名無しのリスの話(32)
翌朝、昨日よりも、暖かい春のお日様のぬくもりの中で、
パパは目を覚ましました。
パパは昨日怪我をしたメープルの様子が気になりました。
ところが横に寝ていたはずのメープルの姿が見えません。
パパは慌てて、辺りを捜し回りました。
しばらく、辺りをぐるぐる探していると、
「お早うございます。
お目覚めになられたんですね。
今、沢に水を汲みに行ってきました。
冷たい雪解け水です。
これを飲むと頭が一発ですっきりしますよ。」
と、メープルの声がしました。
パパは後ろを振り返りました。
メープルは、大きな笹の葉っぱを丸めて水筒にして、
そこにいっぱい水を汲んで持って帰ってきたのです。
「おぉ!
メープルさん、すっかり元気になったんですね。
では、遠慮なくお水を頂きます。」
パパはそう言うと、メープルの手から、水筒を受け取って、
中の水を一気に飲み干しました。
「うまい!
この谷の水は格別ですね。
何か、元気がみなぎって来たみたいになりました。」
パパは喜びました。
「昨日はご心配をかけて、済みませんでした。
もう、すっかり元気になりました。
さぁ、早く、キャンディの元に急ぎましょう!」
メープルはそう言うと、森の方に向かって歩き始めました。
(つづく)
名無しのリスの話(31)
飛び去って行く鷲の姿を見届けて、
「良かった…。
メープルさん、何とか助かったみたいですね。
危ない所を助けて頂いて、ありがとうございました。」
と言って、パパはほっと胸を撫で下ろしました。
しかし、メープルの方から返事が聞こえません。
パパはメープルの方に目をやりました。
日が沈んで、薄暗くなりつつあったので、今まで気付きませんでしたが、
メープルの背中は鷲の爪で深くえぐられて、ひどい怪我です。
辺りにはたくさんの血がポタポタと落ちて乾いていました。
「大変だ!!
ひどく血が出ている。
メープルさん、大丈夫ですか?」
パパが心配そうに声をかけました。
メープルはゆっくりと頭を上げて言いました。
「大丈夫です。
このくらいの傷は大した事がありません。
パパ、お願いがあります。
この辺りに、ヨモギが生えていないか、探してもらえないでしょうか?
ヨモギを潰して、傷口に擦り込めば、きっとすぐに良くなるはずです。」
メープルは痛みの余り、顔を歪めました。
「分かった。
ちょっと待っていて下さい。」
パパは急いで、メープルの傍を離れました。
幸い、ヨモギはすぐ近くの岩にたくさん生えていました。
パパはメープルの元に戻ると、口の中で噛み砕いて、それをメープルの背中に擦り込みました。
「処置は終わったよ。
どうだい?」
パパは言いました。
メープルは少し作り笑いを浮かべてから、言いました。
「ありがとうございます。
これで大丈夫です。
日も暮れてしまった事ですし、傷の回復の為に、しばらく休ませて下さい。」
そして、メープルは力尽きた様子で、深い眠りに落ちました。
(つづく)
名無しのリスの話(30)
二匹は、急いで元来た道を戻りました。
出かけてから、もう三日も経っています。
順調に帰れたとしても、あと丸二日間はかかってしまいます。
キャンディの病状が気になります。
こうしている間に、病魔は確実にキャンディの弱った体を蝕んでいる事でしょう…。
太陽は西の高い山の方に隠れて、辺りがだんだん暗くなってきました。
その時、パパの頭のすぐ上から、何かが、
『バサバサバサ…』
という、激しく風を切る音と共に近づいて来ました。
「危ない!!」
メープルはそう叫んで、パパの体に被いかぶさりました。
襲ってきたのは、大きな羽を持った鷲でした。
鷲の鋭い爪はメープルの体を少しかすめて、寸での所で、捕まる事無く逃れられました。
鷲は空の上を一回りしたかと思うと、また、メープルたちに狙いを定めました。
「パパ!
あの木の陰に早く!!」
メープルは叫びました。
二匹は命からがら、大きな木の陰に素早く身を隠しました。
こうしてまた、鷲の攻撃をぎりぎり避ける事が出来ました。
鷲は何度も、木の周りを獲物を逃がして悔しそうに鳴きながら、
飛び回っていましたが、二匹が姿を一向に現わさないのに諦めて、
空の彼方に、飛んで行ってしまいました。
(つづく)
