十人十色という言葉がある。
それは10人の人間がいれば、10通りの考え方があるという意味の言葉だ。
人の考え方や意見を言葉で改めさせようとするのは難しい。
百万言より、ひとつの事実。それが何より大切だ。
傷が概ね治ったんで、久しぶりに時計塔までトレーニングに出かけた。
剣呑な魔物が出る心配もなく、危険のない時計塔はあたしにとって格好の鍛錬場だ。
階段を上から下まで2往復もすれば太腿も脹脛もパンパンになって、まともに立っていられなくなる。
足腰を鍛えるのは闘いの準備の第一段階。頑張ろう、と気合を入れて最上階まで駆け上がると―――
先客にビックリしたような顔をされてしまった。
最上階にいたのはレオン。なんでもあたしと同じヴァンパイアハンターだという。
彼の持つ聖句の刻まれた剣が何よりの証拠。
この街で同業の吸血鬼狩人に会うのは、とても嬉しい。
彼は気難しそうな人で、眉間に刻まれた皺がなくなることは殆どなかった。
あたしがドタバタうるさく階段を駆け上がってきて、気分を害したというのもあるんだろうけど……。
彼はまだ、この街では吸血鬼を仕留めてはいないと言っていた。
でも、そろそろ動こうと思っていると。
―――吸血鬼は全て滅ぼすと。一見友好的に振舞っている吸血鬼も、それは上辺だけだと。
あたしは彼に反論できなかった。
勿論言いたいことは沢山あった、けれど―――それを言う権利はあたしにはないと思った。
彼の意見はまさしく、フランネールに来たばかりのあたしと同じ。
彼の姿は、かつての自分を見ているようにあたしの眼には映った。
この街には邪悪な吸血鬼も沢山いるけれど、決してそればかりじゃない。
彼にも、それを分かってほしいと思う。
血と魂を交換するばかりでなく、紅茶やワインを酌み交わせる吸血鬼もいる―――そのことを。
遭遇者:レオン
