堀文子: 群れない、慣れない、頼らない (別冊太陽 日本のこころ 267) 堀文子: 群れない、慣れない、頼らない (別冊太陽 日本のこころ 267)

 

 この本を読み終えた、と言ってはいけないのかもしれません。文は読み終えても、作品はもっともっと時間をかけて何回も見つめることでしょう。画廊でなら、作品の前から離れられないかもしれません。

 100歳になり、病を抱えていてもなお創作を続ける生命力と自分への厳しさが伝わってきて、作品のすばらしさに惹きつけられると同時に、その生き方にも胸を打たれます。長い活動の間には手法が変わったり、描く対象が変わったりしますが、それぞれに対象への深い愛情が感じられて、どの作品も好きです。

 

            

星空の谷川俊太郎質問箱 星空の谷川俊太郎質問箱  谷川 俊太郎

 

 一つの質問に一つの答え。質問も可愛らしかったり共感できたりでなかなか面白いけど、谷川氏の答えが心の深いところにすとんと納まっていくようで、しみじみと心地よい作品でした。心の深いところは、多分果てしない宇宙とつながっているのでしょう。

 無数の星が集まって宇宙をつくっているように、たくさんの質問と答えが集まって、1冊の詩集になっているようでした。タイトルも挿絵もすてきです。市の図書館で借りたのですが、学校の図書館にも、できれば我が家にもぜひほしい1冊ですね。

 

 

されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫) されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記   かたやま 和華

 

 猫の手屋シリーズ4作目。月に一度は宗太郎や長屋の人々に会いたくなります。

 今回も、疑心暗鬼になって我を失う人々や、労咳で死んでいくかっての道場仲間のために、損得抜きで猫の手屋が働きます。もらった恩をよそへ送る。知らずに受け入れ、知っていても知らないふりをして受け入れ、お節介を焼く。貧しくても、人のために何かできるのは心まで貧乏じゃないということですね。今回も猫太郎に、いえ、宗太郎に教えられました。

 


王とサーカス (創元推理文庫) 王とサーカス  米澤 穂信

 

 いくつかの問いが投げかけられ、考え込まされる作品でした。舞台となったネパールは、一昔前、日本も含めて多くの外国の若者が、自由な雰囲気に憧れて訪れた国です。多分、その頃、若者たちが踏み歩いた地面にもう種がまかれていて、長い時間をかけて芽をだし、見えない根を張っていたのかもしれません。

 大きな事件やセンセーショナルな出来事に目が向けられがちですが、その陰でどれだけの真実が割愛されていることか。そういう報道のあり方に悩みながらも自分の思いを貫いて記事を書く主人公に安堵し、共感し、長いけど引き込まれて一気読みでした

 


コンビニ人間 (文春文庫) コンビニ人間  村田 沙耶香

 

 読み終えて感想を書こうとパソコンに向かったら、テレビで自閉症の男性ピアニストの話題を取り上げていました。昨夜、別の番組でも発達障害のある女性ピアニストについて放送していました。人とうまく関われなくても、好きなことや自分の才能を生かせることに出会えて喜びを感じられるなら、それがその人にとっての普通であり幸せです。

 この作品に登場する古倉さんの生き方も、わたしはいいなと思います。自分が選ばなかった生き方が、やがて孤独や後悔をもたらすとしても、彼女はそれを引き受けて生きていくでしょうし。白羽氏は…どうしよう。



希望の牧場 (いのちのえほん23) 希望の牧場 (いのちのえほん23)  森 絵都


 わたしたちは、知らされないことは知らない…。多分、福島にはもっと悲しい現実があり、その中で生きている人々や動物たちがいるのでしょう。言葉を発することができず、目で訴えるしかない動物たちの表情を見ていると、何もできずにごめんね、と涙がこぼれます。

 胸が引き裂かれる思いで牛を殺した飼い主たち。牛飼いだから最後まで生かしてやりたいと行動する「希望の牧場」。どちらの痛みも苦しみも胸に刺さります。ただ、それでも、せめて寿命をまっとうさせてあげたい、人や動物たちが生きていることが希望だから、と思います。

 

