陽介は淳と野見山の争いを見るに耐えれなかった。

拳銃を構えていた野見山に単車ごと突っ込んだのだった。


『野見山、もう喧嘩はよしてくれ。』


『おう、おう遅いじゃねーかよ陽介。タラタラ走りやがって。これはもはや喧嘩じゃねぇぞコラ。』


道に這い蹲りながら陽介に睨みをきかせた。


『おとなしく銃を渡せ。』


『それはできない。』


『そうかい。お前は淳の味方か・・・。お前もか陽介。』


野見山が力を振り絞り立ち上がろうとしている。


『やめろ・・・やめてくれ!』


『やめて欲しけりゃ、俺を止めてみろよ。お前らムシが良すぎるぜ。

明日も泳ぐんだろ?銃を渡せよ。さもないとブチ殺す。』


陽介は血まみれでぐったりと倒れた淳の姿を見ていた。

いくら凶暴な野見山でも淳には手をあげないと思っていた陽介は

驚きを隠せずにいる。

まるで半分夢を見ているかのような気分だった。

フワフワと地に足が着かない状態だ。


『拳銃出せや!』


気づけば殴られていた。1発で体が吹っ飛び、体の末端まで激痛が走った。

野見山から目をそらさずにいたが、道の上に倒れた陽介はそのまま深い底まで体が沈んでいくような脱力感に襲われた。

おそらく普段ならこの1発で戦意喪失してもおかしくないパンチだった。


しかし、パレード開始時から陽介の意識の中には、これが最後であろうという意識があった。

何が最後なのかということは自分でもはっきりとは認識はしていないし、

あえて、はっきりさせずにボヤケタままのくすぶった感情を上手くキープしながら走って来たとも言える。

直感的ではあるが、確かに何かの終焉を感じていた。


すると今にも意識と共に沈み込みそうな陽介の体が快感をおぼえ始めていた。

深い底へ沈み込む寸前に現われた快感が、陽介の体を動かした。


『こいや野見山!』


フラフラになりながら野見山に近づくと、顔面に懇親の拳を打ち込んだ。

陽介は初めて野見山を殴った。

それは陽介の有りっ丈の力を込めた右ストレートだった。


タイムラグがあり少し間をおいた後、野見山の鼻から血が噴出した。

陽介は片膝をつきながらも拳を握り、2発目をお見舞いしようと飛び込んで行く。

すぐさま対応した野見山の強烈なカウンターを喰らい、再び倒れ込む。


『マグレは2度ねぇぞ陽介。』


目がグルグル回りながらも陽介の口元は緩み、笑みを浮かべているようにも見えた。


『このゾンビ野郎が!』


陽介の上に馬乗りになった野見山は完全にキレていた。

陽介の顔面をベコンベコンに殴り、首はその度に軋んだ。


『ははっキレやがったなノミ・・・』


野見山は無言でパンチを振り下ろした。陽介は何発かを無抵抗で受け入れた。

完全に意識が飛んだように見える。

容赦なく野見山が次の拳を叩き付けようとした時、野見山の首を掴んだ陽介は顔を近づけて

野見山の顔面に血を吐きつけた。


怒り狂った野見山がポケットからナイフを取り出し、陽介の胸を目掛けてがっちり握ったナイフを

叩きつけようとした。


『俺もお前らも地獄行きじゃ・・・』




野見山の頭を背後から淳がカチ割った。大破した陽介の単車のフロントフォークを握り締めて立っていた。

野見山は頭をおさえて、横へ転がった。


『淳テメェまだ生きてやがったのかよ。』


淳もたまらずしゃがみ込んだ。


野見山は起き上がれなくなっているようだ。ゴロリと寝転んでいる。


