中西アルノの軌跡を描いた『思い出が止まらなくなる』MV | 平山朝治のブログ

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出所:乃木坂46『思い出が止まらなくなる』MV(以下同様)

 

乃木坂の34thシングル・アンダー楽曲『思い出が止まらなくなる』は、歌詞だけを見ると失った夏の恋の思い出が止まらなくなるという失恋ソングで、あまり明るいイメージではないが、メロディーは長調で、中西アルノをセンターとするMVのテーマは“新しい思い出作りのスタートライン”で、全体的に明るく可愛いイメージを喚起し、歌詞とMVとの間にギャップがある。

 

同じような例として思い浮かぶのが、AKBの13thシングルのタイトル曲『言い訳Maybe』で、歌詞は、夏の間会えずにいた君に会いたくなり、好きなのかもしれない、好きだ、と高まる気持ちを描いているが、MVは第一回選抜総選挙での前田敦子と大島優子のトップ争い*の遺恨がファンの間に残っていることをふまえ、自転車競争で高橋みなみが転倒したのを見て前田と大島が競争を離脱して髙橋を助け、和解するというような、歌詞と縁もゆかりもない**、総選挙後のAKBの現状をふまえた内容だった。

*投票権つきの12ndシングル『涙サプライズ』が前田の誕生祝いだったように、運営が前田票を増やすために露骨な介入をしたことなどによて、前田への反発や、大島への同情を感じたファンが多かった。

**冒頭の歌詞「いつもの道を 走る自転車 立ち漕ぎの 汗が揺れる 9月のそよ風」から自転車競争が導かれるという関連はある。

 

『思い出が止まらなくなる』のロケ地は、全長108mの鰻の寝所のような建物に60mのランニングトラックが6レーン設けられた、新豊洲Brilliaランニングスタジアムと、東京オリンピックでボート・カヌーが行われた海の森水上競技場で、『言い訳Maybe』が選抜総選挙の遺恨を自転車競争で解決しようとしたのと同じような文脈設定が読み取れる。選抜総選挙こそないものの、乃木坂にも選抜入りやセンターにかなり影響を与える、AKBの選抜総選挙に似た人気投票*がある。

*シングルごとに行われる個別握手会・ミーグリの完売状況である(AKB48と乃木坂46のオーディション戦略:AKB17期生と乃木坂5期生の比較乃木坂5期生の2年間を総括(末尾に加筆))。

 

以下でみるように、『言い訳Maybe』ほど歌詞とMVが断絶しているわけではなく、必ずしも作詞者が意図していたとは限らないダブル・ミーニングを歌詞から引き出しつつMVが構想されただろうこともわかる。曲先だとすれば*、秋元康は長調の曲にあえて暗めの歌詞をつけたことになり、歌詞に意図的にダブル・ミーニングを込めた可能性があり、それを具体化したのがMVなのかもしれない。

*阿久悠作詞『悲恋白書』(岩崎宏美9thシングル)は詞先で大野克夫が長調と短調の曲をつけ、短調のほうは阿久が別の詞をつけ「メランコリー日記」として岩崎の4thアルバム『ウィズ・ベスト・フレンズ』に入れた。秋元は曲先のようだ。

 

ガラス張りのトンネルのようなスタジアムは夜間撮影のため暗く、MVは露出を下げた状態からはじまり、

すぐに露出は上がるが、中西の表情も暗めだ。

 

歌い始めの「バス停の古いベンチ 変わらない静かな海」は中西のソロだが、自信なさげな不安定さがあり、冒頭の暗めの表情の延長としてそういう表現をしているようにも聞こえる。レコーディングがMV撮影より先のはずなので、そうではないだろうが、詞にダブル・ミーニングがあるという理解を中西も共有してレコーディングに臨んだのかもしれない。

 

その後、中西は後ろに下がり、他のメンバー(まずセンター両サイドの小川彩、松尾美佑)が前で歌い踊る。

 

快晴の海の森水上競技場に場面が切り替わると、中西も調子を取り戻してきたようで、「今はない カフェテラス・・・」の中西ソロ歌唱は澄んでよく通り、本領を発揮している。

 

水上の場面の最後には、中西のソロ「この地球が自転すれば 少しづつ変化する」がある。

 

そのなかで、中西のズームアップ

に続いて、岸辺でクジラかサメの影のなかに中西がいる場面になる。

(左は上の一部を拡大)

これは、クジラかサメ*に飲み込まれてしまうような出来事を比喩しているのだろう。クジラかサメの影は前(画面上では左下角方向)に動いているが中西は動かないので、「この地球が自転すれば 少しづつ変化する」という歌詞と合わせれば、時とともに暗い影もやがて去ってゆくという意味が込められていることになる。

*尾びれが横向きなのでクジラのようだが、中西はサメのホラー映画が好きで、個人PVもある。

出所:「おしらせなど…!

 

そのあと、「①人は誰も ②忘れるものだ ③それだから立ち直れる」のところで、①③では中西単独、②では小川中西松尾3人が暗いトンネル状スタジアムで歌い、暗い過去は忘れることで立ち直れるということは、クジラかサメの影のなかの状態が過去になったことを踏まえた表現になっている。

 

『思い出が止まらなくなる』MVは、中西のデビュー即センター抜擢に反発した一部ファンの誹謗中傷や、それに便乗して事実とかけ離れた印象操作をした文春のせいで中西は活動自粛を強いられ、その後も本来の活躍がなかなかできなかったことを、新豊洲Brilliaランニングスタジアムの暗く長いトンネルやクジラかサメの影で比喩し、そこから抜け出して明るい未来を迎えようとしている、ということを水上競技場の場面は意味し、太陽を背に笑い、さらに太陽の方に向き直る最後の場面は、そのことを象徴的に表している。

https://x.com/vyc13162/status/1733751956311879746

 

新豊洲Brilliaランニングスタジアムは2023年11月30日に営業終了し、有明地区に移設されるので、営業終了直前にこのMVが撮影されたことも、幸先の良い巡り合わせだろう。

 

 

MVを手掛かりに、秋元康が詞に込めているだろうダブル・ミーニングの要点をまとめると、以下のようになるだろう。

 

表面的意味/隠された意味

夏の恋/乃木坂5期生オーディションでの中西評

別れ/誹謗中傷と中西の活動自粛

思い出が止まらなくなる/自粛後の中西の人気上昇が止まらなくなる*

*下表

で確認できる通り、右肩上がりに業績が向上しているのは中西だけ。