6月の手仕事

何とか7月に間に合いました

桜井一恵さんの刺繍キット「小さな家の四季・夏」

春と並べて飾っていると、孫が春の方が好き…と^^。

 

 

 


鳩の撃退法 上 (小学館文庫) 鳩の撃退法 上   佐藤 正午


 可愛い子どもの会話、ピーターパンの絵本。ほのぼのとした出だしなのに、怖い…。そして長い。

 おもしろいのでぐんぐん読み進めたいのだけど、う~ん、ここの描写は要らないから先に行って、と思う場面もいくつかありました。いつの話、どこの話、誰の言葉、と迷路に入り込んで迷子になりそうですが、出口に何が待っているのかドキドキですぐに下巻へ。

 


鳩の撃退法 下 (小学館文庫) 鳩の撃退法 下   佐藤 正午

 

 下巻も、この描写は要らない、と頭の中で削除したくなるほど長い場面がありました。でも、どんどんおもしろくなり、そして怖くなり、迷路は出口ではなく入り口に戻って、やっと抜け出せました。一周する物語。

 ちょっと騙された感は残りますが、とにかく出られてよかった。彼らはどうなったのだろうと気になるところもありますが、そこは想像して自分に都合よく埋めるしかありませんね。こんな物語を鉛筆で手書きしていたのですから大変です。あ、作品に登場する小説家の話です。

 


生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫) 生きていてもいいかしら日記  北大路 公子


 凡人ならあまり気にかけないような身の周りのできごとを、こんなに細かく見つめて表現できるなんて、いやいやたいしたものです。つらいことも不愉快なことも、公子さんのような視点で書くと、こんなふうに楽しいことに変わるんですね。

 でも、ちょっとチクチク痛いところをついてくる?もちろん、これからもその細やかさ、マイペースぶりを失わずに生きていてください。飲み過ぎには気をつけて!
  


椿の海の記 (河出文庫) 椿の海の記   石牟礼 道子

 

 昭和初期、苦海となる前の水俣の暮らしを描いた物語です。

 この国の自然や四季はこんなに美しく、人々の暮らしはこんなに豊かで愛おしいものだったのかとしみじみとした気持ちで読みました。この後に人々がこの豊かさを失い、町が死の町と変わっていくことを思うと、その美しさが悲しくさえ見えます。

 自然がもたらす小さな恵みにも「いただきます」と声をかけ、分け合い、よく働き、ささやかなことを楽しむ暮らし。その暮らしを語る言葉がまた美しく、「書く」ということについて改めて考えさせられる作品でした。

 


すばらしい日々 (幻冬舎文庫) すばらしい日々   よしもとばなな

 

 生きていくことがつらい、と思う日があります。きっと誰にも。病気、老い、身近な人の死…。人は悩み、傷つき、心がかたくなになってしまいがちです。

 でも、そんなつらい中でも少しだけ顔を上げると、誰かのやさしさや温かさが木洩れ日のように心に入りこんできます。ささやかでも、それだけでわたしたちの暮らしは「すばらしい日々」。

 体中で生きる子犬も、最後まで病と闘った父親も、家族も友だちも、そして自分も愛おしいと思えるすばらしい日々です。
  


ちいさなちいさな王様 ちいさなちいさな王様  アクセル ハッケ

 

 読み始めてしばらくは、この王様は何者で、この作品はわたしをどこへ連れていってくれるのだろうと、固い頭で考えていました。途中で、あゝそうなんだと急に霧が晴れたような感じになって、王様の言葉が大きな意味を持って胸に沁みこんでくるようでした。えばっているけどなかなかやるじゃない王様、という感じ。

 「そうすると、おまえには、おれが欠けている、ということになるだろうか。」

本当にそう。賢くなったつもりでも、見えないものを想像する豊かさは小さくなっているんですね。絵も味があってすてきです。

 


鹿よ おれの兄弟よ (世界傑作絵本シリーズ) 鹿よ おれの兄弟よ  神沢 利子

 

