『祐子は淳の病室にかよって数日したぐらいに俺に連絡してきた。彼女は俺と淳が同じ病院に入院していることを知ることになる。祐子は淳の脱退を知らなければ、CANDYの存在も知らない。俺は、淳と顔を合わせないことを心配しないように適当に会っていることを祐子に告げていた。どうやら淳もそれに乗っかったようだった。時間を持て余した俺も淳も本を読もうと祐子に色々お願いしていた。主に新刊の類は淳と注文がカブったらしく2人で1冊で済ます話になった。そのあたりから、それぞれの病室に2人の本が入り混じり始めた。』


『そこでモデル図が登場するわけですか?』


『とある小説に当時3年生だった祐子が参加した研究室紹介で配られたプリントが挟まっていた。お前らが見たのが今年作ったものなら、あれは去年の学生が作ったものだ。細かい説明書きが書かれたプリントの余白に大きく手書きであのモデル図だけが描かれたいた。祐子の手書きだ。図の中には番号が振ってあり、箇条書きでその物質の名前と役割が書いてあった。番号は実験をする上での順番を示しており、ポリマーが①となっていた。』


『そのプリントを挟んだのが淳だと?』


『おそらく。ちなみに今、俺は・・・、びっくりするかも知れないが水泳部のとある女子と親しい関係にある。その子は俺の真似をしては俺を喜ばそうと必死なんだ。可愛いもんだよ。このままだと俺が気に入る為なら自分の卒業文集の内容まで偽造しかねない勢いだ。その子が俺の本を持ち出すようになった。学校で読んでるのかもしれない。と、同時に俺の好きそうな本を持ってこようと思ったのか、色んな本を彼女から見せられる機会が増えてきた。その本はページの角が折ってあったりして俺と似てる読み方をしている。最初は彼女が俺の真似をしているのかなと思っていたのだがね。次第に俺の家で、俺の本と他人の本が区別がつかなくなるぐらい入り混じる現象が起こり始めたんだ。』


『誰なんです?その彼女って。』


『マリだよ。』


『マリちゃん? えっ、マリちゃん? 正気ですか?』


『うん。本当だよ。マリは友達から借りきていると言っていたが、恐らく杏ちゃんだろう。その杏ちゃんの持っている本は元々淳の物だろう。今日、杏ちゃんや由香ちゃんを車に乗せた時に確信したよ。』


『・・・ほぉ。』


『マリがそれらの本の提供者が誰かを知っているかどうかは、まだ知らないんだ。俺は最近バイオ関連の本をよく読んでいた。マリも知っていたはずだ。ある日マリが例のモデル図を不恰好ながら紙に書き出した。これわかる?かなりDopeな絵なんだと自慢げにね。俺が知らない情報だと思ったに違いない。知らない振りして教えて貰ったのだが。その時彼女はそのモデル図で起こる簡単な現象と、詳細を例え話で説明した。人物に置き換えて恋愛ストーリー風にね。愛人を切り捨てる話だったよ。』


『淳がマリに・・・。確かに杏は、そういった関係の話には興味なさそうだから・・・、淳が直接マリに話したことは考えられますね。』


『マリと淳は仲良かったのかよ?聞いてないぞ。』


『どっちかと言えば、マリは淳にはあまり近寄らなかったイメージはありましたが。あくまでイメージであって・・・たまに普通に話すぐらいはありましたが。淳自体、あまり他人とディープに付き合う方では無いので、その辺は難しいですが。最近ですね。最近よく話すようになったかもしれません。淳とマリが2人で話している姿って以前はあまり見ませんでしたから。』


『マリと俺は年が大きく離れていることもあり、俺の期待に応えようと必死だったからな・・・。淳が自らマリに語り掛けなくても、マリの方から淳にコレ関係の話を振った可能性もあるな。俺は彼女に歩み寄ることは殆ど無かったし。彼女の行動の大部分を許してきたし・・・っつーか軽く流してきたからな、ここにきてそのツケが回ってきたか。』


『淳はトオルさんとマリの関係を知っているんですか?』


『さあな。いやー怖い、怖い。俺は基本、同い年か年上の女しか興味が無かったから、こんなの初めてだよ。なんつーか、慣れだな。以前の俺ならこんなこと無かったのによ。甘やかしすぎたかな。慣れって怖えーなぁ。』


『マリのこと、好きなんですか?』


『アイツもレアキャラだよな。失いたくないっつーか、大切にしたい存在なんだよな。そんな女ばっかり好きになっちまうよ。お前はそういうの無いの?』


『ちょっとニュアンスは違うかもしれませんが、俺も店とかでかかってる音楽の音がついつい素晴らしいサウンドに聞こえてしまって。あとヒトん家行って聞くステレオの音も、俺のよりいい音だなぁとか。一応俺の家のやつも最新に近いんですけど、やっぱ慣れるとそれが当たり前になって新鮮味に欠けるんですかね?』


