濃いシーンを挿入しようか考え中です。

冒頭の部分ですね。


前半の数話は少しダルダルな内容なので、冒頭部分を引き締めたいとも思う今日この頃。


上手くイジれればいいなと思ってます。


検討中。




あっ、今日、外人と話した。


英語っす。


僕が発した単語は”here"と"over there"の2個。


特にover thereは格好良く言えたと思います。


気だるく。(笑)


外人相手にテンションを上げずに接することができました。


でも、無愛想でごめんなさい。


反省。




『あのオヤジ図に乗りやがって。』


淳はトボトボ家へと帰って行った。あの1件でのストレスと大会で心身共に疲れ果てていた。


『マジかよ・・・』


淳の家の前に光恵の車が止まっていた。恐る恐る近づくと中に彼女はいなかった。車はまだ温かい。到着してさほど時間は経っていないようだった。脇を通り過ぎると玄関に彼女はいた。母親と談笑していた。

淳は足を止めて、2人の会話が終わるのを待った。


『ちくしょう。何話してんだよ、あのバカ女。』


一向に会話が途切れない。予定では風呂に入り、リラックスしているはずの時間だった。光恵の狙いは何か?それを考えるしかなかった。近所の人がその姿を不思議な目で見ながら淳の脇を歩いて行く。

あたかも淳がじきに帰ってくることが分かっていて長話をしているようにも思えた。それならば待つのも面倒だと思い、中へ入ることにした。


『ただいま。』


『おかえりなさい。お友達来てるわよ。』


『淳君、おじゃましてます。』


『どうも。何かありました?』


『うん、近くを通りかかったから。いるかなぁと思ってね。』


『どうぞ、どうぞお入り下さい。淳、ほら荷物持ってあげなさい。』


『いえ、すみません。大した用じゃないので。』


母親は家の中へ入り、淳が対応することとなった。淳はバッグを家の中に放り投げ、アイスを持ち出すと彼女の反応を伺った。


『これ、良かったら食べて下さい。暑いすねマジで。』


『ありがとう、いただくわ。あっ大会見たわよ。』


光恵はアイスを頬張り始め、美味しいと独り言のように呟いた。


『聞きました、陽介から。俺に何か話しでもあるんじゃないですか?』


『えっ?』


『キャンディーもSCREAMも、もうあったもんじゃない。もうよくないですか?』


『どうしたの?急に。』


淳はまだ3分の1は残っている自分のアイスを急に口へ押し込むと、ズボンのポケットに入れていたナイフを持ち、肘を引いた。


『迷惑なんですよ。』


光恵に刺そうと踏み込もうとした瞬間、目の前の道をマリと杏が通った。

彼女らとと目が合った淳は苦し紛れに取り繕った。光恵との会話をストップしたまま彼女らに手を振る。杏は機嫌の悪そうな顔で淳の振る舞いにこたえた。


『杏ちゃん、女の子といたね。』


『ねぇ。信じらんない。』


2人は淳の家の前を通り過ぎて行った。


『もう帰って下さい。』


『わかったわ。』


淳は家に入り、彼女の車が動き出すのを見届けた。杏にメールを入れ、風呂へ入った。湯船に寝そべり、目を閉じる。

風呂から上がり、バラエティーをひとつ見てベッドに入った。



朝9時。2日目の大会がスタートする。


今日は個人戦が盛りだくさんで、メンバーがバラバラに過ごす時間が昨日よりも多くなる。

各自が独自に準備をしていた。


午前中に淳も陽介も2回泳ぐ。午後には女子50Mの決勝があり杏とマリのレースが控えていた。


陽介曰く、今日も光恵は観戦しているようだった。気にせずに2人とも200M競技の予選を終えた。調子はすこぶる良く、淳は200M背泳ぎを5位、陽介は200M平泳ぎを8位のタイムで通過した。2人とも念願の決勝レース出場に興奮した。


