令和4(2022)年7月8日の口頭弁論において、被告会社の通知書(甲15)にはないことを被告大学が準備書面(4)で持ち出したのに対して原告準備書面(5)第3、2、8〜9頁で、
本論説が本通知書で被告会社の主張した名誉毀損に該当しないことは訴状第7で詳述した通りである。これに対し、被告大学から準備書面(4)で具体的な反論が出された。本来であれば訴状第7の主張に対する反論のはずである。しかし、そのような反論はひとつもなく、被告大学から出された反論は、被告会社が本通知書(甲15)で名誉毀損を構成すると主張した項目のうち2つ(被告大学準備書面(4)3頁(4)、5頁(13))を除いてすべて新たに出されたものである。この反論のやり方に対し、原告は根本的な疑義がある。なぜなら、これらの項目は本論説の記述のうち被告会社が自社の名誉毀損にあたると主張していない部分だからである。被告大学の研究者の学問の自由の保障に励むのが本来の責務であるはずの被告大学にとって、クレーム対応としては名誉毀損が指摘された項目について検討することが求められ、なおかつそれで基本的に必要十分である。それ以上、当事者が名誉毀損として指摘していない部分についてまで、検討に踏み込むのは被告大学の研究者の学問の自由の保障との関係で、クレーム対応の逸脱濫用と言わざるを得ない。
従って、今回の被告大学準備書面(4)の主張は、被告会社からの本通知書を端緒に、被告会社に成り代わって原告の研究成果(本論説)の問題点の発掘及び糾弾に励んでいることを意味する。本来、権利侵害を主張する者と権利侵害を指摘された者との双方の言い分を斟酌して適正な措置を下すことが求められている被告大学が、権利侵害の通報を端緒として、対象となった研究成果の問題点を洗いざらい取り上げてその法的判断を下すのは、あたかも検閲官の立場から研究者の研究成果を検閲するものであって、これ自体が大学における学問の自由の侵害と言わざるを得ない。
と述べた。令和4(2022)年7月8日の口頭弁論において、裁判長は原告のこの主張に理解を示しながらも、控訴審に備える意味もあるので、被告大学準備書面(4)の当該部分を念のため具体的に検討するよう指示した。
その指示に従って、令和4(2022)年8月17日の口頭弁論において、原告は甲77原告陳述書(5)を提出し、原告準備書面(6)の第2の1の(15)で「その詳細は甲77原告陳述書(5)7~8頁参照」、第2、1、(16)で「その詳細は甲77原告陳述書(5)8~9頁に述べられている。」、第3において「甲77原告陳述書(5)9~13頁で詳述した通りである。」としたのに対し、裁判長はそれらについても準備書面で具体的に主張するよう指示したため、同年9月28日の口頭弁論において原告準備書面(7)においてその補充をした。
にもかかわらず被告大学準備書面(4)の当該部分を判決2、(2)、イ、(イ)(34頁)において採用した*。被告大学準備書面(4)に対する原告の主要な反論は、原告準備書面(5)第3、2、8〜9頁(上に引用)であるにもかかわらず、裁判長は職権によってその対立点について審理に進まず、その代わりに原告陳述書(5)および原告準備書面(6)を提出させ、さらに原告準備書面(7)を提出させ、原告準備書面(7)の主張を退けて判決において暴行事件加害者のプライバシー侵害のおそれが多いとする被告大学の主張を採用した。
*「たとえ本件暴行事件等に関し上記の実名を記載された者や顔写真を掲載された者につき報道やインターネット上の書き込み等によりある程度情報が拡散されていたとしても、本経学論集に掲載された本論説において実名や顔写真が明らかにされることは、その対象となった者の社会生活に相当の支障を及ぼすおそれが大きいということができる。特に上記加害者の個人情報に関しては、本件別訴においてその氏名等について閲覧等制限申立てがなされ、同申立てが認められていた(弁論の全趣旨)ことも踏まえれば、上記おそれはかなり大きいものと思料される。
他方、経済学に関する学術誌である経済学論集が目的とする経済学研究の発展への寄与(本件投稿規定1項)に鑑みると、不正投票システムの解明に基づいて本件暴行事件とその後の展開について検討するとの本件論説の目的(甲4)を考慮しても、上記実名の記載や上記顔写真掲載についての必要性を認め難い。
これらの点に鑑みると、本件論説については、個人情報の不当な取扱いがあり、本件誓約書に違反したものといわざるを得ない。」
(判決34頁)
以上のように、被告大学に対する原告の主要な反論をスルーし、しかも、被告大学の主張に対する原告の、控訴審に備えるという名目のもとでの予備的な反論のうち、原告陳述書(5)にはあり、原告準備書面(6)でも「本論説の表現が暴行事件の加害者に対するプライバシーを侵害しないこと及び名誉毀損にも該当しないことは甲77原告陳述書(5)9~13頁で詳述した通りである。」と言及していたが、原告準備書面(7)では取り上げなかった、暴行事件加害者が被告会社との民事訴訟の最中および和解直後にカミングアウトしていた事実*は、原告の主張ではないとして無視したうえで、判決の主要な結論を導いた。
*「裁判の最中である2019年11月に笠井氏は友人のShowroomアカウントで事件について語り、そのなかで、友人は笠井氏と北川氏の実名を挙げて笠井氏に質問し、笠井氏は実名を挙げられても咎めず、容認していました(「NGT暴行事件 被告甲のSHOWROOM配信内容(笠井宏明被告の主な主張 3-4日深夜配信)」『北のりゆき☭鉄砲先輩のブログと小説』2019年11月04日(月) 20時46分26秒、https://ameblo.jp/yuugeki-internet/entry-12542323785.html )。
さらに、北川氏はその裁判で和解が成立した2020年4月8日の直後に公開されたYouTubeの動画で「……きたがわじょうことじょえアットです。視聴者のみなさんは……あなたたちは結局僕には勝てません」と語っていました(「【NGT48暴行事件】AKSが和解した山口真帆を襲った犯人「北川丈」の本性②」『Crocodile ANGELS チャンネル』2020.4.11公開、https://youtu.be/3VeRTpeuqUc、0:16〜0:40)。ここで、北川氏はの個人情報拡散を黙認するにとどまらず、笠井氏と同様、自らカミングアウトしました。」
(原告陳述書(5)12〜13頁)
被告大学準備書面(4)に対する原告の主要な反論は、原告準備書面(5)8〜9頁(上で引用)であり、それについてさらに審理を進めるべきであるにもかかわらず、その争点は無視し、被告大学の意向に沿う判決を下すために原告陳述書(5)(上で引用)で取り上げ、原告準備書面(6)でもその箇所を挙げていた、暴行事件加害者と被告会社との民事訴訟の最中や和解直後に加害者両名がカミングアウトしていた事実も無視し、被告大学の主張に沿う結論を下した。これは、中立的な立場から審理を進め、判決を下すべき裁判官が不当に被告大学に肩入れした職権行使であり、原告の主要な主張に反し、原告にとって義務でもないことを裁判官という国家公務員の立場を利用して原告に事実上強制させたうえで原告に不利な判決を下した点で、刑法193条(公務員職権濫用罪)にあたるのではないかと疑われる。
(「東京地裁判決は、裁判を名目とする検閲」https://ameblo.jp/vyc13162/entry-12846228219.htmlをもとに新たに作成しました)