『・・・、うん。なんとなく、そんな感じはあるよな。全然ちげーけど。』


『そうっすか。なんか、ややっこしい事になってきましたね。』


『クヨクヨしたってしょうがないよ。喰われる前に喰う。それだけだ。』


『でもトオルさんだって何かに怯えていたじゃないですか?』


『怯えているだ? 勝手な妄想だよ。』


『この際、話してくださいよ。』


『俺は手の内を全部バラすほど馬鹿じゃない。』


『自分勝手な人だなぁ。』


『お前も、もっと未来のことを考えろよ。先に喰っちまえ。ナメてる奴はブチ殺す!そろそろ精算の時期だぜ。』


『ところで、光恵さんはどんな情報を入手したんでしょうか?』


『それは分からない。淳の様子はどうだ?最近変わったこととか無いか?』


『毎日一緒にいますから・・・、特に無いっすね』


『何かねーのかよ?妙に落ち込んでるとか。』


『いや、逆に元気です。しいて言えば皆と良く話すようになったかなと。大会前に結束を強めているともとれますが。』


『ほー、彼が。』


『後は、ちょっと前になりますが、バッグを変えたことぐらいっすね。TMCのバッグを使わないで大き目のスポーツバッグを持ってくるようになりました。』


『さっき会った時に見たよ、ダサイなあれ。あれって何でなの?』


『理由までは・・・』


『そうだよな。』


『お前はTMCのバッグ使わないの?』


『やはりCANDYってのがバレると面倒なことになるので、すぐ封印しました。淳にも危険だぞって言ったんですが、彼はあまり気にしないみたいで。』


『ほぉ、なのに最近TMCのバッグを使わなくなった。で、あの大き目のバッグを使い始めた・・・。TMCのバッグを使うということは自己満か?』


『なんとも言えませんね。自己満といえば自己満だし。俺は危険だと思ってやめました。』


『リスクを背負ってまで、あのバッグを使う理由は何だ? 俺はCANDYを愛してますってアピってるつもりかな。お前や斉木とかによ。』


『俺は野見山との絆だと思ってた時もありました。淳と野見山を繋ぐ物はCANDYっすから。』


『そうとも考えられるな。じゃ、その愛おしいバッグを使わなくなったということは決別を意味するのか?』


『もしかしたら・・・そうかも知れませんね。』


『いや、野見山と決別したサインを提示して得することは無い。それは自分が首謀者であると言っているようなものだからな。あのバッグ、野見山と関係があるんじゃないか?探ってみろや。』


『探るって・・・。まだ淳が犯人だとは決まってないっすよ。それはもっとその説が濃厚になってからでいいと思います。』


『その内、手遅れになるかもしれないぜ。』


『俺と淳は親友・・・っすから』


『何が親友だ!まともに本音を言わない癖して。』


『トオルさんには分からないっすよ。誰も信じないアナタには。』


『おうおう、俺にはガツんと言えるじゃない。その調子、その調子。俺と淳は兄弟説が流れるほど似ていると言われるんだぜ。俺に言えるならお前、たまには言ってやれよ。』


『馬鹿にしないで下さい。別に淳にビビってるわけでもないっすよ。』


『ヤバクなったら俺がいるぜ。安心しろよ。俺が淳ごときに負けるわけがない。』


『俺はアナタの世話にはなりません。』


『泣きついてもシカトするぞ? うそ、うそ。』


『そういうアナタこそ、俺をハメようとしてませんか、さっきから。』


『お前の飲み込みが遅いから導いてるだけだ。』


『トオルさん、アナタは田中祐子さんの犯行を示唆していたでしょう。』


『そうだ。』


『ところが俺の前では淳の犯行だと決め付けたような言動ですが?』


『決め付けてはいないよ。気分を害したらすまない。淳の可能性もあるなって話だ。そもそもお前がCANDY結成の理由を聞いてきたのがきっかけだ。そこから話が飛躍したまでだ。』


『ご自身の中ではどっちが?』


『淳の犯行だろう。』


『何故です?』


『祐子は確かに傍観者的な立場だ。だが、彼女はこの有り様を見ても面白くないだろ。』


『淳には傍観者が犯人だと言いましたが。』


『俺にだって試したいことがある。』


『そうですか。ちなみに祐子さんは光恵さんを切れてせいせいしてるんじゃないですか?』


『それはあるな。だが、俺と光恵の間を切るのが目的なら野見山なんて必要ないんだよ。誰かが暴れまわってSCREAMを襲撃したり、殺人を犯す必要はどこにも無い。光恵を殺すってなら別だけどね。』


