実力行使でございます-アジア流血巡礼紀行- -4ページ目

ジャワ島伝統芸能について

本日はジャワの伝統文化についてお話いたしましょう。

まずは世界無形文化遺産、影絵芝居ワヤン・クリッでございます。↓
神々の足跡-アジア宗教研究紀行-
世界には様々な人形劇がございますが、このワヤン・クリッはスクリーンを用いて人形の投影を観客に見せるという方法を採っています。こうすることによって平面的になるという短所はございますが、代わりに人形の操り手が目立たなくなる、大きなセットがいらないという長所が生まれます。

こちらは日本の人形浄瑠璃。黒子さんが複数人で一つの人形を操っております。ワヤン・クリッとはまったく正反対のコンセプトの人形劇でございますが、どちらも素晴らしい伝統芸能であることに違いはありません。


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ワヤン・クリッの人形の製作現場でございます。野牛の皮を材料にします。強く曲げても折り畳めないほど丈夫な素材でございます。


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目を見張るほど精巧な模様が刻まれた人形。それをさらに色付けします。


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ワヤン・クリッはヒンドゥーの神話を描く芝居でございますから、古代インドの神々や伝説の動物といったものがこうして美しく表現されるのです。

イスラム教徒が大半を占めるジャワにおいて、このような人形芸能が今も息づいているというのは歓心するべきことでございます。イスラム教は映像表現というものを嫌いますから、例えば預言者ムハンマドのエピソードを芝居にするということができないのです。一方でヒンドゥー教は神話を映像化するのが大好きで、いつぞやインドで「ラーマヤナ」がテレビドラマ化された時は国中のヒンドゥー教徒がテレビの脇に花を飾ったり、番組放映中ずっとひれ伏せて祈っていたり、その影響で臨時休業する企業が相次いだりという社会現象が起こりました。

ちなみにワヤン・クリッのような人形劇は、東南アジア一のヒンドゥー王国があったカンボジアにもございます。こちらもポル・ポトの原始共産政策という悲劇を乗り越え、世界無形遺産に登録されています。


↑の人形工房の近くに、アートバティックの工房もございました。


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ジョグジャカルタはバティック(ジャワ更級)の名産地でもございますから、こうしたショップ兼工房が王宮周辺にたくさん並んでおります。

この度立ち寄ったショップは「地球の歩き方」にも載っている「セノ・バティック」というお店。マスターがアントニウスという洗礼名を持つ、カトリック信徒でございます。わたくしはあなたの兄弟ですと打ち明けると、大変に喜んでくださいました。ジョグジャカルタでも、カトリックは少数派宗教でございます。


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最後の晩餐を描いたバティック。
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こちらはクリスマス。わたくしはこの作品を買いました。アントニウス氏が同じカトリックのよしみで勉強してくれました。


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十字架のイエス様。日光に照らすと、本当に自分がゴルゴダの丘の前にいるのように感じます。
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「セノ・バティック」は、福音書をモチーフにした作品をたくさん置いています。参考までに住所を記載して置きましょう。


Matrijeron Mj.1x/36  Tel (0274)374-654

セノ・バティック Seno Batik

プランバナン寺院郡でございます。

さて、やって来ましたプランバナン。ここは九世紀に栄えた古マラタム王国の中心地でございました。そして東南アジアを代表する壮大なヒンドゥー寺院でもあります。

↓はプランバナンの中心であるロロ・ジョングラン寺院でございます。
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九世紀とは、日本では平安時代初頭。京都が我が日本の首都として整備されたちょうど同時期の世界文化遺産でございます。


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カンボジアのアンコールワットに負けず劣らない、素晴らしい石積みの建造物でございます。


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このような遺跡は、間近で見ると繊細なレリーフを確認することができます。日本の木造寺院にはない、東南アジア独特の宗教美術でございます。


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わたくしの勝手なイメージではございますが、見れば見るほどレゴブロックで作ったお城にそっくりでございます。