『陽介、コイツSCREAMの5代目に就任するとか言ってんだぜ。』


陽介は口を開くことなく、仰向けのまま殆ど開かなくなった目で淳の顔をボンヤリ見た。


『トオルは?3代目のトオルは何て言ってんだよ淳よぉ?』


『アイツに発言権はもう無い。特に何も言ってないよ。

それよりお前のそのメンタルをどうにかしろ。

車の免許なんて一生取れないぞ。教官が何人いても足らねぇ。』


『ふん。脅してでも取ってやるよ。』


『銃にばっか甘えてんじゃねぇ大バカ野郎。』


野見山が渋い表情を浮かべる。


『ちくしょう・・・ちくしょう・・・。』


野見山の目にうっすら涙が見える。


『もし、そん時まで生き延びていれば・・ダンプカーで通ってやる。』


『そっちの方がお似合いだぜ。今日は久しぶりにお前に会った気がした。』


『・・・?実際久しぶりだろうが?』


『そういう意味じゃねぇボケナス。』


険悪な雰囲気が少し薄れていた。ただし元通りの仲には戻れないようだ。

一線を越えないように淳が言葉を選びながら話した。


『野見山、とにかく明日は来るな。今日は俺らの勝ちってことでリベンジならいつでも受けてやる。

奇襲でも何でもしろや。まぁこんな下らない戦いをいつまでやっても仕方ないけどな。』


野見山には言葉がみつからなかった。


陽介の体を持ち上げて、淳は色々話しかけていた。陽介の身を心配していた。


『さっさと行け!野見山。』


単車のエンジンをかけた野見山はタバコを吸いながら単車の調子を伺いつつ、

2人の姿を見つめていた。


淳はもう野見山の相手はしないようであった。

彼に何も言葉をかけようとしない。

ひたすた陽介の体調を気遣うばかりだった。


陽介の意識がはっきりしてくると淳は自分の単車の後ろへ乗るように指示した。


淳が単車に跨り、エンジンをかけた。フラフラした陽介がその後ろへ乗ると背後から爆発音が聞こえた。


2人は振り返ると道の中央に転がった陽介の大破した下品な単車が爆発し、炎上していた。


野見山は闇に吸い込まれるような速さで走り去って行っていた。


その後ろ姿をしばし2人で見つめた。


野見山はタバコの空き箱を投げ捨てた後で、振り返らずにヒョイと手を上げたように見えた。


彼は再び背の高い街灯の前から去り、暗い闇へと姿を消して行った。


淳も野見山とは逆方向へ単車を走らせ、家路へ急いだ。


陽介は野見山が何処へ行くのかが気になっていた。


金は持っているのか?


泊まる場所はあるかい?


お前が何も食わずに過ごせるわけないだろ?




野見山はひたすら単車を走らせた。身をかがめ、猛スピードで爆走した。


現実から逃避するかのごとくコーナーを攻めて限界までアクセルを開けた。


急ぐ必要が全くない男が、涙を滲ませながら走り去る。



”明日まではまだ長いだろうよ野見山”


陽介は心の中でそう呟いた。


”馬鹿が!俺にとっちゃもう夜明け前だぜ陽介”


そう言われた気がした。


陽介は再度その言葉に返事をしたりしてみたのだった。


ふと前を見ると淳の肩が少し震えているようにも見えた。




気のせいかもしれない。


ただそう思いたかっただけかもしれない。


淳には何も言葉をかけず、殴られた衝撃を味わいながら明日のこと、


そしてそれ以降のことを考えた。









『せっかく会いにきたのによぉ、随分ご機嫌斜めだな、淳。光恵さんもお前も俺を煙たがってるわけだな?