『ちなみに祐子さんはアナタの犯行を語っています。あのモデル図の醍醐味と共に。』


『なるほど。分かるよ、その気持ちも。でも俺じゃない。俺は何も得してないだろ?』


『光恵さんと別れた・・・。』


『そんぐらいだろ。しかも別れてるんだぜ、あんま得って感じでもないだろ。俺には彼女を切る理由は無かった。』


『では何故別れたんです?』


『彼女がドラッグを持っていた。俺が唯一禁止したものかもしれない。これは誰でも知っていることだ。そしたら考えられるのは、自ら身を引く為にドラッグを所持したか、誰かに盛られたか、本当に使用していたかだ。それに関しては神経質な俺は理由はどうあれ容赦なく彼女を切った。』


『自ら身を引く為?』


『彼女が警察関係の女だとして、距離をとって観察したくなったという想定だ。だが一度距離をとれば俺の性格上、二度と近づけないことは分かっていたはずだ。考えずらい。ちなみに、祐子にしろ光恵にしろSCREAM3代目のヘッドの女として他のチームの目にさらすことはほとんど無かった。とりわけ祐子はSCREAMのメンバーにも会わせていない。危険だし、俺にとっても都合が悪いからな。この2人に近づくことができたのは淳ぐらいだ。信頼していたからな。淳なら光恵にドラッグを盛ることができただろう。もしかしたら俺より彼女達のことを知っているかもしれない。俺は基本、室内以外では会わないからな。送り迎えを含めた護衛は淳がかって出ていた。』


『淳が何故ドラッグを盛ったんでしょう?』


『そこだ。確かにアイツは光恵に気がある雰囲気を醸し出していた。今から考えればアイツの性格上、胡散臭いだろ。アイツなりにチームのことを考えていたに違いない。光恵の影の部分に気づいたとしたらの話だが、彼女と距離をとるより至近距離で接する方が安全だと考えたのだろう。そしてSCREAMを自ら潰す準備、つまりCANDYの基盤作りに目途が立った時点で邪魔な光恵をSCREAMから切り離したかったと考えれば、見えてくるだろ。恐らく、CANDYの基盤作りとは野見山の勧誘に相当するだろう。光恵のドラッグが発覚した時期にピッタリ合う。』


『淳だって刺されていますが?』


『あれはアイツも相打ち覚悟の襲撃だったんじゃないか?一応、淳もSCREAM脱退の寸前までCANDYの話をせずに留まっていたが、切り捨てた光恵から何らかのリークがあることは淳なら予想できたはずだ。だからSCREAM脱退の一報を発すると同時にCANDY結成を宣言し、襲撃に転じた。野見山に火が点いて暴れた時の破壊力を信じたんだろう。そして、無事SCREAMを潰すということは、ほぼ野見山の逮捕とニヤリーイコールだったはずだ。』


『では別れた後、光恵さんから淳が謀反を起こすという情報がリークしたということですか?』


『情報自体は下から上がってきた。発信源は光恵という声があったのは確かだ。アバウトな情報だったため、襲撃決行日の特定が難しかった。直前になって用意したのがあのクスブリ野郎だ。今から思えば光恵としても情報をリークさせることで、地味で内輪的な抗争の痛み分けで終わらせるよりは、派手な全面戦争で一気に幹部やトップをパクりたかったに違いない。しかし、いかんせん淳のガードが固かった。情報は得られたが、詳細にまでは迫れなかった。』


『事態をそう読んだのなら田中祐子の犯行説を持ち出す必要はありませんよね?』


『持ち出したのは俺というよりは、淳だと思うぜ。野見山に襲撃されて入院していたとき、俺はあのモデル図を目にしているんだ。あの時、俺と淳の病室を行き来していたのが祐子だ。』


『もしもですよ、淳が企てた張本人だとすると、田中祐子さんが自白するわけがないことは淳が一番知っていたことになりますよね。』


『そうだな。無意味な行動だ。』


『淳の線は考えずらいですね。』


『そうだな。じゃあ、こう考えてみよう。祐子の自白を聞きにいくのが目的でないとしたら・・・』


『他の目的ですか。』


『淳は今日、光恵と会っている。例の屋上でだ。』


『本当ですか? 光恵さんと? それは聞いていない。』


『何?聞いていないだと。俺が2度目に淳と会う前に、光恵が通りを歩いていた。淳に光恵と会ったのかと尋ねると、言葉を濁したが否定はしていなかった。おそらく屋上で密会したはずだ。何を話したのかは分からないがな。どうやら何かあってもおかしく無さそうだな。』