陽介は嬉しさのあまり、すぐにナンパを開始しはじめている。


サブプールを上がった淳はトイレへと向かった。


トイレで横の男に話しかけられた。


『よぉイケメン。』


『あれ?』


『なかなか順調じゃない。レース見たよ。』


『マリの観戦ですか? マメな男演じてますね、相変わらず。本当はチラっとしか見てないでしょうに?』


『いや、意外と見てるぜ。あぁ、そういえば昨日マリから聞いたよ。光恵だろ?お前の家に来てた女って。』


『困ったもんですよ。』


『どうだか?まぁ頑張れよプレイボーイ。』


先にトオルが去って行った。淳がトイレから出ると前方をマリとトオルが手を繋いで歩いていた。

光恵が見ているかもしれないのに堂々としたものだった。


淳はスタンドを見渡し、光恵の場所をチェックしていた。

トオルに会ったことで急に気になってきたからだ。

その時会場の外では図太い排気音がしていた。淳にはそれが薄っすら聞こえた気がした。

上機嫌になって鼻歌を歌ったほどだ。仕舞いに懐かしい歌を口ずさんだ。



『水泳やってるのはココかい?』


『はい、そうですが。』


『暑ちぃな。しかしキモちいぜ、ちくしょう。暑キモちい、なぁ?』


『は、はい。』


『やっと到着だバカヤロウ。マジで時間かかったぜ。随分遠回りしたな、なぁ?淳。ウマイこと言ってるぜ俺。』


『学校の関係者の方でしょうか?団体名とお名前をご記入いただけますか?』


『TMC、野見山だ。暑い中ご苦労さんです。』

2人は例の屋上前まで歩いた。2人でご飯を食べるのは久しぶりだ。


『ここ来るとタバコ吸いたくなるんだよな。』


『あの屋上はプカプカ楽勝で吸えたからな。もう、この辺から火をつけて屋上に上ってたよな。』


『淳さん、吸ってないでしょうね?』


『吸うわけないだろ。』


『怪しいな、その否定の仕方。いやいや吸ってもいいと思うんですけどね』


『あぁ、最終日終わったら吸うよ、多分な。』


『その時はお供します。』


『箱ごと火つけてやるよ。20本束ねて吸えや。』



2人は店に入った。店に客は入っていなくガラガラであった。カウンターの右隅に陽介が座り、その左に淳が座った。オヤジさんは冷たい烏龍茶を2つ出した。


『いらっしゃい。』


『若鶏のから揚げ定食かエビフライ定食・・・。』


『どっちだよ。俺は野菜炒め定食お願いします。陽介、お前はウナギいっとけよ。』


『ウナギ?それでは、うな丼お願いします。』


『あいよ。野菜炒めとうな丼。』



『淳、俺金無いって言ってんだろ。うな丼食ったら、明日会場まで行けるかわからん。』


『得意のカツアゲでもしろや。うそうそ。お前はスタミナをつけなきゃな。今日は珍しくおごってやろう。』


『マジかよ、淳さん。』


『今日だけな。』


2人はがっついて食べた。腹が猛烈に減っていた。



『アンタラ部活でもやってるのかい?』


『はい。水泳やってます。全国大会っすよ。』


『あぁ、そこの中学の。見たよ横断幕。水泳部 全国大会出場って書いてあったね。今何年生なの?』


『3年です。最後の大会っすね。』


『そうかい・・・。』



2人は既に定食を半分以上食べていた。


『お兄ちゃん、野見山君って知ってるかい。』


オヤジさんは淳に向かって言った。


『はい、知ってますが。』


『確か同級生だったよな。彼、以前ウチに食べに来たよ。』


『そうなんですか。野見山のことはよくご存知なんですか?』


『いや、詳しくは知らんよ。アンタは仲良いのかい?』


『まぁ。普通ですよ。』