 

きみのためのバラ (新潮文庫) きみのためのバラ  池澤 夏樹

 

 誰かと話したい。自分をわかってくれる人と話したいのか、わかってくれなくてもただ自分の思いを伝えたいのか。とても冷静なのか、衝動的なのか…。はっきりと言葉にできないけど、そんな気持ちになることがきっと誰にでもあると思える短編集でした。でも、読み終えて心に残ったのは、北欧やカナダの壮大な自然、パリの街角の雑踏。矛盾しますが、言葉の通じないところへ旅に出たくなりました。
 

 

ギブ・ミー・ア・チャンス (文春文庫) ギブ・ミー・ア・チャンス  荻原 浩

 

 登場する人々に、どこかで会った?と思いながら、ほのぼのとした気持ちで読み終えました。具体的な設定はちがうけど、こんな感じの人がどこかにいたような…。「しょうしんもも」の地方公務員だったかな。神様からひと言告げられたサラリーマンだったかな。

 一生懸命だけど、人を押しのけることができず、うまく立ち回ることも苦手。でも、自分の気持ちに嘘はつけない…。荻原氏の作品に登場するそんな人々が好きですが、彼らのそばで彼らの良さをわかってくれる人がいる、という別な意味でのチャンスもいいですね。

      

     読書ではありませんが、映画「ボヘミアンラプソディー」を観てきました。

     音楽のすばらしさに圧倒され、数日たった今も心がふるえています。

     大スターなのに満たされない思いを抱え、孤独な日々に苦悩していた姿

     そして、暗闇をぬけだして力いっぱい歌う姿に、こちらの方が励まされ

     ました。

     絵画 本 音楽 映画 … すばらしいものに出合えた11月でした。

      

     

 

 

 

 

       10月は庭仕事と猫の通院に時間をとられ、読書の時間が短くなりました。

 

 

草取りに疲れて、レンガや小石を敷き詰めました。

素人仕事なのでレンガに乗るとちょっとグラグラ^^;。

 

病院通いの猫 13歳になりました。

具合の悪いときはおとなしくしていますが

ご飯、ご飯とうるさいやんちゃ坊主です。


ひがんばな (かがくのとも絵本)  ひがんばな (かがくのとも絵本)  甲斐 信枝


 そう、これは科学の本。とにかくよく見て、じっくり見て、遠くから見てぐっと近くで見て、さわってみて。文も説明文というのでしょうか、ひがんばなの咲き方や増え方がとても詳しく書かれています。

 でも、科学の本でありながら、絵も文もまるで詩のようで、風が吹いて心地よく、ひがんばなたちのおしゃべりまで聞こえてきそうでした。知識や関心を育むというのは、いっしょに自然への愛情も育むことだと教えられます。

 子どもの頃、田んぼのあぜ道でこの花を摘んで首飾りを作ったことを思い出しました。



大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記  かたやま 和華

 

 猫の手屋シリーズ3作目。百の善行を積むと人間の姿に戻れるという、わけあり猫の修行物語です。かたかった頭もたいぶ柔らかくなってきました。男女の恋心も少しだけわかってきたようです。

 毎回思うことですが、周りにいる人々が、姿形ににとらわれず、宗太郎の人となりを見て接してくれるおおらかさ(大雑把さ?)が好きです。

森は知っている (幻冬舎文庫)森は知っている   吉田 修一

 

 タイトルに惹かれて手に取った本。隙だらけで平凡に生きている人間からは遠い企業スパイの世界が描かれています。

 過酷な訓練、悲しい生い立ち、厳しい組織。先を読むのが怖くなる展開ですが、語られる言葉は深く、まなざしは温かく、いつかきっと幸せな日が訪れるのではという期待さえ覚えました。

 「一日だけ生きてみろ」そう言われて虐待の記憶を乗り越え、「俺のこと、覚えていてほしい」好きになった少女にそれだけしか言えなかった少年の未来。少年を見守る大人たちの思い。森はずっと見ていてくれるでしょうか。



きげんのいいリス きげんのいいリス  トーン テレヘン

 