よく分かったぜ。』


淳の顔を睨み付けて野見山はそう言った。


『その通り。まとめるとそういうことだ。』


『これで、俺とお前は何の繋がりも無くなる。覚悟はできているのかよ?』


『何の覚悟だ?』


『俺をハメといて無事に家まで帰れるとでも?』


『ははっ。警察はすぐ来るぜ。電話1本でよ。それでジエンドだ。』


淳は勝ち誇った態度でそう言った。野見山は眉間に皺を寄せた。


興奮し始めた野見山には淳の言っていることがよく分からなかったようだ。


3秒ほど、ただ前を向いて運転をした。


淳が再度口をひらこうとした瞬間、


しかめっ面の野見山は言った。


『随分ノンビリした発想だな。』


いきなり拳銃を取り出し、淳に向けて発砲した。弾は単車に命中し、淳は転げ落ちた。


ハンドルをきりながら急ブレーキをかけた野見山は、そのまま淳のところまで歩き、


朦朧としている淳に蹴りをブチ込んだ。


『そういや、3代目の襲撃をお前は見てなかったよな?』


淳は全く動けなくなっていた。


『あぁ。、見ちゃいないよ。何度も聞かされたけどな。』


『じゃあ見せてやるよ。』


『待てよ。これは言わせろ。

お前が余計な行動をとらないようにと、念の為に渡しといたよなぁ、お前にだけSCREAM襲撃計画書をよぉ。

その時、俺は何て言って渡したよ?』


『知らねぇな。』


『絶対捨てろって言ったはずだったが?』


『捨てた・・・かな?もう無いよ。』


『無いじゃねーよ。今、俺が持ってんだよボケ。お前、スポーツバッグのポケットに突っ込んで忘れただろうが!』


『かもな。でも、それがどうした?』


『それを書いたのが俺だと思われたらどうするよ?CANDYがSCREAMを襲撃したことはもうバレバレだから目を瞑るとしてだ、

お前だけに渡してんだぞ、こっちは!』


『テメェが俺をハメようとして嘘ばっか書きやがるのが悪い。』


『何一つ嘘は書いてねぇ。ただし襲撃前の集合場所や時刻、服装、注意点を詳しく書きすぎた。念には念を入れて丁寧に書いたんだよ。けどな、襲撃の詳細や襲撃後の行動については一切触れていない。お前には必要なかったからな。』