 とても静かでまっすぐで、あゝこうやって生きることが始まりだったのだと思い知らされる作品でした。

『おれは鹿の肉をくう それはおれの血おれの肉となる だからおれは鹿だ 鹿よおれの兄弟よ』

厳しい自然と向かい合うとき、人はこんなに真剣に、そして謙虚になるのですね。絵もとてもきれいで、美しい森や川、空に惹き込まれていくようでした。人は大切なものを失いながら歩んできて、地球からも大切なものを奪ってしまいました。

 


スガンさんのヤギ  スガンさんのヤギ  アルフォンス ドーデ

 

 何という作品でしょう。守りたいと思って柵の中に入れてつないでおいたのに、ヤギは野生の本能に導かれて山へ逃げ出し、一晩オオカミと闘って死んでしまった…。それでよかったの? やっぱり生きている方がよかったでしょう?

 いやいや、これはヤギの話じゃなくて、人間の物語なんですよね。自由といっしょにある危険。それだって受け入れるのが生きるということ、自由に生きるということ。自由じゃなければ生きる意味がないのだと、心のどこかで導くものがあるのでしょうか。空の色がきれいで悲しい。
 

 



えほん北緯36度線  えほん北緯36度線   小林 豊

 

 北緯36度線にある街東京から西へ、1匹とふたりと1羽の大きな鳥が広大なアジア大陸を超え、地中海を渡り、大西洋へと抜けていきます。

 

どこにも美しく壮大な自然があり、人々の素朴な営みがあります。

『鳥は知っています。人間が地面に線を引き、その線を何度も引き直すこと。その線を越えて生きることの喜びを。』

人も、鳥のように大きな大地を見渡せたら、きっと同じことを思うかもしれませんね。

以前、コーヒーのCMで流れた曲と谷川俊太郎の詩を思い出しました。地球が愛おしくなります。



ヤマネコ毛布  ヤマネコ毛布   山福 朱実

 

 森のみんながやさしいのか、ヤマネコがけっこういいやつなのか、ほのぼのとしたやりとりに温かい気持ちになりました。

1ページ目の「もうきめた というかおです。」というところからもう楽しい。それだけ森の仲間は繋がっているんですね。

いっしょに遊んだ楽しい思い出、追いかけられたり食べられそうになったりしてドキドキした思い出。全部ひっくるめて森のステキな思い出です。

 版画の力強く味わいのある表現がそんな森の雰囲気にぴったりで、絵が語りかけてくれるものもたくさん。うわおん、うわわおん…。ヤマネコさん、照れてる?

 


逢魔が時に会いましょう (集英社文庫) 逢魔が時に会いましょう    荻原 浩

 

 「愛しの座敷わらし」がおもしろかったので、同じような楽しさを求めて。タイトルからして楽しそうでしょう。

いるのかもしれない、いないのかもしれない。いてほしいけど、できればお会いしたくない…。そんな不思議な存在を求めて、世間の常識からちょっとずれた男女が現地調査とやらに出かけます。

この二人が、ずれたままどこへたどり着くのだろうと思いながら読みましたが、予想通り期待通りの着地でした。

ごめんなさい。テレビの見過ぎで、どうしても二人が深夜番組で観たあの二人に見えて頭から離れませんでした。でも、この本もあの番組も好きです。



海うそ (岩波現代文庫)  海うそ   梨木 香歩

 

 植物が怖ろしいほどの熱気で山を包む南の島で、人々は自然と語り合いながら倹しく暮らしている、その営みのなんと美しいことでしょう。

 でも、生きるというのは変わり続けること。人も、動物も、地球を包み込む大自然も。変わり続けて大切なものが失われ、島の歴史もあちこちに潜んでいた何かも消えてしまいました。

 海にうかぶ蜃気楼、海うそだけが変わっていく島を見つめていたのでしょうか。みんなみんな生きた。その時の風に吹かれ、誰かを愛しみ、そして独りで…。

 作中に出てきたいくつかのカモシカ。雪の中で立ったまま凍死していくカモシカの哀しみを誰も助けることはできません。

 


