『今夜はすげぇ夜だな。生きてると色々あるぜ。』


野見山はエンジンをかけ運転し始めた。

ホテルを出ると、まもなく銀座の標識が目に入った。


『もしもし、陽ちゃん? 着いた?』


『おう、ノミ、今電話しようと思ってたところだ。着いたぜ。』


『俺も、もうすぐだ。ちと身を潜めて待っててくれ。泊にはまだ連絡しないでくれよ。』


『分かってる。予定どうり無事きてくれよ。 あれ? ノミ今なにしてんの?』


『トラック。』


『乗せてもらったのか! ノミらしいな。』


『ああ。また連絡するぜ。』


野見山はトラックを停めて、ナイフで髪の毛を切った。

運転席を降りて、コンテナを開けて、警官の制服に袖を通した。

一番血が付着していない佐々木の制服だった。警棒、靴、を身につけ、拳銃は腰のホルダーに入れた。


野見山はそれらしき年齢の者に手当たり次第SCREAMの第二のアジトの聞き込みを始めた。


『SCREAMを知ってるよな?』


知らない。知りません。知らねーよ。


野見山は知らねーよと答えた者を疑った。拳銃を突きつけ再度聞いた。

しかし、誰も知っていると答える者はいなかった。


野見山は質問を変えて再び聞き込みを開始した。


『蓮見トオルを知っているか?』


トオル君でしょ? という答えばかりだった。トオルの評判は良かった。凶暴SCREAMの名前は口にしないが、トオルの名はすらすらと喋る奴らが多かった。勝どき方面に潜伏していることは確からしいが

それ以上の情報が聞けないでいた。


野見山は思いたったかのごとく、本屋へ入った。

店員の元へ直行した。


『警察だ。蓮見トオルを探している。最近、本を買っていかなかったか?』


『蓮見様ですか?・・・えー、ちょっとお客様のお名前までは・・・。あっ、ご来店されることはほとんどありませんが、注文はよくお受けしますよ。女性の方が大体受け取りにこられますが。』


