『トオルさん、久々の再会なんです。俺ら2人にしてもらえませんかね?』


『好きにしろ。野見山が勝手に銃を向けてきたまでだ。』


『淳、光恵さんのことが好きだったのか?』


野見山がうつむきながら尋ねた。


『昔の話だ。そんな時もあったよ。ノミもう銃をしまってくれ。』


野見山は銃を見つめた後、バギーパンツのポケットの中へ無造作に入れた。


『光恵さん、あぁ、光恵さんにとっても久々の再会でしたね。すみませんが野見山をかります。』


『うん。』



淳は野見山の肩を抱き、光恵とトオルの前からフェードアウトして行く。


『野見山!お前、なぜ今日来た? お前って初日か最終日に来るような奴だろ。何故2日目なんだ?』


トオルが後姿の野見山に声を掛けた。


『なんとなくだ。』


ジロリと振り返り、答えた。


『なんとなくだぁ?』


『まー最終日を考えていたが、我慢できなくなって今日来た。それだけだ。じゃあな。』


トオルは舌打ちをして立ち上がり、2人の後姿を眺めた。




『トオル君、野見山君が来ると思ってたの?』


『いや。もしかしたら有り得るなと。万が一を警戒してたつもりだったがな。俺らがカチ会えばこうなることぐらいは分かっていたよ。』


光恵は笑った。


『へー、そんな事考えるんだ。もしかしたら会うかもなんて・・・。』


『あくまで万が一だ。アイツはそれぐらい警戒しないと厄介な相手だ。ちくしょう。』


『意外とロマンチストなのね。』


『お前、頭おかしいだろ?』


『よく言われるわ。でも大体、そう言う人ほどクレイジーだけどね。』


『なぁ、どうやって淳を引っ張る?』


『だから何の話? しばらく会わないうちに妄想が激しくなったわね。』


『そう言ってられるのも今のうちだぞ。大会が終わる明日以降、何があってもおかしくない。』


『いったいどうしたのよ? そう言えば、アナタは何故ここに来たの?そのリスクとやらを背負ってまで。』


『知り合いが泳いでてな、見に来てくれと言われて。つまり観戦だ。』


『その人が初日や最終日に泳ぐ予定だったら?』


『見に来ないだろうな。』


『へー。本当は淳君の泳ぎを見に来たんじゃないの?見たかったんでしょ。本気で泳いでる姿を。彼が没頭してる姿を見たかったんじゃない?』


『は?』


『わからないけど・・・、アナタ、自分も燃えてみたいと思っている。そうでしょ?』


『バカか。』


『淳君に嫉妬も期待もしてる。』


『言ってろ。』


『だから、そんな淳君が捕まるのはちょっと複雑。』


『もういいよ。』


『だったら自分が捕まってもいいと思いはじめている。この大会を見て、そう思い始めた。でもまだ素直になれない・・・。』


トオルは爆笑した。


『いつものアナタの調子で話してみただけよ。』


『淳はSCREAMを襲撃してんだぞ。俺は狙われたんだ。』


『そうだったわね。何故、襲撃したのかしら?』


『・・・』


『あなたは初めて被害者になったわね。引退も含め、悲劇のヒロインとなった。』


『テメェ・・・。』


『アナタはSCREAMにとって不安定な時期に逮捕されることなく現役をまっとうすることができた。淳君には、あなたへの強烈な愛があるとさえ思えるわ。アナタも心のごこかで例の襲撃の動機に気づき始めている。』


