淳がスタンドへと消えて行く。
トオルは光恵の横へ座った。
さっそく光恵はメールを打ち始めた。
『アナタが相手の方が幾分楽ね。』
光恵が携帯の画面に目を向けたまま呟く。
トオルは面白くない顔をしつつ、光恵が何を書いているのかを気にした。
光恵はトオルのその素振りに気づいたかは不明だが、腕を絡ませ、さらに呟いた。
『嘘だよ。』
トオルは光恵を睨み付ける。
光恵はトオルの目を見つめ返した。
『お前、こういう場合はまず誰にメールすんの?』
『え?あぁ、一応泊君にね。私、淳君の5代目就任なんて聞いてなかったから。』
光恵はSCREAM4代目の泊にメールを入れていた。
光恵は淡々としていた。
トオルは何も言及しない。
『さてと・・・この件は返信待ちね。』
光恵が仕切り直すように言葉を発した。
トオルは淳の5代目就任の話しは今聞かされて初めて知った。
トオルの中では有り得ないことであった為、淳のハッタリだろうと心の中で思った。
光恵は3代目のトオルには5代目就任の経緯を何も聞かなかった。
トオルも光恵の振る舞いに対し、何も言わない。
光恵は次の行動を考え込んでいるようだ。
時たま首をかしげる。リズムを取っているようにも見える。
光恵の癖だ。
その時、わずかではあるが、鼻から吐息が漏れているのが
トオルには感じとれていた。
トオルの口に光恵の髪の毛が触れた。
『私、どうしたらいいかな?』
『呼べよ、野見山。』
『うん。少し、自由にしてもいい?』
『自由って?』
『お酒飲ませて。何か飲まないと・・・』
トオルは光恵の要求に応じた。席を立ち、腕を絡ませたまま2人は歩いた。
ラウンジを出ると通路は混んでいる。
2人が横に並んで歩くには若干狭いぐらいだ。
トオルが1歩先を歩くかたちとなった。
光恵は肘を伸ばし、トオルの手を握った。
トオルは特に何もリアクションはしない。
売店でトオルが幾つかアルコールとツマミを見繕う。
品物を見せたトオルに光恵は頷いた。
会場内から大きな歓声が聞こえ、トオルは売店前の入り口からスタンド席を覗き込んだ。
光恵はトオルの手をほんの少し強く握り、トオルに見に行こうと無言で促した。
光恵は昔からトオルに結論を下させる。
そして、それを受け入れる。
トオルが判断する前に光恵はサインを必ず出す女だった。
そのサインはとても微妙なものばかりだ。
トオルはそのサインに半分は気づき、半分は気づかない。
ある種、その辺のサービスマインドは
これまで光恵に育てられてきたと言っても過言でははない。
2人はスタンド席に入り、空席を探した。
座りやすい端っこの席は無い。
一時的な観戦とはいえ、連結されたベンチの中央部までトオルが頭を下げながら
光恵をエスコートした。
2人が席に座る。
まるで2人が出会ってまもなくに行った映画館での座り方のようだった。
2人ともそれは心の中で感じていた。
2人の関係だけがあの頃と大きく違った。
そもそもの出会いは海だった。
SCREAMの男メンバー6人とメンバーのバイト先の知り合いの女友達を4人集めて
遊んだのがきっかけだ。
皆、SCREAMのメンバーであることは隠して遊んだ。
バーベキューとサーフィンを楽しんだ。
光恵は前の晩に遅くまで酒に付き合っていたため、集合時間に間に合わず、
3時間ほど掛けて電車とバスを乗り継いで一人遅れて現地に現れた。
今から思えば、とにかく凄い女だった。
初対面の印象は、おしとやかな女とは遠い女だった。
もちろん美人だ。
フットワークが軽く、行動力があり、まわりに気をつかう。
場を盛り上げるために、たくさんお酒を口にした。
男勝りという印象を持った男もいたかもしれない。
しかし、トオルはそうは思わなかった。
彼女は甘えることができた。
頭のいい女だ。
帰り際まで光恵は他の男とばかりハシャイでいた。
2台で来た車で帰る為、5人5人にわかれた時、光恵はトオルとは別の車に乗っていた。
出発間際になって光恵がトオルがいる後部座席に移り、
後ろに4人が乗り帰ることとなった。
光恵は酔っていた。
横にいるトオルと話したかと思えば、すぐに寝てしまった。
嘘寝だ。
トオルにもたれ掛って寝ていた光恵は腕を絡ませて、トオルの肩に顔を置いた。
トオルの肩を噛みながら手を握ると自分の体に摺り寄せ、何をするでも無く、
顔の位置をずらして再び眠る。
この方が寝やすいと言わんばかりのようだ。
光恵が何度も姿勢を変えるうちに2人の唇は重なった。
光恵から迫ったのだ。
右隣に2人がいる後部座席でトオルと光恵は何度もキスした。
SCREAMの第2のアジトの勝どきまでは時間があった。
およそ1時間半から2時間。
光恵は途中で友達らしき人に電話を入れている。
どうやらこれから地元に帰って、また飲むような約束をしている。
車内の皆に聞こえる大きめの声で話していた。
午後8時、解散場所は築地の市場前だった。