『仮に光恵さんが警察に関係する人物だとしたら・・・』


『淳にとって光恵はうっとうしい存在だ。だが光恵はまだ正体がバレていないと思っている。光恵が何らかのアクションを起こし始めた。もし光恵が淳の犯行を疑い始めたとしたら・・・』


『犯人をデッチ挙げる?』


『それと同時に、光恵や野見山とトラック内にいた人物、お前だ。光恵がお前に近づき出したり、何か探りを入れていたりし始めてないか、つまり事の真相を知り始めてないかをチェックしたんじゃないか?』


『俺が淳なら・・・光恵さんを真っ先に消すと思いますが。』


『光恵を上手く消せればいいが、下手に殺すとバックに警察がいるからな。』


『淳が・・・。信じられないっすよ。野見山の為に、アイツに届くように泳ぐと・・・。』


『うーん。まだ分からんがな。だが、切羽詰ればそのぐらいの茶番打てるだろ。』


『そんなドライに考えられないっすよ。』


『お前も気を利かせて一芝居打ってこりゃ良かったのにな。』


『そんな・・・。もし俺が真相の断片でも知っていて口にしていたら・・・』


『お前、その後で消されてたかもしれないぞ。アイツは本当に冷酷なところがあるからな。でもお前、言葉を濁されたにせよCANDY結成の理由を淳に聞いたりはできてたんだろ?』


『・・・一応。』


陽介は深い溜息をついた。単車を猛スピードで走らせたことは言えなかった。心の半分では淳を信じ、彼をかばう気持ちがあったからだ。



『俺は難しいことはよく分からないが、俺はあの日、野見山と一緒にいたんだ。その野見山がパクられたと聞いて俺はショックを受けた。悔しかったです。もしよければ真相を聞かせていただけませんか?』