『淳はパクんじゃねーぞ、コラ。』


『そんなこと誰も言ってない。まずは、アナタからよ。』


『・・・』


『うそうそ。まるで私が刑事みたいじゃない。もう行くわ。水泳も見たいし。』


光恵は歩き出し、スタンドへ消えようとしていた。


スタンドへの入り口の所で振り返えった。


『そう言えば・・・、あの子、淳君の彼女の隣の子、可愛くない? アナタ好みよね。華があって・・・背筋がピンとしていて、体が柔らかそうでね。』


光恵は笑みを浮かべ、去って行った。


『ちくしょう。シャラップ!』


トオルは設置されていたステンレス製のゴミ箱を思い切り蹴飛ばした。









光恵が口を開いた。


『あれ?その水着って淳君と同じ学校の子?』


『はい。』


野見山が非常階段の方をジロリと覗き込む。

銃が見えないように右手を後ろへ回した。


『淳の彼女だよ。』


トオルがそう呟いた。杏はうつむき、マリはメダルの紐をイジっていた。


『お前、淳と・・・?』


野見山が尋ねた。


『・・・』


『どうでもいい。こいつ等は関係ない。行けよ。』


杏とマリが重苦しい空気の中を通り過ぎようとしていた。


『そういえば、淳君の家の前で会ったわね。』


光恵が話しかけた。2人ともどっちに言っているのかハッキリしなかったため、返事が遅れた。


『淳君とお付き合いしてるの?』


『は、はい。』


杏が返事をした。


『お隣の子は?』


『光恵、お前ウロチョロしてんのな。淳と密会かよ?』


トオルが口を挟んだ。


『別にそんなんじゃ。』


『ちなみに1回だけじゃ無いよな。お前と淳が密会したのは。コソコソ屋上で会っただろ。』


『それは、色々聞きたいことがあったからよ。』


『ふーん。野見山、そうらしいよ。』


『・・・』


『野見山、銃を向ける相手が間違ってるぜ。そろそろ気づけよ。お前さぁ、ハメられたんだよ。』


『なんだと?』


『光恵、お前、ここに何しに来たんだよ?』


『観戦よ。野見山君が楽しみにしてたから。しっかり伝えようと思って。』


『杏ちゃん。淳がヘンテコなバッグ持ち出したのはいつからだい?』


『あぁ、あれは・・・1週間前ぐらいだったと思いますが。』


『野見山、お前がパクられる寸前まで持ってたスポーツバッグをよぉ、淳が愛用してんだよ。微笑ましいよなぁ。』


『淳が・・・。』


『その中に何が入ってた?』


『着替えとか、たいしたもんは入っていない。』


『何かアノ日に関係する物があったんじゃないのか?』


『特に・・・。オヤジの手紙とか』


『とか?』


『間違って買った切符や・・・服のポケットを整理した時、入っていた紙切れを押し込んだ記憶はある。』


『光恵、黙ってないで言えよ。』


『そんなの覚えてないわ。』


『そうかい。じゃ、淳に聞くのが早いようだな。いいのか?それで。 あっ、もう2人はいいよ。帰りなさい。』


トオルが杏とマリの2人を帰した。2人は小走りで帰った。



『言っとくが、このままだとお前ら、消されるぞ。この意味がわかるよな?特に光恵。』


『・・・、わからないわ。』


『俺をパクりたければパクれ。そういう意味だ。まっ、今となっちゃ淳をパクりたくてウズウズしてんだろうが。』


『何を言っているの?』


『警察の犬が。』


『テメぇ、調子こいてペラペラ喋ってんじゃねぇ。』


再び銃をトオルに向けた。


『今、俺を逮捕したところで引退したトップを引っ張っても、大して価値はないだろうよ。ただし、淳は活動を控えているとはいえまだまだ現役だ。悪の根を根こそぎ狩るのに、淳は必ず潰しておくべき人物だからな。』


『野見山君、耳を貸しちゃダメよ。この人がマトモなこと言ってると思う?』


『野見山、色ボケから醒めろよ! ちなみにな、淳はとっくにお前のカラクリには気づいていたぜ。俺よりもずっと早くな。お前にドラッグを盛ったのは淳だよ。野見山、お前をハメたのも淳だよ。俺を撃つなら撃てや!』




