20080512 日本経済新聞 朝刊

 東京電力は不妊治療の費用を最大で百五十万円補助する福利制度を導入した。産業界ではキヤノンや日産自動車など大手が不妊治療支援策を相次ぎ打ち出しているが、補助金額としては最大規模。東電に続いて電力各社は不妊治療支援策の拡充に乗り出す見通しだ。
 東電が導入した不妊治療支援策は(1)百五十万円を上限に費用の八割を補助(2)最大二百万円まで無利子融資(3)最長二十日の有給休暇――が柱。費用補助と融資は医療共済会を通じて実施する。
 社員とその配偶者が対象で、夫婦ともに東電社員の場合は最大で三百万円の補助が受けられる。年次有給休暇を繰り越し分も加えて活用すると最長六十日を不妊治療にあてることができる。
 不妊治療には保険が適用されない治療もあり、複数回治療するとおよそ二百万円の費用がかかるとされる。産業界ではキヤノンが二〇〇七年四月から百万円を上限に不妊治療費用の半額を補助する制度を導入したほか、日産は〇八年四月に不妊治療を有給休暇の対象にするなど少子化対策を相次ぎ拡充している。
20080512 日本経済新聞 夕刊

 新制度の「メタボ健診」が四月に始まったそうね。どんな内容の制度なの? なぜいま新しい制度が始まったのかしら?
 いわゆる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」を調べるための健診制度が四月に始まった。メタボ健診の内容や狙いは何なのか。太っている人だけでなく、多くの国民に影響を及ぼす可能性もありそうだ。上原真紀子さん(33)と内田由紀子さん(36)が生活経済部の山口聡編集委員に聞いた。
◎   ◎
 ▼メタボって、そもそもどんな状態のことですか。
 「太っていると健康に悪いと昔からいいますが、最近では特に内臓脂肪による肥満が生活習慣病に大きくかかわっていることがわかってきました。『メタボリックシンドローム』とはこの内臓脂肪による肥満に加えて、高血圧、高血糖、脂質異常のうち二つ以上が該当する状態を指します。内臓脂肪肥満の基準は腹囲が男性八十五センチ以上、女性九十センチ以上です」
 「こうした状態は糖尿病などの生活習慣病の一歩手前で、脳卒中や心臓病にもつながりやすいのです。そこで健康診断を実施して該当者やその予備軍を探し出し、生活習慣の改善指導を受けてメタボ脱出を目指してもらうことになりました。これが四月から始まった特定健診・特定保健指導、通称『メタボ健診』です」
 ▼メタボ健診の具体的な内容は?
 「対象は四十―七十四歳の全国民です。企業の健康保険組合、市町村の国民健康保険など公的医療保険の運営者が健診・指導を実施します。会社員の場合は、会社で実施している健康診断に腹囲の測定が加わると考えればいいでしょう。問題は国保に入っている自営業者や会社員OBの人たちです。受診券を送付して近所の医療機関などで受診してもらうようですが、会社員のようには進まないでしょう。健保組合などでも従業員の扶養家族にどう受診してもらうかが難題です」
 「健診の結果、メタボ症候群に該当することがわかると生活習慣の改善指導を受けます。最初に面談や講習を受け、その後も三―六カ月にわたって定期的に専門家から面談や電話でアドバイスを受けることになります。腹囲は基準以上だったが、そのほかに数値が悪かったのが一項目だけなどの場合は最初の面談だけとなります」
 ▼健診のそもそもの狙いは? 
 「生活習慣病の予防による医療費の抑制です。きちんと健診を受けてもらい、成果を出すために新しい仕組みも導入します。健診や指導の受診率などが低い健保組合や国保は、高齢者医療のために払う支援金を増やすという内容です」
 ▼健診結果はどう保管されるのですか。
 「各医療保険運営者には健診結果を電子情報として蓄積することも義務化されました。国民の健康状態が把握しやすくなります。また、この健診情報と患者が病院で治療を受けたときの診療情報を併せて分析し、どのような医療行為が効率的であるかといった研究を進める思惑もあります」
 ▼関連ビジネスも生まれそうですか。