『住所は?』


『さぁ、電話番号なら・・・。』

店員は電話番号を野見山へ伝えた。


『どんな女だ?』


『20歳ぐらいのお若い方ですよ。多分、ホステスさんじゃないでしょうか。接客以外にお話ししたことは無いので分かりませんが。』




野見山はその場で電話をかけた。


『もしもし?』


『はい、もしもし』


『警察のものですが、接客中でしょうか。』

野見山は自然と敬語を使っていた。


『・・・いえ、今は。警察の方? 』


『お忙しいと思いますので本題から入ります。』

野見山は無理やり話した。声はまだ幼い部分もあったが、ダミ声が説得力を持たせた。


『あっ、その前にご本人確認としてお名前とお店の名前をお願いします。』


『光恵、 銀座クラブ蝶です。』

女は野見山のとっさの問い掛けに答えた。野見山はしてやったりの顔をしていた。


『蓮見トオルを知っていますね。』


『蓮見さん?』


『正直にお願いします。重大なことですから。知ってますよね?』


『はぁ、でも私はあまり蓮見さんとは関係ないのですが。』


『ほぉ、住所を聞きたいのですが。』


『さぁ?』


『では、あなたは蓮見の本を受け取って、どうされるのですか?家に持ってくのではないですか? あっ嘘は付かない方がアナタの為ですよ。』


『家までは知りません。手渡しです。』


『それは、おかしい。本当のところどうですか?』


『何もおかしくありません。すみません、接客入ります。』


光恵は電話を切った。


野見山は本屋を出て、クラブ蝶を人に聞きながら探した。


店に入ると、佐々木の警察手帳を取り出した。


『警察だ。光恵さんはご在籍されてますよね。用があります。』


受付にそう言うと、中へずかずか入っていった。

金を持ってそうなオヤジがうじゃうじゃいた。

血の付いた制服を着ている野見山を見て、店内はザワザワしだした。

入ってすぐの接客中の女性に問いかけた。


『警察です。光恵さんはどこですか?』


ホステスは震えていた。


『どこですか?』


野見山は再び問いかけた。


『ちょっと、恐がってるじゃないか! あんた何なんだ?』

ダブルのスーツを着た重役風の男がホステスをかばった。


野見山はジロリと視線を向けた。


『警察だ。文句あるか?』

ウイスキーのボトルで頭を引っ叩いた。男が床へうずくまる。


野見山は隣の席へ移り、同じく聞いていった。


『光恵さん、どこですか?』


テーブルを次々にひっくり返し、6番目のテーブルへ向かった。

スキンヘッドの男がどこかへ電話している。

野見山は構わず、ホステスに尋ねた。

その時、スキンヘッドの男が、立ち上がり、グラスを野見山の手の上で踏み潰し、ボトルで後頭部を殴った。

野見山は男に聞いた。


『どこですか?』


『なめんじゃねーぞ、コラ ガキが。』


野見山は佐々木の拳銃を男の口に突っ込み、のど仏を圧迫した。


『どこですか?』


『●&#!*△!!!』


右手で銃を口から抜き、野見山は振り返り、警帽を被りなおし、反対側に並ぶテーブルに目をやった。


右手首を返し、スキンヘッドの眉間を撃った後、左手で小型銃を10発連射し、あっという間にホステス以外を撃ち殺した。


『まだ、頑張るのか? 光恵さんよぉ』


血しぶきを浴びた野見山は笑いながら、男どもを蹴り落とし、テーブルの配置を変えた。


『接客しろや。』


野見山が血だらけのソファーにすわり、ホステスを全員つかせた。


『座れ。』


『野見山純です。はじめまして。こういう高級なとこ初めてで、緊張してます。』


『・・・・・』


『皆さん、キレイですね。』


『・・・・・』


『返事は?』

野見山は拳銃を取り出し、一発天井に撃った。


『はい!』 


野見山は笑った。


『一人一人自己紹介してくれませんか?』


野見山がランダムに拳銃を向け自己紹介させた。


最後が光恵の番だった。


『光恵です・・・』


『・・・・・』


野見山は言葉を失った。


今までこんなに綺麗な人を野見山は見たことがなかった。

拳銃をむけたまま光恵に近づくと、


『来て下さい』


そう言い、銃とは反対の手で光恵の手を握った。


そのままエレベータを下り、トラックの助手席へ誘導した。


野見山はほとんど話せなくなっていた。急にかいた汗を拭い、言った。


『シートベルト・・してくれ。』


『はい』


『あっ、うん。行きます。』


エンジンをかけた。野見山が視線を横にやると光恵は野見山を見ていた。


『こっち見んじゃねー。』


『はい。』


『勝どきだろ?』


『はい、そうです。』


トラックは走り出した。


野見山は銃をいじりながら聞いた。


『トオルとはどんな関係だ?』


『元恋人です。』




















あかーん。記事ぶっ飛んだか?