『野見山君って捕まったじゃない。当時その話題で彼は一匹狼だったとよく聞かされたからさ。君のバッグは・・・違うか?』


『えっ・・そうです。』


『そうかい・・・。頑張りなさい。』


オヤジさんは洗い物を始めた。陽介は2人の会話がよく理解できなかった。


『どういう意味だ? そのバッグがどうしたっていうんだ?』


『うーん・・・。』


『野見山の物なのか?』


陽介はトオルのプールサイドでの推測を思い出していた。


『みたいだな。ノリで返事したからよくわからないが。』


『・・・』


『気にするなよ。食べようぜ。』


2人は残りをたいらげた。


『ごちそうさま。』


『あいよ。まとめてでいいのかな?1580円。』


淳は2千円を出した。


『君がミッドナイトキャンディーの淳君か。』


『えっ?』


『はい、お釣り420円のお返し。どうもありがとう。さっき野見山君の彼女が久しぶりに来てね、少し話したんだ。君の席に座ってたんだがね。』


『光恵さんだ。』


陽介が察した。


『彼とは仲良かったのかい?』


『ですから、普通にいいですよ。』


『いや、彼女がね、まー何というか・・・』


『直接話してみますから。ごちそうさまです。行くぞ陽介。』


『おっと、お兄ちゃん達、荷物忘れてるよ。』


淳はバッグを掴み取ると引き戸を開けて、外へ出た。大通りの奥の車線に駐車していた赤い車が発進した。

暗くてはっきり見えなかったが淳の目には光恵が運転しているように見えた。

陽介は気づいてないようだった。


『おい、やっぱ電車の中に光恵さんいたのかもな。』


『気持ち悪い女だ。』


『お前に用があるんじゃないか?』


『何故俺に直接話さない?』


『それは俺に言われても・・・。』


『いいよ。俺の問題だ。そうだ、お前に言っておこう。俺は光恵に恨まれているかもしれん。野見山の件でな。勿論しっかり話すよ、じきに。大会終わったらな。つまらんことだよ、濡れ衣だ。』


『野見山を切ったっと思われているんだろ?』


『そうかもな。下らん。下らんよ、ほんとに。そうだろ?』


『まぁ。』


『いいか、馬鹿には付き合うな。どう見たって、あいつはマトモな女じゃないだろ。クレイジーだ。気をつけろよ。いらん事は話すな。面倒なことになるだけだ。約束してくれ。俺とお前の仲だろ。』


『わかったよ、わかった。とりあえず、俺は話さない。それでいいな。お前がどう思うか分からんが、いま俺はあまり事件のことは考えたくないんだ。』


『そうだろ。分かるよ、俺も。相手にするな。帰ろう。気をつけて帰れよ。また明日な。』


『おう。明日な!頑張ろうぜ。』



会場はメドレーリレーの話で盛り上がっていた。

女子は4人揃って自陣へ引き返した。彼女らに握手を求める者もいたほどだ。

決勝レースでの優勝は間違いないと思われていた。


一方、男子は各自バラバラに帰ってきた。いたるところで話されている決勝レースの優勝候補の中に自分達の中学の名前は無かった。自由形で有名な貴司やテツがいるチームとして注目度が高かったチームでもあり、あのチームは実際たいした事無いなという感想を嫌というほど聞いて帰ってきた。


全体で集まり、荷物を片付けてミーティングを開始した。初日はレースが少なかったということもあるが、予選敗退という選手が出なかったことを貴司が褒めた。と、同時に明日から本格的にレースが始まると予選でつまずく者も出てくるという話もしていた。選手には1つレースを終えるごとに弱気になるなと話し、応援者には士気を下げるような振る舞いはするなと指示してミーティングを終えた。