ふざけていると思われるかもしれませんが、実際にある決まった形の石を積み上げて作ったという点ではこの表現は間違っていないでしょう。ということは、建材を厳密に規格化していたということであって、それには当然長さや重さの単位の統一、そしてその単位に基づいた設計を行う職人が存在したということでございます。

単位の統一というのは、貨幣のそれと同じく国家の一大事業でございます。古代では集落や都市ごとに使う単位が違っていたりしましたが、そんな状況ではこのプランバナン寺院郡のような建造物は決して生まれません。特にジャワ島はいくつかの国家が並立しておりましたから、もしかしたら単位に関する超国家条約のようなものがあったのかもしれません。現代ですらイギリスはつい最近までメートル法に批准していなかったのですから、古代ジャワ人がいかに偉大であったかを察することができます。


さて、この偉大な寺院には種違いの兄弟というべき建造物が存在しておりまして、それが此度の火山噴火で閉鎖となったボロブドゥールでございます。

インドネシア当局はボロブドゥール閉鎖を二十九日までと発表しておりましたから、再び山が怒り出さなければ明後日にはカメラを片手に伺えると思うのですが……。

この先のことは、神任せでございます。

なぜかこっちは開いている。

ボロブドゥールが閉鎖されていると知って落ち込んだ日から一夜明けました。

昨夜、酒場でもう一つの文化遺産のプランバナン寺院は開いているという情報を聞いたので、これから伺うことに致しましょう。

しかしなぜ、ボロブドゥールだけが閉められているのでございましょうか。まあ両方クローズされたらわたくしも大弱りなのでございますが、やはり風向きの問題なのでしょうか?ボロブドゥールとプランバナンは向かい合った位置にございますから。

それにしても、ここジョグジャカルタ。

大変居心地のいい街でございますな! 物価は安いし、しつこい売春婦はいない。何より両替所がたくさんあります。

というのも、首都ジャカルタでわたくしはいらぬ苦労を積んでしまったのでございます。実はこのわたくし、今回の旅では日本円の現金を一切持ち合わせていないのです。盗難防止のために、キャッシュはすべてトラベラーズチェックに換えてしまいました。

しかし、それがジャカルタでは災いしました。タクシーを乗り継いで銀行巡りをしたにもかかわらず、どいつもこいつも「T/Cは受け付けておりません」とぬかしやがってコノヤロクソッタレ~!

……はっ! わたくしとしたことが下品な言葉を口にしてしまいました。いけませんいけません。

しかし、このせいでわたくしの財布から60000ルピアが昇天してしまいました。そして哀れなT/Cはルピアに変身することができず……。

わたくしはジャカルタの不便さをしみじみと感じながら、涙を流しつつジョグジャカルタ行きの列車に乗ろうとしました。無駄に使った60000ルピアがどうしても惜しい、せめて地元の人とポーカーでもして20000ルピアでも回収できないか、そう思いつつ切符の発券所に並びました。

すると神はわたくしに福音を与えてくれました。何とすぐ前にいた男性が、ポケットから50000ルピア札を地面に落としたのです。

しかもその男性は急いでいたらしく、紛失に気づかないまま駅の奥へと消えていきました。こうなると、「お金を落としましたぞ!」と後を追うことはできません。


ごっつあんです!


あ、いや、これはネコババではございません。男性がゆっくりとした動作だったら、わたくしもちゃんと声をかけることができたのです。それができない以上、まさかお金を捨てるわけにはいかないでしょう?

そう、これは神の福音なのでございますですハイそうでござんすエエ(狂)。

……というわけで、わたくしはジャタルタという街にあまり好感は持てませんでした。

それに比べてジョグジャは、ちゃんとT/Cでやり取りできる両替所が安宿エリアに何件もございまして、上記のような苦労をせずに済むのでございます。

あ、ですが神の福音ならいつでも大歓迎でございますよ、ハイ(←とんだ不信者)。