くっそー、アメブロちゃん、頼むで。


野見山ブチ切れないか、心配やわぁ。

『なかななかのモンじゃねーか。』

野見山はビニールから拳銃を取り出し、トリガーを引いてみた。

マイクのヘッドを緩めて、弾を取りだすと、すぐに詰め込んだ。


『オッサン新品って言っときながら中古じゃねーか、ボケ。 俺には分かるぜ。まぁいい。』


マイクのヘッド部分が邪魔だったので、シャツの胸ポケットへいれようと試みた。

野見山は胸ポケットに何か入っている気はしていたが、紙切れだと思い、あまり気にしていなかった。

ポケットを弄ると、色んなゴミクズと万札が10枚ぴったり無造作に折りたたまれて入っていた。


『ツイテルぜ。おっさん金持ちじゃん。』


札とゴミとを分けていると、グチャグチャな納品書の断片が目に入った。

日時、品物名、数量・・・幾つかの項目があり、ボールペンで書いたものと思われる走り書きがあった。

とても上手な字であった。走り書きではあったが、あのオッサンの書いた字とは思えない字であった。

野見山はしばしその字を眺めていた。野見山は親近感が沸き、気に入ってしまっていた。


『俺と似たタイプの字だな。こっちの方がうめぇな。』


野見山は既に地面に捨てていた紙切れを拾い、何か文字が書いていないかチェックして行った。

レシートやタバコのソフトケースの一部分や散らばったタバコの葉っぱが目に入った。

レシートは先ほどのドラッグストアのもので、肌着や靴下、タオル、消毒液、ガーゼに包帯が買われていた。

ソフトケースはキャビンマイルドであった。


野見山はすぐにそれらを丸めて投げ、違う紙切れを拾い上げた。見ると退職金・・・と書かれていた。断片だっただけに続きは正確には分からないが、おそらく退職金の明細に違い無かった。様々な数字が印字されていたからだ。この断片の続きがないかと探すと、薄っぺらい封筒があった。4っつに薄く畳まれていた。中を覗くとブツ切りになった明細の断片が幾つかあった。