『それがどうした?』


『嘘は一つも書いていないが、明らかに不自然なメモだ。お前をハメた証拠となりかねない。』


『小心者が!それに、俺は大体そんなもの読めん。』


『仮にお前が読めなくても、他の奴が読んで疑問を抱かないとは言い切れないだろうが。』


『今更そんな話か!保身の事ばっか考えてやがれ!』


髪の毛を掴み上げ、パンチを何発も頬へ入れた。淳の顔は早くも腫れ始めている。


『好きなだけ殴れよ。今日は、殴れや野見山!』


『格好つけてんじゃねぇ。』


淳の体にはもはや力が残っていなかった。ぐったりとした表情で野見山の体にもたれたまま、

野見山の拳に耐え続けていた。


『随分弱えぇな5代目。水泳でお疲れかい?3代目はもう少しマシだったぜ。』


吐血と鼻血で真っ赤な顔をした淳は小さな声で野見山に言った。


『野見山、拳銃だけは・・・』


『これか?』


野見山は拳銃を取り出し、淳の心臓の上に銃口をあてた。


『拳銃を・・・』


意識が朦朧とし始めていて上手く喋れていない。


『これが怖いんだろ?これだけは勘弁して欲しいか? あ?』


淳の口の中に銃をブチ込んで、腹を蹴り上げた。淳の前歯がからバリっという音が聞こえ、

目じりからは涙が流れている。


野見山は汚れた顔の脇を流れる二本の涙を目で追い、さらに自分のテンションを上げた。


拳銃を口から抜き、淳をうつ伏せにすると特攻服の背中の刺繍の上に唾を吐き捨て、


その上を足で踏み潰した。


『何が水泳だ。何がCANDYだ、コラ。お前だけいい思いしやがってチクショウ!』


淳の後頭部目掛けて銃を向ける。


『銃は置いてって・・くれ。』


『何だぁ?』


『銃だけは置いてってくれ・・・頼む。 』


『都合がいいことばっか言うなや。』


『ノミ・・・頼み・・ます。』


『もう喋んじゃねぇ。』


銃を握りなおし、淳の涙が濡らすアスファルトと後頭部を目で行ったり来たりさせた。

野見山の背後には背の高い街灯が立ち並ぶ。

2人は照らされながら最期の時をむかえようとしていた。


『淳、死んで償え・・・。』


淳はノドをヒクヒクさせた。


野見山は続けて言った。


『俺もいずれ・・・死んでよぉ・・』


野見山はカカトを後ろ方向から蹴られた。背中からアスファルトにズデンと転がった。

淳が寝そべりながら最後の力を振り絞り、野見山に足を引っ掛けたのだ。


すぐさま銃を持ち直し、片膝をついて構えた野見山は一瞬淳から視線を外した。


目の前から突っ込んで来た下品な単車のライトが野見山の顔を真正面から至近距離で照らした。

ヤカマシイ単車はそのまま野見山に激突し、ドライバーは宙に浮き、遠くまで飛んで行った。


野見山は単車に押されて吹っ飛んだ。


単車を両手でグリップし、勢いに押されて引きずられながらも、単車をそのまま後ろへ投げやった。


上半身裸の野見山の肌が焦げた臭いがたちこめた。

さすがの野見山も悶えている。

両手両膝をつき、痛みを声にしていた。


『ノミ・・・銃はもうよせよ。置いていってな・・・。』


淳は力尽きた。


アスファルトの上で気を失っていた。






『陽介か?あ?陽介なのかい?』


野見山がわめいている。


陽介は走り回った。拳銃を見つけて拾い上げると、後ろのポケットへと隠した。


『おい、ごめんなノミ。大丈夫かよ?』


『触るな。触んじゃねぇ陽介。』








野見山はハイになってきていた。


『熱いぜ、この摩擦。いい感じだ。溶けちまいなよ。』


野見山はタイヤの感触に満足している模様だ。


終わりゆく夏の香りを聞きながら、パンの上のバターのような気持ちにひたっていた。


『そろそろ混じり合ってきたな。夏もそろそろ終わりかい?』


5感で生命体の変化を察知した。


良くも悪くも、一つ一つの存在が、しっかりと目の前の世界を作り出しているのかもしれない。


そんなことが頭の中をよぎっていた。


『世の中、なかなか上手くできてやがる。

俺も、もっとばら撒きてぇな。腐敗臭と言われようが構わないぜ。』


野見山がガンガンにアクセルを吹かした。


『まだ死んでたまるか、ちくしょう。』


それに呼応するかのように後ろから上品でエッジのきいた排気音が聞こえてきた。


『俺が5代目SCREAMに就任したらどうする?』


隣に並んだ淳が問いかけてきた。


『どうってことないな。』


『そうか。潰す!って言われると思ったが。』


『ふん。お前、それは本気なのかよ?』


『本気だったら?』


『潰すよ。速攻な。』


『繰り返しか?』


『歌でいうところのサビの部分のようなもんだ。盛り上がるだろ?』


『ははっ。まるで人生そのものだ。お前はそこしか歌えないよな。』


『ああ。サビばっかな。』


『だが、やり過ぎは良くない。名曲も台無しだぜ。』


『俺はお前だから組んだんだ・・・。だから潰してさ・・・。』


『俺の下に付く気は?』


『きっと、お前にはついて行けないよ。』


『矛盾してないか?』


『さぁ、なんとなくだ。深くは考えていない。』




淳は右側から、野見山が左側から目の前のトラックの脇をすり抜ける。

進路が2つに別れた。


お互い話すことなくレースが始まった。


トラックを追い越した後、淳が先頭に立って、そのままアクセルを全開にして走り出したからである。


”淳、CANDYは今日で終わりかな?”


”お前がヘッドだから、お前がちゃんと決めろ。それとも俺がヘッドになって決めてやろうか?”