混雑する会場で、次々とライバル校の集団が隣を通って行った。会場を出て解散するためだ。貴司の知り合いで、全国大会の常連と思われる人物が帰りがけに近寄ってきた。


『お前のところも、あと2人ぐらいまともな選手がいればなぁ。3位はいけるんだろうけど。まだ帰らねぇの?』


メドレーリレーの話しをブリ返してきた。


『ミーティングしてただけだ。悪いが決勝は波乱が起こるぜ。』


『おっ、ヤスじゃん。あいつ皆勤賞だな。』


『ヤス?ああ。いつも来てくれてるよ。悪いか?』


『つっかかんなよ、タイムが悪かったからって。』


『お前らがビビル気持ちも分かるぜ。俺らの最悪のレースにあれだけの差しかつけられなかったんだからな。』


『お前も分かってるだろうよ、俺らが2軍のメンバー投入してたことぐらい。バックとブレストは2軍だったのに、勝負になってなかったぞ。』


『そうか。俺はてっきり第4泳者が2軍かと思ったがな。お前ら、俺が出る前までに10メートル差以上つけないとな。お前がラストなら気が楽だぜ。』


『言ってろよ。じゃあな。』


もちろん淳や陽介にも聞こえていた。


『さっきも言ったが、いちいち気にするなよ。』


淳は無言で鏡を見ながら髪の毛を整えていた。陽介は頷いた。その様子を心配そうに杏や由香が眺めていた。


『駅が混まない内に帰ろうぜ。地元の駅で解散だ。』


ヤスが前もって買っておいた切符を全員に渡した。


皆、冷房の効いた電車に乗るとウトウトし始めた。達成感のある女子陣はかたまって、お互いに寄りかかりながら爆睡していた。起きていたのは淳と陽介だけであった。貴司とテツを挟むようにして座っている2人は、お互いそのことは知らない。淳はイヤホンをして音楽を聞きながらメールをしているようであった。陽介も携帯をイジリながら明日の対策を練っていた。


『もしもし。どうも。』


『陽介くん、久しぶり。今日見てたんだ、リレー。決勝行けて良かったねぇ、嬉しかったよ。』


『えっ、来ていたんですか?』


『うん。初めて泳いでるとこ見ちゃった。格好良かったよ。』


『来てると言って下されば、もっと頑張れたのに。何処で見てたんです?』


『スタート台の裏のスタンドの一番上の方。第1コース寄りだったんだけど、結構混んでるのね。逆側からも見たかったわ。陽介君たちの邪魔になっちゃいけないと思って、そっちには行かなかったんだけど。』


『是非来てくださいよ。邪魔だなんて。』


『お友達もたくさん見に来てくれてるみたいねぇ。喧嘩なんてしちゃ駄目よ。』


『さすがにしませんよ。』


『ねぇ、ちょっと聞いていい? トオル君とかも来るのかしら?』


『さぁ。来ないんじゃないですか? 何でです?』


『そうよね。あなた達に会いにわざわざ来ないわよね。一応聞いただけ。だって会場で会ったら気まずいから。』


『あぁ、そうっすね。』


『淳君は元気にしてる?』


陽介は淳の方をチラリと見た。淳は隣の右側の車両を眺めていた。


『元気っすよ。』


『そう、良かった。頑張ってね。またね。』


『はい。』


陽介が電話を切り終えると、淳が近づいてきた。


『今、光恵じゃなかったか?』


『そうだよ。』


『隣の車両にいた気がしたんだが。一瞬見えた気がした。』


『ほんとかよ。あっち?』


陽介が右を指さした。


『逆だ。左の遠い方。』


『お前逆向いてたの知ってるんだぞ。』


『左に奴が見えた気がして恐ろしくなったからだ。悟られたくなかった。おい、ちょっと行こうぜ。』


『まじかよ。』


陽介と淳は車両を移り、光恵がいたかどうか探りにいった。


『さりげなくコールバックしろ。』


『そこまでしなくても。』


『早く。』


陽介は光恵に掛けて、いつもどうり手の中でバイブルを待った。相手が電話に出ると自動でバイブルが機能する。隣の車両は満席で、立ってる乗客が10名ほどいた。車内に着信音は聞こえない。

歩きながら、光恵がいないかチェックを開始した。


『電話まだか?』


『まだ出ない。』


『耳にあててみろ。』


『一応プルルルルって音はしている。』


『俺の目が確かなら、まだ電車の中だ。ずっと鳴らしておけ。周りが不信がるぐらいにな。次の駅につくまでに探し出すぞ。』


『了解。』


スピードを上げてローリングを開始した。陽介は淳の頭がおかしくなったのでは?と疑わないわけでもなかったが、一応探すフリはしていた。


車両を5つ左へ移ると最後尾に到着してしまった。


『おかしい。電話は?』


『留守電になってる。』


『何? 故意だろ。怪しい。』


電車が次の駅に到着しかけた。


『もう1回コールして。』


『OK』


電話は再び鳴った。


『まだだ、戻るぞ。』


2人は元の車両に引き返しながら、再びローラーを開始した。急ぎ足で2つ車両を移ったところで電車は停止した。


『荷物頼むな。』


淳は電車を降りて、最寄の階段へと向かった。意地でも光恵を捕まえようとしていた。淳は登りの階段を逆走して下まで行き、階段下で待機することで、乗り換えの客も、改札へ向かう客も対応できるように位置どろうとしていた。