 以前読んだ「ハリネズミの願い」の最後にやってきたリス。ハリネズミはまだあんなに考え過ぎではなくみんなと同じですが、リスはこの頃から機嫌が良くて素直で、可愛らしかったんですね。仲良しのアリとのやりとりが楽しくて、そしてけっこう哲学的。

 アリのちょっと気どった言葉に笑ってしまいますが、リスのことが大好きな気持ちが伝わってきて、それも可愛い♪ リスのように機嫌よく生きていけたら幸せなのにと、コーヒー党のわたしですが、いっしょに紅茶を飲んでハチミツをなめたくなりました。

十日えびす (祥伝社文庫) 十日えびす  宇江佐 真理

 

 こんな話、江戸時代じゃなくて今でもありそうと思いながら、先が気になって一気読みでした。お金がからんだ家族の問題、ご近所トラブル、男女や親子の関係。

 本当に「世の中には様々な揉め事がある。なければそれに越したことはないが、多かれ少なかれ、毎日揉め事は起きる」んですよね。でも、どうやって、どんな心持ちで乗り越えていくかで、人生がずいぶん変わります。損得ではなく、相手の気持ちや痛みを思いながら、いいこともそうでないことも少しずつ分け合って暮らす…。

 宇江佐さんと八重が重なって、その心意気が小さな勇気をくれます。



最果てアーケード (講談社文庫) 最果てアーケード   小川 洋子

 

再読です。また、あのやさしい店主たちがいるアーケードに行きたくなって手に取りました。体や心が疲れていて、ノブさんのお店にある不思議な窪みに入りたくなったのかもしれません。

 前に読んだときすっかり心に刻んだつもりでいたのですが、忘れていたお店もありました。どう読み取ったらいいのかわからなくなった章もありました。ただ、娘を亡くした父親が娘の軌跡をなぞるために通い詰めたように、ここでは悲しみも失われた時間も、失われた命さえも大切に残されているようで、その静かな心地よさは変わっていませんでした。



柴犬フクと猫のタラ。: 自然の中で2匹が織りなす のんびりな日々 柴犬フクと猫のタラ。: 自然の中で2匹が織りなす のんびりな日々 

                                  松田 智恵

 やさしい目をした犬のフク。きりっとしたお顔の猫のタラ。そして、それはそれはのどかで美しい2匹のふるさと。こんなところでいっしょに暮らせるなんて、何て幸せなんだろうと、見ているこちらまで温かい気持ちになります。

 仲良くできるってことは、好きだってこと。犬と猫の違いなんて気にせずに好きになれるっていいですね。

                       お ま け

 

 

孫の家にやってきた保護猫

これくらいのびのび寝てみたい…。


 

       

 

 誰にでもある誕生日。

 

わたしはシュウメイギクや萩の花が咲くと 1つ歳を重ねます。
家族はみんな忘れていますが 好きな花に祝ってもらえて

しみじみとした気持ちになります。

 

夏バテで何もできなかった分 カーテン洗い 本の断捨離 キッチンの掃除

そして庭の草取りと頑張りました。庭の手入れはまだ進行中。終わらない家事です。

 

 

 

ちょっと早いけど、小さな家に紅葉の秋が来ました。

夕焼けをイメージして加工してみましが、ぼろ隠しにもなりました^^。

エアコンの下でビール飲んでアイス食べていた季節が嘘のようです。

 


新装版 苦海浄土 (講談社文庫) 新装版 苦海浄土   石牟礼 道子

 

 水俣病について初めて知ったのは1962年、小学5年生のときでした。

住んでいた鹿児島に近い町での出来事であり、その病気の原因が魚介類にあると報道されたとき、海が繋がっている町では、大人たちが魚屋で「どこの魚?」と聞いて買っていました。身近な問題でしたが、その悲惨さを本当に知ったのは、ユージン・スミスの写真を見たときです。体の動かない我が子を入浴させる母親のやさしさと悲しみに満ちたまなざし。決してもどらない穏やかな生活。