『この10万は退職金の一部か・・・、すまんなオッサン。』


封筒を放ると、裏返って着地した。


威厳のある字で退職金と印字されてあった。 


宛名は 野見山正史 殿 と書かれていた。


封筒の余白に小さな字で、筆記体のような走り書きで何行か字が書かれていた。





純へ


突然でびっくりしました。まさか会うなんてね。


とにかく話せて良かったよ。


頑張りなさい。

俺はいずれ殺される身だったんだ。


だから、どうせ殺されるならお前が良かったんだ。


大きくなったね。


何か一回ぐらい役に立ちたかった。



                      元ダメオヤジより





野見山の父親だった。4歳の時離婚して以来、全く会っていなかった。


オヤジは野見山が風呂に入り始めてすぐこれを書いていた。




野見山は呆然としていた。


すぐさまトラックの運転手席に座り、オヤジの香りを嗅いだ。


椅子に体温は残っていなかった。


目をつむると、親父が居間でキャビンを吸いテレビを見ている光景が浮かんだ。


オヤジの字など、ほとんど見たことがなかったが、オヤジがいない時に勝手に入った部屋で見た書類に書いてあった字がマブタの裏に映った。


夜になると、隣の部屋に行かされ、乾いた音が聞こえた。


母親を殴りつける音と倒れ込む音だった。


オヤジはある日、テレビのリモコンが無いだけでキレた。


たった数分のことだ。その日は運が悪く、玄関の鍵が閉まっていて、


帰ってくるなり不機嫌だった。


その日、誤って鍵を閉めたのは野見山だった。


モノに当たりまくった後、リモコンが見つからないと、居間に座り込んでいた母親をどかそうとして蹴り払った。


野見山はこのやり取りだけは忘れていない。




『テメぇ、リモコンどこだ!』


『知らないわよ。私はテレビなんてロクに見ないんだから。』


『嘘つくんじゃねー、テメー、テレビばっか見てんじゃないか。』


『どうしてそういうこと言うの?よく言えるわね。私だって働いて今帰ってきたんだから。』


オヤジが母親を殴りつける音が聞こえる。


『もうテレビと一緒に出てってよ。』


『テメーが出てけ』


『人として考えられない。』


オヤジが母親を再び殴り続ける音が聞こえる。


『もう俺は人間じゃねぇ!!』




この言葉を最後にオヤジは姿を消した。


野見山は母親を助けることはできなかった。部屋を出て行き、ヤメテ!とも言えなかった。

ただただ怯えて、布団にくるまっていた。


皮肉にもいつかオヤジを殺してやりたいと考えていた。


数年の年月を経て、今日がその日となった。




野見山のオヤジは退職金を使い、チンピラから拳銃を買っていた。

すぐに欲しいとのことで、退職金のほとんどを注ぎ込んだ。


野見山は荷台のコンテナに何かオヤジの物が無いか気になり、扉を開けると

3人死体が綺麗に並べられていた。


一人は頭を打ち抜かれている。全裸で一見分からなかったが、警官佐々木だった。


残りの2人はパトカーで応援に駆けつけた警官、中込と久林だった。


コンテナの奥には警官の制服、靴など一切の持ち物が綺麗に畳まれ、整理されていた。


唯一、佐々木の拳銃は野見山が持っていた。


『役に立ちたいってこのことかよ!』


オヤジは約10年ぶりに会った思春期の息子と、どう向き合っていいか分からなかった。

でもやっぱりスキンシップがしたかったのだ。

一緒に風呂にも入りたかったに違いない。

野見山はそう察した。


『本当によぉ、不器用な野郎だな。クソがぁ。』


野見山は目に涙を溜めて呟いていた。


運転席に帰り、新品同様のケースに入った弾の数を数えた。銃に詰めた弾の数とケースに入った数を足すと、やはり2発分足らなかった。


野見山はため息を漏らすと、気分を落ち着かせる為に、タバコを吸った。

運転席に転がっていたキャビンに火をつけた。


耳をすますとサイレンの音が微かに聞こえてきた。


車内の灰皿の上の小さな窪みのスペースには陽介が行ったフリをした駅前のコンビニのレシートがあった。時刻もバッチリであった。野見山が駅の便所にいる陽介に電話をかけながら交番に近づいて行く時刻と一致した。


