野見山は空腹を満たすと、道路を眺めていた。
身を乗り出し、いつでも車が止めれる体勢でカモを探していた。車の通りはまばらで、野見山は選別に余念がなかった。
『ぱっとしねぇな。グっとこねぇ。』
10分ほど経過すると、3台ほど自動車が列をなすように通過した後、車がパタリと来なくなった。
野見山は歩きながら、路面に面した店に駐車している車をチェックしだした。
ドラッグストアに4トントラックが停めてあった。男が店から出てくるのを見計らい声をかけた。
『乗せてもらえないか。』
『あ?なんだ兄ちゃん・・・。 どっち方向? 俺は晴海の方だけど大丈夫か?』
『好都合・・・っす』
『気をつけて乗れや。』
トラックは走り出した。
『何しに行く? 家か?』
『はぁ』
『いいなぁ、オヤジは酒飲むのか?』
『少しは』
『そうかい、そうかい、ソースかい』
トラック野郎は酔っ払っているようであった。
『アンタ、飲んできたのかい?』
『夕方な。一杯だけよ。 こうも連チャンだとよぉ、飲みたくなんだよなぁ。おっかねぇ顔すんなよ、大丈夫、大丈夫。』
『事故んないでくれよ』
『おう、お前背デカイな。なんかスポーツやってんのか?』
『別に』
『はははっ、夜のスポーツだけってか、コラ』
『オジサンは?』
『俺はバリバリよ。もう暇さえあればよ。こないだ信号待ちの時間でよぉ・・・あっありゃ昼だな。』
『・・・』
『おい、お前恐い顔してんのに、爪キレイなのな。見せてみろよ?』
『前みててくれ。危なっかしい。』
『あらっ、マニキュアなんて塗ってやがんの。オマセさんだなぁ、最近のガキは。』
トラック野郎は暗くて気づかかったようだが、血が乾燥していただけだった。
『恋人は? 彼女とかいないのかよ?』
『別に』
『意外とハンサムなのにな。長髪で。 おおっサラサラしてんだな、お前。俺も昔はお前みたくサラサラだったんだぜ。へへへっ』
オヤジがコミュニケーションを取ろうとしていたが、野見山はあまり応じなかった。
『とにかく事故んないでな、頼むぜ。』
『あいよ。』
オヤジが返事をすると会話が途切れた。20分くらいは経ったであろうか、野見山は周りの景色をずっと眺めていた。
オヤジが再び声をかけてきた。
『おい、おい、起きてるか? カラオケあんだけどよぉ、やんねぇか。 な? な?』
ひょいと体をくねらせると、座席の後ろのわずかなスペースからハンディタイプのカラオケ器具を取り出し、野見山に手渡した。
『おい、さっき寝てたか?』
『いや、外見てただけだ。ずいぶん重いマイクだな。新しいの買えや。』
『おう、そうか。起こしたら悪かったなと思ってよ。古くて悪いな。さあやろうぜ。頼むよ一曲。いつも一人で歌ってるからよぉ。』
オヤジは左手を野見山の右膝に置いた。
『よし、おれが入れてやる、貸してみろ。・・・・ほい!』
オヤジが選曲した。ラブソングだ。
『なんだよこれ。』
オヤジは野見山の膝の上で強引にリズムを取り出した。
『ハイ・ハイハイ!』
『・・・』
野見山はマイクを持ったまま、外を見た。
『降りるか? ここでいいのか? ん?』
オヤジが半笑いで問いかけてきた。
『なーんてな。』
オヤジは一応、笑いながら変な顔で濁した。
野見山の防衛本能が働いたのか、二人の密閉空間に風穴を開けるように窓を大きく開けた。
野見山なりに熱唱した。
オヤジは優しく盛り上げてくれた。手はどさくさに紛れて太ももへシフトしていた。
それを制すように言った。
『おい、アンタの番だぜ。 気をつけてな。』
オヤジは上手かった。やはりラブソングであったが、この際、選曲は野見山にとってどうでも良かった。
野見山はさらに薦めた。オヤジはそれに応えるかのように熱唱を続けた。
『はい、サンキュー』
オヤジはそう言うと、自らカラオケを打ち切り、綺麗にカラオケを元どうりにしまった。
『荷物見に行ってくれるのか?』
オヤジは熱唱してた声とは対照的に小声でそう言った。
『お手伝いしてくれるよな?』
続けてこう言うと、クシャクシャになった伝票を開き始めた。
『えーと、えーと・・・、なんだっけか。』
『荷物か?』
『一件あんだよ、一件。な?』
野見山のシートベルトを丁寧に外し始めた。
『やってくれるよな?』
野見山の顔の近くで呟いた。
『ああ。』
野見山が荷物を下ろしに出ようとすると、オヤジは手をつかんだ。
『待ってくれ、な? 先っぽだけならいいだろ? な? 降りるか? 』
