名無しのリスの話(26)
ゴツゴツした大きな岩を登りきって、とうとう頂上に辿りつきました。
昨日降った、新雪が薄く雪化粧で、だだっ広い草原の一面を覆っていました。
「この中から、千年桔梗を捜し出すのは無理なんじゃぁないでしょうか?」
パパは言いました。
「そうですね。
でも、ここまで来たのですから、根気よく捜し出すしかないでしょう。
陽当たりの良く、雪が溶け始めた場所から探していきましょう。」
メープルは緑色の草が、顔を出している所を目指して、走り出しました。
パパもすぐに、メープルの後を追い掛けました。
二匹は少しづつ、雪を掻き分けながら、わずかな地表が見える場所まで進みました。
「千年桔梗の葉っぱは、形は普通の桔梗と同じです。
でも、もっと濃い緑色をしています。」
メープルはパパに、千年桔梗の特徴を教えてから、二手に別れて、
雪を掻き分けながら探しました。
でも、いくら探しても見つかりません。
春の暖かな陽射しが、少しづつ草原の雪を溶かしていきます。
雪化粧の白い部分が、緑に変わった所に、二匹は移りながら、必死に探し続けました。
お陽さまが空のてっぺんに差し掛かった頃には、雪はほとんど溶けて、
広い草原が二匹の周りに顔を出しました。
(つづく)
名無しのリスの話(25)
「甘やかしてしまったから、少しわがままに育ったが、
元気に今まで私たち夫婦に数えきれない安らぎと笑顔をキャンディは与えてくれた。
メープルさん。
あなたには感謝しています。
私たちは、もう娘が助かる手立てがないと、勝手に諦めてしまっていました。
あなたのおかげで、娘の為に何かしてやる事が出来ます。
本当にありがとう。」
パパは一筋涙を流しながら、メープルの手を握り締めました。
「千年桔梗はきっと見つかると思います。
希望を捨てずに頑張りましょう。」
メープルは言いました。
「あなたと出会ってから、あなたと一緒に過ごした時の事ばかり話していたんですよ。
それに、私たちも信じられないくらい、あのわがままでお転婆な娘が、
思いやりのある、優しい娘に変わりました。
それも、きっとあなたの影響でしょう。」
パパは笑顔で、もう一度メープルの手を強く握り締めました。
翌朝、昨日までの荒れた天気が、まるで嘘の様に、空は晴れ渡り、風も息を潜めていました。
「なんてすがすがしい朝なんだろう!!
この場所で、こんなにいい天気は滅多にない。
今のうちです。
さぁ、先を急ぎましょう。」
メープルはそう言って、先頭を歩き始めました。
岩の頂上まで、あと少しです。
(つづく)
名無しのリスの話(24)
その夜、二匹は狭い横穴の中で、夜を過ごしました。
それまで、二匹の間には、これといった会話らしいものは一つもありませんでしたが、
「私は昔から、イースト・チェリー・ブロッサムの森に生まれ住んでいた。」
寝入る前のひととき、メープルにパパが自分が結婚した時の事や、
キャンディの事をゆっくりと語り始めました。
「いくつかの春が巡ってきた時に、ノース・オーク・ウッズの森から、一つの家族が森に移り住んで来た。
愚かな人間たちが、美しい樫の森を破壊し尽くして、生活が脅かされてしまった為だ。
その家族の中に居た若い娘がママだった。
ママはとても綺麗だ。
森には私くらいの若いリスがたくさん居たから、みんながママの事を狙って、
大変な奪い合いになったんだ。
でも、ある日、急な崖から彼女が滑り落ちて、大怪我をした。
その時、たまたま傍を通りかかったのが私だ。
私は彼女の体を背負って、半日くらい離れた場所にある、病院まで連れて行ったんだ。
それをきっかけに二匹は愛し合う様になったんだ。
そして、生まれたのがキャンディだ。
二匹の愛の結晶だからね。
その夜は嬉しくて、一睡も出来なかったよ。」
パパの表情はその時の気持ちを思い出して、とても穏やかなものになっていました。
(つづく)