『おう、俺だ。 無事、傷害だったぜ。ちなみに淳は19:30くらいに刺されたらしい。おそらくクスブリの仕業だろう。あの野郎。』


『お前、撃っただろ。警官、撃ったのか?』


『ああ、撃ったよ。とりあえず俺とは一緒に行動するな。勝どきだ。駅に着いても泊には連絡するなよ。駅でおち会おう。俺に連絡くれ。俺もそっちへ向かう。』


『撃ったって、お前・・・。』


『大丈夫だ。お前は心配するな。迷惑はかけねぇ。淳の方は警察が知ってるぐらいだ、おそらく病院にいるはずだ。加賀と井上に病院を当たってもらう。俺らは斉木の方に全力を尽くすぞ。』


『とりあえず、分かったよ。滅茶苦茶だけどよぉ。』


『まぁ、落ち着いて電車に乗れ。』


『お前も早く逃げろ。』


『おう。またな。』


陽介はすでに切符を買い終えていた。代々木で地下鉄に乗り換える予定だ。

改札を通過し、すぐさま電車に飛び乗った。


野見山は佐々木の腰に付けてあるループをナイフで切り、拳銃を腰から外し盗んだ。

ポケットに拳銃をしまうと、そのままタクシーに乗り込んだ。


『勝どきまで』


『はい。』

運転手は後部座席のドアを閉めた。その時、野見山の上着のポケットからはみ出した、拳銃に結び付いている太いループの一部がドアに挟まった。


『すみません、お客さん』

運転手は言った。


『何んだ?早く出してくれ。』

野見山は焦っていた。


運転手は再度ドアを開けた。


『どういうことだ?』

野見山は眉をひそめる。


『すみません、半ドアだったもので』


『・・・・・・』


運転手はドアを閉めた。


『あの、お客さん・・・もう一回・・・えっ?』


『出せ!いいから。』


『でも・・・』

運転手が腑に落ちない表情を浮かべている。


『この舌っ足らず野郎! はっきり言え。』


正面からパトカーが一台向迫ってきていた。

野見山はポケットの拳銃に手を触れ、ドライバーに言った。


『ドア開けろや。いいから。』

野見山が凄むとドライバーは頷き、従った。 ドアが完全に開いた。


『何が問題だ、コラ?』

パトカーが静かに前方に迫った。


『・・・・・』


『もういい。このまま出せ。』

堪えかねて、取り出した拳銃をドライバーの左腰に一回押し付け、脅した後、拳銃をしまった。

パトカーは、もうそこまで来ていた。パトカーは駅前の交差点を左折し、交番へ入っていく予定だ。

野見山は身を低くし、ドライバーに言った。


『これが最後だ。出せ、いいな。』

ドライバーは頷きもせず、タクシーを出した。ロータリーを時計回りで大回りし、駅前の交差点へ向かう。

タクシーは交差点を真っ直ぐ進む予定だ。

タクシーは左ドアを開けたまま、何事も無かったかのように軽快に走り出した。


『おいアンタ、早いよ。ゆっくり頼む。』


『あっ左様ですか。お急ぎかと思いましたから。』

外周を低速で回り、パトカーが左折した後、素早く真っ直ぐ抜けるつもりであった。

だいぶ外周を回ってしまっていた。


『ちくしょう、もうちょっと落とせ。』

野見山は落ち着いていた。


『こ、これ以上ですと止まりますよ。』


『別に構わねぇだろ』


パトカーがまもなく交差点に入ってくる。 後ろのタクシーが迫ってきていた。軽快に走ってきている。

ドライバーがバックミラーに目をやる。


『お客さん、すみません、後ろが』


『あと5秒我慢しろ。』


パトカーが低速なり左折の合図を出した。

後ろのタクシーがクラクションを鳴らした。


『馬鹿が。おい、もう行け。』


野見山を乗せたタクシーは発信した。パトカーは左折ポイントで一時停止している。

パトカーのタイヤが左にスライドした時、野見山のドライバーは残りのローターリー部分で弧を描き、大外ギリギリいっぱいを回って、交差点に入った。


