『祐子は淳の病室にかよって数日したぐらいに俺に連絡してきた。彼女は俺と淳が同じ病院に入院していることを知ることになる。祐子は淳の脱退を知らなければ、CANDYの存在も知らない。俺は、淳と顔を合わせないことを心配しないように適当に会っていることを祐子に告げていた。どうやら淳もそれに乗っかったようだった。時間を持て余した俺も淳も本を読もうと祐子に色々お願いしていた。主に新刊の類は淳と注文がカブったらしく2人で1冊で済ます話になった。そのあたりから、それぞれの病室に2人の本が入り混じり始めた。』


『そこでモデル図が登場するわけですか?』


『とある小説に当時3年生だった祐子が参加した研究室紹介で配られたプリントが挟まっていた。お前らが見たのが今年作ったものなら、あれは去年の学生が作ったものだ。細かい説明書きが書かれたプリントの余白に大きく手書きであのモデル図だけが描かれたいた。祐子の手書きだ。図の中には番号が振ってあり、箇条書きでその物質の名前と役割が書いてあった。番号は実験をする上での順番を示しており、ポリマーが①となっていた。』


『そのプリントを挟んだのが淳だと?』


『おそらく。ちなみに今、俺は・・・、びっくりするかも知れないが水泳部のとある女子と親しい関係にある。その子は俺の真似をしては俺を喜ばそうと必死なんだ。可愛いもんだよ。このままだと俺が気に入る為なら自分の卒業文集の内容まで偽造しかねない勢いだ。その子が俺の本を持ち出すようになった。学校で読んでるのかもしれない。と、同時に俺の好きそうな本を持ってこようと思ったのか、色んな本を彼女から見せられる機会が増えてきた。その本はページの角が折ってあったりして俺と似てる読み方をしている。最初は彼女が俺の真似をしているのかなと思っていたのだがね。次第に俺の家で、俺の本と他人の本が区別がつかなくなるぐらい入り混じる現象が起こり始めたんだ。』


『誰なんです?その彼女って。』


『マリだよ。』


『マリちゃん? えっ、マリちゃん? 正気ですか?』


『うん。本当だよ。マリは友達から借りきていると言っていたが、恐らく杏ちゃんだろう。その杏ちゃんの持っている本は元々淳の物だろう。今日、杏ちゃんや由香ちゃんを車に乗せた時に確信したよ。』


『・・・ほぉ。』


『マリがそれらの本の提供者が誰かを知っているかどうかは、まだ知らないんだ。俺は最近バイオ関連の本をよく読んでいた。マリも知っていたはずだ。ある日マリが例のモデル図を不恰好ながら紙に書き出した。これわかる?かなりDopeな絵なんだと自慢げにね。俺が知らない情報だと思ったに違いない。知らない振りして教えて貰ったのだが。その時彼女はそのモデル図で起こる簡単な現象と、詳細を例え話で説明した。人物に置き換えて恋愛ストーリー風にね。愛人を切り捨てる話だったよ。』


『淳がマリに・・・。確かに杏は、そういった関係の話には興味なさそうだから・・・、淳が直接マリに話したことは考えられますね。』


『マリと淳は仲良かったのかよ?聞いてないぞ。』


『どっちかと言えば、マリは淳にはあまり近寄らなかったイメージはありましたが。あくまでイメージであって・・・たまに普通に話すぐらいはありましたが。淳自体、あまり他人とディープに付き合う方では無いので、その辺は難しいですが。最近ですね。最近よく話すようになったかもしれません。淳とマリが2人で話している姿って以前はあまり見ませんでしたから。』


『マリと俺は年が大きく離れていることもあり、俺の期待に応えようと必死だったからな・・・。淳が自らマリに語り掛けなくても、マリの方から淳にコレ関係の話を振った可能性もあるな。俺は彼女に歩み寄ることは殆ど無かったし。彼女の行動の大部分を許してきたし・・・っつーか軽く流してきたからな、ここにきてそのツケが回ってきたか。』


『淳はトオルさんとマリの関係を知っているんですか?』


『さあな。いやー怖い、怖い。俺は基本、同い年か年上の女しか興味が無かったから、こんなの初めてだよ。なんつーか、慣れだな。以前の俺ならこんなこと無かったのによ。甘やかしすぎたかな。慣れって怖えーなぁ。』


『マリのこと、好きなんですか?』


『アイツもレアキャラだよな。失いたくないっつーか、大切にしたい存在なんだよな。そんな女ばっかり好きになっちまうよ。お前はそういうの無いの?』


『ちょっとニュアンスは違うかもしれませんが、俺も店とかでかかってる音楽の音がついつい素晴らしいサウンドに聞こえてしまって。あとヒトん家行って聞くステレオの音も、俺のよりいい音だなぁとか。一応俺の家のやつも最新に近いんですけど、やっぱ慣れるとそれが当たり前になって新鮮味に欠けるんですかね?』


『・・・、うん。なんとなく、そんな感じはあるよな。全然ちげーけど。』


『そうっすか。なんか、ややっこしい事になってきましたね。』


『クヨクヨしたってしょうがないよ。喰われる前に喰う。それだけだ。』


『でもトオルさんだって何かに怯えていたじゃないですか?』


『怯えているだ? 勝手な妄想だよ。』


『この際、話してくださいよ。』


『俺は手の内を全部バラすほど馬鹿じゃない。』


『自分勝手な人だなぁ。』


『お前も、もっと未来のことを考えろよ。先に喰っちまえ。ナメてる奴はブチ殺す!そろそろ精算の時期だぜ。』