『三浦君・・・そして淳君。ごめんなさい・・・本当に私は何も知らないのよ。』


『そんなはず無いでしょ!』


『陽介、もういい。もういいよ。大体もう分かっただろ。これ以上は聞いても無駄だろう。』


『淳・・・、いいのかよ!すっきりしねーぞ、俺は。』


『・・・帰ろう。俺らは大会に集中しよう。』


『ああ、分かったよ。』


『祐子さん、色々すみませんでした・・・。帰ります。』


『はい。』


2人はエレベータに乗り込んだ。


『何故、問い詰めない?』


『ゲロしそうに無いだろ、あの女。時間の無駄だと思ってな。』


『間違いなさそうだったからよ、一気にゲロさした方が良かったんじゃねーか?ブン殴りに戻ろうぜ!』


『間違いないだろ。それが分かればいいじゃないか。痛めつける必要はないよ。』


『お前、女には甘いのな。液体窒素を頭からぶっ掛けてやりたいぜ、ちくしょう!』


『俺、甘いかな?』


『甘いにも程があるぜ。くそ、帰るか。明日は練習早く終わるんだっけ?』


『午前で終わりだろうな。』


『お参りでも行くかな。』


単車まで歩いて戻ると、陽介は校舎の方を振り返り、中指を立てた。

淳は単車のタンクを見ていた。剥がした後がわずかに残っているCANDYのステッカー部分を指で触った。


淳は単車に跨り、陽介を後ろに乗せた。


『おっ、運転するのかい? お前が運転するの見るの久々だなぁ。マジ頼むぞ。』


『ダセエ単車に乗ってみたくなってな。掴まってろよ。』


『ところでよぉ、俺しっかり聞いてなかったんだけど、っつーか言う必要も無いのかも知れないけど・・・お前って何でCANDYを結成しようと思ったんだ?』


陽介が言い終わる前に、エンジンが唸った。けたたましい音が語尾をかき消した。

すぐに単車はもの凄い勢いで発進した。

陽介は膝を閉じて、淳の腹に手をまわした。単車の速度はどんどん増して行った。

これぞCANDYのNo2といったような豪快な走りで、全盛期を彷彿とさせた。

優越感に浸りつつも、陽介の心は晴れなかった。


10分足らずで地元に戻ってきた。いつもの道を爆音でかっ飛ばし、淳の家に着いた。


『何だっけ? 理由? うーん、夢があるじゃん。そんな感じ。』


『そうか、へーって感じ。』


『またな。』


『おう!』


陽介は単車で家へ戻ろうとした。

淳の走りの余韻に浸りつつ、その調子で大通りへ出て、やかましく走った。


『まったくどーなてるのかねぇ?』


『しかしよぉ、トオルも趣味が悪いぜ。光恵さんの方が10倍可愛いなぁ。』


独り言を呟いていると後ろでクラクションが鳴った。

陽介はいつものことだとローリングを始め、後ろをおちょくった。

さらにクラクションが鳴るので、後ろに睨みを利かせると、後ろの車はトオルであった。

陽介は徐々にローリングを緩めて普通に走った。


トオルは陽介に並ぶと、止まれとジェスチャーしてきた。

陽介は止まり、まっすぐ前を見ていた。


『久しぶりじゃない、三浦。わかる?蓮見だけど。』


『はぁ。』


『相変わらず粋がった単車乗ってるな。話しがある。時間くれよ。』


陽介は勝どきの家を焼いたことを思い出させられた。


『・・・』


トオルは陽介の腕を掴み、単車からおろした。


『そのまま待っといて』


トオルは電話を掛けて車を運ぶように指示していた。


『おまたせ。』


単車に跨ると、陽介を後ろに乗せた。


『行くよ』


陽介はトオルの腹に手をまわせず、後部座席を掴んでしがみ付いた。

初めてトオルの後ろに乗った。元SCREAM3代目の走りは丁寧であったが、淳以上だと感じた。

SCREAMと関係があると思われたくない陽介はうつむいていた。


単車は学校へと突っ込んだ。

体育館脇を通って、プール前で止まった。


『着いたよ、降りて。』


練習終了後のため、プールの門には鍵がかかっており、プールを囲う塀を乗り越えて中へ入った。


『・・・』


『CANDYはもう終わってんだろ?活動は?』


『してないです。部活ばっかですね。』


『野見山と連絡は?』


『いえ、いまだしてません。』


『そう、可愛そうに。今日、淳と会ったよ。』


『聞きました。』


『何?』


『いえ・・・なんつーか?聞いたってよりは、・・・』


『言えよ。』


陽介はワビを入れた。プールサイドにひざまずき、謝罪した。


『知っての通り、俺もCANDYの一員でした。SCREAMの皆さんには迷惑をかけたと思いますが、

あと数日でいいので、どうか大会が終わるまで、何とか過去のこは目を瞑っていただけないでしょうか。』


『バカ言ってんじゃねー、ガキが!』


『この通りです。淳も俺も明後日の為に頑張ってきました。その後なら、思いっきり煮るなり焼くなりして下さい。今後、CANDYとしてSCREAMと敵対しないことも誓います。自分勝手な都合であることは百も承知ですが、どうか・・・』


『顔を上げろよ。お前の出方次第だぜ、三浦。淳はなんと言っていたのか?』


『田中さんという3代目の彼女があの件の首謀者ではないかと。それで・・・』


『お前らで行ったんだな?祐子んとこに。』


『はい。』


『淳はどう考えている?』


『田中さんの線がかたいと。田中さん自身は最後まで否定されましたが。』


『他には?』


『・・・トオルさんが何かに怯えているように見えたと。』


『ほぅ。』


『この際だから聞きますが、淳は何でCANDYを立ち上げようと思ったんでしょう?』


『知らないのか?』


『大変言いずらいのですが、SCREAMを潰すというのが一つの理由として挙げられるとは思いますが・・・』


『うん。』


『何故、SCREAMの幹部だった淳はトオルさんに歯向かおうと思ったのでしょう?居心地は良かったと思うのですが。』


『SCREAMはデカイ組織だ。支部は五万とある。警察はSCREAM解体を目指し、どんどんメンバーをパクっていった時期があった。それでもらちがあかないとなると、俺をパクるのが手っ取り早い。が、俺は基本動かない。となると一番目立って動き回っているSCREAM本部の幹部を引っ張る方向に向かう。それは誰が見ても淳だった。俺や組織は淳を切る方向で話しが進んでいた。淳はリークした情報を掴み、徐々に脱退を企てた。これが俺の解釈だ。』


『トオルさんは淳を切ることに対し、何とも思わなかったんですか?』


『淳がパクられることは勿論痛手だ。それにある種、警察の思惑通りに事が進むことになるだろ。だが、正直、アイツは目立ちすぎた。切る以外に無かったんだ。断腸の思いではあったよ。』


『警察と取引でもしたんじゃないですか?』


『まさか。』


『淳はたぶん、アナタのことが好きだったと思います。』


『かもな。自分で言うのもなんだが。』


『ただ、引っかかるのが、もしもCANDY始動の理由がそれならば、俺に話してくれてもいいはずなんです。俺にハッキリしたことを言おうとしないんですよ。』


『見栄を張っているか、他の理由があるか、か。』


『ま、光恵のこともあると言えば、あるだろう。アイツは光恵のことが好きだった。だが、俺の女だ。だから新チームを作って一発当てようってな青い考えも無かったわけじゃないだろうな。』