『こら、こっちは登りの階段でしょうが。戻って。はい、戻って。』


登りの階段を上がってきた駅員に先を塞がれ、注意を受けた。


『急いでるんで、すみません。』


『はい、みんな急いでるの、ね!戻って。』


『マジで急いでるんすよ。』


淳は駅員の横を回りこみ、さらに下へくだろうとした。駅員が笛を鳴らして警告した。


『ほら、速やかに戻りなさい。』


周囲の人が淳に哀れみの視線を投げかけた。淳は無視して下までたどり着くと、右へ入り、その角で降りてくる客をチェックしだした。光恵の姿は無かった。


改札に行くとトイレの場所を聞いた。階段を上がって右だった。


ホームを見渡すと電車が通りすぎたばかりで人はほぼゼロに近いほど居なかった。


淳はトイレの出口でスタンバイした。


『もしもし。すまんがもう1回電話してくれ。』


『いいけど、どうしたよ?』


『光恵は電話で何と言っていた?』


『今日見にきたよってことと、元気にしてる?って感じだったけど。』


『他には?』


『他?うーん、トオルとか来てないよね?って聞かれた。会うと気まずいからって。』


『それだけなの?』


『うん。』


『わかった。あと1回掛けてくれ。出たら教えてくれ。』


陽介はコールした。電話は鳴らなかった。電波か電源が無いとのことで、淳にその旨を伝えた。


淳はトイレの脇に立ち尽くした。15分は経過しただろうか。2本電車を見送った。トイレに入っていく女性はた多かった。入ってはすぐに出てきたように思えた。しかし、果たして今、トイレの中の状況がどうなっているかということは察しがつかない。


ホームの端から歩いてきた20代の女性がいた。淳は彼女に話かけた。


『すいません。調子が悪いと言ってトイレに入った彼女が中々出て来ないのですが、良かったら見てきて頂くことはできませんでしょうか?』


『はぁ。分かりました。いいよ。待ってて。』


『すみません、助かります。』


淳は待った。


『ごめんね。4人入ってるみたいで、どれか分からないんだけど。ごめんね。、携帯とかは?』


『ちと繋がらなくて。すみません。』


『そう。ちょっと急いでるからいいかな?』


『はい、ありがとうございました。』


淳は待った。10分ほどすると3人出てきた。これで残り1人となった。かれこれ20分は待った。


淳は手っ取り早く中へ入ろうかと考えていた。そう思い立ったと同時に入っていた。


個室は入って左と右に3個づつの計6個。左の一番奥の扉が閉まっていた。淳はノックした。


応答は無い。焦ってもう一度ノックした。やはり応答は無かった。


隣の個室に入って上から覗こうかと考えたが、個室に入ったら犯罪だと思った。木製のドアの上につかまり、懸垂するように腕の力で顔を出し、覗き込んだ。すぐに、飛び降りると中から怒声がした。


『ババアが。ちくしょう。』


トイレをダッシュで出ると、隣の男子便所に逃げ込んだ。個室に入り鍵を閉めた。


『何やってんだ、俺は。』


淳はしばらく出れずにいた。ババアが怒り狂って駅員に通報していやしないかと心配になったからだ。


便所は淳一人だった。電話を掛けた。


『俺だけど、いなかったわ。もうあと・・・1時間ぐらしたら着くと思う。』


『OK。うん、早く帰ってこいよ。向こうからはまだ電話は掛かってきてないなぁ。明日もレースだしよ、早く帰ってこいよな。』


淳は落ち込んだ。リレーでよい結果を残せなかった挙句、俺は汗を流しながら暑苦しい便所で何やってんだと。あと10分したら出よう。そう思っては出れずにいた。便所の落書きを眺めて数分潰した。さあ出ようと思った時、誰かが入ってきた。立ち上がりってベルトをこっそりと緩めてファスナを空けて、直ぐに閉め直した。

