名無しのリスの話(20)
「千年に一度、花を咲かせる、千年桔梗という花があります。
花は鮮やかな黄色で、その名前の通り、千年にたった一度だけ花を咲かせます。
葉や茎に薬の成分は含まれていません。
でも、花が終わった後の種が、様々な病気に効く薬になるのです。
その千年桔梗の種を煎じて飲ませれば、
ひょっとするとキャンディの病気が治せるかも知れません。」
メープルの話を聞いた、キャンディの両親は目を輝かせて、
二匹とも一斉に驚きの声を上げました。
「なんですって!!」
パパは興奮した様子で、メープルに尋ねました。
「メープルさん。
その千年桔梗の種は、すぐに手に入れる事が出来るのでしょうか?」
メープルは、
「残念ながら、僕の手元にはありません。
でも、千年桔梗の生えている場所なら知っています。
千年桔梗は僕の住む森の外れにある、『絶望の谷』という、
険しい崖の上に広がる草原に生えています。
ごつごつした岩を登りながら、空から突然襲ってくる、
鷹や鷲に狙われる事もある、大変危険な場所ですが、
僕はそこでしか千年桔梗を見かけた事がありません。
仮に無事にその草原に辿り着いたとしても、かなり珍しい薬草ですから、
必ず種が手に入るとは限りません。
でも、キャンディがこのまま弱って死んでしまうのを指をくわえて見ているぐらいなら、
多少危険を冒してでも、種を探してみた方がいいと思うのです。
もちろん、その種は僕が探しに行きましょう。
キャンディの病気がもし、それで治せるのなら、
僕はこの命を捧げても構いません。」
と、真剣な表情でパパの問いかけに答えました。
(つづく)
名無しのリスの話(19)
「キャンディ、ごめんよ。
あの時、僕は君に心配してくれる家族の居る事が羨ましくなって、
その場に居るのが辛くなったんだ。
でも僕の方も、淋しくなった時にはいつも君の事を思い出していたんだよ。」
そう言ったメープルの目にも、うっすらと涙が浮かんでいます。
「そう、メープルも辛い毎日を過ごしていたのね。
でも本当に、あなたにもう一度会えて良かった…。
メープルお願い!
しばらく、このまま私の手を握り締めていて。」
キャンディはそう呟くと、気持ちが安らかになったせいなのか、
目を閉じて小さな寝息をつきはじめました。
メープルはキャンディの望み通り、
しばらくキャンディの手をしっかりと握り締めていましたが、
キャンディが深い眠りについた事を見届けると、そっと手を離して、
キャンディの両親の方を振り返ってから言いました。
「キャンディのパパとママにお話があります。
キャンディの病状は、確かにお医者さまが見離したものかも知れません。
でも、キャンディはまだ、すぐ側に生きています。
諦めるのは早いと思います。
他にきっと、キャンディを救う方法があるはずです。」
メープルは真剣な表情で両親に訴えました。
「気休めを言わないでくれ!
どんな有名な医者でも、みんな匙を投げたんだ。
他に打つ手なんかあるものか!!」
パパはメープルに向かって激しく怒鳴りました。
「落ち着いてよく聞いて下さい。」
メープルはパパの顔を真っすぐに見つめながら、
冷静な口調で話し始めました。
(つづく)
名無しのリスの話(18)
キャンディは巣穴の中央にこしらえてある、ワラのベッドの上に横たわっていました。
前に会った時には、少しふっくらとして、健康そのものの体形だったのに、
長い時間病魔と戦っていたせいか、頬はすっかりこけて、体全体が痩せ細っていました。
その表情は今も尚、高熱の為に真っ赤です。
額からは大筋の汗が流れ出しています。
メープルは目を背けたくなる程に、すっかり変わり果てたキャンディの姿を見て愕然としました。
それまで、眠っていたキャンディが、周囲の様子が変わった事に気がついて、目を開きました。
「この匂い…。
あの方の背中にしがみついていた時と同じ匂いがするわ!
もしかして、メープルが側に居るの?
でも、どうして?」
キャンディは少し興奮気味の口調で言いました。
「あぁ、キャンディ!
僕だよ。
メープルだよ!
君のママに連れられてここに来たんだ。」
メープルはそう言うと、キャンディの横に座って、ギュッと固く手を握り締めました。
「そうだったのね。
ママ、そしてメープル、ありがとう。
あの時は、私を助けてくれてありがとう。
私はあれから、あなたの事を一秒だって忘れた事はなかったわ。
とてもとても、あなたに会いたかったの。」
キャンディの瞳から、大粒の涙が流れました。
(つづく)