『バカ言わないで下さいよ、トオルさん。』


『淳・・・。』


ジャージ姿の淳が姿を見せた。

淳は野見山に近づくと、手を差し出した。


『ノミ久しぶりだな。色々あったな。ずっと話したかったよ。いっぱい話したいことがあるんだ。』


2人は握手で再開した。野見山の目にはうっすら涙がにじんだ。


『杏とマリに聞いたよ。お前が来てるって。ビックリしたよ。マジで久しぶりだな。』


『淳・・・。あの日はすまない、俺が・・・。ずっと謝りたかったんだ。』


野見山がボロボロと涙をこぼし始めた。もはや上手く喋れなくなっていた。


『泣かないでくれ。会えたな、やっと。』


『おお。見てたぜ水泳。お前の泳ぎもしっかり見たぜ。一度見てみたと思ってよ。速えぇじゃねぇかよ、お前。』


『また無茶して。脱走したのかよ。』


『すまねぇ、ほんとすまねぇ。なぁ、許してくれ。』


『とんでもない。こっちこそ辛い思いをさせてしまった。お前の人生も狂ってしまって・・・、ほんと何も言えないよ。』


『茶番だ。大根役者が。ノコノコと来やがって。』



2人はスタンド席を離れ、フロアに出た。

非常階段に近く、人気のないラウンジのソファーの窓側にトオルを座らせ、銃を向けながら野見山も向かい合って座った。


SCREAMの3代目とCANDYのトップが全国大会の会場で再会し、膝を突き合わせている。


『暴走して爆発した奴がいたよなぁ。

俺は聞いたぜ、遥か彼方の暗闇から飛び散るような光が見えたと。噂では粉々になって死んだと聞いていたがな。

その光がもうここまで届いたとは・・・。月日が経つのは早いぜ。

それとも俺は亡霊を見たのか?』


『言ったろ。次会ったときは殺すと。息の根を止めてやるよ。』


『脱走か?』


『当たり前だ。』


『そんなに俺を殺したいか?』


『お前のことは忘れない。病院で散々コケにしてくれたからな。見つけ次第ブチ殺そうと思ってたよ。

今日は大会を見に来た。あいつ等が泳ぐと聞いてな、一度見てみたかった。お前はまたチョッカイ出しに来たのかよ?』


『そんなところだな。ちなみにな、俺はお前に刺されて引退だ。おかげでSCREAMはもう壊滅状態だよ。』


『ほぉ。ま、俺にはCANDYがあるからよ。』


『ははっ。ウケルなお前。もう誰もいないぜ?』


『休止しているのか?』


『いや・・・CANDYはもう存在しないよ。あの1日で終わりだ。予定通りだったみたいだぞ。』


『何が言いたい?』


『ほんとバカだな。』


銃の高さが膝から胸の位置へと変わった。


スタンドの方から新記録が出た時のようなどよめきと、大きな歓声が聞こえてきた。


『言えや。』


『お友達に聞いてみろよ。もう皆知ってるぜ。』


瞬時に目の前の窓が赤く染まった。立ち上がって、高い位置からトオルの頭を1発撃った。

そんな映像が野見山の頭の中で流れた。


『お前はウソしか言わないから楽でいい。わかり易いね。』


野見山は目を細めてそう言った。本格的にキレ始めたように見える。

スイッチを入れてしまったことに気づいたトオルは苦い表情を浮かべた。

鼓動が高鳴り、額に汗が滲み出す。

野見山が奇妙な落ち着きを見せ始めた。

殺される。


『色んなものが終わる気がする。じゃ、ラスト行こうか。』


野見山がドカっと席を立った。

テーブルを払いのけ、横へブン投げると、

しっかりと握った拳銃を脳天に突き刺さる角度で構えた。


『粉々に飛び散るのはお前だ。』


トオルは虚勢を張り睨み付けていた目を閉じた。




『野見山君?』


トオルは再び目を開けると光恵が立っていた。トリガーを引く指がギリギリのところで止まった。


『野見山君なの?』


後ろ向きのまま答えた。


『そうだよ。』


『何してるのよ。何でここに来ちゃったのよ。アナタ自分のしてることがわかってる?』


『止めんのかよ?』


『当たり前じゃない。』


『もういい、会わなかったことにして去ってくれ。』


『何言ってるの、こっち向きなさい。』


野見山は振り返った。光恵はその表情に驚いた。お店で初めて会った時のような顔をしていた。

あの時の恐怖が再び蘇る。

自分の知らない野見山がそこにはいた。


野見山はトオルのへまわり拳銃を光恵に向けた。


『行ってくれ。』


『それはできない。』


『行けや。』


拳銃を振った。


光恵は恐怖で喋れなくなっていた。


『そういや聞いてくれたかい?何で淳がCANDYを始めたかをよ。』


『・・・』


『聞いたんだろ?』


光恵はチラリとトオルの顔を見た。トオルも閉じていた目を開けて、少し遅れて光恵の顔を見た。


『それは・・・、』


『野見山、銃をおろせ。話せないだろ。』


トオルがそう言うと、野見山はぶらりと手を下げた。




『淳君は私のことが好きで、凄いチームを作って私に見せたかったからよ。』


奥の非常階段で2つの足音が止まった。


50M自由形の決勝レースを終え、首からメダルをさげた杏とマリが立ち尽くしていた。













こんにちはTokyo Matsuoseigo Cinema ことTMCでございます。


TORガン見してまーす。


8月はマイコーの誕生日の月なので

良かったら何かやって下さい!

