2人はスタンド席を離れ、フロアに出た。

非常階段に近く、人気のないラウンジのソファーの窓側にトオルを座らせ、銃を向けながら野見山も向かい合って座った。


SCREAMの3代目とCANDYのトップが全国大会の会場で再会し、膝を突き合わせている。


『暴走して爆発した奴がいたよなぁ。

俺は聞いたぜ、遥か彼方の暗闇から飛び散るような光が見えたと。噂では粉々になって死んだと聞いていたがな。

その光がもうここまで届いたとは・・・。月日が経つのは早いぜ。

それとも俺は亡霊を見たのか?』


『言ったろ。次会ったときは殺すと。息の根を止めてやるよ。』


『脱走か?』


『当たり前だ。』


『そんなに俺を殺したいか?』


『お前のことは忘れない。病院で散々コケにしてくれたからな。見つけ次第ブチ殺そうと思ってたよ。

今日は大会を見に来た。あいつ等が泳ぐと聞いてな、一度見てみたかった。お前はまたチョッカイ出しに来たのかよ?』


『そんなところだな。ちなみにな、俺はお前に刺されて引退だ。おかげでSCREAMはもう壊滅状態だよ。』


『ほぉ。ま、俺にはCANDYがあるからよ。』


『ははっ。ウケルなお前。もう誰もいないぜ?』


『休止しているのか?』


『いや・・・CANDYはもう存在しないよ。あの1日で終わりだ。予定通りだったみたいだぞ。』


『何が言いたい?』


『ほんとバカだな。』


銃の高さが膝から胸の位置へと変わった。


スタンドの方から新記録が出た時のようなどよめきと、大きな歓声が聞こえてきた。


『言えや。』


『お友達に聞いてみろよ。もう皆知ってるぜ。』


瞬時に目の前の窓が赤く染まった。立ち上がって、高い位置からトオルの頭を1発撃った。

そんな映像が野見山の頭の中で流れた。


『お前はウソしか言わないから楽でいい。わかり易いね。』


野見山は目を細めてそう言った。本格的にキレ始めたように見える。

スイッチを入れてしまったことに気づいたトオルは苦い表情を浮かべた。

鼓動が高鳴り、額に汗が滲み出す。

野見山が奇妙な落ち着きを見せ始めた。

殺される。


『色んなものが終わる気がする。じゃ、ラスト行こうか。』


野見山がドカっと席を立った。

テーブルを払いのけ、横へブン投げると、

しっかりと握った拳銃を脳天に突き刺さる角度で構えた。


『粉々に飛び散るのはお前だ。』


トオルは虚勢を張り睨み付けていた目を閉じた。




『野見山君?』


トオルは再び目を開けると光恵が立っていた。トリガーを引く指がギリギリのところで止まった。


『野見山君なの?』


後ろ向きのまま答えた。


『そうだよ。』


『何してるのよ。何でここに来ちゃったのよ。アナタ自分のしてることがわかってる?』


『止めんのかよ?』


『当たり前じゃない。』


『もういい、会わなかったことにして去ってくれ。』


『何言ってるの、こっち向きなさい。』


野見山は振り返った。光恵はその表情に驚いた。お店で初めて会った時のような顔をしていた。

あの時の恐怖が再び蘇る。

自分の知らない野見山がそこにはいた。


野見山はトオルのへまわり拳銃を光恵に向けた。


『行ってくれ。』


『それはできない。』


『行けや。』


拳銃を振った。


光恵は恐怖で喋れなくなっていた。


『そういや聞いてくれたかい?何で淳がCANDYを始めたかをよ。』


『・・・』


『聞いたんだろ?』


光恵はチラリとトオルの顔を見た。トオルも閉じていた目を開けて、少し遅れて光恵の顔を見た。


『それは・・・、』


『野見山、銃をおろせ。話せないだろ。』


トオルがそう言うと、野見山はぶらりと手を下げた。




『淳君は私のことが好きで、凄いチームを作って私に見せたかったからよ。』


奥の非常階段で2つの足音が止まった。


50M自由形の決勝レースを終え、首からメダルをさげた杏とマリが立ち尽くしていた。