 「検診結果情報のデータベース作りなどはIT(情報技術)産業の大きなビジネスチャンスになります。フィットネスクラブをはじめとして健康指導サービスを請け負う企業なども増えました。メタボをキーワードとした健康食品も目立っています」
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 ▼今後、どうなりそうですか。
 「メタボ健診は壮大な実験という面があります。生活習慣病の予防が進み、医療費を減らすことができるのか、確たる根拠はないためです。健診の受診率を高められるか、健康指導によって生活習慣を変えられるかなど、まだ不透明な部分がかなりあります」
 「データベース化された個人の情報が外部に漏れる危険性もあり、安全対策が必要です。腹囲八十五センチ以上の男性は珍しくなく、膨大な数のメタボ症候群患者が現れる可能性もあるので今後、制度の見直し気運が高まるかもしれません」
 「人口の高齢化で医療費の増加が続けば、経済社会が疲弊してしまう」。三年ほど前、こんな危機感の高まりの中で「メタボ健診」も含めた医療制度改革の内容が固まった。
 強く医療費の抑制を求めたのは、小泉純一郎政権下の経済財政諮問会議。予防で医療費が減るかどうか明確な根拠はないのだが、厚生労働省は苦し紛れのような形で、生活習慣病の予防により将来の医療費は減らせるとの見通しを示した。
 改革を実施しなければ、今三十兆円弱の医療給付費は二〇二五年度に五十六兆円に増える。ところが、メタボ健診や高齢者の長期療養病床の削減、後期高齢者医療制度の創設などでこれを四十八兆円に抑えられるという。これが〇六年に成立した医療改革関連法の中身だ。
 ただ医療費の長期予測などそもそもあてにならないとの見方もある。そんな数字を基に抑制を進め、必要な医療まで削られたのでは支障も出かねない。現に地域によっては医師不足で十分な医療が提供できないという問題も起こっている。どんな医療や健康対策が必要で、その費用、効果はどうなのか。根拠に基づいた議論が求められる。
(編集委員 山口聡)
 「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」に関連する記事は朝刊では、経済、企業、消費、社会の各面や日曜日付の健康面などに掲載されます。三月二十九日付の消費面には「スーパー各社、メタボ対策コーナー、コンビニ、低カロリー食品投入」という記事が載りました。
 夕刊では二月二十六日付の一面に「NEC・トヨタなど、社員のメタボ健診充実―年齢幅広く、医療費スリム化期待」という記事が掲載されました。関連記事は生活面などにも掲載されます。
 ■ニッキィとは 最近日経を読み始めた女性の愛称です。日本経済新聞社は毎週、経済通、世の中通を目指す女性読者を東京・大手町の本社に招き、その疑問にわかりやすく答える場を設けています。
 上原 真紀子さん メーカーのマーケティング担当。自分に似合うパーソナルカラーを研究中。周りから雰囲気が変わったといわれるのが目標。
 内田 由紀子さん メーカーで商品のプランニングを担当。最近はハーブなどベランダガーデニングに凝っている。ウオーキングの復活を決意。

2008年05月12日03時12分

 保険会社に直接寄せられた07年度の苦情件数が、主要9社だけで少なくとも40万件を超えた。05年度の倍にあたる。不払い問題で契約者の不満が噴出。会社側も目を背け続けるわけにはいかず、経営に生かす姿勢に転じてきたことも背景にある。それでも、信頼回復は簡単ではない。

 朝日新聞が大手生命保険4社、大手損害保険5社に取材してまとめた。生保では07年12月末までの苦情件数が主な4社だけで約25万件。3月末までにさらに数万件増えているとみられる。損保は07年度を通じて約15万件だった。

 「保険金の請求手続きが複雑でよくわからない」といった不払い問題につながる苦情や、「割引制度を十分説明してくれなかった」といった保険料の取りすぎにかかわる不満が目立った。「営業職員が事実と違う説明をした」「知らないうちに契約させられていた」という指摘もあった。