まるまるの毬 (講談社文庫)  まるまるの毬   西條 奈加

 

 和菓子にこめられた人の思いの物語。

 7個の和菓子を練りながら、登場する人々の人生も喜びと悲しみが練り合わされ、こんなふうに生きていけたらなと、しみじみとした気持ちになります。読み終えて、「心根」という言葉がうかんできました。心根がいい、とか、心根がしっかりしているとか、だいじなんだなと。

 とげとげしい気持ちで作ったお菓子ではなく、心根のいい人が作ったものを食べたいものです。お菓子に限らず。


山本周五郎名品館I おたふく (文春文庫 や 69-1 山本周五郎名品館 1)  山本周五郎名品館I  おたふく    山本 周五郎

 

 沢木耕太郎が編んだ九つの短編集。女性たちの深い愛、その愛ゆえの強さ、けな気さ、そして哀しさ、切なさが抑え気味の表現で静かに描かれています。

 思われるより誰かを思い、その誰かのために生きる喜び。

 夫にさえ気づかせず周りの人々に親切にふるまいながら、自分は粗末な着物を繕い着続けていた武士の妻も、「へんな、たん。」(入んな、おとうたん)と言って酔っぱらいの父親を気づかう幼い娘も、そう生きることが自分らしく幸せなんですね。

 


火星に住むつもりかい? (光文社文庫)  火星に住むつもりかい?    伊坂 幸太郎

 

 警察ドラマでよく聞くセリフ 「どんな理由があっても、人を殺すことは許されない。」 いつも、そうだね、と頷きながら見ていましたが…。

 この本を読みながら、平和警察の警察官たちが殺されたときは「あゝよかった!」とホッとしてしまいました。伊坂氏の作品を読むとき、わたしがよく陥る危ない罠です。でも、無実の罪だとわかっているのに人をなぶり殺しにする警察官には反省や更生の余地はなく、また同じことを繰り返しそうです。悪い奴は本当に悪い。

 それでもこの星には善き人が住む余地があると信じ、伊坂氏のように「善き物語」を書き続けてほしいとおもいます。伊坂氏の作品を読んだ人が、伊坂氏は善き物語を書こうとしていると言っていました。その言葉を拝借。

 


祖父 大平正芳  祖父 大平正芳   渡邊 満子

 

 大平正芳は、わたしが20代の頃の総理大臣。孫から見た祖父の人柄や言動、政治家としての苦悩などが描かれていて、その人となりにも惹かれるものがありますが、その頃の政治をとり巻く人々の様子にもおもしろさを感じました。

 野党の議員や厳しく追及する新聞記者にも謙虚におおらかな態度で接する寛容さ。国民の今と将来のために信念を持って行動する強さ。人の痛みを感じとるやさしさ。政治にとって言葉は大切なものですが、その言葉の奥にある人となりをよく見極めることがもっと大切だと、改めて考えました。

 

            今日は6月4日。

            天気予報士の言葉をまねるなら、梅雨入り前の貴重な晴れ☀ 

            木々の緑と青空がまぶしく輝いています。

            庭の紫陽花たちはちょっと疲れ気味

 

 

 

5月の明るい光の中を

風が吹き抜けていきます

何年が過ぎたのでしょうか

父も母もこの季節に旅立っていきました

 

寂しくて悲しくて

いつも空を見上げては

どこにいるのだろうと探しました

 

でも 木々の葉がゆれて輝くとき

いい季節に旅立ったのだなと

少しだけ心が癒されます

 

生きたまえ 五月は蒼き風の色

                               深代惇郎

 

                                                          

           花がいつもより早く咲いて、いつもより早く散っていきます。

           もっとゆっくりしていけばいいのに。

           新緑が美しい季節。 

                        その季節の中にいるだけで気持ちまで洗われていくようです。

           自然は強くやさしくけな気ですね。

 