野見山は淳の背中を見ながら空想の会話を交わしていた。


変な汗をかきはじめていた。


『くそ、暑いぜ。』


特攻服の上を脱ぎ、上半身をあらわにした。野見山も負けじとアクセルをあけた。


淳の単車に寄せるように近づく。危険な雰囲気がたちこめた。


『舐めるなよ、淳。』


上着を淳の頭に放り投げ、ニヤっと笑った。淳からは苦し紛れの蹴りが飛んできて、野見山の単車を押した。

お互いの単車はバランスを崩し、距離が空いた。


『お前をハメたのは、俺だよ。』


『テメェ・・・。』


『おせーよ、気づくの。』


『CANDYはもう終わりだ。今日かぎりで終わる。』


『そうだな。それに、俺には特攻服は似合わん。古臭い。脱ぎたいのはこっちの方だぜ野見山さん。』


『・・・』


『明日、会場に来るなよ。』


『お前、本当に5代目になるつもりか?』


『悪いか? 俺が頂点に立つんだ。羨ましいか?』


『何をたくらんでやがる?』


『お前の頭じゃ理解できないだろうよ。黙って俺の言うこときいとけや!』



『全部混ぜて焼け bread ・・・』


『ついに狂ったか?』


『光恵さんの詩だ。』


『もう忘れろよ。むこうも辛いみたいだぞ。』





19:00手前にはCNADYのメンバー7人が特攻服姿で屋上前に集合していた。

野見山はビルの中で斉木に手渡された特攻服に着替え、今エントランスから出て来ようとしている。

単車は計6台。斉木の後ろに田口が乗り、旗を持つ。


野見山が姿を現した。


『今日は喧嘩はナシってことで。田口、旗しっかり持てや。』


『まかしとけ。』


『じゃ、もうじき出るぞ。』


ついに野見山の単車のエンジンがかかった。すると直ぐに残りのメンバーもエンジンをかけ始めた。

爆音が鳴り響く。

メンバーは単車に跨った。


『ルートは?』


後ろから声があがった。野見山はただ前を見ていた。代わりに淳が後ろを振り返えり、大きな声で言った。


『ルートは野見山に任せる。はぐれたら随時解散。』


淳が前を向くと野見山の横顔がニヤリと笑ったように見えた。


『よぉ、淳、ついて来れんのかよ?』


野見山が小さな声で囁いた。


『ふん、最後まで付き合ってやるよ。』


野見山は首をひねり、顔を後ろへ向けてメンバー全員に言った。


『恐らく、これが最初で最後のパレードだろう。色々あってすまなかった。今日は思う存分走れや!』


”お前もな”という突っ込みが後ろから返ってくる。


淳は黙ってスタートを待った。野見山は道の流れを見ている。道路は混んでいた。

その姿を見て淳は後ろを振り返りながらニッコリと笑った。


『野見山らしいな。19:00だし、仕方ねーよ。』


後ろは急かすことなく野見山の合図を待った。


『よっしゃ、行くぞ!』


野見山が国道に突っ込んで行った。メンバーは後ろに続いた。車の間を掻い潜って走って行く。

時間帯が早いだけに、特攻服姿や単車の騒音は大きな注目を浴びた。

陽介は調子に乗って車をかわし、先頭の野見山に並んだ。


『さすが野見山さん。大注目を浴びてますよ。よっCANDYのヘッド!』


『計算通りだバカヤロウ。』


『さっすが。』


『嘘だ。へへっ、買いかぶんじゃねぇよ。おう陽介、しっかりケツ走っててくれよ。とばすからな。』


『OK。』


斉木はアクセルを吹かしまくり、後部座席で田口が旗を靡かせていた。


野見山のスピードはどんどん増して行く。


交差点でも、後ろの単車が車を止めるのを待たずに、自らガンガン突っ込んで行った。


皆、くらいつくように追尾した。


TMCのパレードはもの凄いスピードで進行して行く。


道行く人々はあっけにとられていた。


グダグダと走るチームと比べれば、ある種、好感の眼差しで見られていたようにも思える。


そう言った意味で、今晩のTMCは野見山の存在そのものの様であった。


これだけ注目されるのも野見山の存在なしでは有り得ないということをメンバーは走りながら確信していた。


そのような星の元に生まれたのではないかとすら思った。


無計画な割には、運のいい奴。


皆がそう思った。


先頭を突っ走る彼の背中を見て、


どんなに緻密な計画を練ろうが、野見山のインパクトには勝てないかもしれないと久しぶりに思い出させられていた。


メンバーはある種の心地よさと懐かしさを噛み締めて走っていた。




19:30前、2ケツで乗っている斉木と田口の単車が遅れ始めた。

すると彼らは最後尾を走っていた陽介にケツ持ちを代わるという合図を出してきた。

陽介はそれに応じ、スピードを上げて前へ向かった。


野見山や淳の単車はずっと先を走っていると思われ、大分距離があいてしまっている。

2人の独走となってしまっていた。


陽介は淳の言った随時解散の意味を考えていた。


『確かに、集まってバイバイって言ったところでノミは帰る場所ないもんな・・・。


アイツ、このまま暗闇に消えて行くのかな。


可愛そうに。


って俺、哀れんでるだけなのかな?


分からないよ野見山!


すまん。』




陽介は頭を悩ませた。



『なぁ淳、お前は今晩とことん付き合うのか? 