 苦情が増えたのは、05、06年度に保険会社の処分が相次ぎ、契約者の不信感が高まったのが第一の理由だ。さらに保険不信を受けて、各社が「顧客全員を訪問して契約を点検」(日本生命)といった対応を進め、「苦情」として集計する範囲も広げた。

 例えば保険金が支払われないとの抗議があっても、契約者が再調査をはっきりと要求しない限り、これまでは苦情に含めないことがあった。こうした扱いを反省し、苦情を「業務改善につながる宝の山として受け止めなおした」(大手損保)という。

 東京海上日動は、苦情から問題を見つけるため、消費生活アドバイザーを交えて分析。住友生命は営業職員に専門的な助言をする部署をつくり、苦情に素早く答えられるようにする。業界団体も、各社ごとの苦情件数の推移を、夏から公表する予定だ。

 ただ、不払いや取りすぎ問題では、金融庁から新しく処分が出る可能性が残る。保険会社の信頼回復は道半ばで、苦情はまだ増え続けそうだ。(鯨岡仁、多田敏男)

20080511 日本経済新聞 朝刊

 米公的年金最大手のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)など欧米の有力年金や運用会社六社が、日本企業にコーポレートガバナンス(企業統治)の改革を求める提言をまとめ、発表する。導入が広がる買収防衛策に原則、反対の立場を示すことなどが柱。日本企業のガバナンスに不満を強める欧米最大級の投資家が初めて共同歩調を取ることで、企業は何らかの対応を迫られそうだ。
 提言にはカルパースのほか、英最大の年金運用会社ハーミーズ、カナダ最大の機関投資家ブリティッシュコロンビア・インベストメントなどが参加。日本株の保有残高は六社合計で二兆円超という。提言は十五日前後に発表。同時に投資先の上場企業五百社超に送付する。英ハーミーズのシニアアドバイザー、マイケル・コナーズ氏は「提言に真摯(しんし)に向き合わない企業には、今年六月の株主総会で反対票を投じる可能性がある」としている。
 提言は、まず「上場企業の所有者は株主であることが十分に認識されていない」と指摘。株主価値を損なう恐れのある防衛策に反対し、どうしても防衛策が必要な場合も、経営陣から独立した第三者委員会の設置を求めている。
 株主の権利保護や意思決定の透明性を高める狙いで、全企業に最低三人は独立した社外取締役を起用することも要求。長期的には米国並みに取締役全体の半分を社外とすることも求める。株式持ち合いの復活にも「議決権行使をゆがめている」と懸念を示し解消を進めるよう要請する。資本の運用効率が劣る企業などには増配や自社株買いで株主配分を増やすよう主張する。
 一方、企業側には「悪質な買収者への制度上の備えが欧米に比べ不十分」として、買収防衛策の導入はやむを得ないとの考え方が根強い。株式の持ち合い先を一定の投資収益が見込める相手に限定するなど、市場の声に配慮する動きも出ている。
 ▼カルパース 米国最大の公的年金。運用総資産は約二十四兆円。うち日本株には約八千億円投資している。議決権行使を通じて投資先に経営改革を求める「もの言う株主」としても有名。
 ▼ハーミーズ 英国最大の年金運用機関。運用総資産は約十六兆円。日本株に約七千億円投資している。主に指数運用を手がけるが、低株価企業に経営改善を求めるファンドも持つ。