皆がそれぞれ解散して行き、光恵と2人きりになると、
光恵は再びどこかへ電話をしている。
断りの電話のようだ。やっぱダメかもなどと言っている。
先程、威勢の良い声で電話していた地元での約束をキャンセルしている模様だ。
トオルは感じとった。
『もう少し飲みに行こうか?』
トオルはとりあえず結論を先送りにし、飲みに誘った。
『どこ行く?』
小さな声で光恵が囁く。
体じゅうを触りあい、キスしながら2人は歩き出した。
おそらく車内から含めてキスは100回は越えているであろう。
光恵は積極的だった。
10Mも歩かない内に立ち止まり、濃厚なキスをした。
光恵は濃厚なキスの度に体を反らせた。
トオルの顔が光恵の胸の前に来る。
と、同時に下半身が密着する。
トオルは興奮したが、光恵から何かを試されている気分にもなった。
トオルは汗ばんだ首筋にキスをしながら考えた挙句、その度に胸を選択した。
入った寿司屋で座敷に座った。
光恵は車内から度々言っていたことがあった。
上のキャミソールがバーベキュー臭いこと頻りに気にしていた。
トオルは胸に顔を寄せ、ただその匂いを嗅いだ。
寿司屋で光恵は自分の好物である甘エビやボタンエビをオーダーし、
トイレに向かった。
持ち金が不足していたことに気づいたトオルは立っていた店員にその旨を伝えると
少し先にあるコンビニでおろせると言ったのでダッシュで金を引き出し、席に戻った。
自分も時間差でトイレに行っていたと誤魔化そうと思ったが光恵の姿はまだ無かった。
光恵が席に戻る。
2回目のオーダーの品数がぐっと増えた。
金を引き出しに行った情報を店員から聞き、
気をつかって、再びトイレに戻って長いことやり過ごしていたのではないかとトオルは焦った。
トオルは体裁を気にするところがある。
2回目に注文した物がとどく数分の間に光恵はカウンター席に移りたがった。
当初、座敷に座りたいと光恵から聞いたトオルは腑に落ちなかった。
冷房が強くて寒すぎるからだという。
トオルは店員に冷房を弱められないかと尋ねてみたが、光恵が途中で間に入り
それを断った。
トオルは、それならばカウンターに移れないかと再び店員に尋ねると了解が得られ、
カウンターへと移った。
光恵はトオルの自宅に行きたがっていた。
洋服の匂いも冷房も、自宅に行く口実だった。
トオルとしてはSCREAMのアジトに関係者以外を入れたくなかったし、今まで入れてこなかった。
カウンター席に移るころにはトオルもそのサインには気づいていた。
光恵は八海山を飲みながら寿司を摘んだ。
部屋に入れないトオルに子持ちなのか、妻持ちなのか等ということを冗談で聞き始めた。
トオルは肯定も否定もせずにのらりくらりとかわした。
最後に大トロを頬張ると、美味しいねとまた短いキスをした。
唇吸った音が大きく鳴った。
トオルはホテルを探して歩いたが土地柄、なかなか見つからない。
ますます自宅へ連れて行かなきゃならなくなってきている。
光恵の絡みはどんどんハードになってきており、しかも酔っている。
トオルは濃厚なキスを受けながら思考を巡らせた。
考えながらも理性は誘惑には勝てずに、駐輪所施設の隅で体を結んだ。
もう少し、挿入していたいというところで光恵がゴネ、身をよじる。
光恵の方が数段上手だ。
屋外じゃダメ。
4回目の挿入後に彼女は口にした。
それまでトオルはイケると思っていた。済んだら帰ろうと企んでいた。
服を身に付けてトオルは言った。
『ホテル探すから、今日は疲れたかもしれないけど、もうちょっとだけ待ってね。』
光恵は頷く。
歩き出すとまた身を絡ませ、道の真ん中で二人は抱き合う。
一向に進まない。
『お前もう帰れよ。』
トオルはビシっと言った。
『うん。そっか。じゃ、帰ろうかな。』
光恵は格段悲しい顔は見せない。
トオルはそれがちょっと気になった。
光恵の顔を覗き込む。
『ヤリ逃げか・・・』
光恵がそう呟いたのが引き金となった。
トオルのプライドらしき物が揺さぶられた。
無言のまま歩くとホテルは見つかった。
一般の安めのホテルだった。
トオルは彼女を連れて入る。
料金は前払いだった。
光恵はとにかく激しかった。
3回終えるとトオルは力尽きた。
2人は眠りにつき、トオルは3時30分には目をさました。
『ちょっと行かなきゃいけないんだ。』
トオルがそう言うと光恵はベッドの上で頷いた。
すぐ帰るのもあからさまなので、PCでインターネットを数分し、
彼女の頭をなでた。
気づくとデスクに置いてあった紙に連絡先を書いていた。
連絡先の交換などしていなかったのだ。
トオルは今夜限りの付き合いでお互い遊び半分で接していると思っていたが、
別れ際に自分から連絡先を書いていた。
その後、一向に彼女からの連絡は無かった。
トオルには若干寂しさが残っていた。
10日後に彼女からメールがきた。
トオルは内心嬉しかった。
すぐに光恵と付き合うことにしてしまったのだ。