     

              4月の手仕事 孫の体育着給食着入れ  

 

             たまにランチに行く隠れ家的カフェ  

                           高齢の女性が二人で営業しています                          

                           

 

昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫) 昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話    宇江佐 真理


 人の幸せなんて本当にささやかなもの。そして、何が幸せなのかわからなくなるときもあるけど、

『焦っちゃいけないよ。精進してりゃ、きっといいことがある。』

そう言ってくれたお栄さんの章が一番好きです。自分の気持ちに正直に。

 


呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集― (ハヤカワ・ミステリ1922) 呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集―


 さまざまなスタイルとテーマ、時代が描かれた17の短編集。お気に入りの作家とも会えました。

おもしろいと思ったもの、続きが…と思ったもの、う~んと思ったものと、こちらの感想もさまざまです。

幸せな国に思えるスェーデンにも、人がいる限りこんな問題や闇があるのだなとあたりまえのことを再認識。

根性で読み終えたところがあって、やっぱり長編の方が入りこみやすいなと思いました。

イェルロフは若いときから温かく判断力に優れていたんですね。

 

スティーグ・ラーソン,ヨハン・テオリン,ヘニング・マンケル,マイ・シューヴァル,ペール・ヴァールー,オーサ・ラーソン,シッラ&ロルフ・ボリリンド,トーヴェ・アルステルダール


本所おけら長屋(五) (PHP文芸文庫) 本所おけら長屋(五)   畠山 健二

 

 みんながいい人過ぎて、話がうまく行き過ぎでしょうって?そんなことを言うのは野暮ってもの。

隣りにいる人が幸せじゃないと、自分も幸せだと感じられない人はいるんですよね。

今回も、幽霊に見込まれ、周りのみんなからはコケにされ、それでも人のためについ体が動いてしまう万松コンビが大活躍でした。やっぱりただ者じゃない。



私のなかの彼女 (新潮文庫) 私のなかの彼女   角田 光代

 
 角田さんの作品に出てくる女性には、共感できるけどそこまでさらけ出さなくても、と自分までどろっとした世界に引きづり込まれそうになります。探して、もがいて、傷ついて…。確かに祖母や恋人は重く大きな存在だけど、ちょっと離れたところにいる加瀬や矢崎のまっすぐな言葉を受け入れるためにも、心に風が入るくらいの隙間は空けておいた方がいいのにと、余計なお節介を焼いてしまいました。

 でも、書くというのは、きれいごとではすまない苦しいものなのでしょうね。主人公が旅先で見つけたものは、角田さんの旅の本で感じたものと同じでした。

 


終電の神様 (実業之日本社文庫) 終電の神様   阿川大樹


 そこにどんなにたくさんの人がいても、一人ひとりに物語があり、大勢だからといって個々の物語の濃度が薄くなるわけではありません。楽しい物語、悲しい物語、奇跡のような物語、まあありきたりかなと思える物語。

 この作品にはそんな物語が7編収められていて、どの作品も少し哀しくて温かく、そして男性がとてもすてきに描かれています。「ブレークポイント」「スポーツばか」がすきです。



ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 (文春文庫 む 5-15) ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集    村上春樹


 単行本が出たときから気になっていたタイトル。たくさんの旅行記の中からこのタイトルを選んだのは、後書きにもあるように、自分の予想を超えたものに出合える感動が「旅」だからですね。

 あまり斜に構えず、あまりこだわらず、偶然のもたらすプラスもマイナスも淡々と受け入れるところはいつもながらの村上氏。

 アイスランドの章ではミステリー「湿地」などの作品を思い出しながら、フィンランドの章では以前訪れたときの印象を思い出しながら読みました。そしてラオスの章では行ってみたいと思いながら…読みました。熊本にも2回行っていますが、震災後の復興を願う気持ちや行動に、やはり淡々となすべきことをやる人だなあと好感がもてました。

 

 庭のアジュガ

 

