ヤドリギ金子のブログ
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まずは詩作品で確認を

 

 

カール ハインツ ベルナルト

                                            蝦名泰洋

 毎日仕事が終わると

 桔梗野へ行く

 そこには男の子が一人いて

 親しくほほえんでくれる はじめは

 はじめだけは 色の白いやわらかい頬を 

 かわいらしく見せているけれど

 ふいに自分の頭を

 ごつごつたたきはじめるのだ 唐突に

 とても小さいこども

 やっとかたことの言葉を使うだけのこどもが

 自分の頭をこぶしでたたくのだった

 いっしょうけんめいくりかえしぶって

 とめてもやめない

 早くとめなければと思うと

 『いたくないよ』

 と 元気に言う

 おとなをかばうように言う

 おとなをゆるしてあげるように言う

 いたくないよと言いながら何度も 何度も

 何度もたたく

 こぶしがこなごなになるまでやめるようすがない

 自分の頭をこなごなにする男の子と

 こなごなのぼくだけが

 日暮れの野原に向かい合って

 

  もういい

 

 もういいよ ぼうや

 いたくてもいたくなくてもたたくのをやめていいよ

 髪がさらさらで

 肩がうすくて

 くちびるが紅い

 ぼうやはなにも悪くない

 木蓮の花びらよりもやわらかく彼を抱き

 この腕のなかで消えてしまうのをたしかめると

 ようやくぼくは家路をたどることができる

 いたくない頭をのせて

 途方もない家路を

 

再確認????

石川善助『亜寒帯』と戯れる13  

   オコツク海通過

 

肌を舐め、むづかゆく匍匐する、

船室に夥しく汚点する、

勘察加(カムサツカ)の夏の腐蝕から移り

旋回し、受精し、孵卵する蝿。

 

  (水温を求めて流浪する魚群、

群がり啼いて魚を追ふ水禽の飛翔)

 

脈翅はオコツクの風に透(す)き

蝿は人の感官を触れ、

冷えゆく体温に懶く騒ぐ、

生物ら古い悲しい記憶を呼ぶ、

氷河、氷河・・・・・

 

「オコツク」とはオホーツクのこと。一連目と三連目の中心は「蝿」である。広大なオホーツク海を航行する(漁をしてゆく)捕鯨船、あるいは漁船上にカムチャッカ半島から寄生?している蝿の風景。「船室に夥しく汚点」し、船上を「旋回し」船上で「受精し」、船上で「孵卵する蝿」。その蝿の「脈翅」は「オコツクの風に」吹かれて「透(す)き」、時には「人の感官」つまり身体に「触れ」、冷たい海風に打たれて「冷えゆく」人間の身体に取りついて、身体が冷えているからか「懶く」なって「騒」いでいるように見える。それはまるで蝿を含む「生物」が「悲しい記憶」を「呼」んでいるようでもある。その記憶とは「氷河」の記憶に他ならない。この詩篇の構成も「海の娼婦」同様に、二連目の二行を間に挟んで、シンメトリーをなしている。すなわち、一連目と三連目は蝿を中心とする船上の、甲板の風景であり、真ん中の、つまりは二連目の二行は海上の風景であり、魚や水禽(かもめ)の風景である。

 躍動する風景としての二連目を真ん中にして、二連目とは対照的にも見える、寒々としてどちらかというと静的で暗い風景の一連・三連が置かれている。しかも、まるで、海の風景を後景化することで、船上の暗く冷たい風景を前景化するように、二連目のフォントが小さく、しかも括弧書きで記されている。

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