係について読んだ後ということもあり、この物語はどこへ行くのだろうと、楽しみより不安の方が大きい読み始めでした。でも、おもしろい。どこまでおもしろいと思いながらついていけるかわかりませんが、覚悟して(下)に進みます。

 


騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(下) (新潮文庫) 騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(下)


 物語なのだから問題集のように答えがわからなくてもいいけど、ひょっとしたら自分が穴の中に落ちたまま放り出されるかもしれない。と、静かに話が進むときほど不安になりました。登場する誰もが魅力的に描かれていて、そういう意味ではみな似ています。互いの間にある緊張感も同じくらいで、こちらまで息をひそめてしまいました。対照的に、闇の中から現れた小さな「騎士団長」の存在がほのぼのとしていて、ときにクスッとしてしまいました。

 


騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(上) (新潮文庫) 騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(上)


 絵画や音楽、料理、服装、移りゆく風景の美しさ。対照的な、蓋を外した穴から現れた闇の暗さと不気味さ。それらが交互に描かれているせいか、読む側も心のバランスを保ちながら静かに読み進めることができました。でも、その静けさの陰で謎はますます深まり、得体のしれない罠も用意されているようで怖くなります。ふうっとため息をついて、覚悟して結末の章へ。

 


騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(下) (新潮文庫) 騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(下)


 それぞれの生活が一応の落ち着きを見せ、いくらかの希望をとともに前へ進み出したようです。戦時下の悍ましく悲しいできごとが、生き残った老画家の心に絶望に近い闇を残し、その闇が、妻と別れて孤独だった「私」の闇と重なって、「私」をただならぬ世界へと迷い込ませていきました。

 老画家が死に、闇もやがて火の粉が空へとまきあげ、穴も閉じられ…と、これはわたしの解釈。完璧に見えた免色をはじめ、誰の心の中にも穴があり、孤独がありました。

 嫉妬だとか悪意だとかもたない「私」の生き方が一番幸せに近いように思えます。

 わたしの読み方が浅いのだと思いますが、何かもの足りなさを覚える結末だったかな。

 


猫のエルは 猫のエルは  町田 康
 

 町田氏の作品には、独特の表現とユーモアと少しの悲しみがあります。この本もそう。猫の無敵のかわいらしさ、言葉を超えた不思議さ、そして生けるものすべてが抱える生きる切なさと大変さが詰まっていました。でも『生きてるだけで儲け』、そうですよね。猫の恩返しなんてありません。猫がそばにいるだけで、生きていてくれるだけでいいんです。

 物語もおもしろいけど、ヒグチさんの絵がとてもすてきです。猫とねずみのごっつんこ、エルのあどけなさ。こんなすてきな絵を見たのだから、わたしも目の前にいる猫たちをもっとかわいがってあげなくては。

 


しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫) しろいろの街の、その骨の体温の   村田沙耶香

 

 こんな経験はなくても、こんな心は誰にでもあるはず、と思い知らされる作品です。思春期は、攻撃する方も残酷だけど、守る方も残酷で、そのどちらにも関わらないでいるのもまた残酷かもしれません。悩まないなんて無理な話で、悩むことしかできない時代を傷つきながら何とか生き抜いて、人は自分なりの価値観を身に着けていくのでしょう。主人公の私が苦しみながらつぶやく言葉も、それをきちんと受け止めて話す伊吹の言葉も、それらを紡ぎだした作者の言葉も、言葉のもつ力と美しさを感じさせてくれるものでした。

 


パテカトルの万脳薬 脳はなにげに不公平 (朝日文庫)  テカトルの万脳薬 脳はなにげに不公平   池谷 裕二

 

 自分の脳が委縮しているのでは、と感じることの多いこの頃^^;。少しでも救いがあればいいなと思って読んでみました。共感、感心、納得したり、反対に関心がなくてスルーしたりの62項目。