             小さな家と桜の花

            刺繍してみました。

            桜井一恵さんという刺繍作家さんが販売している小さなキットです。

            桜井さんご自身の作品は絵画のようで ずっと見ていると

            風がふいているように  詩がきこえてくるように

            旅をしているように 思えてきます。 

      

 

東京物語 東京物語  奥田 英朗
 

 あゝ、そんな時代だったなと甘酸っぱい懐かしさを感じながら読みました。東京への憧れ、上京してからの期待と寂しさ、いわゆるバブルと言われた時代の様子。本当に奥田さんは時代の描き方が上手です。

 浮かれているだけなように見える主人公ですが、悩んだり後悔したり、周りの人へのやさしさが感じられるのも奥田さんならではの温かさですね。

「青春が終わり、人生は始まる」その人生はけっこう重くて長い!みんな頑張れ。



呼んでみただけ 呼んでみただけ 安東みきえ


 子どもは心の中にどんな世界をもっているのでしょう。きっと大人の常識では計り知れない、不思議で楽しくてやわらかい世界ですね。そんな子供の世界に、心に、想像したり考えたりするタネをまいてくれるようなママのお話が詰まった本です。

 優しい気持ちになれる話や、ちょっと毒のある話、心の複雑さを感じる話たち。そして、ママの心配や男の子の成長が伝わってくる日常の物語たち。

 この中のいくつかを孫にも読んであげたいなと思いました。

 


かぜがおうちをみつけるまで (SWITCH LIBRARY Rainy Day Books) かぜがおうちをみつけるまで   ボブ・サム

 (SWITCH LIBRARY Rainy Day Books)
 

 やさしい言葉で書かれたはるか昔の物語。どれくらい昔かというと、人とけものと話ができて、どんなものにも心があったくらい昔。そして、短いけど、まだ地球がまだ誰のものでもなくて空も海も風も透きとおっていた頃の壮大な物語です。

 作者のボブ・サムは星野道夫の友人。彼が語る飾りのない言葉からは、人と自然を愛おしむ深い思いが伝わってきます。谷川俊太郎の序詞もわたしたちを物語に心地よく誘ってくれますが、何より下田昌克の絵がきれいで、あゝ地球はこんなに美しい星だったんだと悲しくなるほどです。
 


満月をまって 満月をまって  メアリー・リン レイ

 

 先に読んだ「かぜが~」と同じように、絵がとてもきれいで、短い話の中に大切なことがいくつも込められた作品でした。自然に囲まれて自然の恵みを受けながら織りなす暮らし。手仕事をする人々の重い言葉。子どもの成長を見守る大人たちのやさしい眼差し。そして、町の人々の浅はかな悪意…。

 風の声に耳をすませて、じっと見つめ、じっと考えて、少年は強く賢い大人になっていきました。豊かな心、豊かな暮らしとは何だろうと考えさせられます。


羊と鋼の森 (文春文庫 み) 羊と鋼の森  宮下 奈都

 

 不思議なタイトルですが、読み始めて意味が分かると、ぴったりですてきなタイトルです。読んでいる間中、わたしも美しい音と美しい言葉の森を歩いているようでした。案内してくれるのは、主人公のまっすぐな仕事への思い。生き方。

 『この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。』 『僕には何もなくても、美しいものも、音楽ももともと世界に溶けている。』

 こんなふうに成長していけるのは、きっと彼がいい草を食べて育ったからなのでしょう。
 


氷平線 (文春文庫) 氷平線  桜木 紫乃

 

 冬の初めに読み始めたのですが、鉛色の空の重さに押しつぶされそうで途中で閉じてしまいました。もう大丈夫、と春になって再び手に取りました。

 外から憧れる美しい大地とは違い、桜木紫乃が描く北海道は、息苦しくそして生きづらい北の町です。その町で、後悔や憎しみ、諦めなど錘のようなものを胸に抱えて生きていく男たち。女たち。悲しみもやりきれなさも静かに受け入れて生き抜いていく彼らの強さに、ちゃんと読み終えてよかったと思いました。表題作の最後はかなりショックでしたが。
  


