『なかななかのモンじゃねーか。』

野見山はビニールから拳銃を取り出し、トリガーを引いてみた。

マイクのヘッドを緩めて、弾を取りだすと、すぐに詰め込んだ。


『オッサン新品って言っときながら中古じゃねーか、ボケ。 俺には分かるぜ。まぁいい。』


マイクのヘッド部分が邪魔だったので、シャツの胸ポケットへいれようと試みた。

野見山は胸ポケットに何か入っている気はしていたが、紙切れだと思い、あまり気にしていなかった。

ポケットを弄ると、色んなゴミクズと万札が10枚ぴったり無造作に折りたたまれて入っていた。


『ツイテルぜ。おっさん金持ちじゃん。』


札とゴミとを分けていると、グチャグチャな納品書の断片が目に入った。

日時、品物名、数量・・・幾つかの項目があり、ボールペンで書いたものと思われる走り書きがあった。

とても上手な字であった。走り書きではあったが、あのオッサンの書いた字とは思えない字であった。

野見山はしばしその字を眺めていた。野見山は親近感が沸き、気に入ってしまっていた。


『俺と似たタイプの字だな。こっちの方がうめぇな。』


野見山は既に地面に捨てていた紙切れを拾い、何か文字が書いていないかチェックして行った。

レシートやタバコのソフトケースの一部分や散らばったタバコの葉っぱが目に入った。

レシートは先ほどのドラッグストアのもので、肌着や靴下、タオル、消毒液、ガーゼに包帯が買われていた。

ソフトケースはキャビンマイルドであった。


野見山はすぐにそれらを丸めて投げ、違う紙切れを拾い上げた。見ると退職金・・・と書かれていた。断片だっただけに続きは正確には分からないが、おそらく退職金の明細に違い無かった。様々な数字が印字されていたからだ。この断片の続きがないかと探すと、薄っぺらい封筒があった。4っつに薄く畳まれていた。中を覗くとブツ切りになった明細の断片が幾つかあった。


『この10万は退職金の一部か・・・、すまんなオッサン。』


封筒を放ると、裏返って着地した。


威厳のある字で退職金と印字されてあった。 


宛名は 野見山正史 殿 と書かれていた。


封筒の余白に小さな字で、筆記体のような走り書きで何行か字が書かれていた。





純へ


突然でびっくりしました。まさか会うなんてね。


とにかく話せて良かったよ。


頑張りなさい。

俺はいずれ殺される身だったんだ。


だから、どうせ殺されるならお前が良かったんだ。


大きくなったね。


何か一回ぐらい役に立ちたかった。



                      元ダメオヤジより





野見山の父親だった。4歳の時離婚して以来、全く会っていなかった。


オヤジは野見山が風呂に入り始めてすぐこれを書いていた。




野見山は呆然としていた。


すぐさまトラックの運転手席に座り、オヤジの香りを嗅いだ。


椅子に体温は残っていなかった。


目をつむると、親父が居間でキャビンを吸いテレビを見ている光景が浮かんだ。


オヤジの字など、ほとんど見たことがなかったが、オヤジがいない時に勝手に入った部屋で見た書類に書いてあった字がマブタの裏に映った。


夜になると、隣の部屋に行かされ、乾いた音が聞こえた。


母親を殴りつける音と倒れ込む音だった。


オヤジはある日、テレビのリモコンが無いだけでキレた。


たった数分のことだ。その日は運が悪く、玄関の鍵が閉まっていて、


帰ってくるなり不機嫌だった。


その日、誤って鍵を閉めたのは野見山だった。


モノに当たりまくった後、リモコンが見つからないと、居間に座り込んでいた母親をどかそうとして蹴り払った。


野見山はこのやり取りだけは忘れていない。




『テメぇ、リモコンどこだ!』


『知らないわよ。私はテレビなんてロクに見ないんだから。』


『嘘つくんじゃねー、テメー、テレビばっか見てんじゃないか。』


『どうしてそういうこと言うの?よく言えるわね。私だって働いて今帰ってきたんだから。』


オヤジが母親を殴りつける音が聞こえる。


『もうテレビと一緒に出てってよ。』


『テメーが出てけ』


『人として考えられない。』


オヤジが母親を再び殴り続ける音が聞こえる。


『もう俺は人間じゃねぇ!!』




この言葉を最後にオヤジは姿を消した。


野見山は母親を助けることはできなかった。部屋を出て行き、ヤメテ!とも言えなかった。

ただただ怯えて、布団にくるまっていた。


皮肉にもいつかオヤジを殺してやりたいと考えていた。


数年の年月を経て、今日がその日となった。




野見山のオヤジは退職金を使い、チンピラから拳銃を買っていた。

すぐに欲しいとのことで、退職金のほとんどを注ぎ込んだ。


野見山は荷台のコンテナに何かオヤジの物が無いか気になり、扉を開けると

3人死体が綺麗に並べられていた。


一人は頭を打ち抜かれている。全裸で一見分からなかったが、警官佐々木だった。


残りの2人はパトカーで応援に駆けつけた警官、中込と久林だった。


コンテナの奥には警官の制服、靴など一切の持ち物が綺麗に畳まれ、整理されていた。


唯一、佐々木の拳銃は野見山が持っていた。


『役に立ちたいってこのことかよ!』


オヤジは約10年ぶりに会った思春期の息子と、どう向き合っていいか分からなかった。

でもやっぱりスキンシップがしたかったのだ。

一緒に風呂にも入りたかったに違いない。

野見山はそう察した。


『本当によぉ、不器用な野郎だな。クソがぁ。』


野見山は目に涙を溜めて呟いていた。


運転席に帰り、新品同様のケースに入った弾の数を数えた。銃に詰めた弾の数とケースに入った数を足すと、やはり2発分足らなかった。


野見山はため息を漏らすと、気分を落ち着かせる為に、タバコを吸った。

運転席に転がっていたキャビンに火をつけた。


耳をすますとサイレンの音が微かに聞こえてきた。


車内の灰皿の上の小さな窪みのスペースには陽介が行ったフリをした駅前のコンビニのレシートがあった。時刻もバッチリであった。野見山が駅の便所にいる陽介に電話をかけながら交番に近づいて行く時刻と一致した。


野見山はキーを回し、エンジンをかけた。

オヤジのトラックがうなった。