確か29日だったでしょうか。


僕はどっちかといえば2人のテンションが高くて盛り上がっている放送が好きです。

たまーに超ハイテンションバージョンもお願いします。あざす。


TOR Banner

淳は応援席へと歩いた。

杏が嬉しそうな顔をして淳を待っている。淳が戻るとカロリーメートを半分に割り、手渡した。


『何ニコニコしてんだよ。』


『自分こそ、顔がニヤけてるよ。』


『ジュースは?』


『買ってないよ。』


『さっき買っといてって言ったじゃんよ。』


淳の隣にいた陽介が冷かした。


『暑い、暑い。暑いねぇ。なぁヤス?』


『バカ、やめとけよ。』


杏はシブシブ買い物へ行くことにした。何だかんだ淳は杏に付き添った。

2人は会場に併設されているコンビニに入った。

杏がカゴを持ち運び、淳が品物をカゴへ入れていく。

淳が店内をどんどん進んで行くのに対し、杏は興味がある物を見つけるとすぐに立ち止まるタイプである。

お菓子の棚の前にいた淳が何処にいるか分からない杏に対し注文を入れた。


『杏、アミノ系入れといて。サプリとか。』


『はいよ。』


『あと、コーラも。』


『コーラね。そんな大きな声で言わなくてもわかるかし。』


『お前の声の方がデカイっつーの。』


店内にいた大会出場者の選手達はクスクス笑っていた。


店内で再び2人が一緒に歩きだした。商品が入ったカゴを淳が代わりに持った。


『コーラは?』


『コーラ飲まなくない?』


『俺が飲むんだよ。入れて来いよ。』


『いいよ、もう。』


『はやく入れてこいよ。』


杏がコーラを取りに行った。周りにいた女子の選手が杏の姿をみてコソコソと話しをしていた。

自由形のトップの選手が買い物をしていたからだ。

杏がペットボトルを持ち出すとすぐにコーラは飛ぶように売れた。

2人がレジにいる頃、先ほどの女子選手達と同じ中学の男子同士が淳のモノマネを小さな声で真似ていた。


『デカビタ持って来いよ。』


『デカビタの飲まなくない?』


『はやくしろよ。』


『しょうがないわねぇ。好きって言って。好きって言ってくれたら持ってきてあげる。そっちこそ、はやくぅ。』


『バカ、恥ずかしいだろ・・・、大好きだよ!』


『何、何?何て?』


『もう言わねぇぞ。』


女子選手達は笑っていた。


『もう、恥ずかしいじゃん。』


『お前がデカイ声で話すからだよ。』


杏と淳は会計を済ませてコンビニを出た。




『どの辺かねぇ、ウチの学校は。』


野見山は会場に入ると、歓声に導かれるようにスタンド席へ向かった。


『やってるじゃない。俺も泳ぎてぇなぁ。』


空いている席に座り、泳ぎに見とれていた。


落ちているプログラムを見て、現在行われている競技名を確認することは出来たが、


淳や陽介が出場するレースがいつ行われるかということは分からなかった。


女子のレースになると気分転換にタバコを吸いに行き、一服すると再び席に戻って観戦を続けた。


午前の終了間際、握り締めたプログラムがボロボロになっていた。早くもレースに飽きているようだ。


膝に肘をつき、目頭を押さえて考えごとを始めた。気長に待つより、強引に探し出そうかと考えていた。


久々の再会をどう演じようか、頭を悩ませた。淳をビックリさせたいと思って密かにずっと考えてきたことだったが、想像以上に会場が大きく、今までの考えが陳腐に思えてきていた。