『ちなみに光恵さんってどんな人なんですか?』


『お財布だな、俺の。とびっきり綺麗な。この前までホステスをしてたよ、銀座で。過去のことは話さない奴だった。俺は詳しくは知らないよ。聞きたくもないしね。べったりした関係を望むようで少し距離を取る魔性の女だ。』


『野見山が殺人を犯しているし、その彼について回っているってこともありますが、彼女の行く先に警察が来る気がしなくもないのですが・・・。』


『さぁ、どうだか。野見山の側にいるってのがデカイと考えるのが普通だと思うが。もしも、彼女が警察と関わりがあるとしたら、彼女はSCREAM解体か、トオルさんの逮捕を願っていたことになりますね。』


『そうだな。』


『考えすぎかもしれませんが。』


『なるほど。淳がその情報もゲットしてたとしたら、警察に解体される前に、いっその事自分の手でSCREAMを潰そうと考えたと、自分の身も危なかったし丁度いいやと、そう言いたいのか?』


『いえ、そこまでは。』


『考え過ぎだよ。お前ノイローゼになるよ。まぁ、いい考えだとは思うがね。』


『そうドライに言うところがトオルさんの怖い所ですよね。光恵さんは元彼女では?』


『まぁそうだが。そんな物に縛られても仕方ないだろ。光恵の怪しいところは?』


『いや、特にないんです。しいて言うなら、勝どきに斉木を救出に行った際、彼女はトラック内にいたんです。俺等は彼女の行動を見ていない。また、盛岡でも、野見山は単独行動している時に警察が現れているということです。普通っちゃ、普通なんですが。』


『ちなみにお前も知ってるかもしれないが、SCREAMを潰せるポテンシャルがあったのは、警察と野見山だ。どこのチームでも野見山を嫌っただろ。かといって自分のチームにも所属して欲しくなかったという稀な奴だ。あの一件が引き金となって俺は引退し、SCREAMはほぼ解体。野見山はパクられた。2つとも消された。そういった意味では綺麗に事が進んだな。勿論、結果だが。結果出しやがった奴がいるんだな。淳だよな。ま、よくわからねーけど。』


『ですね。』









2人は眠った。野見山はすぐに爆睡した。

光恵は高鳴る鼓動を抑えられずにいた。彼の寝顔を眺めていると、安心感が芽生えた。

彼を心強く感じた。


野見山は2時間もしない内にドカっと起き上がり、時間を確認した。店内をウロウロ見渡した後、顔を洗い、蛇口に口を近づけて水をグビグビ飲んだ。


『シャー』


時折、小さな気合を入れた。昨晩の出来事を全てリセットしたかのような清々しい表情でタバコを吸った。

シャドーボクシングや切り落とした髪の毛をトイレでチェックしたりしたのち、彼女を起こした。


少し寝た野見山は光恵のことを何と呼んで良いものか、分からなくなっていた。


『お客さん、朝だよ。』


『あっ、うん。今起きます。』


『電気はとりあえずトイレのみってことにしてる。』


コップに水を入れると光恵に手渡した。


『着替えたら出よう。鏡とかはトイレにあったよ。』


『了解です。』


光恵がトイレに入ると、拳銃や荷物のチェックを行った。同時に拳銃をしまうポケットの内の整理をすると、オヤジのラストメッセージが書かれた封筒や、幾つかの紙切れが出てきた。

それらをスポーツバッグにしまうと、冷蔵庫へ向かい、食料をあさった。


『色々あるぜ。食べる?』


『うーん、私はまだいいや。朝弱くて、ごめんね。』


『腹が減っては戦はできんよ。』


『若いわね。』


『本当にいいのかよ?』


『うん、いいわ。』


『俺だけ、すまんな。そういやウナギ食べたばっかりと言えばばっかりだな。やけに腹が減りやがるぜ、ちくしょう。』


『電車で行く?』


『ああ。病院にトラックを乗り捨てたから始発は危険といえば危険だがな。この辺をウロウロして乗り物を物色したり、ヒッチハイクで足つくのもなんだしな。まぁ、これからが勝負だな。腹を決めてくれ。』


