2人は例の屋上前まで歩いた。2人でご飯を食べるのは久しぶりだ。
『ここ来るとタバコ吸いたくなるんだよな。』
『あの屋上はプカプカ楽勝で吸えたからな。もう、この辺から火をつけて屋上に上ってたよな。』
『淳さん、吸ってないでしょうね?』
『吸うわけないだろ。』
『怪しいな、その否定の仕方。いやいや吸ってもいいと思うんですけどね』
『あぁ、最終日終わったら吸うよ、多分な。』
『その時はお供します。』
『箱ごと火つけてやるよ。20本束ねて吸えや。』
2人は店に入った。店に客は入っていなくガラガラであった。カウンターの右隅に陽介が座り、その左に淳が座った。オヤジさんは冷たい烏龍茶を2つ出した。
『いらっしゃい。』
『若鶏のから揚げ定食かエビフライ定食・・・。』
『どっちだよ。俺は野菜炒め定食お願いします。陽介、お前はウナギいっとけよ。』
『ウナギ?それでは、うな丼お願いします。』
『あいよ。野菜炒めとうな丼。』
『淳、俺金無いって言ってんだろ。うな丼食ったら、明日会場まで行けるかわからん。』
『得意のカツアゲでもしろや。うそうそ。お前はスタミナをつけなきゃな。今日は珍しくおごってやろう。』
『マジかよ、淳さん。』
『今日だけな。』
2人はがっついて食べた。腹が猛烈に減っていた。
『アンタラ部活でもやってるのかい?』
『はい。水泳やってます。全国大会っすよ。』
『あぁ、そこの中学の。見たよ横断幕。水泳部 全国大会出場って書いてあったね。今何年生なの?』
『3年です。最後の大会っすね。』
『そうかい・・・。』
2人は既に定食を半分以上食べていた。
『お兄ちゃん、野見山君って知ってるかい。』
オヤジさんは淳に向かって言った。
『はい、知ってますが。』
『確か同級生だったよな。彼、以前ウチに食べに来たよ。』
『そうなんですか。野見山のことはよくご存知なんですか?』
『いや、詳しくは知らんよ。アンタは仲良いのかい?』
『まぁ。普通ですよ。』
『野見山君って捕まったじゃない。当時その話題で彼は一匹狼だったとよく聞かされたからさ。君のバッグは・・・違うか?』
『えっ・・そうです。』
『そうかい・・・。頑張りなさい。』
オヤジさんは洗い物を始めた。陽介は2人の会話がよく理解できなかった。
『どういう意味だ? そのバッグがどうしたっていうんだ?』
『うーん・・・。』
『野見山の物なのか?』
陽介はトオルのプールサイドでの推測を思い出していた。
『みたいだな。ノリで返事したからよくわからないが。』
『・・・』
『気にするなよ。食べようぜ。』
2人は残りをたいらげた。
『ごちそうさま。』
『あいよ。まとめてでいいのかな?1580円。』
淳は2千円を出した。
『君がミッドナイトキャンディーの淳君か。』
『えっ?』
『はい、お釣り420円のお返し。どうもありがとう。さっき野見山君の彼女が久しぶりに来てね、少し話したんだ。君の席に座ってたんだがね。』
『光恵さんだ。』
陽介が察した。
『彼とは仲良かったのかい?』
『ですから、普通にいいですよ。』
『いや、彼女がね、まー何というか・・・』
『直接話してみますから。ごちそうさまです。行くぞ陽介。』
『おっと、お兄ちゃん達、荷物忘れてるよ。』
淳はバッグを掴み取ると引き戸を開けて、外へ出た。大通りの奥の車線に駐車していた赤い車が発進した。
暗くてはっきり見えなかったが淳の目には光恵が運転しているように見えた。
陽介は気づいてないようだった。
『おい、やっぱ電車の中に光恵さんいたのかもな。』
『気持ち悪い女だ。』
『お前に用があるんじゃないか?』
『何故俺に直接話さない?』
『それは俺に言われても・・・。』
『いいよ。俺の問題だ。そうだ、お前に言っておこう。俺は光恵に恨まれているかもしれん。野見山の件でな。勿論しっかり話すよ、じきに。大会終わったらな。つまらんことだよ、濡れ衣だ。』
『野見山を切ったっと思われているんだろ?』
『そうかもな。下らん。下らんよ、ほんとに。そうだろ?』
『まぁ。』
『いいか、馬鹿には付き合うな。どう見たって、あいつはマトモな女じゃないだろ。クレイジーだ。気をつけろよ。いらん事は話すな。面倒なことになるだけだ。約束してくれ。俺とお前の仲だろ。』
『わかったよ、わかった。とりあえず、俺は話さない。それでいいな。お前がどう思うか分からんが、いま俺はあまり事件のことは考えたくないんだ。』
『そうだろ。分かるよ、俺も。相手にするな。帰ろう。気をつけて帰れよ。また明日な。』
『おう。明日な!頑張ろうぜ。』