100M背泳ぎ予選が始まった。


淳は5組目。


召集所を出て、スタート台の前に入場した。第6コースで肩を回している姿に野見山はまだ気づいていなかった。


淳の紹介がアナウンスで流れる。


その声が野見山の耳へと入った。


野見山はガバっと席を立った。丁度淳から見て正面のスタンドの上部で武者震いしながら右手の拳を突き上げた。


何も言葉が出なかった。


野見山は淳の泳ぐ姿が良く見える位置で観戦したかった。スタンドの最上部を走り、真横から観戦できる位置までくると静かにレースを見守った。


淳がバサロを終えて体が浮き上がると会場の声援が大きくなった。50Mのターンを淳が先頭で折り返す。


『ううぉおお。きたー!』


野見山テンションはどんどん上がっていった。


『しゃー!』


野見山のガッツポーズが出た。


第5組をトップで通過した淳は次の最終組のタイム次第で決勝進出が決まる。


隣の観客に話しかけた。


『今トップの奴は俺の友達なんだ。このレースは一体なんなんだ?』


『よ、予選です。次の組のレースが終わった後に決勝進出が確定します。』


『うぉお、腕を上げやがったな。早く次ぎ泳げや!』


終始次のレースを野次りまくって、レースを見届けた。電光掲示板は最終組のタイムを表示している。


『どうなんだ?さっきの奴は決勝行くのか?』


『えーと・・・』


野見山は走り出していた。淳の元へ行くつもりだ。スタンドの上部を走りまわり、下へ降りられるポイントを探した。


『すみません、下は選手のみとなっております。』


何度も断られていた。


掲示板を見ると、決勝進出者のリストに画面が切り替わっていた。


『フォー、ヤベエ!やっちまったな、アイツ。』




とりあえず何か差し入れをすべく会場を一歩出ることとした。


『あのバカ陽介の分も買ってやろう、へへっ。』


野見山は甘いモノを探した。キットカットとシュークリーム、自分用としてグミを買った。


『最悪地元で会えるかな。とりあえずは手渡ししてもらってもいいか。』


野見山はコンビニに走り、メモ帳を買って手紙を添えた。


”レース見たぜ。それではまたのちほど。   食えや!  野見山”


コンビニのゴミ箱にビニールゴミを捨てながら選手らしき人物を物色した。


髪の毛の濡れたジャージ姿の青年に声をかけた。


『東京の山城中学知ってるかい?』


『もちろんです。』


『そこの選手にコレを渡してくれ。渡せばわかるから。小堀淳か三浦陽介っ奴がいると思うんで、そいつに。』


『わかりました。』


『絶対渡してくれよ。』


『はい、大丈夫です。』


『どうもね、ありがと。』


野見山はニコニコしながら会場の抜け道や関係者入り口を探した。


ジャージ姿の者や上半身裸で歩いている者、髪の毛が濡れている者が多い中、野見山は浮いていることに気づいた。


しかし、誰か選手と一緒に通ればすんなり入れるなと察知していた。私服で出入りしている輩もいたからだ。

パスはそれほど見られていなかった。


完全に会えないわけでもないことが分かった野見山は無理をしなかった。


スタンドへ再び戻ると、早くも午後イチのレースが始まろうとしている。


会場はソワソワした雰囲気であった。


杏とマリが出場する50M自由形決勝レースだ。


空いている席に座ると見慣れた後頭部が目の前にあった。


野見山の口元が緩む。選手入場が始まり、会場はヒートアップした。


目の前の男は淡々と拍手を繰り返していた。


杏の紹介が行われると、およそ30メートルほど左の一番下の方から一斉に声援が聞こえた。


淳の中学の声援だった。



野見山は中学の位置を把握した。


野見山は男の髪の毛を鷲掴みし、顔を近づけた。


『久しぶりじゃねーかよ、トオル。』


男の顔が青ざめた。


『第6コース・・・』


マリの紹介アナウンスが響き渡った。


髪の毛をムシル勢いで引っ張った。トオルの腰が完全に浮いた。


拳銃が頭に向けたれた。


『・・・テメェ』


『ブチ殺す。』




『いいなぁ、傷は治ってよぉ。すっかり綺麗な顔してんじゃんか。』


選手がスタート台へ上がる。


”よーい”


『やめろ。話しがある。』


トオルが声を漏らした。


出発の電子音が鳴った。



一瞬にして2人の席が空席となった。