『うん。』


『俺が前を歩く。少し距離をおいて歩いてくれ。何かあったら構わず離れてくれ、頼む。』


『うん。』


『きっと大丈夫だ。行こう!』


『行こう!』


4時30分、裏口から外へ出ると、軽快に歩き出した。10分も歩くと駅前を感じさせる街並みとなった。

すれ違う車が気になって仕方がなかった。


駅へ向かう人は意外にもいた。


『こんな時間にも人は結構いるもんだな。何の仕事してることやら。』


駅手前で野見山はスピードを上げた。一度振り返り、光恵に距離をあけるようにジェスチャーで伝えた。


タバコに火をつけ、駅の手前まで入っていった。警官らしき姿はなかった。構内へ入り切符売り場で2人分の切符を買った。券売機に背を向け、辺りを警戒しながら光恵を待った。ねにげなく切符を手渡すと、改札をくぐり、ホームへと向かった。


『改札のところに駅員いただろ。見てたか?』


『多分、見てなかったよ。書類を見てた気がする。』


『だよな。よかったぜ。切符はてきとうに買ってしまった。函館まで小まめに乗り継いで行きたい。連れてってくださいな。』


『てきとうに買ったの、もう!新幹線はだめ?』


『そこは賭けだな。リスクはあるが一気に行くか、乗り継ぐか。』


『乗り継いで行くとしましょうか。飛行機も危なそうだものね。寝台で函館行きましょ、個室もあるし。でもちょっと時間が合わないかもね。夜にならないと・・・』


『とにかくどんどん東京を離れよう。タイミングを見計らって寝台に乗ろう。』


2人は電車に乗った。新聞が気になっていた。光恵を座らせ、窓際に立った野見山は、端に座っている中年の新聞を覗き込んだ。事件はデカデカと載っていた。向かいの男の新聞にも載っており、事件の大きさを実感させられた。

隣の車両の方までもに気を配りながら、電車に揺られた。2人は北へ北へと進んで行った。


『新聞見たぞ。』


『私も、ちょこっと見えた。』


『凄いな。光恵さん、アンタのことは触れられていない。今のところ安心だ。』


『そう。元気だして。お腹減ってない?大丈夫?』


『俺はへっちゃらさ。CANDYのトップだからな。』


『盛岡で乗り換えましょ。もうちょっとだね。』


『函館は雪降ってないかな?』


『さすがに11月じゃ、まだじゃないかな。』


『寝台乗ったらゆっくりしよう。』




盛岡駅には既に寝台列車が止まっていた。ホームへ降りる前に弁当を買い、エスカレータを降りた。


購入できたのはシングルの個室だった。背の低い部屋で圧迫感があった。2部屋分チケットは買ったが、野見山の部屋に光恵も入った。


『意外に狭いな。』


『野見山君、背が高いから大変でしょ。寝るときは戻るね。』


『いいよ、いろよ。寝るときは高さは関係ないし、大丈夫。』


『疲れたでしょ?』


『全然だよ。』


野見山は光恵の肩に手を置いた。


『ありがとな、色々。』


マッサージをしてあげた。


『俺、得意なんだ。大体わかるよ、ツボが』


『あー、気持ちいよぉ。』


『何、何?』


『超気持ちい。って変態!』


『足も、はい。』


足の指まで細かくマッサージした。


『とりあえず、ここまで。続きはまたね。弁当食べようぜ。って早いか?普通走りだしてから食べるんだっけ?俺一人ならもうとっくに食べ終わってるな。』


『座った瞬間にお箸の袋破いてそうだもんね。』


『何か飲みますか?』


『あれっ、忘れてたね。飲み物!』


『ごめん、俺基本飲まないから。』


『飲まないの?』


『せっかく口の中が美味しい味になってるのに、お茶の味に置き換わったらショックだよ。もう一回食べなおしたい気分になるときもあるぐらいさ。だから飲むなら食べてちょっとしてからかな。』


『へー、変わってるのね。』


『買ってくるよ。あっビールとか飲むの?飲もうよ、せっかくだし。俺、飲みたい。』


『あなたは未成年でしょうが。』


『いいから、いいから。あと暖かいコーヒーもいいな。やっぱお茶飲むタイミングって分からないな。』


『じゃ、ビールは一本でいいわ。一緒に飲みましょ。私はお茶がいいかな。』


『OK行ってくるね。』


『もう、ほとんど出発まで時間ないし、もしあれなら車内販売とか自販機探してもいいかも』


『おう、大丈夫、大丈夫。まかしておきなさい。最速たぁ俺のことよ。』


野見山は売店へ走った。

苦労をかける光恵にリラックスしてもらいたかったからだ。

23時15分前。ガラガラのホームを走った。15メートル程先にあった売店は閉まっていた。粘る野見山は他の売店を探した。ホームには無いと悟り、エレベータを駆け上がった。