 知っているからなかなか読めずにいたこの作品でしたが、読むことが作者への一番の追悼だと思い、手に取りました。

 一括りにされがちな患者一人一人に、それぞれの日常や喜びがあり、病気になってからの暮らしにもそれぞれの思いがあることが、作者の愛情とともに伝わってきます。

 『先祖さまを大切に扱うて、神々さまを拝んで、人のことは恨まずに、人のすることを喜べちゅうて、暮らしてきた』のにどうしてこんな人生が待っていたのか、答えられる人はいないでしょう。闘って勝ち取りたいものはお金ではなく、以前の暮らし。失われた命。発展の恩恵を受けているからこそ忘れてはいけないことが描かれています。

 方言がわかりにくいかもしれませんが、それも含めて素朴に生きてきた人々の思いや言葉の美しさに胸を打たれる作品です。言葉や文の持つ力を感じました。

 

 
ななめねこ まちをゆく ななめねこ まちをゆく  ジェイソン・カーター・イートン

 

みんながまっすぐ見ているときは、ななめに見ることも必要。でも、みんなが斜めに見出したら、まっすぐ見ることも大切。流されてみんないっしょじゃ、猫としては楽しみが減ります。
 


でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期) でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)  京極 夏彦

 

 はてしない野は、風さえ音もなく吹いているようで『とても寂しい』…。

 捨てられる方も捨てる方も、とても切ない…。そんな貧しさにたえながら、遠野の人々は生と死を愛しむ物語を生みだしてきたのですね。



ざしき童子のはなし (宮沢賢治の絵本シリーズ) ざしき童子のはなし (宮沢賢治の絵本シリーズ)   岡田千晶


 ざしき童子は、きっと子どもたちのそばにいていっしょに遊びたい。いっしょに遊ぶことができなかった子どもの願い…。そんな悲しい気持ちと、いるかもしれないという不思議な気持ちにさせる、淡い色合いの絵がとてもきれいです。北上川の上に広がる満天の星空。夜の空はたくさんのことをやさしく包み込んでいるようです。

 


錆びた滑車 (文春文庫) 錆びた滑車  若竹 七海

 

 地味で貧乏でちょっとさえない雰囲気の女探偵、葉村晶。でも、彼女の人生はかなりハードボイルドなんです。今回も命にかかわるような怪我で入院したり、留置所に入れられたりで、40代の体へのダメージを心配しながら読みました。

 晶自身も魅力的ですが、周りの人々の関わり方もおもしろく、何より予期せぬ展開にわたしもじっくりと巻き込まれていきました。
 

 

赤い猫 (ちくま文庫) 赤い猫   仁木悦子
 

 先に読んだ若竹七海さんの本に登場していた仁木悦子さん、初めての作家です。1928年生まれで、しかも病床や車いすの生活の中で推理小説を書いていたとのこと。だから、事件が日常生活の延長のように身近なところで起き、そして、解決するのも平凡に見える主婦や家族なのかと考えるのは短絡的でしょうか。

 ただ、情報を得る方法が今のように発達していない時代なので、聞いた話や見たことだけで推理を組み立てていくおもしろさや、謎解きが終わった段階で良しとして、犯人を罰するのはまた別の話、というしっとりとしたところがいいですね。

 


おばあちゃんのはこぶね おばあちゃんのはこぶね  M.B. ゴフスタイン

 

 とてもシンプルな物語。でも、その中をたくさんの時間とたくさんの愛とたくさんの笑顔が流れていきます。

 おとうさんの作ってくれたはこぶねに、おとうさんは温かい愛情を乗せてくれました。おばあさんは、そこに喜びと悲しみをたくさん乗せました。はこぶねは人生そのもです。

 表紙の絵。窓の外を見つめるおばあさんは、どんなことを思い出しているのでしょう。何を思っているのでしょう。


あの家に暮らす四人の女 (中公文庫) あの家に暮らす四人の女   三浦 しをん

 

 4人の女性それぞれに迷いも不安もあって、それでも傍からは穏やかな暮らしに見えるところがいいですね。軽い雰囲気で描かれていますが、ストーカー、水難の相、泥棒と、ちょっとゾッとする出来事もあって、今どきを生きていくのは大変。これからもいろいろありそうですが、そのときはまたみんなでいい知恵を出し合えばいいんですよね。のんびり流れる善福寺川のように、ゆっくりと。佐知の独り言をはじめ、しをんさんの表現に感心しながら気持ちよく読みました。わたしも昔は女だけの暮らしに憧れました。今は一人暮らしかな…。