野見山はキーを回し、エンジンをかけた。

オヤジのトラックがうなった。









野見山は空腹を満たすと、道路を眺めていた。

身を乗り出し、いつでも車が止めれる体勢でカモを探していた。車の通りはまばらで、野見山は選別に余念がなかった。


『ぱっとしねぇな。グっとこねぇ。』


10分ほど経過すると、3台ほど自動車が列をなすように通過した後、車がパタリと来なくなった。


野見山は歩きながら、路面に面した店に駐車している車をチェックしだした。

ドラッグストアに4トントラックが停めてあった。男が店から出てくるのを見計らい声をかけた。


『乗せてもらえないか。』


『あ?なんだ兄ちゃん・・・。 どっち方向? 俺は晴海の方だけど大丈夫か?』


『好都合・・・っす』


『気をつけて乗れや。』


トラックは走り出した。


『何しに行く? 家か?』


『はぁ』


『いいなぁ、オヤジは酒飲むのか?』


『少しは』


『そうかい、そうかい、ソースかい』


トラック野郎は酔っ払っているようであった。


『アンタ、飲んできたのかい?』


『夕方な。一杯だけよ。 こうも連チャンだとよぉ、飲みたくなんだよなぁ。おっかねぇ顔すんなよ、大丈夫、大丈夫。』


『事故んないでくれよ』


『おう、お前背デカイな。なんかスポーツやってんのか?』


『別に』


『はははっ、夜のスポーツだけってか、コラ』


『オジサンは?』


『俺はバリバリよ。もう暇さえあればよ。こないだ信号待ちの時間でよぉ・・・あっありゃ昼だな。』


『・・・』


『おい、お前恐い顔してんのに、爪キレイなのな。見せてみろよ?』


『前みててくれ。危なっかしい。』


『あらっ、マニキュアなんて塗ってやがんの。オマセさんだなぁ、最近のガキは。』


トラック野郎は暗くて気づかかったようだが、血が乾燥していただけだった。


『恋人は? 彼女とかいないのかよ?』


『別に』


『意外とハンサムなのにな。長髪で。 おおっサラサラしてんだな、お前。俺も昔はお前みたくサラサラだったんだぜ。へへへっ』


オヤジがコミュニケーションを取ろうとしていたが、野見山はあまり応じなかった。


『とにかく事故んないでな、頼むぜ。』


『あいよ。』


オヤジが返事をすると会話が途切れた。20分くらいは経ったであろうか、野見山は周りの景色をずっと眺めていた。

オヤジが再び声をかけてきた。


『おい、おい、起きてるか? カラオケあんだけどよぉ、やんねぇか。 な? な?』


ひょいと体をくねらせると、座席の後ろのわずかなスペースからハンディタイプのカラオケ器具を取り出し、野見山に手渡した。


『おい、さっき寝てたか?』


『いや、外見てただけだ。ずいぶん重いマイクだな。新しいの買えや。』


『おう、そうか。起こしたら悪かったなと思ってよ。古くて悪いな。さあやろうぜ。頼むよ一曲。いつも一人で歌ってるからよぉ。』


オヤジは左手を野見山の右膝に置いた。


『よし、おれが入れてやる、貸してみろ。・・・・ほい!』


オヤジが選曲した。ラブソングだ。


『なんだよこれ。』


オヤジは野見山の膝の上で強引にリズムを取り出した。


『ハイ・ハイハイ!』


『・・・』


野見山はマイクを持ったまま、外を見た。


『降りるか? ここでいいのか? ん?』


オヤジが半笑いで問いかけてきた。


『なーんてな。』


オヤジは一応、笑いながら変な顔で濁した。


野見山の防衛本能が働いたのか、二人の密閉空間に風穴を開けるように窓を大きく開けた。

野見山なりに熱唱した。

オヤジは優しく盛り上げてくれた。手はどさくさに紛れて太ももへシフトしていた。


それを制すように言った。


『おい、アンタの番だぜ。 気をつけてな。』


オヤジは上手かった。やはりラブソングであったが、この際、選曲は野見山にとってどうでも良かった。

野見山はさらに薦めた。オヤジはそれに応えるかのように熱唱を続けた。


『はい、サンキュー』


オヤジはそう言うと、自らカラオケを打ち切り、綺麗にカラオケを元どうりにしまった。


『荷物見に行ってくれるのか?』


オヤジは熱唱してた声とは対照的に小声でそう言った。


『お手伝いしてくれるよな?』


続けてこう言うと、クシャクシャになった伝票を開き始めた。


『えーと、えーと・・・、なんだっけか。』


『荷物か?』


『一件あんだよ、一件。な?』


野見山のシートベルトを丁寧に外し始めた。


『やってくれるよな?』


野見山の顔の近くで呟いた。


『ああ。』


野見山が荷物を下ろしに出ようとすると、オヤジは手をつかんだ。


『待ってくれ、な? 先っぽだけならいいだろ? な? 降りるか? 』


『先っぽって何だよ。』


『ちょっとだけだよ。』


『変態かテメぇは。殺すぞ。触んな。』


野見山はオヤジを振り払った。


『どうしても駄目か?』


『決まってんだろ。それに先っぽは、俺のかなのか、オッサンのなのかか、どっちだ?』