『先っぽって何だよ。』
『ちょっとだけだよ。』
『変態かテメぇは。殺すぞ。触んな。』
野見山はオヤジを振り払った。
『どうしても駄目か?』
『決まってんだろ。それに先っぽは、俺のかなのか、オッサンのなのかか、どっちだ?』
『そりゃあ、俺のかな? かな?だぞ。 な?』
『な?じゃねーぞ。』
『わ、わかった。わかった。すまん。動転していた。無かったことにしよう。な?』
『車出せ、早く。』
『おう。ごめんな。ごめんな?』
『ああ。変な気起こすんじゃねーぞ。』
そのまま、沈黙の運転が続いた。再び15分ほど経過すると今度は野見山が口火をきった。
『儲かってんのかよ?』
『えっ、まぁまぁかな。』
『月、どれくらい貰える?』
『結構、時期によるねぇ、歩合だし。なんでだよ?』
『いや、金がほしい。』
『いくら?』
『50万は欲しいな。』
『何に使うんだ? 学生が。 何よ?』
野見山は拳銃をオヤジの頭に突きつけた。
『コレだよ。コレ。 欲しいんだよ、弾もな。』
野見山の表情が変わった。
オヤジが拳銃を突きつけられてもビクともしないからだ。
『幾つ欲しい?』
オヤジの声が変わった。
『・・・』
『幾つだ? あれ?アンタ、ニュースの人かい?』
野見山は再び銃を向け言った。
『ああ、俺だよ、野見山は。あと1丁は欲しい。弾は多いに越したことはない。』
『そうだったか。警察の犬じゃなさそうで良かったよ。』
オヤジは全く野見山の拳銃を一切気にしない。
車を停めて、体をくねらせると、先ほどのカラオケ装置を取り出し、ドライバーでネジをあけ始めた。
ジュラルミンの小さな箱が出てきて、それを開けると、真新しい小型な拳銃がビニールに包まれて出てきた。マイクの付け根をひねると新品の銃弾がワンケース出てきた。30発入りだ。
『今日はこの1丁しかねぇな。』
『譲ってくれないか? 5万で。』
『無茶だ。』
『幾らだ?』
『銃弾付で・・・100万でどうだ。おっとっと撃つなよ、撃つなよ。でもそのぐらい貰わないと割りに会わねぇんだ、こっちも。』
『・・・・幾らだ?』
『何のことだ?』
『あっちだ。』
『あっちか・・・しょうがねーな兄ちゃんも。あー、しょーがねーな、本当にもー。』
オヤジが興奮しだした。
『頼む。』
『その分・・・分かってるるよね、野見山ちゃん。』
『おう。』
オヤジはカーナビでホテルを検索しだした。
4トントラックはラブホテルへ向かった。
『男2人でも入れてくれるのか? しかも駐車場は大丈夫なのか?』
『ホテルか? 楽勝だ。 あのホテルならいける。』
オヤジは頼もしい返事をした。
『いけるってアンタ。 』
野見山を乗せたトラックはラブホテルへ入った。
バスルームを熱いシャワーで曇らせてから服を脱ぎ、
『見るんじゃねーぞ。』
野見山はそう言い、シャワーを浴びた。オヤジはベッドに腰掛けていた。
間が持たないオヤジは外からバスルームを覗き込み、野見山の裸体をどうにか観察しようとしていた。
野見山が異変に気づき、シャワーを止め、曇ったガラスに指で字を書いた。
『どうしたんだ?』
そう書いた字の部分が野見山の体の一部を露出した。字から水滴が垂れ、オヤジは見える部分が増えて、喜んでいる。
野見山は無視してシャワーを浴びた。再びガラスは曇った。オヤジは服を脱ぎながらガラスに顔を付けて凝視した。それに飽きると自分もシャワーを浴びに入った。
『いいじゃないかー。おっす、おっす!』
『テメぇ』
『お背中流しますよ。』
『うるせー』
『カラオケやる?』
もう勝手に背中をボディーソープで荒い始めていた。
『さっさとヤルぞ。』
『えー野見山ちゃん、僕の背中も流してよー。』
『自分でやれ、そんぐらい。』
『冷たい、二人っきりなのに』
『洗ってやるよ、ちょっと頭洗って、待ってろ』
オヤジはニコニコしながら頭を洗った。
野見山は背後に回った。
『リンスインシャンプーじゃなくて良かったね野見山ちゃ・・・』
上着から拳銃を取り出し、全裸で仁王立ちした野見山はオヤジの後頭部を至近距離で撃った。
オヤジの背中は血で洗われた。
『このボケが。手こずらせやがって。』
野見山は体を洗い直し、部屋に戻った。
オヤジのシャツを奪い、自分の服を捨てた。
拳銃を上着に仕舞い、出る準備をした。
部屋を出て、非常階段から降り、トラックへ向かった。オヤジのカラオケ装置から銃を取り出した。