声   アーナルデュル・インドリダソン

 

 犯罪捜査官エーレンデュル3作目。2作目の感想にも書いたように、このシリーズはミステリーというよりも、アイスランドの風土や歴史が生み出した悲しい家族の物語です。

 その美しい歌声ゆえに子どもの時代を奪われた男性の悍ましい事件、若者たちをむしばむドラッグや性の売買。何より捜査する側のエーレンデュルが、自身の生い立ちや結婚で家族の苦しみや悲しみを十分に味わっていることで、物語がいっそう重く深くなっています。

 『エーレンデュル、清潔なベッドでゆっくり眠って!メリークリスマス!』と、わたしから。

 


長いお別れ 長いお別れ 中島 京子 

 

 認知症の男性と家族の関わりを描いた重いテーマの作品ですが、最後まで夫によりそう妻と両親を支える娘たちの気持ちが温かく、小さな光を感じさせてくれる物語でした。

 責めたい気持ちがあっても一線を越えず、どこかユーモラスで、できることを逃げずにやろうとするところがいいですね。難病の家族を介護している友人が書いていました。「愛だけでは乗り越えられないけど、最後は愛が残る」と。

 わたしも夫も他人ごとではない年齢。いざというときに愛情や温かい気持ちをもっていられるのか自信ありません。幸せな最期について考えさせられます。

最後の詩集 最後の詩集 長田 弘

 

 初めて長田氏の詩を読んだのは2年前。何かつかまるものがほしい、支えてくれるものがほしいと、ただ立ちすくんでいるときでした。深い森の奥から、はるかな空の遠くから、まっすぐ静かに届けられる言葉にどれだけ救われたことか。

 最後、というタイトルが重くてなかなか読めずにいたのですが、ちゃんとお礼を言わなくてはとゆっくり読みました。もう死を意識していたのでしょうか。詩と向き合い、詩と歩いてきた道のりをかみしめるかのような言葉たちが綴られていました。その言葉を今度はつかまるためではなく、隣をいっしょに歩くように胸に刻みます。
 


ともだち <復刊傑作幼児絵本シリーズ 2> ともだち  まつたに みよ

 

 対象年齢2~4才。表紙から全ページ、絵にインパクトがあって惹きつけられます。ともだちについて、きっと子どもはいろいろなこと感じ、考えるのでしょうね。

 ともだちの形はいろいろ。いつかねこにもそばにいてくれるともだちができるといいですね。でもでも、つい余計なことを考えてしまいます。最後にねこはどうなったのかしら…。

 


おねえちゃんにあった夜 (児童書) おねえちゃんにあった夜  シェフ アールツ

 

 きっとおねえちゃんは弟とこんなふうに遊んだりおしゃべりしたりしたかったのでしょうね。大丈夫。あなたがわたしを忘れずにいてくれれば、わたしはあなたの心の中でずっと遊べるから。そんな声が聞こえてきそうです。

 悲しくてたまらないから大人は泣いてばかりだけど、子どもは、死んだ人にも存在する力をくれるのかもしれません。悲しみが消えるわけではないけど、弟の話を聞いて、お母さんもそっとおねえちゃんを抱きしめたはず。温かい気持ちで。

幻夏 (角川文庫) 幻 夏  太田 愛

 

 冤罪のニュースを見る度に、この人の失われた時間、人生を誰が償ってくれるのだろうかとやりきれない気持ちになります。家族の不幸な時間も。

 組織の体面を重視し、人の痛みや苦しみを想像する力のない人間が裁く側に立つということがどれほど怖ろしいことか。そんな怖ろしく切ない物語の中に、ボロボロになりながらも悪意に立ち向かっていく3人がいてくれてよかった! ハードな展開の中に織り交ぜられた少年たちの楽しい時間、そして最後の1行が胸にしみます。