『そりゃあ、俺のかな? かな?だぞ。 な?』


『な?じゃねーぞ。』


『わ、わかった。わかった。すまん。動転していた。無かったことにしよう。な?』


『車出せ、早く。』


『おう。ごめんな。ごめんな?』


『ああ。変な気起こすんじゃねーぞ。』


そのまま、沈黙の運転が続いた。再び15分ほど経過すると今度は野見山が口火をきった。


『儲かってんのかよ?』


『えっ、まぁまぁかな。』


『月、どれくらい貰える?』


『結構、時期によるねぇ、歩合だし。なんでだよ?』


『いや、金がほしい。』


『いくら?』


『50万は欲しいな。』


『何に使うんだ? 学生が。 何よ?』


野見山は拳銃をオヤジの頭に突きつけた。


『コレだよ。コレ。 欲しいんだよ、弾もな。』


野見山の表情が変わった。


オヤジが拳銃を突きつけられてもビクともしないからだ。


『幾つ欲しい?』

オヤジの声が変わった。


『・・・』


『幾つだ? あれ?アンタ、ニュースの人かい?』


野見山は再び銃を向け言った。


『ああ、俺だよ、野見山は。あと1丁は欲しい。弾は多いに越したことはない。』


『そうだったか。警察の犬じゃなさそうで良かったよ。』


オヤジは全く野見山の拳銃を一切気にしない。


車を停めて、体をくねらせると、先ほどのカラオケ装置を取り出し、ドライバーでネジをあけ始めた。


ジュラルミンの小さな箱が出てきて、それを開けると、真新しい小型な拳銃がビニールに包まれて出てきた。マイクの付け根をひねると新品の銃弾がワンケース出てきた。30発入りだ。


『今日はこの1丁しかねぇな。』


『譲ってくれないか? 5万で。』


『無茶だ。』


『幾らだ?』


『銃弾付で・・・100万でどうだ。おっとっと撃つなよ、撃つなよ。でもそのぐらい貰わないと割りに会わねぇんだ、こっちも。』


『・・・・幾らだ?』


『何のことだ?』


『あっちだ。』


『あっちか・・・しょうがねーな兄ちゃんも。あー、しょーがねーな、本当にもー。』

オヤジが興奮しだした。


『頼む。』


『その分・・・分かってるるよね、野見山ちゃん。』


『おう。』


オヤジはカーナビでホテルを検索しだした。


4トントラックはラブホテルへ向かった。


『男2人でも入れてくれるのか? しかも駐車場は大丈夫なのか?』


『ホテルか? 楽勝だ。 あのホテルならいける。』


オヤジは頼もしい返事をした。


『いけるってアンタ。 』


野見山を乗せたトラックはラブホテルへ入った。



バスルームを熱いシャワーで曇らせてから服を脱ぎ、


『見るんじゃねーぞ。』

野見山はそう言い、シャワーを浴びた。オヤジはベッドに腰掛けていた。


間が持たないオヤジは外からバスルームを覗き込み、野見山の裸体をどうにか観察しようとしていた。


野見山が異変に気づき、シャワーを止め、曇ったガラスに指で字を書いた。


『どうしたんだ?』


そう書いた字の部分が野見山の体の一部を露出した。字から水滴が垂れ、オヤジは見える部分が増えて、喜んでいる。

野見山は無視してシャワーを浴びた。再びガラスは曇った。オヤジは服を脱ぎながらガラスに顔を付けて凝視した。それに飽きると自分もシャワーを浴びに入った。


『いいじゃないかー。おっす、おっす!』


『テメぇ』


『お背中流しますよ。』


『うるせー』


『カラオケやる?』


もう勝手に背中をボディーソープで荒い始めていた。


『さっさとヤルぞ。』


『えー野見山ちゃん、僕の背中も流してよー。』


『自分でやれ、そんぐらい。』


『冷たい、二人っきりなのに』


『洗ってやるよ、ちょっと頭洗って、待ってろ』


オヤジはニコニコしながら頭を洗った。


野見山は背後に回った。


『リンスインシャンプーじゃなくて良かったね野見山ちゃ・・・』


上着から拳銃を取り出し、全裸で仁王立ちした野見山はオヤジの後頭部を至近距離で撃った。


オヤジの背中は血で洗われた。


『このボケが。手こずらせやがって。』


野見山は体を洗い直し、部屋に戻った。


オヤジのシャツを奪い、自分の服を捨てた。


拳銃を上着に仕舞い、出る準備をした。


部屋を出て、非常階段から降り、トラックへ向かった。オヤジのカラオケ装置から銃を取り出した。






『おう、俺だ。 無事、傷害だったぜ。ちなみに淳は19:30くらいに刺されたらしい。おそらくクスブリの仕業だろう。あの野郎。』


『お前、撃っただろ。警官、撃ったのか?』


『ああ、撃ったよ。とりあえず俺とは一緒に行動するな。勝どきだ。駅に着いても泊には連絡するなよ。駅でおち会おう。俺に連絡くれ。俺もそっちへ向かう。』


『撃ったって、お前・・・。』


『大丈夫だ。お前は心配するな。迷惑はかけねぇ。淳の方は警察が知ってるぐらいだ、おそらく病院にいるはずだ。加賀と井上に病院を当たってもらう。俺らは斉木の方に全力を尽くすぞ。』


