『俺は難しいことはよく分からないが、俺はあの日、野見山と一緒にいたんだ。その野見山がパクられたと聞いて俺はショックを受けた。悔しかったです。もしよければ真相を聞かせていただけませんか?』
『三浦君・・・そして淳君。ごめんなさい・・・本当に私は何も知らないのよ。』
『そんなはず無いでしょ!』
『陽介、もういい。もういいよ。大体もう分かっただろ。これ以上は聞いても無駄だろう。』
『淳・・・、いいのかよ!すっきりしねーぞ、俺は。』
『・・・帰ろう。俺らは大会に集中しよう。』
『ああ、分かったよ。』
『祐子さん、色々すみませんでした・・・。帰ります。』
『はい。』
2人はエレベータに乗り込んだ。
『何故、問い詰めない?』
『ゲロしそうに無いだろ、あの女。時間の無駄だと思ってな。』
『間違いなさそうだったからよ、一気にゲロさした方が良かったんじゃねーか?ブン殴りに戻ろうぜ!』
『間違いないだろ。それが分かればいいじゃないか。痛めつける必要はないよ。』
『お前、女には甘いのな。液体窒素を頭からぶっ掛けてやりたいぜ、ちくしょう!』
『俺、甘いかな?』
『甘いにも程があるぜ。くそ、帰るか。明日は練習早く終わるんだっけ?』
『午前で終わりだろうな。』
『お参りでも行くかな。』
単車まで歩いて戻ると、陽介は校舎の方を振り返り、中指を立てた。
淳は単車のタンクを見ていた。剥がした後がわずかに残っているCANDYのステッカー部分を指で触った。
淳は単車に跨り、陽介を後ろに乗せた。
『おっ、運転するのかい? お前が運転するの見るの久々だなぁ。マジ頼むぞ。』
『ダセエ単車に乗ってみたくなってな。掴まってろよ。』
『ところでよぉ、俺しっかり聞いてなかったんだけど、っつーか言う必要も無いのかも知れないけど・・・お前って何でCANDYを結成しようと思ったんだ?』
陽介が言い終わる前に、エンジンが唸った。けたたましい音が語尾をかき消した。
すぐに単車はもの凄い勢いで発進した。
陽介は膝を閉じて、淳の腹に手をまわした。単車の速度はどんどん増して行った。
これぞCANDYのNo2といったような豪快な走りで、全盛期を彷彿とさせた。
優越感に浸りつつも、陽介の心は晴れなかった。
10分足らずで地元に戻ってきた。いつもの道を爆音でかっ飛ばし、淳の家に着いた。
『何だっけ? 理由? うーん、夢があるじゃん。そんな感じ。』
『そうか、へーって感じ。』
『またな。』
『おう!』
陽介は単車で家へ戻ろうとした。
淳の走りの余韻に浸りつつ、その調子で大通りへ出て、やかましく走った。
『まったくどーなてるのかねぇ?』
『しかしよぉ、トオルも趣味が悪いぜ。光恵さんの方が10倍可愛いなぁ。』
独り言を呟いていると後ろでクラクションが鳴った。
陽介はいつものことだとローリングを始め、後ろをおちょくった。
さらにクラクションが鳴るので、後ろに睨みを利かせると、後ろの車はトオルであった。
陽介は徐々にローリングを緩めて普通に走った。
トオルは陽介に並ぶと、止まれとジェスチャーしてきた。
陽介は止まり、まっすぐ前を見ていた。
『久しぶりじゃない、三浦。わかる?蓮見だけど。』
『はぁ。』
『相変わらず粋がった単車乗ってるな。話しがある。時間くれよ。』
陽介は勝どきの家を焼いたことを思い出させられた。
『・・・』
トオルは陽介の腕を掴み、単車からおろした。
『そのまま待っといて』
トオルは電話を掛けて車を運ぶように指示していた。
『おまたせ。』
単車に跨ると、陽介を後ろに乗せた。
『行くよ』
陽介はトオルの腹に手をまわせず、後部座席を掴んでしがみ付いた。
初めてトオルの後ろに乗った。元SCREAM3代目の走りは丁寧であったが、淳以上だと感じた。
SCREAMと関係があると思われたくない陽介はうつむいていた。
単車は学校へと突っ込んだ。
体育館脇を通って、プール前で止まった。
『着いたよ、降りて。』
練習終了後のため、プールの門には鍵がかかっており、プールを囲う塀を乗り越えて中へ入った。
『・・・』
『CANDYはもう終わってんだろ?活動は?』
『してないです。部活ばっかですね。』
『野見山と連絡は?』
『いえ、いまだしてません。』
『そう、可愛そうに。今日、淳と会ったよ。』
『聞きました。』
『何?』
『いえ・・・なんつーか?聞いたってよりは、・・・』
『言えよ。』
陽介はワビを入れた。プールサイドにひざまずき、謝罪した。
『知っての通り、俺もCANDYの一員でした。SCREAMの皆さんには迷惑をかけたと思いますが、
あと数日でいいので、どうか大会が終わるまで、何とか過去のこは目を瞑っていただけないでしょうか。』