 


異人たちの館 (文春文庫) 異人たちの館   折原 一


 筆者紹介の欄に叙述トリックを駆使した作品…とありました。騙されやすい単細胞のわたしは、素直に騙されることにして、迷子にはならないようていねいに読んでみました。異常な家族愛がもたらした同情の余地のない悲劇。最後に一番まともだと思っていた主人公?が迎えた結末は残念でしたが、彼は母親のしたことに感謝しているでしょうか。それとも、もう余計なことはしないでくれと思っているのでしょうか。樹海の暗い森の中で…。

舞台 (講談社文庫) 舞台   西 加奈子

 

  例えばこうやって感想を書くとき、飾らず素直に書こうと思ってはいるのですが、読んでくれる人のことをちょっと意識してしまいます。でも、年齢と経験を重ねて(視野が狭くなって)まあこんなものか、と自分を収めるようになりました。だから、自意識過剰な主人公に対して共感も覚えましたが、疲れるほどあきれもしました。このまま突き進んでいったらどうなるのだろうとかなり心配もしました。最後、ボロボロになって、やっと素直に人に頼ることができてホッとしました。守るものが自分だけじゃなくなればきっともっと変わるはず。

一人旅は大事ですね。

 

 

暑い暑い夏でした(過去形になることを願って)。

いつの間にか朝夕は秋の気配

シュウメイギクの蕾がふくらんできて

秋を告げる日を待っています。

 


キリンの子 鳥居歌集 キリンの子 鳥居歌集   鳥居

 

 以前から読みたいと思っていて、でもきちんと向き合えるだろうかと不安で手に取れずにいた本。

 忘れてしまいたいようなできごとを、消してしまいたいような過去を、作者は歌を詠むことで目をそらさずに受けとめます。その人生の壮絶さと、詠まれた歌の悲しいまでの美しさに、胸がしめつけられ、涙がこみあげてきました。。 

  

   病室は豆腐のような静けさで 割れない窓が一つだけある

   目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ

   いつの日も空には空がありました 母と棺が燃える真昼間

   慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです

 

 母の自殺 施設で受けたひどいいじめ 友人の自殺 自身の自殺未遂。こんなふうに生きている子がいると知らなかったはずはありません。でも、どうすればいいのか答えがわからないわたしたちは、目をふせて通り過ぎてきたのでしょう。

 悲惨な過去も刻まれたけど、少しだけほんわりとした思い出も残っていた…。歌があってよかった、言葉があってよかったと、わたしの方が救われた思いでした。

 


起き姫 口入れ屋のおんな 起き姫 口入れ屋のおんな   杉本 章子

 

 家というものが重い存在だった江戸時代。嫁という立場でも娘という立場でも幸せになれなかった女性が、口入屋という仕事に出会い、自分の力で幸せをつかむ物語です。と書けば、何だかよくある話のようですが、こんな考え方もあるんだと、見方捉え方対処の仕方の多様さに感心させられます。それはいつの時代でも、男でも女でも、周りの目ではなく自分の目で見て生きていきなさいという、作者の強いメッセージのようでもあります。

 一歩前に出ると遠くが見える、一歩下がると視野が広くなる。そして、転んだらまた起き上がる。しっとりと胸に残ります。

 


ふゆねこさん (世界の絵本) ふゆねこさん (世界の絵本)  ハワード・ノッツ

 

 表紙はカラーですが、中の絵はモノクロです。そのせいか、雪景色がとても静かで、子どもたちの遊ぶ姿もこねこのたたずまいも静かです。そして、子どもたちを見ているこねこの後姿や、窓から外を見ている目がとてもかわいい…。こねこと仲良くなるためにはどうしたらいいか、子どもたちにやさしく教えてくれる教科書のようです。