『とりあえず、分かったよ。滅茶苦茶だけどよぉ。』


『まぁ、落ち着いて電車に乗れ。』


『お前も早く逃げろ。』


『おう。またな。』


陽介はすでに切符を買い終えていた。代々木で地下鉄に乗り換える予定だ。

改札を通過し、すぐさま電車に飛び乗った。


野見山は佐々木の腰に付けてあるループをナイフで切り、拳銃を腰から外し盗んだ。

ポケットに拳銃をしまうと、そのままタクシーに乗り込んだ。


『勝どきまで』


『はい。』

運転手は後部座席のドアを閉めた。その時、野見山の上着のポケットからはみ出した、拳銃に結び付いている太いループの一部がドアに挟まった。


『すみません、お客さん』

運転手は言った。


『何んだ?早く出してくれ。』

野見山は焦っていた。


運転手は再度ドアを開けた。


『どういうことだ?』

野見山は眉をひそめる。


『すみません、半ドアだったもので』


『・・・・・・』


運転手はドアを閉めた。


『あの、お客さん・・・もう一回・・・えっ?』


『出せ!いいから。』


『でも・・・』

運転手が腑に落ちない表情を浮かべている。


『この舌っ足らず野郎! はっきり言え。』


正面からパトカーが一台向迫ってきていた。

野見山はポケットの拳銃に手を触れ、ドライバーに言った。


『ドア開けろや。いいから。』

野見山が凄むとドライバーは頷き、従った。 ドアが完全に開いた。


『何が問題だ、コラ?』

パトカーが静かに前方に迫った。


『・・・・・』


『もういい。このまま出せ。』

堪えかねて、取り出した拳銃をドライバーの左腰に一回押し付け、脅した後、拳銃をしまった。

パトカーは、もうそこまで来ていた。パトカーは駅前の交差点を左折し、交番へ入っていく予定だ。

野見山は身を低くし、ドライバーに言った。


『これが最後だ。出せ、いいな。』

ドライバーは頷きもせず、タクシーを出した。ロータリーを時計回りで大回りし、駅前の交差点へ向かう。

タクシーは交差点を真っ直ぐ進む予定だ。

タクシーは左ドアを開けたまま、何事も無かったかのように軽快に走り出した。


『おいアンタ、早いよ。ゆっくり頼む。』


『あっ左様ですか。お急ぎかと思いましたから。』

外周を低速で回り、パトカーが左折した後、素早く真っ直ぐ抜けるつもりであった。

だいぶ外周を回ってしまっていた。


『ちくしょう、もうちょっと落とせ。』

野見山は落ち着いていた。


『こ、これ以上ですと止まりますよ。』


『別に構わねぇだろ』


パトカーがまもなく交差点に入ってくる。 後ろのタクシーが迫ってきていた。軽快に走ってきている。

ドライバーがバックミラーに目をやる。


『お客さん、すみません、後ろが』


『あと5秒我慢しろ。』


パトカーが低速なり左折の合図を出した。

後ろのタクシーがクラクションを鳴らした。


『馬鹿が。おい、もう行け。』


野見山を乗せたタクシーは発信した。パトカーは左折ポイントで一時停止している。

パトカーのタイヤが左にスライドした時、野見山のドライバーは残りのローターリー部分で弧を描き、大外ギリギリいっぱいを回って、交差点に入った。


後ろのタクシーが大きめのクラクションを小刻みに妙なリズムで連発した。

ドアが開いていることを前方のタクシーへ知らせているかのようだった。警官が野見山のタクシーをちらりと見た。


『踏め』