なぁ?どこまで走るんだよ。


いつか別れなきゃいけないだろうよ。』




独り言を爆音で掻き消しながら走る。




『ちくしょう!俺もまだまだ付き合うよ。』


陽介は車をかわしながら、スピードをどんどん上げていった。








淳は事件当日の野見山の逃亡劇の話を聞きながら歩いた。


時折2人は顔を歪ませて笑い合った。


まるでCANDY結成時の2人の姿に酷似していた。


他チームのメンバーはおろか、同学年の誰もが近寄らず、拒絶し、恐れ、嫌った野見山とまるで幼馴染かのような付き合い方をしていた淳の姿がそこにはあった。


また、誰にも笑顔を見せることなくひたすら喧嘩に明け暮れていた鋭い目つきの野見山がそこには存在した。


『それよりよぉ、知らなかったぜ、お前が光恵さんの事好きだったなんてよ。』


『さんって。まださん付けかよ。まぁ、綺麗だよな。わかるよ。』


『奇遇だな。』


『うるせっ。』


『いいのかよ?』


『いいも何も。思う存分付き合えよ。俺は付き合ってないからな。安心しろ。』


『陽介は?』


『後のお楽しみよ。もう会えるぜ。銃で脅しちぇえ。っつーか、お前らトラックでずっと一緒だったんだよな。それ以来か。』


『あぁ。あん時、また会おうって・・・そう言ってくれた。また遊ぼうぜって。』


『アイツらしいな。』


『お前、俺のバッグ持ってんだって?』


『あ、あぁ。一応な。なんつーか、パワーが出ればなと思ってよ。』


『お前らしくねーな。』


『そうか? おっともうすぐだ。そこ左に進んでくと我が中学のエリアだ。』






野見山はニコニコしながら淳の後ろを歩いた。


淳が振り返り、指で陽介を指した。


野見山は微笑んだ。


『行って来いよ。』


陽介の座っている列の一つ後ろの列を歩き、背後から近づいた。


陽介はポータブルのゲーム機で遊んでいた。


『come back!』


陽介の頭にチョップをかました。


『・・・おい!何してんだよ。おい、おい、おい。待った、待った。』


『what's up?』


『oh!suck!いやいやいや、no.no.no oh back!』


『久しぶりだ。来いや。淳もいるけん。』


『ははっ、脱走か。おい、脱走犯。すいませーん、脱走犯がいます!』


陽介は飛び跳ねて喜んでいた。


淳と3人で集合し、少し離れたベンチに腰掛けた。


『おう陽介、お前ちゃんと泳いでんのかよ?』


『お前、そりゃねーだろ。今日はな、もう2回も泳いでんだぞ。』


『何?淳の泳ぎは見たが、お前のは見てねーな。』


『テメっ。寝てただろ、おい!菓子か、なぁ。ボリボリ食いやがって。菓子食いにきたな、脱走犯。』


『そういや、菓子届いたか?』


『何のことだ?』


『あの野郎。まぁいい。今日はもう終わりなのか?』


『俺らはもう終わったよな? 俺と淳は明日の決勝レースとリレーを残すのみだ。』


『お前らが決勝行くとは・・・、やっぱ明日来りゃよかったな。』


『舐められたもんだぜ。淳、言ってやれ、舐めたやつは?』


『セザール!』


『・・・・、・・・・見たか、野見山。セザールはあのロープで縛ーる。』


『亀甲か!キッコーなのか?』


『まいったか野見山・・・、檻の中で使っていいからな。』






『相変わらず下品だな、お前ら。よぉ、今日走らないか?』


『単車か?』


『あぁ。』


『俺ら、明日が最終日だからなぁ。』


『そうか・・・。俺、もし捕まったら、それまでだからよぉ。それでゲームオーバーだからさ。』


野見山の表情が曇った。明日この会場に足を運べる確証が彼には無かった。


『やっぱ駄目か?』


『駄目っつーか、なぁ淳?』


『うん。まぁ、でも走りたいよな。逆に明日はもう最終日だしな。明日レースが終了すればブンブン走ってるわけで。』


『誤差か?』


『うーん・・・。せっかくだしな・・・。』


『走っちゃいますか、淳さん?』


『ちゃんとノミと揃って走ったこと無かったもんな。』


3人は今晩揃って走る話しをした。たった一日で終わったCANDYが今夜復活する。

たった一夜だけ、メンバーを集めて思いっきり走ることとなった。

パレードの先頭は野見山が走ることで決まった。


『ノミの特攻服は?』


『斉木ん家に行けば、何着かあるはずだ。陽介、旗持ってこいよ。』


『ありがとな。いままで色々あった。実は、お前らに言いたいことも幾つかある・・・。走りながら紐解いて行こう。今夜はかっ飛ばして走ろう。全てがクリアになるまで。』


『集合は?』


『19:00 屋上前だ。それまではエンジン切っとけ。先頭は野見山。ケツは陽介が持て。』


『喧嘩は?』


『全部シカトだ。』


『どうもな。あんま悲しい顔して走らないでくれよ。ホタルの光みたいになっちまうからよ。』


『まかせとけ。』