 脳は不思議でまだまだ解明されないことがたくさんあるようですが、体という器の中に入っていて、遺伝や経験等の影響も受けるので、脳だけの能力を発揮するのは難しそうです。不公平かどうかはよくわかりませんでしたが、脳は何気におもしろい、ということは分かりました。わたしの場合、一番大切なことは「リフレッシュ」かな。まずは寝ること。

 


ねこに未来はない (角川文庫 緑 409-2) ねこに未来はない   長田 弘

 
 読むのをためらってしまうタイトルですが、長田氏の作品だからきっと大丈夫、と手に取ってみました。1ページ目から猫への愛にあふれていました。物語のようだけど、多分「ぼく」は長田氏。

 猫は自由に生きているように見えるけど、自由に生きるのはなかなか大変で、厳しいこともたくさん。猫への思いも美しいけど、猫のすべてがわかるわけでもなく哀しいこともたくさん。猫好きとしては共感しすぎて胸が痛くなってしまいました。表題作のほかにいくつかの物語もあって、そちらはユーモアと猫の知恵がつまった童話のようで楽しく読めました。
 

 

 

 


きりこについて (角川文庫)  きりこについて   西 加奈子

 

 気持ちのいい作品でした。

 自分はかわいいと思っていた子ど時代のきりこも、ぶすだと知って引きこもりになった思春期のきりこも、そんな容れ物より中身が大事と気づいた大人のきりこも、それぞれに「それでいい」と思える真っ当さでした。 両親の愛の勝利ですね。

 生きづらいことの多い世の中だけど、こんなふうにおおらかな視野と心持ちでいたら、自分も人も大切にできるはず。と、西さんの作品を読むといつも考えさせられます。



カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)  カササギ殺人事件〈上〉   アンソニー・ホロヴィッツ

 

 途中までは自分で書いた人物一覧表を隣において、いちいち確認しながら読みました。

 事件の周りにいる人々のつながりや秘密が暴かれ、探偵ピュントが「わかった」と言ったところで上巻が終了。えっ!ここからさらに1冊?下巻でまだ新しい事実が出てくるの?と驚いてしまいました。

 美しい田園風景が広がる土地なのに、その風景がとても怖く感じられ、とくに夜は外を歩けそうもないほどです。善良なようで人々も謎が多く、一人の人物も見る位置を変えるとずいぶん印象が違います。どう解決を見るのかドキドキしながら下巻へ。



カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)  カササギ殺人事件〈下〉   アンソニー・ホロヴィッツ

 

 上巻の終わりに探偵ピュントが「なぞは解けた」と言ってたのに、そこからの下巻。一体下巻で何が起こるのだろうと思っていたのですが、まさかこんな展開になるとは…。えっ!ええっ?とページをめくる手が止まりませんでした。そして、こんな結末が二つも用意されていたとは。 

 時代が変わっても人の心に潜む闇はそれほど変わらないということでしょうか。ミステリーについての考え方、作家と出版社の関わり方等が織り込まれていて、いろいろな角度から楽しめました。



何者 (新潮文庫)  何 者   朝井 リョウ

 

 こんなふうに「自分」のことを考える時間が持てるのは、学生の特権なのでしょうか。若者の特権なのでしょうか。若者だった時代も学生だった時代もありますが、パソコンもスマホもなかったので、目の前の世界が自分の世界で、語り合うこと以外に自分の考えを伝える方法がありませんでした。比べることに意味はないかもしれませんが、常に自分を表現していないと落ち着かない時代は息苦しい…。

 最後の方は、まるで自分の心がえぐられるようなつらさでした。こんなつらさを書くことができるなんてと、作者の力と若さの力を感じました。



モップの精は旅に出る (実業之日本社文庫)  モップの精は旅に出る   近藤 史恵

 

 清掃人探偵キリコさんに会ったのはもう何年前でしょうか。キリコの掃除や人に対する考え方になるほどと納得しながら、シリーズを楽しく追いかけてきました。でも、もうこの本でお別れ。すてきなキリコともう会えないのは寂しいですね。