一応、用を足した素振りをしてみたのだ。立ち上がり上から覗き見たゴミ箱に全国大会のパンフレットが捨ててあった。そっと取り出して見てみるとプログラムのタイムテーブルの幾つかにマルがしてあった。

男子メドレーリレー予選、男子100M背泳ぎ予選、男子200M背泳ぎ予選。淳が出場するものばかりであった。


頭の中で考えた。


『あの女まさか・・男子便所に?な分けないか。』


『いや、女子便所が混んでいて男子便所に隠れた。女子が男子便所に入って訴える奴はまずいないからな。その辺の男心は良く知っているはずだ。』


『でも勇気いるだろな。必死なら逃げ込むか。』


『アノ女、どこ消えやがった、ちくしょう。』


目の前の落書きを必死で眺めた。ヒントがある気がしたからだ。


”後ろを見よ”


”バーカ”


ようやく便所を出るきっかけができた。俺はもう死んだほうがいいと思いながら便所を出た。


淳はホームの端まで逃げるように歩き、電車に揺られて帰った。


淳に陽介からメールが届いた。学校で待っているようだ。


学校に直行し、プールへ向かうと陽介が一人で待っていた。


『鍵当番になっちゃった。』


『わりい。遅くなって。』


『そんなに気にすんなよ、あの件は大会終わった後でもいいだろ。お前変だったよ、今日。今日、話しかけずらかったもん。貴司にも言われたよ、お前ら仲直りしろよって感じでよ。』


『そうかな?』


『ああ。忘れろよ。なぁ、頑張ろうぜ、明日から。それでよ、ちょっと泳ごうぜ?』


『今から?』


『ああ。引継ぎとかも練習したいし。俺らフィーリングでやってるけど、もっと話し合った方がいいと思うし。実際、体で覚えたい部分もあるしよ。』


『確かに。今日は悪かった。引継ぎは俺のミスだ。タッチが合わなかった。』


『お前、最後1かき多かったよな。頭でタッチしたようなもんだったもんな。ぶっちゃけ、会場の空気にのまれてただろ?』


『かもしれん。もう次からは大丈夫だとは思うけどな。』


『不安材料は話し合って解決しようぜ。俺は今から考えることって、明日とかに効いてくると思うんだよね。後でメシ行こうぜ。金ないけど。』


『おう。』


2人は気が済むまで泳ぎ、今日の反省をした。大いに話し合った。


『絶対勝とうな。』


『負けてたまるか。』


『気持ちで負けてたら駄目だよな。』


『大会出て、こんなことに気づくとはな。』


『舐めた奴は・・・』


『しばる。』


『亀甲か!亀甲なのか?』


スタート台に座り、暗くなりかけたプールで2人は笑い合った。


荷物を持ち、校舎にプールの鍵を戻すと晩御飯を食べに向かった。


『どこ行くよ?』


『どこでもいいかな、ガツンと食いたいな。』


『じゃ、あそこ行くべ。』


陽介達は屋上前の定食屋へ向かった。


1コース由香はトップで飛び込んだ。タッチの差で5コースの選手も飛び込み、体半分の差で4コースも続いた。背泳ぎと違い、平泳ぎの層は厚かった。4コースを泳ぐ選手は100Mの記録保持者であり、5コースの選手も幾つもの選手権を制覇している選手だった。


一かき一けりを終え、水面に顔を出すと5コースの選手に並ばれていた。由香は自己新記録を出して引き継ぐことが目標だった。そうは分かっていたが、やはりリレーの雰囲気からか少しハイペース気味で泳いだ。しかし、30M地点で5コースにリードを許し、4コースに並ばれそうになっていた。若干泳ぎに硬さが見受けられる。