『バカ言ってんじゃねー、ガキが!』
『この通りです。淳も俺も明後日の為に頑張ってきました。その後なら、思いっきり煮るなり焼くなりして下さい。今後、CANDYとしてSCREAMと敵対しないことも誓います。自分勝手な都合であることは百も承知ですが、どうか・・・』
『顔を上げろよ。お前の出方次第だぜ、三浦。淳はなんと言っていたのか?』
『田中さんという3代目の彼女があの件の首謀者ではないかと。それで・・・』
『お前らで行ったんだな?祐子んとこに。』
『はい。』
『淳はどう考えている?』
『田中さんの線がかたいと。田中さん自身は最後まで否定されましたが。』
『他には?』
『・・・トオルさんが何かに怯えているように見えたと。』
『ほぅ。』
『この際だから聞きますが、淳は何でCANDYを立ち上げようと思ったんでしょう?』
『知らないのか?』
『大変言いずらいのですが、SCREAMを潰すというのが一つの理由として挙げられるとは思いますが・・・』
『うん。』
『何故、SCREAMの幹部だった淳はトオルさんに歯向かおうと思ったのでしょう?居心地は良かったと思うのですが。』
『SCREAMはデカイ組織だ。支部は五万とある。警察はSCREAM解体を目指し、どんどんメンバーをパクっていった時期があった。それでもらちがあかないとなると、俺をパクるのが手っ取り早い。が、俺は基本動かない。となると一番目立って動き回っているSCREAM本部の幹部を引っ張る方向に向かう。それは誰が見ても淳だった。俺や組織は淳を切る方向で話しが進んでいた。淳はリークした情報を掴み、徐々に脱退を企てた。これが俺の解釈だ。』
『トオルさんは淳を切ることに対し、何とも思わなかったんですか?』
『淳がパクられることは勿論痛手だ。それにある種、警察の思惑通りに事が進むことになるだろ。だが、正直、アイツは目立ちすぎた。切る以外に無かったんだ。断腸の思いではあったよ。』
『警察と取引でもしたんじゃないですか?』
『まさか。』
『淳はたぶん、アナタのことが好きだったと思います。』
『かもな。自分で言うのもなんだが。』
『ただ、引っかかるのが、もしもCANDY始動の理由がそれならば、俺に話してくれてもいいはずなんです。俺にハッキリしたことを言おうとしないんですよ。』
『見栄を張っているか、他の理由があるか、か。』
『ま、光恵のこともあると言えば、あるだろう。アイツは光恵のことが好きだった。だが、俺の女だ。だから新チームを作って一発当てようってな青い考えも無かったわけじゃないだろうな。』
『ちなみに光恵さんってどんな人なんですか?』
『お財布だな、俺の。とびっきり綺麗な。この前までホステスをしてたよ、銀座で。過去のことは話さない奴だった。俺は詳しくは知らないよ。聞きたくもないしね。べったりした関係を望むようで少し距離を取る魔性の女だ。』
『野見山が殺人を犯しているし、その彼について回っているってこともありますが、彼女の行く先に警察が来る気がしなくもないのですが・・・。』
『さぁ、どうだか。野見山の側にいるってのがデカイと考えるのが普通だと思うが。もしも、彼女が警察と関わりがあるとしたら、彼女はSCREAM解体か、トオルさんの逮捕を願っていたことになりますね。』
『そうだな。』
『考えすぎかもしれませんが。』
『なるほど。淳がその情報もゲットしてたとしたら、警察に解体される前に、いっその事自分の手でSCREAMを潰そうと考えたと、自分の身も危なかったし丁度いいやと、そう言いたいのか?』
『いえ、そこまでは。』
『考え過ぎだよ。お前ノイローゼになるよ。まぁ、いい考えだとは思うがね。』
『そうドライに言うところがトオルさんの怖い所ですよね。光恵さんは元彼女では?』
『まぁそうだが。そんな物に縛られても仕方ないだろ。光恵の怪しいところは?』
『いや、特にないんです。しいて言うなら、勝どきに斉木を救出に行った際、彼女はトラック内にいたんです。俺等は彼女の行動を見ていない。また、盛岡でも、野見山は単独行動している時に警察が現れているということです。普通っちゃ、普通なんですが。』
『ちなみにお前も知ってるかもしれないが、SCREAMを潰せるポテンシャルがあったのは、警察と野見山だ。どこのチームでも野見山を嫌っただろ。かといって自分のチームにも所属して欲しくなかったという稀な奴だ。あの一件が引き金となって俺は引退し、SCREAMはほぼ解体。野見山はパクられた。2つとも消された。そういった意味では綺麗に事が進んだな。勿論、結果だが。結果出しやがった奴がいるんだな。淳だよな。ま、よくわからねーけど。』
『ですね。』