 「ラストケース」では、夫の大介といっしょにかなり心配してしまいました。なかなか思い通りにはいかない人生だけど、二人ならお互いを大切にして仲良く生きていってくれることでしょう。お掃除するときは、キリコの心持ちで楽しく、ですね。



雪盲: SNOW BLIND (小学館文庫)  雪盲: SNOW BLIND   ラグナル ヨナソン

 

 雪盲。積雪の反射などで目に炎症が起きること、と辞書にありました。その言葉が意味するように、アイスランドの冬に事件が起きると、吹雪や極夜の暗闇のせいで本質や証拠が見えなくなってしまいそうでした。寒さの中の操作も大変そう。

 人口が少ないせいか、隠された人間関係があちらこちらに張り巡らされていて、『湿地』で感じた閉塞感がこの作品にもありました。新米警察官にしてはなかなか独立心?の強い主人公が、向こう見ずな行動力で事件解決に貢献するのですが、ハラハラしどうしでした。恋人との関係についてもモヤモヤ感が。老婆心ですが。



未来のだるまちゃんへ (文春文庫)  未来のだるまちゃんへ   かこ さとし

 

 からすさん・だるまちゃん・どろぼうがっこう…子や孫に何回読んであげたことか。愛されるたくさんの作品が生まれるまでの、加古さんの生い立ち、出会った人々、そして子どものすばらしさについて深く温かい思いが綴られています。

 戦後の、自分を含めた大人への失望。未来を託せるのは子どもだけだと、何年も考察を重ねて絵本作りに取り組む姿に、穏やかな風貌の内に秘めた信念の強さを感じました。大人の責任も。

 もう新しい作品に合えないのは残念ですが、生み出された作品はいつまでも子どもたちの心に喜びを運んでくれることでしょう。

 


星につたえて  星につたえて  安東 みきえ

 

 『呼んでみただけ』にお話だけ載っていました。絵本があると知り、図書館に予約して待つこと数か月。クラゲよりずっとずっと短いけどやっと会えました。

  とてもきれいで、とてもやさしくて、少し悲しい、わたしたちの心のお話でした。

 「すき」ということは、こんなに永遠で大切なものなんですね。何度も何度も読み返しました。



家族シアター (講談社文庫)  家族シアター   辻村 深月

 

 理由をきちんと説明するのは難しいけど、家族から逃げ出したくなったり反発したりするのは、多分たくさんの人に経験のある感情でしょう。

 でも、いつか、とくに自分が家庭をもったときに、家族の存在の大きさに気づかされます。家族の始まりは愛だったこと、葛藤も距離の近さゆえだったこと、お互いに必要な存在だったこと。タマシイム・マシンの繰り返しです。

 


山のトムさん ほか一篇 (福音館文庫 物語)  山のトムさん ほか一篇   石井桃子

 

 以前読んだ「家と庭と犬とねこ」に登場した、山の友だちが飼っていた猫。それがトムさん。今と時代や環境が違うので比べることはできませんが、こんなふうに自然の中で季節を感じながら暮らせたら、猫も人も幸せだろうなとうらやましくなりました。林や野原が遊び場で、動く小動物は全部餌。のびのびと走り回るトムの姿のなんて生き生きしていること。

 家族にとっても、笑顔と温もりで心を満たしてくれる大切な存在で、冒頭の詩とあとがきに胸が熱くなりました。足りないものだらけの貧しい暮らしですが、互いを慈しみあう豊かさにあふれていました。

 

 

 

            すてきなお花畑でしょう。

            埼玉県毛呂山町にあるローズガーデンの入り口です。

            バラの花とお庭が見たくて2時間近くかけて行ったのですが

            休園日でした。

            でも、入り口の矢車草が見られただけでもよかった。

 

              函館の青柳町こそ悲しけれ友の恋歌矢車の花  啄木

 

            高校生のときにこの歌を知ってから、好きな花になりました。

            50年たっても覚えているなんてすごいでしょう。