半分ぐらい上ったところで、後ろから足音が幾つか聞こえてきた。

振り返るとスーツ姿の中年が数人エレベータを上がってているのが分かった。

野見山はペースを上げて走ると、足音は比例するかのごとく速まった。

上を見上げると、似たような中年が角から見え隠れしている。足が止まりそうになった。


『野見山純だな。』


後ろに追いつかれた。

野見山はにらみ返した。


『おい、野見山だろ?警察だ。』


振り払うかのように駆け上がると、上に中年が数人姿を見せた。

野見山は体を横ににし、拳銃を上と下に2丁向けた。


『もうよせ、バカ野郎!』


『おっさん、どけや。』


『またそうやって逃げる気か。』


『お前らも、また死にたいのか。』


『やめろ!』


刑事は一斉に銃を構え、下の一人の刑事が威嚇射撃をした。銃弾は天井にめり込んだ。野見山はジロリとその刑事を見て銃口をロックオンした。


『野見山、銃を下ろせ。』


野見山はトリガーを引いた。刑事の胸は撃ち抜かれ、エスカレータを転げ落ちた。

同時に上の刑事が野見山の左肩を撃ち、血が噴出した。


『そうこなくちゃな。』


野見山は下を警戒しながら、上に発砲を続けた。上の刑事は身を潜め、応援を呼ぼうとしていた。


『野見山を盛岡駅構内で発見。銃を再び乱射。1名負傷しました。至急応援をよろしく。』


奇しくも、ホームに出発の合図が鳴り始めていた。


『クソ、時間がねぇ。』


上へ向けた銃弾が残り1発となった。弾を詰め替える余裕が無かった。拳銃を持ち替えた瞬間、下から刑事が襲いかかってきた。


野見山は迷わず眉間を撃ち、もう一人にドロップキックした。上を振り返り1発発砲した後、少し助走をつけてエスカレータを一気に飛び降りた。


転がりながら立ち上がると、振り返らなかった。足を引きずりながら走った。


もう列車は出発する。出発の合図の他にアナウンスが入った。


『止まれ!野見山、動くな!』


『うるせぇ。じゃあな。』


列車のドアが閉まる音が銃声で掻き消された。

野見山の背中に何発もの銃弾が浴びせられ、前のめりに倒れた。


『捕まえろ!』


銃を握った刑事達が颯爽と駆け寄り、野見山の銃を蹴飛ばした。

ピクリとも動かない野見山は固まったように拳銃を離さなかった。


列車が走り去る音が響きわたった。


『俺が野見山だ!』


体をひっくり返し銃を持ち上げた。刑事が体の上に覆いかぶさるタイミングと同時であった。

刑事の口にめり込んだ銃をさらに押し込むように持ち上げ、刑事の体は反り返った。


『よく覚えておけ・・・』


野見山は喉を撃たれ、そのまま力尽きた。


手錠をかけられてから、病院へ運ばれた。駅構内を出るとヤジ馬でごった返していた。

東京の野見山が捕まったという噂で持ちきりとなった。

誰もtokyo midnight candyの名を知らぬまま初代ヘッドは捕まり、チームは事実上の終焉を迎えた。








Write down ! I'm panic 今晩君に送るmagic

見ろよ目立つ壁には必ずspread my logic


恋をした俺は、よく歩きました

眺めました真夜中のハイウェイ こんな時間に急いでさて何処へ


oh yeah ! 舞い上がらせては 虫をもてあそぶ街灯 

咲き出すのはmidnight ペコリと背を曲げた姿tight 綺麗に並んで背の高いtwilight


俺は知らない、何処の国から来たのかも

コンクリに埋まった奇抜な姿は以前の君に似ている


feeling 今日はhigh!この道を爆破した気分だ

もう誰も来れやしない ダーリン 俺は振り返らない


車内に今2人 俺の横に いつもより笑う君が座り

胸に描かれた壁画がチラリ 窓に映り、


俺は外を見るふり、感じるよ初めて横顔に君のhistory

手垢の付いた窓は色々物語り 軌跡を舐めるように


指でなぞるより 新しい俺らの未来を刻みたい

痛い時には手を繋ごう 見つめあいながら愛し合おう


リズムはその内合ってくぜ 不安定は今の内だけ待ってくれ

慣れない俺と揺れてくれ 気が付けば朝だぜもう着くね


月はその内満ちてくぜ 騒がしい街のことも忘れてくね

大人になって守ってくね この意味が今わかったぜ


窓の外は相変わらずの日常 危険などそうない一応

そこで気づきたかったね 恋人達が帰ってくね


歯を完璧に磨くことなんて 誤魔化してんだろ美しい君だって 

どこかで折り合い付けて 暮らして行くとするなら君とだなって


俺の口の中で CANDYがもう溶けそうで

甘い舌で囁くよ 心の底からありがとよ