50Mのターンでのラップタイムでは3位であった。4コースとはほぼ同時のターンであった。タイム的には練習時よりもハイペースで、自己新は期待できるタイムだった。ターンの時点で4コースと5コースの位置関係が視界に入り由香は気持ちを引き締めた。5コースとの差は体半分以上ついていた。4コースはテンポを上げて由香を少し離しにかかった。由香も蓄積してきた疲労で硬さが取れ始めてきていた。


ラスト30Mで4コースが5コースと並びかけ歓声は一気に大きくなり、由香とは体一つとまではいかないものの大きな距離を空けられた。しかし、由香のテンポも速まり、且つ伸びがでてきた。杏は頷きながらその姿を静かに見守っていた。マリは台に立ち、腕を大きく回し準備を開始した。由香に声援を投げかける。


前半は以前杏が言っていた通りに無意識的なハイペースとなった。だから前半は力を抜いて最初の50Mを入ってもタイムは悪くないだろうという杏のアドバイスを聞き、大会前の詰めで実験も試みていた。大会2週間前は200Mのみで後半重視の泳ぎを試みようと考えていたが、大会前になって100Mもこの泳法の方が好タイムが出やすいことに気づいていた。


由香自身は50Mのラップタイムが早いことには気づいていなかった。悩みに悩んで自分は極限の状態では頑張れないタイプだと割り切って、わずかでではあるが後半に余力を残す泳ぎをしていたつもりであった。


気持ちの面では後半勝負なのだ。そう決断したなら後半に最高のパフォーマンスをしないと格好がつかないと少し自分にプレッシャーをかけてレースに臨んだ。しかし前半硬かった分、疲労も大きかった。予想以上の疲れを感じていた。ラスト15Mで4コースが5コースからリードを奪った。由香と5コースの差は体半分まで縮まっていた。


そのままラスト10Mまでもつれ込んだ。由香の気持ちは切れずに意地の泳ぎを見せた。多少泳ぎを崩しながらもテンポはさらに速まった。ラスト5Mで5コースに並びかけ、マリは指を飛び込み台にフックさせた。ゴーグルを指で一回顔に押し込むと、ゆっくり膝を曲げて飛び込みの準備に入る。4コースは体一つのリードをつけて第3泳者が飛び込んだ。由香も5コースの選手もお互いが視界に入っていた。並んでいる2人は我先へと急ピッチで泳ぎ、意地を見せつけ合った。男顔負けの泳ぎを披露した。再び割れんばかりの歓声が会場内に木霊し、5コースとほぼ同時のタッチの後、大きな歓声に応えるかのようなマリの高い飛び込みが行われた。第3泳者のバタフライが始まった。


順位は3位に落ちたものの、由香の記録は自己新記録であった。プールの上から語りかける杏に答えることができないぐらい息があがっていた。両手をプールサイドにつき、腕の力でプールから上がろうと試みたが、途中で綾と杏に抱えられながらプールから上がった。由香は座り込み、すぐにレースを見るとマリは2位に浮上していた。50Mのターン前で4コースのトップに追いつくと、ターン後にはわずかなリードを奪った。

そのまま膠着したままレースは進み、それぞれの学校のエースが第4泳者としてスタート台の上に登場する。


杏は後ろを振り返り、由香と綾に苦笑いを見せた。接戦である様子を見ての感想だったのであろう。わずかなリードのまま1位、2位争いはアンカーの自由形勝負となった。マリの両手がタッチされると、杏は綺麗な飛び込みを見せた。水から上がると飛び込んだ人とは別人のような豪快な泳ぎを見せ、グングンと2位を引き離した。ラスト30Mでは体一つ半は離していた。残りのメンバーは立って手を繋いでスタート台の前で杏の帰りを待った。杏はペースを一切緩めずにゴールした。第1コースが独走するという稀なレースとなった。綾と由香の頑張りが功を奏し、掲示板に大会新記録との表示が出た。


メンバーは喜びの声を上げながら杏をプールから上げた。4人そろうと良いタイミングでアナウンスが入った。


『ただ今泳ぎました第1コースの記録は本大会の大会新記録です。』


4人は歓声に包まれながら会場中に手を振った。レースが終わると杏やマリには何人かのインタビュアが駆け寄ってきた。杏は”記録は出たので後は決勝で1位になりたいです”とコメントしていた。