 追っかけないで。大きな声を出さないで。ゆっくりゆっくり仲良くなって。こねこも仲良くなりたいはずだからと。ふゆねこさん、暖かいおうちができてよかったね。



キッチン風見鶏 (ハルキ文庫) キッチン風見鶏    森沢明夫

 

 いくつかのタイトルからきっとほのぼのとした作品なんだろうなと想像していました。初めて手に取ったこの本も、想像通り温かくそして美味しい作品でした。最後に幸せだったと言える生き方、周りと自分を大切にする生き方。これは、見えるものしか見えないガサツな人間のわたしにも頑張ればできるかもしれません。頑張って疲れたときやうまくいかなくて落ち込んだとき、こんなお店におじゃまして、やさしいランチで心と体を休められたらいいですね。

 


同じうたをうたい続けて 同じうたをうたい続けて  神沢 利子

 

 初めて読んだ作品はくまの子ウーフのシリーズ。ほのぼのとした作品から想像していたイメージとは違う横顔の表情、そして歴史でした。

 昭和の始まりに生まれてサハリンで暮らし、夫婦で肺の病にかかり、夫を送り母を送って生きてきた女性の暮らしがどれほど厳しいものだったか。それでも悲しみと喜びを静かに受けとめて語る言葉は美しく、わたしも残り少なくなってきた時間だけど、先を行くすてきなお手本に出会えたことを大切にしたいと思いました。

 

 『人間の愚かしさを見、わが身のうちに実感しながら生きてきた。その一方で高貴な心をもつ存在なのだということも経験してきた。それらは全部わたしの内にもあるはずだ』

 

 亡くなったお母さんを思って、月の夜に庭でコーヒーをのむ場面が好きです。遠い南の国で育ちましたが、木の脂を指でくちゃくちゃして遊んだ思い出が同じでうれしくなりました。

 

 

 


手のひらの音符 (新潮文庫) 手のひらの音符   藤岡 陽子

 

 辛いことや悲しいことがたくさん覆いかぶさってくるけど、きっとわかり合えていると信じられる人がいれば、それは希望となり生きる力となる。たとえ遠い子ども時代のことでも。

 登場するどの人も好きだと思えるほど、みな苦しくて、でも誰かを責めたり恨んだりすることができなくて、わたしも同じ場所にいたいと思ってしまいました。家族、幼なじみ、友だち、恋人。誰かを大切に思う気持ちは、自分の生き方も大切にしてくれます。

 


こころの旅 (ハルキ文庫) こころの旅   須賀敦子

 

 年譜によると作者は1929年生まれ。戦後欧州へ留学し、イタリア人と結婚、そして永くイタリアで暮らしました。

 「自分の足にぴったりの靴をもたなかったせいか、行きたいところ行くべきところに行っていない」とありましたが、それが具体的な場所を指すのか、タイトルのとおり心の場所を指すのか考えさせられます。

 詩人サバの章や日記は難しくて文の上を目が通り過ぎただけですが、家族や友人の話は失われてなお作者の中に生きる大切な記憶に、作者の深い愛情と寂しさを感じました。

 



 

 

 

暑中お見舞い申し上げます

 

ピントはずれの画像ですみません。

ここ数日、夏バテでぐったりしていました。

70%ほど回復して

やっとパソコンの前までたどり着くことができました。(ノ_-。)

南の育ちで、夏が大好きだったのですが

歳には抗えない…。

みなさんもどうぞお体に気をつけてお過ごしください。



満願 (新潮文庫) 満願   米澤 穂信

 

 1話目で気持ちが無表情になり、その後は次、次こそはとすっきりとした着地を期待して読み進めたのですが、心が凍りついてしまいそうな結末ばかりでした。普通に隣にいそうな人々の中に潜む闇。守るものや守る方法を間違えた人の心が一番怖い、と振り返ったり余韻に浸ったりすることなく、早く本棚に戻したくなる作品でした。

 情緒のある文章なのに書かれていることが怖い、冷たい。世の中には不思議なことがたくさんあるけど、人の心の闇は地球規模だなと思わされます。

 


化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫) 化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記   かたやま 和華

 