20080511 日本経済新聞 朝刊

 企業に勤めている人ならば「厚生年金基金」や「確定拠出年金」といった企業年金にも加入している人が多いだろう。これらは国民年金や厚生年金に上乗せされる「三階部分」で、こちらにも目配りが必要だ。年金の基本的な仕組み第三弾は、種類が多く仕組みも複雑な「企業年金」について解説する。
 「あまりに少なくてがくぜんとした」。千葉県在住の会社員、松井俊介さん(仮名、60)は、五年前に社会保険事務所で年金額を知った時をこう振り返る。二十四歳から現在まで厚生年金に加入し続けているが、六十五歳で受け取る年金額は、基礎年金と厚生年金を併せて年間約百三十万円と記されていたからだ。
「独自」と「代行」
 厚生労働省の資料によれば、平均的な給与の男性会社員が四十年間制度に加入すると、年金は年間約二百万円。これより約七十万円も少ないことになる。
 だがそれには理由があった。勤務先の会社が「厚生年金基金」という企業年金を採用し、年金額が一見少なく見える仕組みだったのだ。厚生年金基金は大企業を中心に、二〇〇七年三月末時点で約四百七十四万人が加入する企業年金。会社が単独もしくはグループ会社などと共同で基金を設立し、資金を運用する。
 厚生年金基金は公的年金に上乗せする「独自部分」と、厚生年金の一部を管理する。後者は国に代わり基金が運用するため「代行部分」と呼ばれる(図A参照)。社会保険事務所は「代行部分を除いた公的年金額」しか示さなかっため、松井さんの額は少なく見えたのだ。厚生年金基金の加入者が陥りやすい点だ。
 〇七年になって松井さんのもとに連絡が届き、公的年金のほかに厚生年金基金を年額約九十八万円受け取れることが判明した。
 厚生年金基金の給付は一生続くが、額は企業によってまちまち。当初の給付額のまま変わらない場合や、一定期間のみ高額で後は減る場合もある。独自部分の平均月額(〇六年三月末、全額一時金選択者を除く)は一万六千円弱。加入者が年金の額を知ったり、年金を受け取り始めたりするには、社会保険事務所に加え、それぞれの基金での手続きが必要だ。
 企業年金は二種類に大別できる。一つは将来の給付額をあらかじめ約束する確定給付型。厚生年金基金もその一つだ。ほかに代行部分がない「確定給付企業年金」や中小企業に多い「税制適格退職年金」(一二年三月末に廃止)などがある(図B参照)。福利厚生策として、企業が独自に自社年金を設けるケースもある。
 ところがバブル崩壊後に資金運用が難しくなり、厚生年金基金が解散したり、給付を引き下げたりする企業も出てきた。運用の失敗を企業が穴埋めするため、負担が重くのしかかる例もある。
 そうした背景もあり、〇一年に政府が解禁したのが、確定拠出年金(日本版401k)だ。企業型と個人型とがあるが、企業型の確定拠出年金の場合、企業は掛け金を拠出し、従業員が自ら運用する。導入企業は徐々に増え、加入者も〇七年三月末時点で約二百十九万人まで伸びた。
投資信託に資金
 東京都の会社に勤める山本美和さん(仮名、27)も加入者の一人。〇七年秋に入社して以降、会社から毎月四千五百円が確定拠出年金用の口座に振り込まれる。拠出額の上限は他の企業年金を併用していないと月額四万六千円、併用だと二万三千円。勤続年数や役職に応じたポイント制で拠出額が決まる会社もある。
 インターネットを通して、投資先を決められるように設備を整える企業も多いようだ。山本さんもパソコンを使って運用方法を決め、銀行預金のほか株や債券に投資する投資信託に資金を振り向けた。
 もっとも積極的に運用する人は少数派で、多くは元本保証型商品を選ぶ傾向がある。加入者が投資先を選ばないと、自動的に預金として運用する設定の会社が多いのも一因だ。だが現在のように金利が低い状況では、預金だけで従来の確定給付型を上回る利回りを確保するのは難しい。
 そのため確定拠出年金を採用した企業にとっては、社員に運用技術を身に付けさせることが課題。社員全員が同年金に加入する野村総合研究所は〇八年四月、何も選ばないと、株式と債券の両方を組み入れた「バランス型ファンド」に投資先が自動でなるような設定に変えた。「運用について考えてもらう機会をつくるのが狙い」(同社)だ。
 規模がある程度以上の会社に勤めると、会社が手続きをしてくれることが多く、年金制度について理解する機会を逸してしまいがちだ。しかし転職時や受給時は自分で手続きしないと、損をすることもある。会社によって制度が異なる企業年金は、特に仕組みをよく知ることが大切だ。(小林由佳)
【図・写真】確定拠出年金の運用成績を確認