女子が終わるとすぐに男子のリレーが行われた。男子の目標はまずは決勝進出であった。男子も女子と同じく最終組の第1コース。

背泳ぎの淳はまずまずの泳ぎで自己ベストに近いタイムで4位で帰ってきた。平泳ぎの陽介も健闘したがタイムは平凡に終わり自己ベストには少し届かない結果で、5位での引継ぎだった。テツと貴司で盛り返したが最終組の中で4位、全組の中では5位という結果であった。決勝進出は無事果たしたが、メダル獲得には今一歩、全員がもう少しタイムを伸ばす必要があった。


男4人は落胆まではしなかったが、笑顔を浮かべることなくサブプールへ消えて行った。

プールに浸かりながら貴司が口を開いた。


『決勝は行けたからとりあえずOKだけど、目標はあくまでメダルだからよぉ。悔しいが今のままじゃメダルは難しいだろ。今、5位、6位争いをしているぐらいだからなぁ。』


『自己ベスト出すぐらいじゃなきゃメダルは厳しい。』

テツが続いて言った。


『ということで順当な結果といえば、そうなるな。淳も陽介もリレーが始めてのレースだし、これ以下の結果はおそらく無いだろう。どう?淳?』


『コンディションは良かったけどな。あっけなく100Mが過ぎた気がしないでもないな。もっと前半からとばしてギリギリのレースが出来たらなとは思う。決勝は絶対完全燃焼してメダル獲ろうよ。このままじゃ、何も意味ないもんな。』


『陽介、レースどうだった?』


『浮き上がりに少し時間をくった気がするな。』


『調子コイて、飛び込みで深く入りすぎるからだよ。』


『そうだな。別に図に乗ってたわけじゃないんだが・・・。まぁ、俺も考えてることは幾つかある。必ず改善して自己ベスト出すよ。』


『メダル獲れないメンバーじゃないからな。泳力は足りている、一つになれば、きっとできる。それに女子はあのメンバーで新記録出してるんだぞ。集中して力を出し切るぞ。興奮とはまた違うからな、陽介。』


『おお。』


『とにかく、決勝には行った。ぱっと盛り上がろうぜ。後はチームの雰囲気も大事だ。女子にアドバイス貰っても構わないしな。』


軽い話し合いが終わると、各々でダウンを開始した。


貴司は陽介に近づいた。


『お前、淳と何があるか知らないが、レースには持ち込むなよ。もっと心を開けよ、いつも通りよぉ。』


『別にそんなんじゃ・・・。』


『ワイワイやって楽しんでるようで、お前、まだ心の中が集中しきって無いだろ。お前言ったろ?電話でよ。これが最後になるからってよ。出し切れよちゃんと。自分の事だけ考えとけよ、何かあったら俺がなんとかするから。お前は心が優しすぎんだよ、何だかんだよ。音楽でも爆音で聴いてよ、すっきりしろよ。いつものお前でレースに臨めよ。カラ元気で勝てる程この大会は甘くないぞ。』


『うん。』


『仮によ、遅くなってもいいよ。全開で泳いでくれよ。お前と泳ぐの最後だぞ。心をすっきりオープンにしてさ、気持ちよく泳ごうぜ。』


『言われればそうかもしれねぇな。』


『一応、さっきメダル獲るぞって言ったけど、今のままじゃ狙って獲れる範囲にはいないからな。だから安心して全力で泳ぐことだけに集中しようや。今日はウマイもん食って、ちゃんと寝ろよ。それでもし淳とモメてるなら、元気に挨拶するぐらいでも自分の気持ちはノッテくるだろ?お前はもっと自分のこと考えていいよ。あとな、決勝ではお前が少し遅れてもな、俺が取り戻す。テツもそう思っているはずだ。攻めまくれ。』


『そうだな、思いっきりやるよ。』


『最後だもんな。悩みはレースに持ち込まないように、杏とかマリにも相談してみろよな。あいつら能天気だから元気をくれると思うぜ。』