後ろのタクシーが大きめのクラクションを小刻みに妙なリズムで連発した。

ドアが開いていることを前方のタクシーへ知らせているかのようだった。警官が野見山のタクシーをちらりと見た。


『踏め』


野見山は拳銃を握り締め、身をかがめて言った。パトカーの胴部分とタクシーがすれ違い、タクシーは勢い良く走り去った。




時刻は21時30分。陽介は代々木にいた。斉木からの電話が来た。

相手は泊であった。


『三浦君、今どこ?』


『いや、ちっとまだ着いてません。』


『遅いじゃない、どうしたのよ。』


『あの電車がトラブリまして。』


『ほぉ。それであとどれくらい?』


『えーなんだかんだ40、50分は。1時間ぐらいかかるかもしれません。』


『ふーん。分かった。着いたら連絡ちょうだいね。』


『はい。』


電話は切れた。泊は先ほど到着したクスブリに路線状況を確認した。


『おい、電車とまってんのか ?』


『いや、自分は普通に来れましたが。』


『三浦陽介が止まってると言っているが?』


『分かりません。もしかしたら有り得るかもしれませんが。あっ、淳のことは完璧にやりましたよ。』


『おう、聞いたよ。』




陽介は地下鉄に乗る前に、野見山に電話した。


『おう、ノミ、今大丈夫か?』


『なんとかな。どうした?』


『泊から連絡が来て、電車が止まっていると誤魔化した。一時間ぐらいは掛かると返事した。それぐらいだ。』


『OK、了解。』


『何してる?』


『タクシーだ。』


『乗るなら小刻みに乗り換えろ。無茶するなよ。』


『分かった。金もそんなにねーしな。また連絡くれ。』


野見山は陽介の言葉通り、駅から離れるとタクシーを降りた。


『汚してもいねぇ、金は払う、問題ねぇよな。いらねーこと言ったら死ぬと思え。』

拳銃を向けながらドライバーに有り金を渡し、野見山は去った。


コンビニに入るとカゴを2個持ち、食べ物を片っ端から放り込んだ。

山盛りのカゴをレジに運び、台に置き拳銃をポケットの中で握った。


『これ、くれ。 あとすまねぇが金もくれ。』

拳銃を向けた。


店員のメガネの冴えない男は動けなくなった。


『はやくしろ。金もだ。レジを開け。』


『はい。』

店員はレジを開くと再び硬直した。


『札、全部だ。早くしろ撃つぞ。』

1000円札の束と5000円札、数枚がレジに置かれた。計5万程度だ。


野見山はカゴの隙間に札を押し込み、


『万札ぐらい置いとけや!』

と鬼の形相で店員を睨み付け、捨て台詞を残すと、カゴを持ってそのまま店を出た。


店をダッシュで離れ、住宅地へ入ると電柱の横に路駐してあるワゴンと塀の間に入り込み、

札を数えてポケットに押し込み、パンをかじった。

パンや惣菜、弁当を盗んだが、結局食べたのは野見山が良く食べるコッペパンにマーガリンとジャムがサンドされたものと、その小倉バージョンであった。

勢い良くパンを飲み込むように食べると、弁当のラップを破り、エビフライとハンバーグをつまみ出し、手で食べた。ワゴンのボディーで手を拭き、エクレアとキムチのパックをポケットに詰め込むと、ワゴンの横をすり抜けた。


『こんなもんばっかあってもな。 ちくしょう金少ねぇな。』


そう呟くと、カゴを民家の庭に放り投げた。


曲がり角の自販機でジュースを買うと、タバコをふかし、落ち着いてポケットの整理をした。

色んな物が詰まっていたが、拳銃を取り出しやすいように左右を調整し、拳銃を右ポケットの一番上に置いた。


『ちくしょう、あのタクシーから金ふんだくっとくべきだったぜ、あぁ急がなきゃな。金も欲しいぜ。クソが。金持ってそうな車でもヒッチハイクするか。』


コンビニの通りを外れ、車の流れを見ていた。