野見山はハイになってきていた。


『熱いぜ、この摩擦。いい感じだ。溶けちまいなよ。』


野見山はタイヤの感触に満足している模様だ。


終わりゆく夏の香りを聞きながら、パンの上のバターのような気持ちにひたっていた。


『そろそろ混じり合ってきたな。夏もそろそろ終わりかい?』


5感で生命体の変化を察知した。


良くも悪くも、一つ一つの存在が、しっかりと目の前の世界を作り出しているのかもしれない。


そんなことが頭の中をよぎっていた。


『世の中、なかなか上手くできてやがる。

俺も、もっとばら撒きてぇな。腐敗臭と言われようが構わないぜ。』


野見山がガンガンにアクセルを吹かした。


『まだ死んでたまるか、ちくしょう。』


それに呼応するかのように後ろから上品でエッジのきいた排気音が聞こえてきた。


『俺が5代目SCREAMに就任したらどうする?』


隣に並んだ淳が問いかけてきた。


『どうってことないな。』


『そうか。潰す!って言われると思ったが。』


『ふん。お前、それは本気なのかよ?』


『本気だったら?』


『潰すよ。速攻な。』


『繰り返しか?』


『歌でいうところのサビの部分のようなもんだ。盛り上がるだろ?』


『ははっ。まるで人生そのものだ。お前はそこしか歌えないよな。』


『ああ。サビばっかな。』


『だが、やり過ぎは良くない。名曲も台無しだぜ。』


『俺はお前だから組んだんだ・・・。だから潰してさ・・・。』


『俺の下に付く気は?』


『きっと、お前にはついて行けないよ。』


『矛盾してないか?』


『さぁ、なんとなくだ。深くは考えていない。』




淳は右側から、野見山が左側から目の前のトラックの脇をすり抜ける。

進路が2つに別れた。


お互い話すことなくレースが始まった。


トラックを追い越した後、淳が先頭に立って、そのままアクセルを全開にして走り出したからである。


”淳、CANDYは今日で終わりかな?”


”お前がヘッドだから、お前がちゃんと決めろ。それとも俺がヘッドになって決めてやろうか?”


野見山は淳の背中を見ながら空想の会話を交わしていた。


変な汗をかきはじめていた。


『くそ、暑いぜ。』


特攻服の上を脱ぎ、上半身をあらわにした。野見山も負けじとアクセルをあけた。


淳の単車に寄せるように近づく。危険な雰囲気がたちこめた。


『舐めるなよ、淳。』


上着を淳の頭に放り投げ、ニヤっと笑った。淳からは苦し紛れの蹴りが飛んできて、野見山の単車を押した。

お互いの単車はバランスを崩し、距離が空いた。


『お前をハメたのは、俺だよ。』


『テメェ・・・。』


『おせーよ、気づくの。』


『CANDYはもう終わりだ。今日かぎりで終わる。』


『そうだな。それに、俺には特攻服は似合わん。古臭い。脱ぎたいのはこっちの方だぜ野見山さん。』


『・・・』


『明日、会場に来るなよ。』


『お前、本当に5代目になるつもりか?』


『悪いか? 俺が頂点に立つんだ。羨ましいか?』


『何をたくらんでやがる?』


『お前の頭じゃ理解できないだろうよ。黙って俺の言うこときいとけや!』



『全部混ぜて焼け bread ・・・』


『ついに狂ったか?』


『光恵さんの詩だ。』


『もう忘れろよ。むこうも辛いみたいだぞ。』