 妖怪もの?ファンタジー?いやいや、これは宗太郎の成長物語ですね。猫の姿をしているけど、ちゃんと宗太郎の中身を見ていてくれる周りの人たち。彼らの言葉は軽いようだけど深い。人も猫も(犬も)、武士も町人も、みなそれぞれに事情を抱えているけど、お互いを受け入れれば生きやすいってことでしょうか。宗太郎になついてきた子猫の田楽がかわいい。

 


「いる」じゃん 「いる」じゃん  くどう なおこ,松本 大洋

 

 孫はこの本をお化けの本だと思って手に取ったようです。実はわたしも…。

 1ページ目「だれかいるかー」で始まります。そして最後「『いる』じゃん」で終わります。その間にいる数えきれないたくさんのステキな仲間たち。あゝ、くどうなおこさんだと何度も読み返し、やさしい言葉が組み合わさって生み出される命の輝きにしみじみとした気持ちになります。1冊の本が1つの詩です。

  ✑風よ ずいぶん道草したみたいだね くぐったり 乗りこえたり うずまいたり お前のふところから いろんな香りが あふれてくる
 


ギケイキ: 千年の流転 (河出文庫) ギケイキ: 千年の流転   町田 康


 ギケイキ、義経記。わたしの中の義経は、1966年に放送された大河ドラマの尾上菊之助です。古~い^^;。儚げで美しい少年のイメージでしたが、町田さん、見事に打ち砕いてくれました。もう動いていないかのように静かに治まっていた古典をこんなにイキイキと楽しく蘇らせてくれるなんて、パンク侍のときも感じましたが、ずいぶんもだえ苦しんで書いたのでしょうね。人間離れした義経が、物語の最後に見せた人間らしさ、「やっと会える。やっと兄に会える。」の1行はとても美しく、尾上菊之助義経と同じでした。

 町田氏の作品を読むと、独特の言い回し、リズムが頭から離れなくなります。感想を書くときもついその言い回しになってしまいそうで、普通に書くのが大変。いや、マジで。ホント、感化されやすいわたし、という感じ^^。

 


猫を拾いに (新潮文庫) 猫を拾いに  川上 弘美

 

 自分にとって居心地のいい場所。その「自分にとって」ということに強くこだわっているわけではないけど、やっぱり自然にそちらに向いてしまう…。そういう感覚をもっている人といると、こちらまで居心地良くなってしまいそうです。ちょっと不思議なのも、ちょっと切ないのも、ちょっとほんわかします。
 


夏のねこ 夏のねこ  ハワード ノッツ

 

 大好きな猫への愛情と、人への愛の物語。一匹の猫を大好きになった少年と、その猫を大事にしている飼い主の、どちらの気持ちもよくわかって胸を打たれます。

 夏が終わって、町に帰った猫が、夏の日々や少年のことを思い出す場面も切ないけど、猫にとってはきっと温かい思い出ですね。また、夏になったら…という最後の1行にちょっとホッとしました。猫の絵の、じっと見つめる目が好きです。

海にはワニがいる 海にはワニがいる  ファビオ・ジェーダ

 

 読む前は、目をそらさず最後まで読めるだろうか、ちょっと不安でした。多分、想像を絶する過酷さだろうと、そこは想像できたので…。

 宗教や民族の争いが絶えないアフガニスタンから命がけで脱出し、5つの国境をどこもまた命がけで超え、8年をかけてイタリアにたどり着いた少年。表現は比較的穏やかで冷静ですが、実際には常に死と隣り合わせ。わたしたちが当たり前だと思っている暮らしが、地球上の大半の人々にとっては考えられないほど恵まれたものだという、その現実を思い知らされます。ただ、あまりにも問題が大きすぎて無力感も覚えますが。

 

                      

先日、Eテレで「田中一村」の特集を放送していました。

一村は東京芸術大学に入学したのですが、師事したい教授がいないと退学し

旅をする中で奄美大島にたどり着いた日本画家です。

子どもの頃数年間だけ奄美で暮らしました。

奄美の濃い緑、そこから吐き出される濃い空気。

一村を思い出すと、一村の絵が好きだった父を思い出します。

写真は剣道着を着て元気だった頃の父です。