支配者とは、何も広大な領地や何千人もの人間を征服した者に限って使われる言葉じゃない。
己を完全に律し、能力を使いこなし、世に普く影響力を齎す者も支配者と言って差し支えない。
彼はそんな支配者達の中でも、最も力ある者の独りに違いない。
闇の君主、夜の王者。それが彼だと、あたしは思う。
廃屋でサビクと遭った。
傲岸不遜という言葉をそのまま人の姿に変えたなら、きっと彼のようになるに違いない。
この世に恐れるべきものは何もない、とでも言いたげな姿。
それはまさに王者だった。あたしには皇帝を名乗る友人がいるけれど、それとは対照的な王の姿。
彼の自信がどこから来るのか考えてみた。
それは、己の力への絶対の信頼。
人は他人を慈しみ、協調して生きる。それは自分は独りでは弱いということを知った上での行動だ。
けれど、恐らく彼にはそれがない。
自分の力を信じ、それを使いこなす技量を持っているからこそ、他人を信用する必要がない。
他人という不確定な力に頼る必要がない。
己独りで全ての物事を叶えることが出来るという自負があるからこそ、彼はああまで不遜なのだ。
あたしは彼には敵わない。
自分自身の力そのものも、自分を信じるという信念も、何もかも彼に遠く及ばない。
あたしは彼に必死で抗い、全力で闘いを挑んだけれど。
彼にとってあたしの相手など、あくまで遊びの域を出ない程度のことだったのだろう。
その証拠に、彼は終始にやついたままだった。
あたしは彼を本気にさせることさえ出来ない。
彼が笑い以外の表情を浮かべた瞬間があったとするなら―――
それは、あの蒼く大きな翼の話題になった時だけだ。
あたしはまだ、あの強大な吸血鬼に敵と認識されてすらいない。
遭遇者:サビク