野見山は拳銃を握り締め、身をかがめて言った。パトカーの胴部分とタクシーがすれ違い、タクシーは勢い良く走り去った。




時刻は21時30分。陽介は代々木にいた。斉木からの電話が来た。

相手は泊であった。


『三浦君、今どこ?』


『いや、ちっとまだ着いてません。』


『遅いじゃない、どうしたのよ。』


『あの電車がトラブリまして。』


『ほぉ。それであとどれくらい?』


『えーなんだかんだ40、50分は。1時間ぐらいかかるかもしれません。』


『ふーん。分かった。着いたら連絡ちょうだいね。』


『はい。』


電話は切れた。泊は先ほど到着したクスブリに路線状況を確認した。


『おい、電車とまってんのか ?』


『いや、自分は普通に来れましたが。』


『三浦陽介が止まってると言っているが?』


『分かりません。もしかしたら有り得るかもしれませんが。あっ、淳のことは完璧にやりましたよ。』


『おう、聞いたよ。』




陽介は地下鉄に乗る前に、野見山に電話した。


『おう、ノミ、今大丈夫か?』


『なんとかな。どうした?』


『泊から連絡が来て、電車が止まっていると誤魔化した。一時間ぐらいは掛かると返事した。それぐらいだ。』


『OK、了解。』


『何してる?』


『タクシーだ。』


『乗るなら小刻みに乗り換えろ。無茶するなよ。』


『分かった。金もそんなにねーしな。また連絡くれ。』


野見山は陽介の言葉通り、駅から離れるとタクシーを降りた。


『汚してもいねぇ、金は払う、問題ねぇよな。いらねーこと言ったら死ぬと思え。』

拳銃を向けながらドライバーに有り金を渡し、野見山は去った。


コンビニに入るとカゴを2個持ち、食べ物を片っ端から放り込んだ。

山盛りのカゴをレジに運び、台に置き拳銃をポケットの中で握った。


『これ、くれ。 あとすまねぇが金もくれ。』

拳銃を向けた。


店員のメガネの冴えない男は動けなくなった。


『はやくしろ。金もだ。レジを開け。』


『はい。』

店員はレジを開くと再び硬直した。


『札、全部だ。早くしろ撃つぞ。』

1000円札の束と5000円札、数枚がレジに置かれた。計5万程度だ。


野見山はカゴの隙間に札を押し込み、


『万札ぐらい置いとけや!』

と鬼の形相で店員を睨み付け、捨て台詞を残すと、カゴを持ってそのまま店を出た。


店をダッシュで離れ、住宅地へ入ると電柱の横に路駐してあるワゴンと塀の間に入り込み、

札を数えてポケットに押し込み、パンをかじった。

パンや惣菜、弁当を盗んだが、結局食べたのは野見山が良く食べるコッペパンにマーガリンとジャムがサンドされたものと、その小倉バージョンであった。

勢い良くパンを飲み込むように食べると、弁当のラップを破り、エビフライとハンバーグをつまみ出し、手で食べた。ワゴンのボディーで手を拭き、エクレアとキムチのパックをポケットに詰め込むと、ワゴンの横をすり抜けた。


『こんなもんばっかあってもな。 ちくしょう金少ねぇな。』


そう呟くと、カゴを民家の庭に放り投げた。


曲がり角の自販機でジュースを買うと、タバコをふかし、落ち着いてポケットの整理をした。

色んな物が詰まっていたが、拳銃を取り出しやすいように左右を調整し、拳銃を右ポケットの一番上に置いた。


『ちくしょう、あのタクシーから金ふんだくっとくべきだったぜ、あぁ急がなきゃな。金も欲しいぜ。クソが。金持ってそうな車でもヒッチハイクするか。』


コンビニの通りを外れ、車の流れを見ていた。